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近しいあなたへ
湿った地下室。空気は埃っぽく、天井の剥き出しのパイプからは、不規則なリズムで水滴が床を叩いている。
「……黙れと言っている」
クラピカの声は、低く、地這うような怒りに満ちていた。彼の右手に握られた鎖が、激しい感情に呼応してジャラリと不吉な音を立てる。目の前の椅子に拘束されたクロロは、額から血を流しながらも、相変わらず表情を崩さない。
「なぜ怒る? 私はただ、鎖野郎がこの地下室で私を見つめる眼差しが、鏡を見ている時の自分と酷く似ていると言っただけだ」
「貴様と……私が、似ているだと?」
クラピカはクロロの胸ぐらを掴み、強引に顔を近づけさせた。至近距離で、緋色に燃え上がる瞳がクロロを射抜く。それは、見る者が恐怖で凍りつくような、凄絶なまでの憎悪の色だ。
「反吐が出る。一秒でも長くその口を開けば、今すぐ心臓を握り潰してやる」
「構わないよ。だが、お前も気づいているはずだ」
クロロは、喉元に鎖の冷たさを感じながらも、陶酔したような、どこか虚無的な眼差しでクラピカを見つめ返した。
「鎖野郎は失った同胞のために生きている。私は、最初から持たざる者として、欠落を埋めるために集めている。どちらも『空虚』を核にして、自分以外の何かに突き動かされているという点では同じだ。君の憎悪は、君自身という存在を定義するための唯一の拠り所になっている」
「黙れッ…!」
クラピカの拳が、クロロの頬を殴りつけた。衝撃でクロロの顔が横を向くが、彼は小さく笑った。
その笑みは、自分を理解してくれる「唯一の同類」を見つけた子供のような、無垢で残酷な色をしていた。
「嫌悪すればするほど、お前は私を深く刻み込む。私は鎖野郎にとって、誰よりも『近しい』存在になるわけだ。……光栄だよ、クラピカ」
「…ちっ… 」
クラピカは、震える手でクロロの首筋に指をかけた。殺してしまいたい。今すぐに、この男の存在ごと、自分の中のドロドロとした感情を消し去ってしまいたい。
だが、クロロの言う通り、彼を殺した後の自分に残るものが「何も無い」ことを、クラピカの聡明すぎる頭脳は既に理解していた。