𝑶𝒑𝒆𝒏𓂃 𓈒𓏸
ん、?いらっしゃいませ。
当店に足を運んでくださりあがとうございます。
初来店様も再来店のお客様もいらっしゃいませ。
さて、お茶の代わりにお品書きをどうぞ。
✻*˸ꕤ*˸*⋆。✻*˸ꕤ*˸*⋆。✻*˸ꕤ*˸*⋆。
ご本人様には一切関係ありません。
「nmmn」という言葉を知らない方は、閲覧をおすすめしません。
ペア 桃黒
微赤桃
モブ桃(台詞×)
赤との絡み多め
桃「 」
黒『』
赤《》
喧嘩パロ キャラ崩壊
黒→自己評価低め ツンデレ? 独占欲強め
桃→自己評価(普通)恥ずかしがり屋
上記の内容を含んでおりますので地雷等をお持ちのお客様は閲覧をお控えください。
✻*˸ꕤ*˸*⋆。✻*˸ꕤ*˸*⋆。✻*˸ꕤ*˸*⋆。
素敵なリクエストを頂きました。
書いていて思ったのですが…リクエストと大分…変わっております。
リクエストありがとうございました。
それでは行ってらっしゃいませ
激しい雨の音。傘を差し、アパートの階段を登ると騒がしい声が聞こえる。
雨に負けない怒声に背筋が跳ねたが、自分には関係ないかと耳を塞ぎ、階段を登りきる。
喧嘩の声は隣室で行われており、廊下まで声が漏れていた。
こんな時間に誰が喧嘩をしているのだろうかと玄関の扉に手をかけると隣室の扉が開き、
薄着の男の子が家を追い出されていた。
鮮やかなのラベンダー色の髪と瞳の男の子と目が合う。
「あ、あのっっ!!」
この時もう少し早く家に帰っていれば……
目が合っても部屋の中に入っていれば…
この声を無視していれば……
なんて「もしも」のことを思い浮かべる。
黒side 『ネコ拾いました』
『?』
─なんの用やろ。
声を掛けられドアノブを掴む手を離し、彼に向き直ると申し訳なさそうに視線を逸らす。
「………」
声を掛けたのは、そっちなのに話す気配が無い彼に大して不信感を抱く。
─話しにくいならこっちから話した方がええかな。
『用ないなら部屋戻っていい、?話すことあるんなら…ここじゃアレやし…中で話す? 』
こちら側から提案した方が頷きやすいだろうと思い彼の瞳を覗いて提案した。
「……っ、……はい…」
『こっちきぃよ…そんな隅っこ居ったら話できひんよ』
「お兄さん…に迷惑かけるのは…ちょっと…申し訳ないです。」
『死なれたら困るだけやから、おいで』
「…お邪魔します…」
おずおずと部屋の中に入る男の子の後に続いて部屋の中に入り玄関の鍵を閉める。
『一応言っとくけど俺の名前は、悠佑。
呼び方は好きにしてええよ』
「…、」
会話をする上で名前がわからないとお互い喋るのに困ると思い簡単に自己紹介を済ませる。ただの隣人の名前を知らなくても困ることは無いが「お兄さん」と呼ばれるのは反応に困る。
「ないこっていいます。一応…隣の部屋に住んでたというか、…借りてるのは俺なんですけど…追い出されたといいますか…、…捨てられたって言った方がいいんですかね 」
『………』
しどろもどろになりながらも必死に説明する彼の話に耳を傾ける。申し訳ない表情を見る限り訳ありの彼。
『同居人と喧嘩でもしたん、?追い出されるって余っ程の事がないとされへんやろ?』
「他に好きな人が出来たみたいで俺が居ると色々困るみたいです」
『淡々と話しとるけど泣いたりせぇへんの?』
「… 」
俺の質問に目を見開きそんなこと考えたことが無かったと口をポカンと開ける。
「捨てられるのは慣れてますからっっ、!!他に好きな人が居るなら引いた方がいいですか、らぁ…っっ…」
表情を見ないように顔を背け、隣に腰かけ小刻みに震える背をさする。
『少し撫でたら離れる…』
「だいじ、ょうぶです…冷や汗ですっ!そもそも撫でられる程、子供じゃありませんからっ!!」
威嚇しながら目を細めて話す彼になるべく近づかないように距離をとった。
『んなっ怒らんでもええやん。泣いとったから慰めようと…』
「いいです!!!俺は面倒見られる程泣き虫でもないです。話聞いて下さりありがとうございました。」
乱暴に服の袖で涙を拭った追い出された経緯を話して気持ちが楽になったのか礼を伝え、立ち上がる。
去ろうとしようにも玄関が分からないのか辺りに視線を向け、おろおろと手を彷徨わせる。
『行く宛てあんの、?』
「無いですけど…お兄さんには関係ない…です、。 話しかけたのは俺ですが、咄嗟の行動で特に意味はないので」
はっきりと話しているが目元にじわりと涙が浮かぶと必死に袖で拭う。
─泣き虫知られたないって十分子供やろ。
髪を撫でようと手を伸ばすと「触るな」と強い語気で距離を取られてしまった。
警戒心が強いのか弱いのかよく分からない。
『行く宛てないんやったら俺と一緒に住まへん?今丁度…同居人探しとったんよ。』
「…は、っ、?ちょ、っと待ってください…丁度探してたって…絶対どうじy」
『ええやん。これも何かの縁やし』
腰に腕を回し、そのまま引き寄せると喧嘩腰だった彼は急に黙り込んだ。
触れられ慣れてないのか頬を撫でるとぴくりと肩が跳ねる。
「…触るの好きなんですか…っ、!」
『好きやないけど…無防備に大人しくしとるから触っただけ。』
腰から手を離し肩に腕を回すと、柔らかい小さな肌の感触と暖かい体温を感じた。
─触りたいって言えへんだけやけど触れるんやったらええか。
『同居するんは俺にもメリットがあるってだけ。ないこやなくても同居の提案はするよ。誰かと過ごせるってメリットが十分ある。』
「…ぇ…っ…でも俺渡せるものな、…っ、…」
胸に手を添えるとドクンドクンと心音が聞こえる。 渡せるものがないと呟こうにも触れてくる手を退かしたいのか手を伸ばす。
まだ触れていたい俺は力を入れて彼の手首を掴む。
「っ、…お兄さんっ、力っ、強い…」
普通に掴んでいるだけで痛がられると胸がちくんと痛む。
痛みを訴えても離す気配がないと分かると力づくで離そうとする彼を宥めようとすると戸惑う瞳と目が合う。
「…お兄さんその目…獣…みたッ…っ…」
『目は生まれつき。ないこが暴れるから抑えただけで…』
