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花火の音と_

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花火の音と_

2 - 花火の音と_【水side】

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2023年08月01日

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ないちゃんと出会ったのは十数年前。

お祭りのときじゃなくて、僕が山で怪我をしてたとき。

その時は、完全に狐の姿だったからないちゃんはたぶん覚えていない。

怪我で動けなくなった僕を手当してくれて、森へお帰り〜、と見送ってくれた。

それから、数ヶ月。いつもみたいにお祭りに行くと、瞳に涙を浮かべ、困っている様子のないちゃんが居たのだ。

すぐに駆け寄って声をかけた。

「どうしたの?大丈夫……?」

「うぇぇ……ッ、おかーさん……っ……どこ……ぐすっ」

どうやら、迷子みたいだった。

「じゃあ……っ!僕が案内してあげる!えっと、……名前は?」

「……っ、ない、こ……っ、」

その時初めてないちゃんの名前を聞いた。

ないこ、ないこ。何度も頭の中で唱えた。

忘れないようにって。

「じゃあ、ないちゃんっ!どこ行きたい?」

「花火の、……とこ…。ねぇ……っ、きみの名前は……?」

「え、えーっとね……、ほとけ!いむくんって呼んでほしいな!」

そう元気に言えば、いつの間にかないちゃんの涙は引っ込んでいて。

「いむ、くん……」

じゃあ行こっか、なんて言って手を繋いだ。


それから、ないちゃんは毎年お祭りに来ていて。

毎年、一緒に屋台なんかを回った。

いつの間にか、いむくん呼びからいむに変わっていたし。

毎年じゃなくて毎日会いたい、ずっと一緒にいたい、そう思い始めた頃にはこの感情が、恋情だと気付いていた。


そして今年の夏祭り。ないちゃんの姿はなくて、どれだけ探しても居なくって、つまんないな〜、と思っていたとき、十数年前と同じように、一人で立ち竦むないちゃんを見つけた。

どうしたの?と、聞くとまた迷っちゃった、なんて返事が返ってきた。

前みたいに、案内してあげる。なんて言って手を握った。

ないちゃんの暖かくて大きな手を離すまいと握り、幸せを噛みしめる。

このまま、ずっと一緒にいれたらな、って。

でも、その幸せは一瞬で壊れた。ないちゃんの発言で。

「実は彼氏とはぐれちゃって……」

は?

一瞬で思考が真っ黒になる。

彼氏?嘘でしょ。

ありえない。ないちゃんは僕のものなのに。

信じたくない。

ないちゃんの心配そうな声ではっと我に返る。

が、黒い感情は無くなってくれなかった。


それから、他愛もない会話を続けたが、耐えられなかった。

ないちゃんが僕のこと以外をあんな楽しそうに話すなんて。

その笑顔を他の人に向けているなんて。

無理だった。

「ど、どういうこと……?いむ?なに、それ……?」

神社の本殿に連れてきたら、すっかり怯えている様子のないちゃん。

今にも泣いてしまいそうな声と顔。それが堪らなくかわいかった。

ないちゃんの腰と肩を抱き、崖のギリギリまで行く。

「ねぇっ、いむ!」

生に必死に縋りついているないちゃんがかわいい。

そんなないちゃんが今から永遠に僕のものになるのだ。

楽しみ以外のなにものでもない。

ドンッと、ないちゃんの胸元を押すとないちゃんの身体が宙に浮く。

「……え」

絶望したその瞳。……ほんと、かーわい……っ♡

「ないちゃん、僕のもとに嫁いできてよ♡」

早く、僕のものにならないかなぁ。

ドンッという音が花火の音と重なって響いた。



赤に濡れた頬を撫で、呟く。

「これで、いつでも一緒だね……♡」

「ふふ、やっと僕のものになった……♡ないちゃん、だいすきだよ♡」

冷たくなった身体を抱き上げ、キツく抱きしめる。

花火の明かりが二人を包む。僕らを祝うかのように。

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コメント

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うわぁ、好きです、

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