テラーノベル
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盛大なため息が隣から聞こえた。
最後の授業が終わり、荷物をカバンに詰め込んでいる時、ぐでーとタコのように伸びている友人、星導ショウがそこにいた。
男にしては長くサラサラした髪に、色白の肌、遠目から見たら綺麗なお姉さんだと思う。
だから、女子からも人気でいつもキャーキャー言われている。
『はよ片付けんと先生来るで』
僕のその言葉に、ゆっくりと体を起こす。
本当に気怠そうに帰り支度を始めた。
いつもはこんなのではないのに…
今日はいつもと違うことが起こりそうで、少しソワソワした。
帰り道、今はもうすっかり夏で蝉がミーン、ミーンと煩く鳴いている。
道に転がっていた小石を蹴りながら歩く。
隣では星導が、「暑い」「茹で蛸になる」「もう無理」「疲れたるべちもう歩けない」などとぼやいていた。
どこかでみたことのある光景、それでも全く知らない光景…何かが、誰かが足りなくて……足りない気がして、何だろうかこの違和感、高校に入ってから友人と呼べる人物は星導たった一人である。だから、僕は星導以外と遊んだこともなければ帰ったことすらない。
足りないなんてことはないのだ、そう頭で分かっていても心のどこかにぽっかりと穴が空いてしまったような感覚に陥る。
ポチャンッ
『ぁ、』
小石が川に落ちた。
勢いが強すぎたのか、そのまま橋の外に行って、下にあった川に落ちてしまったのだ。
「また落としたんですか〜?」
そう にまにま して聞いてくる。
さっきまでの元気のなさはどこへ行った?というか、またってなんだまたって…いつも僕がここで落としてるみたいに言うなや
『なんや…またって』
そうむすっと不満そうな顔をしているであろう僕の顔をしばらく覗き込んでから、しまったという風に目を見開いた。
「勘違いしてたみたいです」
そう言って顔を逸らした。
勘違い?何を勘違いしたんだ?
「俺、カゲツによく似た人とトモダチだったんです」
だった…?その言い方に何故か苛立ちを覚えた。
『…今は違うん?』
その言葉に目を少し伏せ気味にしながら、
「いえ、俺の言い方が悪かったですね…今もトモダチだと思います、ただ…」
夜が迫ってきている。
星導が、街が、夕日色に染め上げられていく
赤く、赤く…鉄の匂いがする、誰かの叫び声…
ぱちっと瞬きをした。
帰り道…まだ明るいはずの時間帯だったのに、一瞬夕暮れが見えた気がした、疲れているのだろうか?
「カゲツ…」
『な、んや』
「まだ…もう少しだけ、」
僕よりも数歩先を歩いていた星導が、こちらへゆっくり、確実に、歩いて来る。
パキッと音が鳴った。
虫の声でもない、何かが割れる音
夜が迫ってくる。いや、これは夜なんかじゃない…
『うちゅう、』
それを理解した瞬間、激しい痛みに襲われる。思わず悲鳴をあげそうになったが、何かがそれを止めた。
鉄の匂いがする、息苦しい、全身が痛い…
あれ?なんで、車にでも轢かれたか?そんなんじゃない…これはもっと大きな、獣にやられたような……
星導がそっと混乱している僕を抱きしめる。
サラサラとしていた髪は、タコの触手になっていて、服も学生服ではなく…大きな口のあるものになっている。
制服姿の星導よりもどこか安心感があって、こちらの方が見慣れている気がした。
「おやすみ、カゲツ…もう少し、そうだなぁ……50年、いや100年くらい俺の夢に付き合ってください」
『…そ、んな…ぃきれる、わけ』
喉が焼けるように痛い、けど…これが日常だった気がする。
「大丈夫、俺の中にいる間は…何も進まないから」
そう言って、僕を抱きしめている星導ごと、宇宙は全てを包み込んだ。意識が遠のいてゆく…
目が覚めると、授業が終わっていた。何か夢を見ていた気がする。
「おはよう、カゲツ」
そう穏やかに笑っているのは、
『ほしるべ、おはよ…』
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