「っっ…っこ、わい…」
髪を撫でようとすると袖で顔を覆って小刻みに震え拒絶する。
『それやったらあんま無防備な行動とらんとこなっ』
「…っは、い…」
今度は隙を見せずにソファに座り、俺をじっと見つめる。桃色の瞳がまだ決めきれていないのか迷っているのか瞳の色が濁っている。
「お兄さんは…い、や…なんでもないです」
変な含みのある言い方。 聞きたいけど聞にくい内容なのか顔を逸らす。
子供らしい行動に笑みを浮かべると 彼の顔色がぱっと明るくなった。
「笑った顔可愛いですね……っふふ… 」
『……可愛ない…』
「可愛いですよ…?小動物みたいで無防備で…可愛いです」
さらりと髪を撫でる彼に戸惑って反応が遅れる。 へらりと屈託のない笑みを浮かべ髪を絡めないように優しく髪に触れる。
「…っ、べたべた触んなっ、!距離の詰め方可笑しすぎやろ」
『あ、っ怒った。怒った顔も可愛いんですね。お兄さんの方が年上なのにこんなに真っ赤になって…可愛い』
頬に触れた柔らかい感触とちゅっと彼の唇から鳴るリップ音に頬が薔薇色に染まる。
赤くなった俺を見て再び「可愛いですね」と
感想を伝える。
─頭ではお世辞やって分かっとるのにな…。
しばらく触れて正気に戻ったのか、 眉を八の字に下げ申し訳なさそうに口を開く。
「……お兄さん。触られるの苦手だったんですね、。べたべた触ってすみません」
『…いいよ。俺が先に触ったんが悪かったんやから』
「…でも、今ので俺のこと怖いなって…思ったり」
『せぇへんけど、?嬉しそうに触っとるだけやなとは思ったけど。』
そんな事で怖がったり恐怖感を抱かないのに
彼は不安そうに表情を曇らせたのも一瞬。
次には安堵の息を吐き、胸元に手を当てる。
「良かった…………」
他人の体温を求めるように寄りかかる彼の頭を撫でると嬉しそうに喉を鳴らす。
可愛いと言おうとすると遮るように「お兄さんの方が可愛いですよ」と口にする。
─猫拾った気持ち…なんやけど…此奴はどう思っとるんやろうな。
純粋に彼のことが知りたいと思った。
桃side「飼い猫、?」
「お兄さん…お風呂先入れて下さりありがとうございま…す。」
水滴が垂れる髪を優しくタオルで拭くお兄さんにお礼を伝える。
『水苦手やからって暴れた時は無理やと思ったけどサッパリして良かったな。』
「…良くないですよ。くっ、ちゅん…! 」
『濡れたままやと風邪引くからドライヤー取ってくるな』
くしゃみをする俺の髪に触れた手を離し、棚に置いてあるドライヤーを手に取り傍に座る。
「乾かすのは自分で出来ますよ、?」
『…ホンマに出来る?』
「出来ますよっ!!乾かすのは得意なんですっ!!」
大丈夫と言っても乾かす手付きが危なっかしいのかヒヤヒヤした視線を向けられる。
─心配しなくてもいいのに。
心の内に吐いた言葉を飲み込み髪に熱風を当てる。
「ちゃんと乾かせましたよ!!お兄さんが心配しなくても1人で出来るんですよ」
髪を乾かし終えドライヤーをテーブルに置いてお兄さんに褒めて貰いたくて後ろを振り返る。
『ん、ー凄いな。』
優しい声音で褒められるのは嬉しいが、触れられないことに不満を抱く。
人肌を感じたくてお兄さんの肩をぽかぽかと
叩いた。
悲痛な声は上げられたが邪険にしたりせずに
優しく問いかける。
『っ、たぁ…もう。何が不服なんよ』
「撫でて欲しくて…撫でられ待ちして…ます…」
恥ずかしくて消えいりそうな声で聞こえたかっただろうと思ったけれど彼には聞こえたみたいだ。
自分よりも大きな掌が頭に乗せられ髪を撫で、遊ぶように指で掬う。
─少し擽ったい…
「っふふ……あはは…」
耐えられず声を漏らすと撫でる手を止め不思議そうに 首筋に手を添える。
─なんか着いてたっけ?
『喉鳴らして…ほんまに猫みたいやな? 』
「猫じゃ、な…」
『ないこの言動見たら猫っぽいんやもん 』
「…お兄さんが飼い主…?」
自分に指を指すと違うと否定するかと思ったが、気恥しそうに目を逸らす。
『飼い主じゃないけど…拾ったから似たようなもんなんかな?』
そわそわした様子で俺の扱いをどうするか悩むお兄さん。大人びているのに子供みたいに俺の髪を撫でる。
「ん、っ…」
─もっと撫でて。
口には出さずにお兄さんの手を掴んで上目遣いで瞳を見つめる。
琥珀の瞳を見つめると唇が軽く触れる。
猫みたいに戯れなくなったのか俺の頬を撫で、甘い口付けを落とす。
「お兄…さ、ん…っ苦しっっい……」
不慣れな唇の触れ合いに息を乱す。
はぁ、っと吐息と共に唇が離れると恥ずかしくて目を逸らしてしまう。
猫だと言ったのに恋人にするような触れ方に胸が簡単に高鳴る。
「…にゃ、あ…っ… 」
甘いお兄さんの声に耳が色づく。
鳴き声を上げると毛布を被せ、寝るように寝室まで手を引かれる。
「お兄さん……も、一緒、?」
『…』
握られた手を離されベッドで眠るように促され、毛布を被る。
一緒に眠るかとお兄さんを手招きで呼んでも来る気配はなく黙って立ち尽くしている。
『ないこが寝たら寝るから…先寝といて…な?』
「……お兄さんと、一緒がいい…。お兄さん来てっっ」
家主の前で先に眠ることが出来ない申し訳ないと思いつつ行動は、お兄さんに甘えたくて腕を広げる。
「寝るならお兄さんも一緒」
指を絡め、匂いを付けようと頬を擦り付ける。
─マーキングしようだなんて本当猫みたいだなぁ。
一緒に寝て貰えるまでお兄さんの体に自分の匂いを付けようと体を擦り付けた。
くすぐったそうな表情を浮かべた後、肩に手を置いて離れてと小さな声で呟く。
「なら一緒に、っ、寝てくれますか?そもそもお兄さんのお部屋です、から…退くなら俺が退いた方が…」
『退かんでええから………寝るからこっち寄ってくれる?』
体には触れず手招きでこっちにおいでと示されても恥ずかしくて体が動かない。
上手くお兄さんの顔が見れない。
「…それだと距離が…近い…っ、…」
『マーキングしたいんやったら…匂いしっかり付けぇよ?』
「ぅぅ…お兄さんの意地悪…」
そう言われて嫌だなんて言えない。
