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「『西暦3000年、、、通称【悪魔の年】
始まりは【ある小国同士の戦争】。それが発展して、人類を終わらせてしまうとは、当時の者たちには誰一人として予想できなかった。
世界各地で自然災害が同時発生。これにより、人類の大半が消えた。津波に飲まれた者もいれば、食料が尽き、静かに亡くなった者もいたという。
ここで終わっていれば、人類の時代は今も続いていただろう。だが、そうは行かなかった。
あの小国同士の戦争。これが最後の一押しとなってしまう。それで使われていた、人工知能搭載型兵器が人の支配から逃れ、暴走状態に入る。
それは、人を殺めるためだけに作られた機械。人々は抵抗する事すら許されずに死んでいった。
そんな中、最後まで生き残った一族がいた。その一族の1人が暴走状態の兵器を見事制御したのだ。
人々は彼を【皇帝様】と呼んだ。
自然災害による被害、戦争で使われていた、核エネルギーやウイルスを利用した兵器による環境汚染などの要因で地上は既に人が生活できる環境ではなかった。
困った人々に【皇帝様】は巨大な地下シェルターを用意した。
そのおかげで私たちは、今もこのシェルターで生きられているのです。』
【皇帝様】か。お伽話の英雄みたいで、いかにも胡散臭い。どうなんだ、この教科書」
十五歳である番号5555は、机に向き合いながら、そう呟いた。
俺は勉強も【皇帝様】も大嫌いだ。
この教科書のように、皆んなは【皇帝様】を絶対的な英雄として崇拝している。
だが、俺にはそれがわからない。
それには、いくつかの理由がある。
偉人として尊敬するぐらいなら俺も抵抗を感じなかったかもしれないが、崇拝とまでいくと理解しがたい。
それに【皇帝様】は人類を救った存在であると同時に人類を”終わらせた”存在でもあるから、あまり好感を持てない。
最後に、これは八つ当たりのような理由にはなってしまうが、俺の人生を狂わしたからだ。
物心がついた時には周りが【皇帝様】を崇拝していたが、俺は【皇帝様】を崇拝しなかった。
自分が信じられない存在を信じるフリをするのが、その時の俺には悪の行動に思えたからだ。
俺は、皆んなもそう思っているのだと思っていた。皆んな、信じるフリをしているのだと。
でも、違った。。。
皆んなにとって【皇帝様】への信仰心は、物心がついた時には自然と既に備わるものらしい。
俺は幼くして、皆んなの普通と自分の普通が大きくズレている事を知った。
「センベツ、ノ、ジカン、デス。 ヒロバ、ニ、アツマッテ、クダサイ」
機械の読み上げ音がシェルターに響く。
これは月一で行われる【選別】を知らせるアナウンスだ。
この【選別】にはシェルターの住民は全員が参加する必要がある。自身が選ばれる可能性があるからだ。
「そうか。もう【選別】の時間か、、、」
俺は一度勉強を中断し、広場へ向かった。
***
「センベツ、ヲ、ハジメマス」
広場の量産型機械が音を出した。
「よし、間に合ったー!」
俺の家はこのシェルターの端にあるため、ちょうど中央にある広場まではかなり遠い。
「【選別】に遅刻しかけるなんて、、、」
「【異端】は困ったものね、、、」
周囲の俺を見る目が明らかに冷たい。遅刻ギリギリで来たという事も関係しているのだろうが、主な理由は俺が【異端】だからだろう。
【異端】というのは、【皇帝様】を崇拝しない俺の呼び名だ。
俺が皆の普通と自分の普通の違いのズレに気付いたように、皆も俺の普通がズレている事に気付いたのだ。
【異端】か、、、
辛いはずの言葉だというのに、そう言われても特に何も感じなかった。
物心ついてから言われ続けた呼び名だ。
これが俺の普通なのだ。
「バンゴウ、3279、4612、7911」
量産型がそう音を出すと、その番号の入れ墨を持った人が前に出た。
そして、置かれていたナイフを手にし、自身の首を切った。
彼らから赤い液体が噴き出る。
前の方で見ていた人には、それが掛かっていたと思う。
だが、誰もそれを何とも思わず、ただ当たり前の事として認識している。
明らかな異常だ。
だが、これが皆の普通なのだ。
この【選別】は【皇帝様】の考案で始まった。
【皇帝様】は人類を救ったが、人類を終わらせもした。地下シェルターでの生活は機械に支配されている。
【皇帝様】はきっと、人を人として見ていない。道具として見ているのだろう。そうでなければ、理解ができない。
このシェルターでは、半年に一回ほどの頻度で試験が行われる。その試験で合格点に届かなかった者は自ら命を絶つことを強制される。
それが【選別】だ。
「5555、、、話がある」
背後から肩を叩かれた。何だと思い、後ろを振り返る。
「え? 母さん、、、、、!」
意外な相手だったため、言葉が詰まる。
彼女は番号1255。血は繋がっていないが、俺の母親だ。
「どうしたの、、、 話なんてあの日以来じゃない?」
「そうね。良い? 聞かれるとマズイから一度しか言わないよ」
母さんは俺の耳元でこう囁いた。
「人類の時代を取り戻さない?」
「え、、、、、」
そう。全ては母さんのこの発言から始まったのだ。
これは俺が自由に生きられる世界を掴むまでの物語だ。