テラーノベル
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夜のコンビニ。すいは缶コーヒーを片手に、コンビニを出たところだった。
母は夜勤で帰らないし、家に一人でいると落ち着かないから、こうしてふらっと夜の街を歩くのが癖になっていた。
けど、その日は運が悪かった。
「おー、すいちゃんじゃん?」
見覚えのある二年の男子二人が、コンビニ前のベンチに座っていた。
夜道にたむろしてるあたり、ろくな連中じゃない。
「一人でコンビニ? さみしー」
「ちょっと遊んでこうよ」
軽口を叩きながら、にじり寄ってくる。
すいは顔をしかめ、缶コーヒーを軽く振りながら低い声で返した。
「退け」
「えー、冷たっ。いいじゃん、ちょっとだけだって」
男子の手がすいの肩にかかる――その瞬間。
「……触んな」
背後から、氷みたいに冷たい声が落ちた。
振り返ると、そこにはゆいが立っていた。
制服姿のまま、ポケットに手を突っ込み、無表情でこちらを見下ろしている。
「ゆ、ゆい先輩……っ」
男子二人が一気に青ざめる。
ゆいはゆっくりと歩き、すいと男子たちの間に立ちはだかった。
「……なんで、こんな時間にお前らがここにいる」
声は低く、抑揚がないのに、恐ろしく重い。
男子たちは一瞬で動きを止め、口ごもった。
「い、いや、ちょっと……話しかけてただけで」
「話しかける必要ねぇよな」
淡々とした声なのに、息が詰まるほどの圧力があった。
男子たちはたじろぎ、互いに目を合わせると、逃げるように去っていった。
◇
静かになったコンビニ前で、すいは腕を組んでゆいを睨んだ。
「……なんで来たの」
「GPS」
「……は?」
「お前のスマホ、俺のと連動させてる」
「ちょ、ちょっと! 勝手に!?」
「夜に出歩くお前が悪い」
言葉は冷たい。
でも、ほんの少しだけ乱れた息遣いを、すいは聞き逃さなかった。
「……心配した?」
つい意地悪く聞いてみると、ゆいは無言で視線を逸らす。
代わりに、すいの手から缶コーヒーを奪い取った。
「カフェイン摂りすぎ。ガキは寝ろ」
「はぁ!? 返せ!」
「歩く。家まで送る」
「別に一人で帰れるし!」
「黙れ」
短い一言で片づけられ、すいはしぶしぶゆいの隣を歩く。
だけど、ほんの少しだけ歩幅を合わせてくれているのに気づいて、胸がくすぐったくなる。
◇
家の前まで送ってもらい、玄関先で別れ際。
すいがふと、「ありがと」って言いかけたそのとき。
「……次、こんなことあったら」
ゆいが低く呟き、視線だけこちらに向ける。
「俺が殺す」
目は本気だった。
あまりに真剣なその表情に、すいは一瞬、言葉を失う。
次の瞬間、心臓が大きく跳ねた。
「……過保護すぎ」
強がってそう言ったけど、顔が熱いのを隠せなかった。
ゆいは何も返さず、踵を返す。
その背中が夜の闇に消えていくまで、すいはただ立ち尽くしていた。
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続き待ってるね〜!