テラーノベル
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(学パロの中に22太(幽霊)が来てしまった。この世界の太宰は森の養子で、中也は紅葉の子供、妹が鏡花になっている。)
( ……なんだ彼奴)
朝の登校(大人からしてみれば出社)時間にいそいそと行き交う人たちの前にして、一人一人に声をかけている男。視覚的情報だけで言うと若いので青年というべきだろうか。遠くにいるので _尤も、近づく気はないのだが _ なにを言っているのかわからないではあるが、碌なことを言っていないのだろう。声をかけた人たち全てに無視をされている。中也は朝雑にきてしまったブレザーを正しながら、絶対関わりたくはない故に、スルーしようと決め込んだ。時計を見てみると、急がなければ電車の時間に間に合わない頃だった。バス停が近くにあるのでそれを使いたいところだが、そこへ行くためには先ほどの不審者に近づかなければいけない。いかんせん、寝坊した自分のせいだ。自分を戒めつつ、中也はささっとバス停の時刻を検索した。いつもはスマホを滅多に使わないので、充電切れスレスレなのだが、昨夜充分に充電をしていたので満タンである。中也は人の邪魔にならないよう、傍へと移動した。
(つっても学校なんざ暇なンだがな)
それでも必死に行くのは、学費を払ってくれている両親のためだ。初等部に妹がいる限り、サボっていたなどの情報は直ぐ耳に入るだろう。例えそうでなくても、両親に嘘をつくなど許せない。タタンと打ち込むと直ぐに表示された。中也がよく利用する電車よりか、バスの方が早く学校に着いてくれる。なら仕方がない。目を合わせないように目線を下げて、小走りで突っ切った。足の速さには自信があるので引き止められても逃げ切ることができる__はずだった。
「お急ぎかい、おチビさん」
「誰がチビだ!!!!!」
中等部に入っても伸びない身長を気にしている中也にしては「チビ」は禁句ワードであった。久々に言われただけあって、反射的に反応してしまった。声の主があの不審者であったこともありさらに、やっちまッた、と顔を青くした。
「おや、中也かい。どうりでチビなわけだ。」
(なンで名前知ってンだよ……)
思っていたよりも不審すぎた。初対面で人の悪口を言い、名前まで知ってるなんて。再度本能で、此奴は関わってはダメだ、と感じ取っては回れ右をした。
「私から逃げれると思ってるのかい?」
「お巡りさん此奴ですッッ…!!」
やばい、本当に此奴はやばい。周り右した先に回り込んで来た。しつこい。そして周りからの訝しげな視線が痛い。通勤時間だから誰も足を止めないのが幸いだと言ったところだろうか。こんな人混みの隅でお巡りさんを呼べるわけはないし_ できれば一刻も早く捕まえて欲しいのだが _そんなに暇ではないだろう。手のひらが汗で湿り出したときでも、不審者は何が面白いのかケラケラと笑っている。
「なんだか複雑だけど、まァいいや、中也で。」
「はァ?てか誰だよ手前。なンで俺の名前を知ってンだよ?」
中也は威嚇するように睨みつけながら、目の前の男へと問いを投げかけた。悔しいことに、相手は身長が凄く高いので見上げる形になってしまう。
「何それ、渾身の演技だね。あ、もしかして森さんから聞いてないの?それとも嫌味かい?」
森さん…森学園長のことだろうか。見知った名前を聞いて中也は首を傾げた。しかし、そうで有れば此奴は学校関係者なのだろうか。いや、でも。街中で声をかけられるほど仲が良い職員などいなかったはず。
「あ、ふぅん、そゆこと。」
(???)
疑問が増えていく中也などお構いなしに、男は中也の全身を見て何処か納得したようだった。その表情に、多少の驚きが見えたのは不思議だが勝手に納得してもらわないで頂きたい。中也の思考を読み取ったのか否や、太宰はにっこりと笑みを浮かべて名乗った。
「私は太宰治。どうやら君は、私が知っている中也じゃないみたいだね」
「…太宰? 手前、太宰って言ったか?」
中也は顔を顰めた。というのも、太宰治という名前を聞いて、嫌いな奴が思い浮かんだからだ。中也の同級生にも太宰治という名前の生徒がいたからだ。此処まで来るとなんとなく察するとは思うが、其れが中也の嫌いな奴である。
「うん。嗚呼でも、彼とは違うから勘違いしないでよね。」
そう返す様はまるで、自分と同姓同名がいることを知っているようである。中也は太宰の顔をまじまじと見つめた。心なしか声や喋り方が似ている気がして、もしかしたら顔も似ている可能性を考えたのだ。しかし、なんだかんだ話している中で初めに思ったことを再度感じた、若干似てる気はする、である。なぜだろうか、顔がはっきり認識できないのだ。顔の雰囲気はそっくりであるのは分かるのだが、細部まで見ようと目を凝らしても次の瞬間に忘れてしまう。でもまぁ別に知らなくてもいいか、という半ば投げやりな感じで諦めた。
「そんなに見ちゃって、私の秀麗な顔に惚れちゃったのかい?」
太宰はニマ、と悪い顔になった。なんだかムカつく。初対面なのに。
「なわけねェだろ。第一手前の顔は胡散臭すぎるしな」
ハッと鼻で笑うが相手は気にしてないようだった。キョトン、と驚いた顔をしてアハッと笑った。やっぱりムカつくので殴ろうかと拳を握りしめたときだった。
「というかバスもう行ったよ、学校大丈夫そう?」
「あっ」
そんな太宰の指摘に、中也は握っていた拳を下ろして顔を青ざめさせたのであった。
◆◇◆
「ギリギリ間に合って良かったね」
「全然遅刻だったろ莫迦」