最初にマーキングしようと体を擦り付けてお兄さんと甘えた声で呼んだのは、自分だから。
体をくっつけて添い寝するのもマーキングの一環。
─お兄さんに好意はないんだから気にしないでいい。
それなのに頬が色づき心音が早くなる。
『ないこ…心臓バクバクやんwそんな緊張しとんの? 』
「…っっ〜〜」
『痛いから叩かんといてな。恥ずかしいんやったら離れる?』
優しく問いかける声にドキリと心臓が高鳴る。頷いたら即座に距離を取られてしまうだろう。
─受け入れなかったら他の人の所に行くのかな。 他の人の所には行かないで。
「…離れませんけど…っ、…マーキングしていいんですか、? 」
『……ないこがしたいなら好きにしてええけど程々にしてぇよ。 』
「……歯止めが聞いたら程々にしますよ」
了承を得てから体に触れ、匂いを付ける。
自制が出来る範囲で歯を突き立て肌を吸う。
どうしてそこまで受け入れてくれるのだろうか。
─同情?それとも…被虐を好んでる?前者だとしたらお人好しすぎる。
「…っ、…朝…ご飯…作らないと…」
眠い目を擦り、布団を綺麗に畳んでから体を起こす。
カーテンを開けて部屋の中の換気をし、朝食を作る。
それが朝のルーティン。
扉を開けるとふわりと出汁と味噌の香りが、鼻腔を擽る。
『ないこ、おはよう。もうすぐ朝食出来るから…って…酷っい顔しとるけど寝れんかった?』
髪をなびかせ心配そうに眉を下げ、顔を覗き込む。優しい声音。暖かい空気に頬が色付く。
「5分程寝ましたよ。朝ごはん作らせて…すみません。明日から作りますね。 」
『……ないこ朝食食べたら寝ぇよ?5分だけやったら体持たへんやろ。』
目の隈を気にして寝るように背中を押さる。
驚いて声を漏らすと 転ばないように腰に腕を回し体を支える。
『…俺も寝るから。朝食食べれへんなら食べさせるから無理はせんといてよ。』
「食べれますから、お兄さん……そろそろ離してください…」
腰に触れるなんて事のない手を意識して上手く言葉が紡げない。
『恥ずかしいなら離すけど恥ずかしいん?』
「……………いやっ、…です」
『何が嫌なん?ちゃんと言わな分からへんよ』
背後から髪を撫でる手付きは、凄く優しく安心する。
けれどお兄さんに触れられると胸が高鳴り頬が色づく。
─単純すぎる。
「…っ、お兄さん本当に離してくださ…っ…」
『…ッはは…真っ赤な顔して可愛い…からかってごめんな?』
「………からかわないでくださいよ。」
─変に意識してしまうから困る。
抱擁を辞め食事の準備をするお兄さんを見送り、先に席に座る。
食事を持っていく手伝いをし、向かい合わせのお兄さんと顔を合わせる。
「…っ、美味しい。お兄さん料理上手なんですね 」
『人並みに出来るだけで上手じゃないよ。料理は及第点取れたらいいなって思っとるだけ 』
「及第点ですか、?俺はお兄さんのお料理優しい味がして好きですよ。」
料理はその人の性格や内面を知ることが出来る判断材料。
大雑把な性格なら調味料の量はバラバラで料理の味が濃かったり薄かったりとちぐはぐになってしまう。繊細な性格なら全ての料理が、丁寧に作られていると分かる優しい味がする。
─まぁ、俺の考えだから性格通りじゃない人もいるから…関係ないかもだけど。
お兄さんは自己評価が低いのか褒められ慣れてないのか褒めると少し反応が遅れる。
「それに朝からこんな手の込んだ朝ごはん食べれて嬉しいです。」
『…そ、?ならいいけど…ないこ口元ついとるよ。』
「っ、わ…すみません……いつからついてたんだろ…」
ティッシュで口元を拭おうとするとお兄さんの手が触れる。
「…?」
暖かな手の感触に首を傾げると、嬉しそうに頬に触れる。
『ぷっくらしとるけど、そんな口入れんくてええんちゃうん?』
「……」
『目泳がさんくても…子供っぽいとか思っとらへんよ』
「…ふぅーん、?…髪に触れるのは、 お兄さんが触れたいから触れてるんですか?」
『…さぁ、な…??食べ終わったんならそろそろ寝るか?』
髪から手を離されると、寝室に行くように背中を押される。
─今は寝たくない。
後ろを振り返り手を掴もうとすると、 1歩後退られる。
「もう少し…起きてます…」
寝るなら貴方と一緒がいい。
そう言うのは、恥ずかしくて口には出せないけれど…。
「お皿洗いくらいは俺がしますからお兄さんはゆっくりしててください」
『俺がするからええよ。ないこがゆっくりしぃや。 』
「 居候の俺が洗い物しますよ…お皿洗いくらいは出来ますよ 」
まだ何か言いたげなお兄さんの背中を押し、
ソファに座るように促した。
黒side 「飼い猫に手を噛まれる」
「…っ、冷たっ…ぃ、…」
困惑しながら皿を洗う彼の姿を、ソファから 眺める。視線を向けてると、ラベンダー色の瞳と偶に視線が合う。
─手つきが危なっかしいな。
『……』
無言で近付くと気配で気付き、落ち着いた表情で後ろを振り返る。
「…お兄さんどうかしたんですか?」
『ん…皿洗うの手伝おうかなって』
「洗うのは俺がするので…お皿拭くの手伝って貰えますか、?」
洗い終わった皿を布巾で拭い水気を確認した後、棚にしまう。
「っぁ……っ 」
涙目で服の裾で指を拭い、そそくさとキッチンから去ろうとする。
『… 』
─指切ったんかな。
皿洗いを手伝おうと申し出を断る彼の事だから手当をしようとすると嫌がる。
彼の後を追わずに皿を拭き終え手当をし終えた彼の隣に座る。
隣に座ると衣服を緩め、包帯を巻き直す彼の傷に目が行く。
見られたくなかったのか適当に巻き、上着を羽織り勢いよく立ち上がる。
「お兄さん…手伝ってもらってすみませんでした。じゃあ、俺は寝るのでごゆっくり…」
体を洗う時も恥ずかしいからと自分で洗えるといった彼のことだから相当見られたくなかった傷。
訳ありなのは出会った時から何となく察してはいた けれど彼の問題は、軽率に聞いていいことじゃない。
『包帯適当に巻いとったら擦れて痛いやろ?巻き直すからおいで』
「………ぃ、や、ですっ…」
