テラーノベル
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澪は古びた木の扉を見つめた。
名前はない。
取っ手に手を伸ばそうとした、その瞬間だった。
「触るな。」
青年の声が、今までで一番冷たかった。
澪は反射的に手を引っ込める。
「……なんで?」
「その扉は、まだ開いてはいけない。」
「どうして!」
「君は、真実に耐えられない。」
その言葉に、澪は唇を噛んだ。
「勝手に決めないで。」
青年は黙ったまま、澪を見つめる。
その瞳には、迷いがあった。
まるで何度も同じ場面を見てきたような、諦めにも似た表情だった。
「……お願い。」
澪は小さく頭を下げる。
「もう、何も分からないまま帰りたくない。」
「お兄ちゃんに何があったのか知りたい。」
「私の記憶がおかしいなら、それも知りたい。」
長い沈黙が流れる。
やがて青年は、小さく息をついた。
「……一つだけ約束して。」
「何?」
「何を見ても、扉の向こうへ入ってはいけない。」
「見るだけ。」
「絶対に。」
澪は頷いた。
青年はゆっくりと扉に手を添える。
ギィ……
木が軋む音とともに、扉が少しだけ開いた。
中から漏れ出したのは、夕焼け色の光だった。
⸻
小さな公園。
ブランコが風に揺れている。
まだ幼い澪が、笑いながら走っていた。
「お兄ちゃん!早く!」
その後ろを、制服姿の兄が追いかける。
「転ぶぞー!」
どこにでもある、幸せな日常。
澪は思わず笑みをこぼした。
「……懐かしい。」
しかし。
兄の視線が、不意に公園の入り口へ向く。
笑顔が消えた。
そこには、一人の黒いコートを着た男が立っていた。
顔は影になって見えない。
男は兄だけを見ていた。
まるで、最初から兄を探していたかのように。
兄は幼い澪に笑いかける。
「澪。」
「今日は先に帰ってて。」
「えー!なんで?」
「大事な話があるんだ。」
兄は優しく頭を撫でた。
その笑顔は、どこか無理をしていた。
幼い澪は気づかずに帰っていく。
そして、公園には兄と黒いコートの男だけが残った。
そこで――
映像が突然、砂嵐のように乱れた。
「え……?」
景色が歪む。
兄の姿がノイズに飲み込まれていく。
まるで、その先を誰かが消したかのように。
澪は息を呑んだ。
「記憶が……壊れてる?」
青年は静かに首を振る。
「違う。」
「これは壊れたんじゃない。」
「誰かが、この記憶を意図的に封印した。」
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コメント
1件
ああ、第3話読んだ… この「意図的に封印された記憶」のギミック、核心に迫る感じがたまらんな。特に「君は真実に耐えられない」って台詞がずっしり来た。記憶の奥で兄が無理して笑ってたシーンも「その先」を想像させる巧い書き方だわ。封印ってワード出たところで、この作品の根幹が一気に引き締まった感じがする。次が気になる…!