あの後どうにかダッシュで行ったところ、ホームルーム終了までにはつくことができた。もちろん、視線はものすごく集まったのだが、欠課を作らなかっただけマシだろう。
そして平然と太宰も付いてきていることに違和感を覚えていたが、どうやら自分以外には見えないらしい。でなければ180くらいはある高身長に加え、女子たちが騒ぎそうな顔面であるのに、周りが無反応なのがおかしい。そうわかってしまえば、太宰があのとき色々な人に無視されていたのも、彼奴が不審なことを言っていたというわけではなくてただ単に見えていなかっただけだと理解した。早く言え、という話なのだが、太宰もそのことは分からずひたすらに話しかけていたらしい。
「だったら紛らわしいことすンなよ」
と抗議したところ、太宰曰く初めから薄々気づいてはいたもののどれだけ無視されたら自身の精神が折れるのか、という度胸試しみたいな遊びをしていたのだとか。それが紛らわしいと言っているのだが、太宰には通用しないらしい。そういうことじゃねぇと突っ込みたいが、喋りすぎると周りから変な目に見られてしまうため、できる限りどうでもいい内容は聞かないことにした。
「あはっ、やっぱり私って人気なのだね」
「ああ“?」
中也は何処か機嫌悪そうに太宰の視線を辿った。そこには太宰よりかも背が低い_ 大人と比べるのが間違っているだけで中也に比べれば断然高いのだが _”太宰“がいた。いつも通り女子たちに囲まれてヘラヘラと喋っている。中也にすれば目障りでしかないので目を逸らしたが太宰は其方を見ながら「あの子は将来美人になる」だとか「うわ。あの子絶対ちょろい…」だとかいう最低な発言を俺以外が聞こえないことを良いことに羨ましげに呟いていた。
というか。やっぱり、ということはこの太宰もモテモテだったのだろう。いやそもそも、太宰はどういう生物なんだろうか。俺にしか見えない、ということは幽霊なのだろうか。だが俺にしか見えない理由は?恨まれることでもしたのだろうか。心当たりを思い出そうとするもそれはないだろうな、と諦めた。多分この太宰は俺の妄想なのだろう。そう思っておく。考えるのは割に合わないし、あとで聞いた方が手っ取り早いからだ。
「授業中は話しかけンなよ」
「はいはい」
そう2つ返事をこぼしただけあって、太宰は授業中とことん邪魔をしてきた。というのもしつこく話しかけてきたり、視界を妨害したりすることしかできないのだが。しかし邪魔ではあったので、頭の中で何回も太宰を殴って堪えた。しかし最後は「つまんない」と不満気に溢して教室内を詮索してくれたのだから、これ以上ないくらいに感謝をした。
「はぁ ~、やっと終わり?暇すぎて死ぬかと思った。」
「元から死んでンだろ」
知らねェけど。中也はケロリとした顔でそんな物騒なことを呟きながら薄暗くなってきている空を見上げた。
「酷いなぁ、死んではないよ、多分」
「多分ってなンだよ…言い切ってねェのが1番怖ェわ」
下校時間はとっくに過ぎていて人が少ないのを良いことに、自身を中心に鞄をぐるんとまわしたりしてみた。夜風が頬を撫でて心地が良く、横で「危ない」とか「あたっちゃう!」とか喚き散らす太宰の声も聞き流すことができた。
「というか、どうして態々この時間まで残ってのさ」
太宰には中也が不良にでも見えてるのだろうか。少しくらいは説教を…と言った真剣そうな顔で聞いてきた。足が止まると、
「…会いたくねぇ奴がいるから時間ズラしてンだよ」
「会いたくないやつって?」
立ち止まると、靴先にコツン、と小石が当たった。顔を上げると太宰の腹が見えたから、此奴が蹴ったのだろうか。
「太宰」
目線を合わせると同時に溢れた言葉は、本来だすべきものではなかった。嫌いな奴の名前なんて言いたくなかったし、何より状況が悪かった。
「……なに。」
太宰に気を取られて、前を見ていなかった。だから、ハッと顔を上げたとき理解に時間がかかってしまった。
「おお!君がこの世界の私!でもこの時間に歩いているのはやるせないなぁ、私は真面目だった気がするのに。」
惚けるようにそういう太宰に、絶対嘘だろ、なんて突っ込むほど余裕がなかった。
“太宰”の視線が怖かった。中也は目を逸らしながら歩を進めた。それを見兼ねてか、にっこりと話していた太宰は急に静かになった。
「……喋らないのかい?」
(そンな必要ねェし。)
“太宰”がいるため声には出せないので、一応心の中で返事をする。“太宰”の視線を感じながらどうにか横を通り過ぎることができた。太宰の足音_ 付いてくる雰囲気、と言った方が正しいのかもしれない _が聞こえてきて何故だかわからないが少し安堵した。しかし、太宰が何処か名残惜しそうに一回立ち止まったのは、何故だろうか。それを中也は知る由もないし、知る必要もない。知らんぷりをしてそそくさと家へと向かった。
お久しぶりです。
これは空き時間に書いてたやつです。
相変わらず活動は休止するのですがなんとなくこれだけ投稿しようかな、と。
精神悪めだから活動休止してたのですが今はもう元気です(ほぼ、多分、maybeで空元気な気もしますが)。そして 暗い記憶は全部封じ込めて生きていこうと思っているこの頃です👍
あと超遅いかもなのですがヒロアカ見始めてるんです。相澤先生に萌えてるところです…。脳無にボコられてるのみて「その声で痛がらないで…()」って悶えてました(限界オタク)。声もそうですが普通に好きだなぁ、と。
続きは気が向けば書きます。なんか続きをリレー見たく書く、っていう企画してみたいですね()
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