『1人やと巻きにくい所もあるから手伝…』
「いい、っっ!!!!!」
大きな声での拒絶。言った後の取り返しが付かないと慌てる瞳。
傷を見られるのを怯えている子供。
「…出て行く…………」
フラつかせながら保護した時の衣服に袖を通し、玄関のドアノブに手をかける。
「拒絶して…ごめんなさい…お兄さんには沢山お世話になりました。短い間でしたが…ありがとうございました」
落ち着いた心理状態じゃない。
受け入れられなかったらどうしようと戸惑い揺れる彼。
そんな彼にどんな言葉を掛けたらいいか分からない。
「…………」
開く扉の音に驚きながら涙を拭い、俺に手を振る。
「お元気で。」
《…あにき振られたんだー?まぁ、次の恋は上手くいくといいね。》
『…そうやな。』
《恋愛事に疎いあにきでも恋自体は分かるよね?》
『分からへんからりうらに相談しとするんよ。』
長い赤髪を結んだ彼は、困った表情を浮かべ
紅茶が入ったカップに口付ける。
《りうらに恋愛相談されても困るんだけど…》
『恋愛経験豊富そうなのりうらしか居らへんから仕方ないやろ。万年恋愛脳やろ?』
《…初兎ちゃんとかまろにした方がいいと思うけど…りうらにされても…そんな恋愛経験豊富じゃないし。》
頬を赤く染め呆れてはいるけれど、決して馬鹿にせずに話に耳を傾ける。
『連絡して反応早い奴に相談しようとしとっただけ』
《りうらが連絡マメだから来ただけで、力になれるか分からないよ? 》
『歳近い人の意見聞きたかっただけ。力になれるかはどうでもええよ。』
誰かに話を聞いてほしいだけ。
そう言い切ると気が楽になったのか、落ち着いた声で話し出す。
《年齢が近いね…あにきとは離れてるから振られちゃった子と歳が近い感じ?》
『雰囲気とか話し方で何となくやけど…… 』
《……そ、っか。りうらが1番近いんだ… 》
嬉しがる彼の子供じみた反応は彼と重なる部分が多い。─寂しいな。
『…なんか嬉しそうやな』
《人に頼らないあにきりうらに頼ってくれたのが嬉しいの、!!だからその子のこともっと教えてよ。》
はしゃいだ話し方もふとした時に微笑む表情は可愛らしく見ていると心が和む。
『…難しいこというなぁ…』
─知り合ったのも一緒に暮らし始めたのも最近の出来事で彼という個人を説明しようにも知ってることが少ない。
『……外柔内剛の猫、?』
《…ネコ、???》
『猫っぽい…言動の難ありの子供…っていうかりうらに少し似とるかも…』
猫目で結べるくらいの長さの髪の部分だけ似といる可愛げのある 猫のような男の子。
《猫ならフラッと帰ってくると思うよ。
あにきの傍は居心地いいから…》
『居心地良くないよ…俺の傍に居ると息が詰まるやろ…』
《りうらは安心するよ。あにきは、優しいから気が楽になる》
彼なりの言葉も元気づけようとする言葉は、 自分に当てはまらず違和感がある。
《……卑下しなくてもいいのに…。あにきはもっと…》
『……俺なんかにりうらの時間使わせてごめんな。自分なりに考えて行動してみる』
りうらの言葉は、ストンと胸に落ちる。
─けど、…俺なんかには勿体ない言葉ばかりで申し訳ないな。
《保護猫ちゃんに首輪か目印着けるのもいいかもね》
『…首輪はちょっと…知り合ったばかりの男の子やし、…もう出てってもたから。』
口にすると自分で思っているより寂しい。
出て行くのは個人の自由。
同居しなくても彼には会える。
《保護猫ちゃんりうらの方でも探してみるね!見つけたらあにきの所に連れて来ていーい、?》
『ありがと…連れて来るまではせんでいいよ。 』
《分かった、見付けたら連絡するね…それくらいならしていい、?》
『連絡は、お願いしていい?』
頼まれると思わなかったのか目をパチパチと
瞬き、呆然と口を開く。
《早く見つかるといーね…けど、印は着けとかないとすぐ逃げちゃうよ?》
タートルネックを下げ、水色のサテンのりぼんが着いた首元を嬉しそうに晒す。
が、じろじろ見られるのに慣れてないのか恥ずかしそうに首筋に手を添える。
《っげ、連絡来てるし。早く帰らないと…面倒なことになるから帰るね》
『……、ん…転ばへんよう気ぃつけえよ?』
《子供じゃないから転ばないよ… 》
周りを気にしながら走る彼を見送ると後ろから視線を感じる。
『…?』
気になり後ろを振り返えると振り返られると思わなかったのか驚いた表情を浮かべる。
「…っ…! 」
パンクの服に合わせた首輪と革のブレスレットを付けている男の子に自然と視線が行く。
─全然似合ってない。普段使い
「…ぅん、っ!今行くよ…他の人見てごめんなさい…っ… 」
恋人らしき人に早く来るように首輪を引っ張られ体をフラつかせる。
表情も強ばっていて怯えているように見える。
「……ん、っ…怖がってないよ……ご主人様のこと大好きです。…良い子だから…言う事ちゃんと聞けるから…痛いのは…っっ 」
会話の内容自体は聞こえないけれど、視線は時々こちらに向けられる。
─綺麗な子やな。
人様の恋人をじろじろ見るべきではない。
向けられる視線から顔を逸らし、店を後にする。
「………………」
ぽつりぽつりと雨音が聞こえてくる。
彼と初めて出会った時と同じ湿っぽい雨の匂いがする。
桃side 「帰りたい所」
捨てられた彼氏とのお出かけは、楽しくなく犬の 散歩をされている気分になる。
「捨てたくせに…」
ちゃらりと見えにくい所に着けられたリードを引かれ無理矢理歩幅を合わせられる。
「ごめんなさい…歩くの遅かった…ですよね…っっ……ごめんなさい…ごめんなさっ…」
機嫌を損ねると首元を絞められる。
首の圧迫感に吐き気が込み上げる。
─痛い…痛い……っ!!苦し…ッい…
「ごめんなさい……もっと早く歩きます…だから…っ」
人通りの少ない場所での散歩は、暴力が付き物だ。体の至る所にある打撲痕を見て満足気に微笑まれる。
自分の思い通りにならなかった時は、俺でストレスを発散する。
今回は1、2週間と少ない日数での暴力だから何とか身体的にも精神的にも耐えられる。
「…っ、?」
