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「雲雀〜ちょっとこっち来て」
「んー?なになに」
キッチンに立っていた俺を呼んだ。
エプロンを外しながら、奏斗の元へ向かう。テーブルにそれを置いて、椅子に座る奏斗の隣に腰掛ける。仕事の話だろうか。
「どした?」
そう聞いた時、奏斗が身体をこちらに向け、俺の肩を掴んでそのまま顔を埋めた。頭が追いつかなくて、そのままぼけーっとしていると、ちくり、と急に痛みが走る。
「いたっ!なに?!」
「おー、綺麗についたわ」
「まっ、お前、…..もしかして」
「はい、もういいよ」
そう言って、肩を叩く。もう、キッチンに戻ってもいいよ、って。何事も無かったかのような顔で。
もう既に奏斗は、先程のように姿勢を戻し、スマホを見ている。
いや、でも、さすがに。
「待て奏斗、今キスマつけた?」
「んー?うん」
「急に?」
「うん」
「えぇ…..?」
「何、嫌だった?」
「いや、そうじゃなくて….. 」
「なに笑」
奏斗がチラッとこちらに視線を向け、笑う。
俺の反応を見て面白がっている。悔しい。俺もやり返したい。そう思い、勢いに任せて言葉を投げた。
「お、俺もつける!」
「出来んの〜?笑」
「出来るに決まってんだろ!」
少し強引に奏斗を引き寄せ、白くて綺麗な首筋に食らいつく。やったことは無いけれど、つけ方はなんとなく分かる。俺ならきっと、出来る。
「…..っふふ、…ねーえー、くすぐったぁい!」
一生懸命首筋を吸うが、あまり手応えを感じられず。奏斗なんて、俺が頑張っている間に足をジタバタして笑ってる。
なんでつかねぇんだ。このまま俺だけ痕をつけられて終わるのはなんか嫌だな。
「雲雀〜下手くそだね〜笑」
その言葉に、ムッとした。
…….こうなったら。と、先程まで吸っていた所を、思いっきり噛み付く。
「いったぁ?!」
「ふん!参ったか!俺の歯は鋭いんだぞ!」
「え、ほんとに痛いんだけど。血出てない?」
「出てない!」
「お前吸血鬼かよ…..も〜〜」
「今のはお前が悪い!」
「えぇ〜?」
絶対分かっているくせに、分かってない風の返事をする。
それにしても、何故突然キスマークなんてつけてきたのだろう。行動の理由とか、いつも誤魔化されるからな。上手い具合に。
くっきりと、首筋に残った歯型を見つめる。キスマよりも、すぐに消えてしまいそうだな、なんて思いながら、しばらく眺める。
「なに?そんなジロジロ見て」
奏斗の方へ視線を向ける。と、大きな瞳と目が合う。目が合って数秒後、その瞳はすぐに俺を映さなくなった。そのまま、奏斗の横顔を見つめていると、なにか、違和感を感じる。
思わず、奏斗の頬まで手を伸ばした。ぐい、っと両手でこちらを向かせ、軽く口付けを落とす。すると奏斗は目を見開いて、キョトンとしていた。
「な、っなに?」
「いや、なんか…..寂しそうだった?から」
「ど、どこが?」
「目、…..とか、横顔?が」
「別に、寂しくないけど」
「そーいうんじゃ無いよな、…..なんていうか、………..もっとちゅーする?」
「えぇ?………….別に、…いいけど」
再び、顔を近づける。目は瞑らない。奏斗の瞳を、表情を、見ていたいから。けれど奏斗は、すぐに目を瞑ってしまう。目を瞑って、キスを待っている。
お互いの息がかかる、もう唇が重なる、くらいの至近距離で、キスをしないで鼻をツンとくっつける。そして、ジッと奏斗の顔を、閉じられた瞼、睫毛を見つめた。
奏斗の眉が下がり、我慢の限界が来たのか、ゆっくりと、見つめていた睫毛が動いて、大きな瞳が現れた。早くしろよ、と言わんばかりに、目で訴えられる。瞳が見れた事に満足して、俺は瞼を下ろした。そして、キスをする。
「っん……」
店内に響く、リップ音と奏斗の声。角度を変えて、何度も優しく口付ける。歯止めが効くように、舌は入れない。
定休日とはいえ、ココはお店だから。
名残惜しく、ゆっくり唇を離す。もう、奏斗の中の寂しさはとれただろうか。奏斗の顔を見ていると、瞼が開いて視線が交わる。しかし、すぐに顔ごと逸らされてしまった。
「何、照れてんの?」
「照れてない」
そう言う奏斗の耳が、少し赤くて口元が緩む。そのまま視線を下にずらし、先程つけた歯型を見る。奏斗はいつも、首が隠れる服を着ているから、だいぶ上につけてしまったな。首元の布を下げて、隠れる部分につけてあげた方が良かったかも。なんて、思いつつ、やはりすぐ消えてしまいそうなソレに、納得がいかないでいる。
もう一つくらい、つけておこうかな。と、今度は隠せるように奏斗の首元に手を伸ばす。そして、噛み付けるように下げる。
「ちょっ、何?!」
そんなのに答える間もなく、ガブッと、先程よりも強めに噛み付いた。すぐに消えてしまわないように。
「いっ…..」
「これですぐには消えんやろ」
「ねぇ、今度こそ血出てない?」
「…….ちょっと、出てる、かも」
「かも??」
「…..すまん」
「…..まぁ、いっか」
「え」
あっさりと、許してくれる奏斗の表情は、どこか少し嬉しそうで、もう、寂しさはとれたんだと、そう思った。
お互いの首筋に残った、この痕が消えるまでは。
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