眠りについたクズハ。静かに泣き崩れるカナエ。そんなに悲しいなら、迎え入れなければよかったのに。なんて伝えたらカナエの心に穴を空けてしまうから。言葉をのみこむことにはなれている。ずっとそうしてきたから。ねぇ、もう呪縛から解き放たれてもいいんだよ。あの時のことはカナエのせいじゃないよって、伝えてあげたかった。もうクズハは帰ってこないけど、ボクがいるよ、って。 でも帰ってきてしまった。あれは記憶がないけれど間違いなくクズハの血をひいてできたニンゲンだ。
カミサマは酷いことをする。カナエをニンゲンとして生まれさせていたときはクズハの泣き崩れるさまをみて嘲笑っていた。今は逆だ。カミサマはなにがしたいのだろうか。どうしてトウヤとガク様のような関係にしてやれないのか。どちらかをとらないといけないのだろうか。ボクはずっと生きているのに。時には猫に、時にはニンゲンに、そして人形に。今は猫。ニンゲンにもなれるけれど今は猫でいてほしいと、カナエに言われたのだからそうしていないといけない。
「 葛葉 … っ 、 葛葉ぁ … っ …… 」
そう泣き崩れるカナエの横に座る。ごめん、と謝りたい。ボクはこんなことになることを知っていて止められていない。カナエはもうすぐ死ぬ、そしたらニンゲンとしてまた生まれてくる。でもカナエがいなくなる前に、クズハは死ぬ。そして吸血鬼になる。そしたらまた、永遠と回るメリーゴーランドにのせられる。このメリーゴーランドは止まれない。ずっと入れ替えで、カナエとクズハが乗っている。前のクズハは長くもったから、よかったと思う。今のカナエのうちにこのクズハは死んで、次の吸血鬼のクズハが戻ってきて、またカナエは死ぬ。そんな永遠をボクはいつまでみていればいいのか。なんの試練なのか。わからない。もう泣いてしまいそうだ。
泣き崩れるカナエの横から離れて、ニンゲンになり外にでる。そしてカナエが望んでいることを実行する。まず、クズハを追っていた集団。あれを見つけて殺さなければならない。きっとあれもまたカミサマかテンシに操られたニンゲンだ。きっと殺されても生き返る。たぶん。とりあえず、そいつらを殺して安心して暮らせるようにしなくては。街の方に行くと、先程のニンゲンを見つけた。そのニンゲンの背後に絡み付くテンシの羽。やはり、そうなのか。ニンゲンは此方に気がついて走って逃げた。それを追いかける。
テンシの仕業ということはまたカナエをどうにかして天界に戻したい奴らか。カナエは天界からクズハが勝手に連れてきた子だから。それしかカナエを自由にする手段がなかったのだから仕方ない。カナエは可哀想な天使だった。寿命も短ければテンシ特有の力もない。迫害されて虐められて毎日傷だらけ。だからクズハはカナエをニンゲンの世界に連れ去った。そうしないとあのままカナエは死んでいた。ボクはカナエを守りたい、カナエとクズハの運命を引き裂いて二人ともを自由にしてあげたい。そんなことを考えていたらニンゲンに追い付いた。
『 、オマエは何者だ?どうしてあのコを狙う? 』
話しかけても沈黙が過ぎ去るだけ、そうだろう。テンシというのはニンゲンの世界では息がしずらい。だから話す言葉は最小限、なんともつまらない種族だ。ボクはニンゲンの心臓を止め、体の中身を覗いた。コレは生き返らないタイプだな、と断定できたので死体を細切れにして花の姿に変えてあげた。そうして猫に戻り、カナエの元へ帰る。 カナエは昼寝から起きたクズハとお喋りをしていた。心底幸せそうな笑顔に心が締め付けられる。ボクよりクズハと一緒に幸せに暮らしてほしいなんて願っても、二人ともメリーゴーランドから降りることができない。二人が幸せそうに笑うからボクが無理矢理降ろすこともできない。こんなの地獄だろう。
『 ゴメンね、カナエ。 』
そう呟いてからニャア、と鳴きカナエの足元に座る。
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