─お兄さんだ。
何処にいてもお兄さんの姿は目立つ上に、周囲の目を引く。
ナイトスカイ色の毛先と青朽葉色の綺麗な髪を 肩辺りで緩く結んでいてお兄さんによく似合っている。
─話しかけたら怒られるから見るだけなら
「っ、!苦し、っ……ごめんなさ…っ、……ん、恋人だもんね…」
恋人なら恋人らしく手を繋げと命令する恋人の手をおずおずと握る。
─嬉しくない
「ちょっとお手洗い行っていい、?……逃げるって疑うなら………傍に居て…恋人なら近くに居た方が良いでしょ、?」
恋人らしく自然な笑顔で接すれば怒られない。お兄さんと同じように笑いかけないと。
─笑顔引き攣ってないよね…変じゃないよね。
「……待たせてごめんね、?…うん…お散歩これくらいにして自由行動していい、?門限は守るから…ね、??」
機嫌が良い時は、犬としてではなく人として接してもらえる上に少し自由時間を与えられる。 自由時間内に帰らないと罰はあるけれど家事全般は俺がしているから閉じ込められる事はない。
─お兄さんと話したい。
「…お兄さん、っ…!!」
『……久しぶり、?元気にはしとらへんよな…頬痛ない?』
「っっ……頬は大丈夫で、す…お兄さんはお出かけですか、?」
『ランニング…と猫探し…』
頬に触れられただけで恥ずかしくて嬉しくて体が火照る 。
「猫探しですか、?探すなら俺もお手伝いしますよ…!どんな猫ちゃんです…か…」
『…もう見つかったからええよ』
「っ…? 」
お兄さんの周りに猫の姿は何処にも見当たらない。声を震わせる俺を安心させようと優しいけれど力強く抱き締められる。
『寂しかった……』
「人肌恋しかったんですか、?お兄さん甘えんぼう…」
『ないこが居らんくて寂しかった…俺の所に帰って来てぇよ』
「…っ……やだ、…」
触れるのは平気なのに触れられるのは、恥ずかしくて素直に甘えられないお兄さんを見ると胸が高鳴る。
「俺からお願いしたいから嫌です。お兄さんのお家に帰って来て良いですか、?」
『…ん、っ…帰っておいで……』
─見ない間に可愛いくなってる。
力無く髪を撫でる手に触れられると幸せな気持ちになる。
『その服装…どうしたんよ』
「これは…首輪つけても違和感が無いように着てるだけで…す」
─お兄さんの抱擁は痛くない。むしろ暖かくて安心する。
ふわりと風で靡く髪を目で追っていると何処を見ているか問いかけられる。
『目輝かせて何見とんの?』
「…お兄さんの動く髪見てます。ヒラヒラ動いてて楽しいです。」
お兄さんに触れたくて恐る恐る手を伸ばすと
結ばれた手入れの行き髪の綺麗さに驚いた。
─艶々してて柔らかい…。
触れられても怒らないことが些細なことだけど凄く嬉しい。
『ほんま、猫みたいやな…ないこそろそろ帰ろうか…』
「……ぃ、っ…ァ、っ…“っ…〜〜」
『ごめんな…傷あったん分からんくて…』
触れられた肩を撫で、傷の確認をすると悲しそうな顔で肌を撫でる。
─別に綺麗な肌じゃないのに。
大切にされると反応に困ってしまう。
「 いえ…拒絶したのは俺ですから……帰ったら包帯巻き直します。」
『俺が巻き直したいんやけど…いいかな?』
「お兄さんに…お願いしていいですか、? 今度は、逃げませんから。」
逃げないと伝わるようにお兄さんの手を自分から指を絡め、握り締める。
『っ…ッ、…緩んできとるからはよ結び直さなあかんな。 』
「…お兄さん大きな荷物…でどうしたんですか、? 」
『引越ししよっかなって…貴重品だけ持って来たんよ』
─引越し、?俺が原因だったりしないかな。
…俺がお兄さんを困らせてる、?
『ないこが原因ちゃうよ。ただ単に今の家やと色々不便なんよ。 』
「そうですか、ね。で、も引越しなら…今は何処に、?」
『…押しに弱い友達の家。家事全般やる代わりに泊まらせてもらってる』
手を引くお兄さんは歩きながら隣に居る俺に優しい視線を向ける。 暖かい手の温度に体を寄せると自然と距離が縮まる。
「家事全般やるって…お兄さんらしいですね。」
『居候させて貰っとるもんやから家事くらいはせんと申し訳ないから…』
「……俺も家事のお手伝いしたら良かったですね…」
申し訳ない気持ちになり眉を下げると気にするなと言わずに髪を優しく撫でる。
─お兄さんとの何気ない時間が心地いい。
「好きだな…ぁ……」
『………』
無言で歩く時間が凄く心地いい。 いつまでもこの時間が続けばいい。
そう思った矢先に思っていることを口に出して しまった。
「……ちが、…っっ……」
『……、?』
「…お兄さんと過ごす時間が好きだなぁって…意味で…」
─好きのは違わないけど…今言うのは…違うと思う。
恋人に捨てられても俺は、飼い猫。
何処かにフラフラ歩いていい立場じゃないって分かってる。
─分かってるのに…
「…っっ…」
頬が赤く色づく。赤くなった頬を見られたくないのに赤い頬を隠せない。
《……あーにきっ!!!帰ってくるの遅ーい!!》
『……人探ししとったんやから仕方ないやん…』
《むー…連絡してくれたら迎えに行くの に》
「、?」
《…見つかったって連絡くれたらいいのにつれないなぁ…ね、!君名前は、?》
急に話しかけてきた男の子は親しげにお兄さんとたわいのない事を話している。
─これが、お兄さんのお友達。
「貓野ないこ、……って言います。いきなりお家にお伺いしてすみません…」
《畏まらなくていいよ。俺と君歳が近いみたいだからタメでいーよ、?俺もないこくんって呼ぶから。》
「…お兄さんの、お名前は?」
《稲荷りうら……恋人にはりうちゃんって呼ばれることが多いかな…あにきにはりうらって呼ばれてるよ。》
話してみると見た目通り子供らしい男の子。中性的な容姿だけれどパートナーと並ぶとより一層中性的で魅力的に見える。
─可愛い子。 きっとお兄さんが好きになるのとこういう無垢で可愛い人なんだろうな。
『りうら、あんまないこからかわんといてよ……』
《からかってないよ、!コミュニケーション取ってるだけだから、!!せっかく会ったんだからないこくんとも沢山お話したいもん、!》
