「飲んだら過去のこと忘れられますかね?」
「んー? その日は忘れられるだろうな。でも酒が抜ければ思い出すよ」
「そうですよね」
「そういう心のモヤモヤはしゃべってすっきりさせるんだよ。ほら、先輩が聞いてやるから話してみな」
「何で先輩に話さなきゃいけないんですか。嫌ですよ」
「ははは、そりゃそうだ」
なぜか楽しそうに笑う航太。
リカは不機嫌に目の前のチューハイを飲み干した。
「なあ、俺と付き合わねぇ?」
「……酔っぱらってるでしょ?」
「酔っぱらってるよ。いい気持ち」
航太もチューハイを空け新しい缶に手を伸ばしつつリカにも勧める。
プシュッと缶を開けるいい音が響いた。
「小野先輩って何で私のこと好きなんですか? こんなにつまんない女なのに」
「どこがって――」
航太は言葉に詰まる。
いや、詰まったわけではない。
自分のリカに対する好きな気持ちをどう表現したら いいものか、考えあぐねただけだ。
「まずはそうだな、可愛い」
「可愛い要素持ってないです」
「リカちゃんって案外自己評価低いんだな。すっごく可愛い。すっごく俺好み」
「うえっ、あ、ありがとうございます」
あまりにもストレートに言われると若干戸惑う。
自分で聞いておきながら胸がザワザワしてしまい、落ちつかせるためにチューハイをグビグビ飲んだ。
「うん。あとは仕事に真面目なところ」
「それは……先輩直伝ですからね」
「てことは俺のことも真面目だと思ってくれてるってこと?」
「まあ、仕事に関しては 」
「ははっ、仕事に関してだけか。まあいいや。あとはそうだな、いつも明るくて誰とでも仲良くできるところ。でもどこか冷静で一歩引いて見ているところかな」
「……」
リカは思わず口をつぐむ。
そんなリカを見て、航太はくしゃっと笑った。
「当たってた? よく見てるだろ、俺」
「そ、それのどこに好きになる要素がっ」
「んー、なんだろうなぁ。なんか守ってあげたくなっちゃうんだよね」
「は、はあ?」
思わずマヌケな声を出してしまったリカだったが、航太の柔らかな視線にザワザワと胸が騒ぎ出す。
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