「は!」
気のせいか。
「って、え!?」
何で私馬車で寝てるの…?
「あれ…?なんか私忘れてる?」
あのあと何かあったっけ……
そうそう、何か視界が揺れてると思ったから別の部屋に移動して…。
それで、ソファに座って、近くの丸テーブルに突っ伏したんだ。
………あれ?
そこから記憶無いぞ…?
え?
「ねぇ!」
馬車の中から御者を呼ぶ。
「は、はい!」
「あのさ、私を馬車に連れて来てたのって誰?」
「えっ、あ〜…えっと…その、」
すると、急にしどろもどろに話す御者。
「どうしたの?」
「その……口止めをされておりまして」
「口止め?」
私は曲がりなりにも公爵令嬢よ?それを相手に口止めって…
あいつじゃん!!
十中八九あいつじゃん!!
え、私なんか失礼なことしてないよね…?
寝言とか言ってないよね…、ね?
や、やばいかも。
背中に冷や汗が流れる。
……寝よ。
王太子side
うんざりだ。
「殿下!今日はまた一段と麗しゅうございます!」
「殿下、恐れながら私と一曲踊ってはくださいませんか?」
派手なドレスにメイク、香水のむせかえる甘い匂い。
気持ち悪い。
早く夜風に当たりたい…。
そう思っていた頃、目の端にひたすら料理に食いついてる女を見つけた。
女はこちらには目もくれず、料理とジュースを頬張っては満足げな表情を浮かべていた。
俺はその姿に、ほんの少しの羨ましさと、
「お前何しに来たんだ?」
という素朴な疑問を抱かざるを得なかった。
女はそれからずっと食べ続け、ある時席を外したかと思うとどこか別の場所へと消えていった。
俺は気になってその場を後にし、女を探すと…
「すー…すー…」
ささやかな寝息が聞こえてきた。
部屋へ入ると、ちょうど一人の男が手を出そうとした。
「貴様、何をしている?」
「はっ、こ、これは殿下!?失礼いたしました…!!」
理由も言わずに立ち去っていく男を気にもとめず、女を見やる。
女は相変わらず油断しきった表情で寝ていた。
「はぁ、今襲われそうになっていたというのに…」
………
アントネラ公爵家の娘か…
あそこは変人が多いと聞く。納得だ。
「君、起きなさい」
声だけの警告は全く彼女には届いてないようだ。
「ふへへ…おいし…」
なんだ、夢の中でまだ食ってるのか。
俺はつい笑ってしまい、今後の料理にもう少し手を加えてみようか、と考えた。