ぐいぐいと腕を引かれ、リビングに連れて来るとソファに座るように手を離される。
慌ただしく夕食の準備をするお友達を見るお兄さんはへらりと笑いながら隣に座る。
『ごめんな…あいつ人と話すの好きやから…ぐいぐい話しかけてくるかもしらへんけど悪いやつじゃないんよ。』
「いえ…俺は嫌じゃなかったので全然気にしていませんよ。」
夕食の準備を手伝おうと椅子から立つとお兄さんに引き止められる。
─甘えん坊…なのも俺だけに見えてくれてる。それだけで喜ぶなんて単純だな。
「すぐ戻りますよ。もうお兄さんの前から消えませんよ」
『…りうらの手伝いせんでいいからもう少し触れさせて…』
「……はい、お兄さんが満足するまで触ってください。」
頭を撫でる優しい体温を手放したくなくて、
寄り掛り、腕を絡める。
─俺もお兄さんに触れたい。
お互いの体温を確かめるように寄り添うと意外な事に恥ずかしからないお兄さんの反応に頬が緩む。
「ただいま…」
『おかえり…………』
短い言葉なのにお兄さんに言われると胸の内が暖かい。
嗚呼、幸せだな。
「俺は…ずっと…」
お兄さんの所に帰りたかった。
上手くは言えないけれど… お兄さんの所に帰れて良かった。
なんて…思った俺は、馬鹿みたいだ。
黒side 「愛貓」
《ないこくん…寝ちゃった…んだ…って…
2人とも寝ちゃってる… 》
携帯端末片手に近づく足音でゆっくりと目を覚まし、今の状況を理解しようと脳を働かせる。
『寝顔撮ろうとするとかほんま、性格悪いよな』
《…悪くないよ、!ないこくんの寝顔撮ろうとしただけだもん。猫なら写真撮ってもいいでしょ?》
『起きるまでならいいよ…』
《数枚撮ったら終わるよ。ないこくんの着替えどうしようかな…》
起きないように携帯端末のシャッターを押し、寒くならないように毛布を被せられる。
《風邪引かないようにね……こんなに傷だらけで痛いよね…軟膏…あったっけ…少し探してくるから傍に居てあげて。》
「っ…ん、?りうらさんっ…どのくらいに寝て…」
《…小一時間くらい寝てたよ。気持ちよさそうに寝てたから…写真撮ってたの。勝手に撮ってごめんね。》
謝罪するりうらの声と顔面蒼白のないこの震える声で目を覚ます。
『ないこ…りうらも居るから怖ないよ。
なんかあった時も俺らが対処するから』
「…っ、…… 」
《ないこくん寒い…?りうらがぎゅって温めようか、?》
「…んっ…お願いします」
─歳近いから甘えたいんかな。
自分よりもりうらに甘えることに少し妬いてしまう。
《………ないこくん痛くない、?りうら抱き締めるの慣れてないから力加減出来ないかも…》
「…痛くないですっ。抱き締められると安心しますね。 」
《抱き締められると逃げられないからりうらは苦手かな。》
抱擁する手を離してキッチンに戻った所を見計らって後ろから抱きしめると悲鳴が上がる。
「っ、わ!!お兄さんどうかしましたか?」
きょとんと疑問符を浮かべ尋ねる彼。
抱きしめるとあまりの体の細さに、 目を見張った。
『久しぶりに触れたくて…抱きしめてみた。』
「…っ…そぉ、ですか」
体温が上がる彼の分かりやすい反応を眺めるのが好きで自分の表情を見られるのは、苦手だ。
─思っとることが顔に出やすいんよな。
「なら勝手にします。」
勢いよく振り返る彼を落とさないように腕を腰に当てる。
高揚した頬を隠さずに俺の顔を見て幸せそうに頬を緩ませる。
「…お兄さんのことずっと考えてましたよ。」
恥ずかし気もなく頬に唇を当て、徐々に恥ずかしくなったのか目を逸らす。
「…お兄さんに触れてほしかったんですよ……っっ…っ、ん… 」
重ねる唇の感触に戸惑う彼から唇を離し、彼に微笑む。
『っっふ、っ…くくっ…あー可愛い。』
「…っ、……」
『…りうらも居るし、もう止めようか、?』
照れる彼を見るのは、飽きないけれど人に見せ付ける趣味はない。
─俺が見せたくないだけやけど……。
「…っ、止めないで、…今は傍に居てください。」
『っ…!ええけど……場所変えた方が良さそうかな…りうらー』
顔を赤らめる彼から離れ、キッチンに居る親友に声をかける。
《はぁ、ーい?!なぁにぃ、??っ離れろ……っ後で構うから……あーも、う!!あにき少し待っててね》
『お、おう……』
パートナーにキレ気味の親友に咄嗟に返事をした後、キッチンから騒がしい音が鳴り響く。
─絞められとんなぁ、、。
《やっと…静かになった…で、どうしたの?部屋…ならあっちだよ、?ご飯は作り置きしてるのを温めてるからもう少し待ってねー》
『それは知っとるけど…ないこの着替えのこと聞きたくて… 』
《…りうらの服は体型的に余裕ないから…いむの持って来るね。 》
真っ赤な顔の彼に持って来た衣服を渡して着がえ場所等を説明した後、俺の元に帰って来た。
《泊まるなら布団出すけどどうする?》
『…ないこと話してからでいい、?急に言われても困ると思うから』
《……はぁ、い。一応布団出してるね。
ないこくん入っていい、?》
「…どうぞ。お着替え借りてすみません 」
部屋から出てきた彼は申し訳なさそうに眉を下げ謝罪する。
《いーよ。恋人の服だから気にしないで。文句言う人じゃないから。ご飯出来てるから2人先食べてね》
『りうら色々してもらって悪いな』
《これくらいいーよ。恋人の嫉妬は面倒だけど…親友とないこくんの面倒なら喜んで引き受けるよ》
恋人に呼ばれて呆れながらも駆け寄る足取りは、何処か楽しげで幸せそうだ。
『…ないこ、…この後どうする、?』
素直に触れたいと言えばいいのに、彼に対しては中々言い出せない。
─人に言わすのは好きなんやけど……自分からは恥ずかしい。
「…お兄さんの痕…沢山つけてください 」
力無く抱き着く彼の行動に戸惑うことが多い。力を入れたら壊れそうな華奢な体。
重ねると小さいと実感する紅葉のような手。
熱を帯びる頬。潤んだ瞳に吸い込まれそうだ。彼の 全てが愛おしい。
桃side 「ただいま愛おしい人」
「…お兄さん…っ苦しいから離れて」
