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「なあ、昨日ガオガオガーファイナル観たか?」
「ああ、観た観たっ! カッコよかったよなっ!」
私の前の席に座る男の子。その男の子の周りにはたくさんの男の子達が集まっている。
イヤ、男子だけじゃない。
「私も観たよ。トモくんが面白いって言うから」
「私も観た」
そう、男子だけじゃなく女子達も彼の集まり、楽しそうに笑い合っていた。
その後ろで、私はひとりポツンと本を読んでいる……
引っ込み思案で、クラスにほとんど友達のいなかった私。前の席に座る彼がとても眩しく、そしてとても羨ましく見えた。
席はすぐ後ろなのに、彼はとても遠い存在で、そこにはまるで見えない壁があるようだった……
って、アレ……? なんで私はアイツの後ろで本なんて読んでるの?
私は読んでいた本から顔を上げると、幼い頃のアイツが友達に囲まれて笑っていた――
夢……? そっか、コレは夢なんだ……
そう、私がまだ幼い頃の――多分、小学三年生の頃の夢。
自分で夢であると自覚しながら見ている夢――こうゆうのって確か|明晰夢《めいせきむ》って言うんだっけ?
明るく活発で、常にクラスの中心にいた男の子。いつもひとりで本ばかり読んでいたボッチの私とは、まるで正反対の存在……
私はその男の子に憧れ、その男の子のようになりたいと思っていた。
前の席で話す彼の言葉にコッソリと聞き耳を立て、彼の面白いと言っていたアニメを観て、彼の好きなゲームをプレイした。
彼がK-1にハマり空手を習い始めた時も、やはり私は同じ道場に入門した。
もっとも、そんなストーカーみたいな事をしていたけど、彼と会話をした事など殆どない。常に友達に囲まれていた彼にとって、遠くから見ているだけの私など眼中になかったのだろう。
もしかしたら、同じ道場で稽古をしている私と、教室で後ろの席に座っている私が、同一人物だとすら気付いていなかったかも知れない。
そんな明るい彼だったが、中学に入ると少しずつ素行が悪くなり始め、高校に入る頃には『|R-4《ルートフォー》』という暴走族のチームに入ってしまった。
まあ、R-4は暴走族というより、走り屋に近いチームではあったけど。
バイクと喧嘩が中心で、万引きやカツアゲ、ドラッグは禁止という硬派なチーム。
さすがにそっちの世界まで追いかけるのは――と、かなり迷っていた私。しかし、思い切って飛び込んでみると、思っていたよりも水が合ってしまった。
私の入ったチームは『|鬼怒姫《きぬひめ》』という、やはり硬派なチーム。
ここで、習っていた空手の経験が活きた。
空手の腕前を買われ、チーム内で頼りにされるようになり、いつもひとりだった私の周りにも友達が集まるようになったのだ。
ボッチ卒業という念願の叶った私。
そしてその頃にはもう、私の彼に対する憧れという気持ちが、まったく別の気持ちに変わっていた。
そう、『恋』という気持ちに――
「トモくん……」
夢からゆっくりと覚醒を始めた私の口から、無意識に漏れた言葉……
霞んだ視界で見慣れた天井をぼんやり眺める私。
そして静かに上体を起こしていくと、瞳から溢れた温かいモノがスーッと頬を伝い落ちていった。
「なんで、今更こんな夢見てんのよ、私は……」
ため息をつくように呟きながら、私はベッドサイドにある時計へと目をやった。
舞浜の大型テーマパークで買ったネズミのキャラクター時計。そこに表示されているデジタルは、アラームが鳴るまで一時間以上ある事を示している。
「たくっ、あのバカ……ヒトの安眠を邪魔してくれちゃって……」
私は再びベッドへ倒れ込み、流れる涙を誤魔化すように枕へと顔を埋めた。
「勝手にいなくなったくせに、勝手にヒトの夢に出て来んなつーの……」
大きめの枕をギュっと抱きしめながら、私は掠れた声を絞り出した……