抱きしめる手に触れようとするとからかうように手を絡められる。
─離したくないなら素直に言ったらいいのに。
人に言わせて自分は言わないのかと呆れはするけれど嫌ではないから拒めない。
「お兄さん重ーい、から離れてください」
『っ、あと少しやから大人しくしといて… 』
「……っ、、っ、はぁ、い」
耳元で囁かれる声と首筋に触れる暖かい手のひらに鼓動が跳ねる。
首元の首輪を緩めようと指先を動かす。
─お兄さんの貓だから取れなくてもいいのに。
『っ、…と、…取れた…ないこ、どう?首元楽になったやろ?』
首筋の跡が消えやすいように薬を塗った後、勢いよく顔を覗き込む。
あまりの顔の近さに驚いて悲鳴を上げそうになったが、引き寄せられたかのように唇が触れる。
「っ、…お兄さ、…ん…ッ…っ…」
触れる唇。余裕のないお兄さんの表情は息をするのを忘れてしまう程、見惚れてしまう。
『…ないこ、?聞こえとる? 』
「っ…」
火照る頬を見られないように服の袖で隠し、お兄さんの方に視線を向ける。
─綺麗な顔…
「っ…」
向けられる視線を無視し、お兄さんの頬に手を添える。手を添えると嬉しそうに頬を緩め俺の頭を撫でる。
─好き…大好き
お兄さんに触れられるのが好き。
「き…です…っ…お兄さんのことが…好きです 」
途切れ途切れに話す俺に優しい視線を向けて見守ってくれている。
─そういう所が好き。
「お兄さんのことを幸せにしたいんです」
『っ、ありがと。でも幸せにしたいんは俺の方。』
言い終えた後、幸せそうな表情を浮かべ俺の体を抱き上げる。
「、っ、!お兄さん……下ろして…っください」
『あ、高いの嫌やった?気付かんくてごめんな』
「…おれ、…太ってるから重たい… 」
自分の体に触れなくとも太ってることは、自覚している。お腹と太腿に触れる手を払い除けようとお兄さんの手に触れる。
「…っ、ん…触らないでください、…太ってるのは自覚してますから!! 」
『気にせんでもないこは十分痩せとるよ。』
「痩せてません、っ…重たいってご主人様にも言われてましたから…」
ご主人様。そう口にすると穏やかな表情を浮かべていたお兄さんの表情が一気に暗くなる。
「…ん…っ……っ、…!っ…ぁ、…ふっ… 」
お兄さんから距離を取ろうにも唇が触れ、逃げれないように手首を捕まれる。
「っ、、っ…ふっぁ、…っんん…っ」
涙目になる俺の表情を気にせず唇を重ねる。時々吐息を漏らすお兄さんに話しかける。
「…っ、…ま、ってください…っ、!!お兄さんのことが好きですから……怒らないでください。」
『怒っとらんよ。腹が立って…しただけやから。あれだけ傷つけられても呼ぶんやなって子供っぽくてごめんな』
頭を撫でるお兄さんの手。何度撫でられても
慣れなくて恥ずかしい。
「……っ、… 」
気まづくなり俯くと 首筋のチェーンに目が留まる。 不思議に思いながら自身の首筋に触れ、チェーン部分を手で掴む。
「…これ、…は、?」
『ネックレス。指輪のサイズ間違っとったみたいやからネックレスにしてみた 』
「…っっ…ありがとうございます。落とさないようにしますね、っ!!」
首の圧迫感がない飾りをプレゼントされたのは彼が初めてだ。時間をかけて選んだのが表情や言葉からちゃんと伝わる。
─指のサイズ…あ、だから指触ってたのか。
『落としたら一緒に買いに行こうか?1階目は俺が選んだので悪いけど我慢してぇよ』
「お兄さんが選んでくれたのが嬉しいんです。だから絶対落としません。」
ネックレスを握り締め、自己肯定感の低いお兄さんに笑いかける。
─貴方からの貰う物はどんなプレゼントよりも価値がある。 それを貴方は知らないでしょ。
『そんな喜ぶんなら慣れないプレゼント選びして良かったわ 』
「俺も慣れてないので今度お兄さんとお買い物行きたいです…」
『俺なんかとで良かったらええよ』
─分からない人だな。
自己肯定感の低いお兄さんに特別だと言っても伝わないだろう。
真っ直ぐ目を合わせ、お兄さんの手を掴む。
「お兄さんとがいいんです、!!お兄さんお一緒にお出かけしたいんです、!!」
きょとんと瞳を瞬くだけで自分に言われていることだと理解していない。
─これでも伝わない?
「悠佑さんがいいの、っ!!!悠佑さんが好きだから一緒に居たいんです。」
─伝わってよ。
服の裾を掴んで、揺さぶって、反応が返ってくるまで握った手を握り返す。
『ないこ、ありがと…俺なんかを好きになってくれてありがとう。 』
「悠佑さんだから好きなの、っ!!俺のこの気持ちは…っっ…嘘じゃな…いよ…!!」
戸惑って敬語を使う余裕が無い。
拙い語彙の無い子供じみた言葉でも伝わりますように。
『分かっとるから……十分伝わったから…』
「ぅ、ぁぁ…っっ、!!ぁぁぁ、!!」
優しく頭を撫でる手。胸元で声を荒らげてないても、 安心させようと背中を撫でる。
─貴方が好き。好きだから。
今は傍に居させて。
《2人とも、〜!!おはよう、!!》
布団を捲り元気な声で俺の体を譲る。
中性的な声に目を覚ますと、明るい髪色が
寝起きの視界に入り込む。
「っ、!りうら、さんおはようございます。」
《おはよう。昨夜泣いてたみたいだけど…もう落ち着いたかな、?》
「お兄さんが隣に居たので大分落ち着きました。」
頬を撫でて落ち着かせようとする彼の優しさにもう大丈夫と意味を込めて微笑む。
《なら良かった。あにきもおはよう》
『おはよう、…』
《あらら…あにきは顔色が悪っいねー
昨夜ちゃんと寝れた?》
『明け方近くに少し寝たよ。ないこもおはよう』
首筋の跡を見えないように髪を下ろしているお兄さんに鼓動が跳ねる。
─自分で付けたのに…恥ずかしくて見れない。
「お、おはようございます……」
『はよ。昨日泣いて疲れたやろ。目元冷やすの持ってくるから待っといてな』
《りうらが取ってくるよ。冷やしたら2人ともお散歩行っておいで。》
冷凍庫から持ってきた保冷剤をハンカチで包んでもらい目元を冷やす。
目元の赤みが引くまで 心配そうな表情で彼が頬を撫でる。
「うわ、っ、!風強くて…寒いですねーね、?悠佑さん…」
『そうやな。マフラー持ってきたら良かったな。』
「…俺に抱きついても寒さは変わりませんよ〜?」
温かさを求め体を密着させ、頬を擦り付ける。その仕草は大型犬が匂いを付けようとする仕草に似ている。
「匂いつけなくてもいいのに…」
甘い香りに頭がフラつく。
肌が密着している事に対して鼓動が跳ねる。
『ないこにくっつきたいだけ。ないこから俺の匂いしてたら嬉しいから…嫌ならやめるよ』
「俺も悠佑さんとくっつきたいですけど…人前だと恥ずかしいです…っわ、!!」
風が吹くと髪がふわりと甘い香りと共に広がる。肩から髪がはらりと落ち、跡が付いている首筋を無防備に晒す。
「あわわっ、!悠佑さん首筋隠しましょ、!」
『誰も首元見てへんから隠さへんよ…飼い貓に噛まれたと思えばええし』
「なら体にもっと付けてもいいですか、? 」
体を近付かせてにやりと瞳を細めると、面倒くさそうな表情を浮かべる。
「それなら跡隠しましょうよ!!」
『嫌やって…それにないこも跡隠してへんやろ 』
「俺はタートルネック着てるので…大丈夫ですよ。…いつの間に跡付けたんですか… 」
呆れ気味に息を吐き、余裕そうな表情を浮かべるお兄さんに向き直る。
『ないこが寝とる時、、?今度は起きとる時に付けようか、?』
「いいです。これから先もずっと俺が付けるんです、っ!!」
首元に腕を回してお兄さんの体を引き寄せ、笑いかける。
「っ、ん…悠佑さん、すき…好きです、っ…帰ってくるのが遅くてすみませんでした。ずっと…」
肌を吸い付いた後自分の気持ちを伝えようとすると、お兄さんの人差し指が唇に触れる。
「、?」
『そんなに言わんでも伝わるから…あんま…言わんといて…』
「照れてる、…悠佑さん照れて…」
『あーあー、!照れとらへんからっっ、!見んとって』
─顔隠して可愛い。首筋も必死で隠そうとしてるのも可愛い。
名前を呼んだ時も頬を赤く染める彼の事だからあまり人と触れ合うのに慣れていない。
「悠佑さんこっち向いてくださいよー、!ねー悠佑さん…っっ…」
『見んといてって…言ったやろ。それと可愛い声で名前連呼せんでも1回で分かる。』
目付きの悪いお兄さんに睨まれると背筋が震える。
掴まれる手首が痛い。
「っっ“!!…ん、っ…いた、い…悠佑さん痛い…っっ…」
肩を強く噛まれ、寝起きのぼんやりとした視界がハッキリと明るくなる。
「…っ、っ“…っ、はっ……ん…ん“」
噛まれた肩から滴る血を拭うために衣服を緩め、タオルを肩に当てる。
「…っ、…っ、独占欲強い悠佑さんもす、…」
『帰ったら消毒しような…腕軽く動かしてみて…肩痛むんやったら病院行こうな』
「は、い。 」
優しいお兄さんに惹かれて恋に落ちた。
彼氏が好きだから傷をくれるものと思って傍に居た日々。重ねられる唇に好かれていると錯覚した愚かな自分。
正常な愛じゃないと気付かなかった落ちこぼれの道化。
それなのに貴方の愛を知って頬が赤くなる感覚を知った。
優しい手に安心して弱い面を沢山見せて貴方を困らせてしまった。
「…っ、! 」
抱きついて今の気持ちを言えば貴方を困らせてしまう。綺麗な鶯色の瞳を悲しませたくない。
「好きになってごめんなさい 」
お兄さんの大きな手が背中を撫でる。
どうして撫でるのか聞く前にお兄さんの低い声が耳に響く。
『二度とあんたの元には帰ってこんよ…ああ、体中に跡付いた飼い貓が好きなら…別やけど…』
元彼の声とお兄さんの低くて安心する優しい声。隣で見ているだけであまりの恐怖に体が震える。
─俺のこと好きじゃないのに… 戻って来いって…どういうつもりだろう。
「…っ、…俺我慢出来ないから早く行こ〜♡ 」
─とんでもなく恥ずかしい…
甘ったれた声に体温を求めて体をくっつけて
頬擦りをする。
「…だからごめんね。貴方の気持ちにはもう…答えられない。」
─これでいいんだよ。これでいい。
暴力を振るわれる前に会話を終えた方がいい。
「理想の猫じゃなくてごめんね…今は世界で1番大好きな人に飼われて幸せ…で、っ…!」
《危ないよ。執着するのは個人の自由だけれどこの子が誰と付き合うかは自由でしょ、?一々元彼に許可をとる必要なんてないでしょ。2人とも行こう。 》
話し合いをしても意味はないと暗に伝え、 冷たくなった俺の手を引っ張る。
《ないこくん、 落ち着いた?ごめんね。元彼との会話入っちゃって…何処も怪我してない、?》
しゃがみこんで目線の高さを合わせ、彼は優しく問いかける。
あまりの温かさに涙が頬を伝う。
「怪我してないです…っご迷惑かけて…す… 」
《いい。あにきも謝らないでよ、りうらがしたくてしただけだから。》
抱き締めて背を撫でる行動は母親を彷彿とさせる。彼の包容力に助けられてばかりで申し訳ない。
「…怖っ…かった…」
《……よしよし…よく頑張ったね。偉かったよ》
額に暖かい感触を感じたのは一瞬のことで目を見開く。
《ないこくん真っ赤な顔も可愛いね。こんなに可愛い表情あにきだけじゃなくてりうらにも見せて。》
『俺のやから駄目やって言っとるやろ。ないこが可愛いんは同意する…けど』
「も、う…っっ貴方って人は。」
─貴方だからこんな気持ちになる。
苦しい時も嬉しい時も傍に彼が居ると安心する。
「だから愛おしいって思うんですよ…悠佑さんと出会えて良かった。 」
首輪の跡が残る首筋に手を当て悪戯気に、八重歯を見せて微笑む。
彼は困った笑みを浮かべながら俺の体を抱き上げる。何回抱き上げられても慣れない俺を
見て彼は嬉しそうに言う。
『っ、…俺が先に言いたかったのにな。おかえり愛おしい人。』
─嗚呼、やっと聞けた。
『こんな俺でもいい、?』
「…っ、…ふふ…貴方だからいいんですよ。
何回だって言いますよ、?貴方がいいって。」
─ただいま、愛おしい人。
𓏸 𓈒 𓂃 𝐄𝐍𝐃𓂃 𓈒𓏸
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