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翌日。
部活見学でダンス部を見に来ていた。
きのう話しかけてきたショートヘアの活発女子・中野ありさが世話焼きで、案内してくれることになった。
ありさ「でも、まさか風があの海ちゃんのいとこだったとはね~。海ちゃんちに住んでるだって?ってことは、King & Princeと一緒に住んでるってことでしょ!?」
風「King & Prince?」
ありさ「サッカー部の超イケメン集団6人を”King & Prince”って女子たちは呼んでるんだよ。
2年の平野、れん、岸くんはミスターキング。
1年生の海ちゃん、神宮寺くん、岩橋くんがMr.Prince。
(※本当は平野、れん、海人がKing、岸、神宮寺、岩橋がPrinceですが、この小説では学年を分けてしまった設定上、KingとPrinceのメンバーがちょっと違っています。ご了承ください)
サッカー部は毎年イケメン多いけど、この6人は別格なんだから。しかもミスターキングはみんな同じクラスに集まるとか、今年のクラス発表された時は騒然となったよねー。成績とかスポーツとか、ある程度クラスでばらつきがないように配慮するって言うけど、顔面レベルまでは学校側が関与しないからね。1組うらやましいー!って」
やっぱりあの3人は、学年でもずば抜けた存在だったのか。いつの間にか日本の顔面レベルがここまで上がったかとびっくりしたけど、やっぱりあの3人だけが特別だったらしい。
その3人について、かなりわかりやすい分析とともに、ありさが解説してくれた。
「私はれんとは1年のときもクラス一緒で、永瀬と中野だから出席番号もいつも隣で腐れ縁なんだよね。今も隣の席だし。あいつ、顔はいいけどほんっとチャラ男だから。後輩先輩問わず、かわいいと言われる子は片っ端から付き合ってんじゃない?女子はみんな”れんれん”って呼んでるよ。
学校一モテるのが平野。れんと平野は”しょうれんコンビ”とか”シンメ”とか呼ばれてる。学校中の人気を2分してるけど、僅差で平野のほうがファンが多いかな。ほんとに二人とも同じくらいモテるけど、平野は誰かと付き合ったとか話、全然聞いたことないんだよね。中学のときは彼女いたらしいんだけど、その元カノのことが忘れられないんじゃないかって噂。
男子の中でふざけてるときはほんと天然でバカで、昨日みたいに窓から登って入ってきたりとかとんでもない行動するから”ティラノ”ってあだ名つけられてる(笑)かなりの筋肉バカで、本人暴れてるつもりなくても、すぐ物壊すし。
まぁ実際は、うちのクラスの子はみんな平野って呼んでるかな。
そして、岸くん。クラスの癒し系。平野と負けず劣らずの天然で、とにかく人がいいの。最初は”しょうれん”のどっちかを好きになる子が多いんだけど、岸くんに相談しているうちにみんないつの間にか岸くんを好きになっちゃうっていうマジックを持つ男。とにかく人間力がすごい魅力なんだろうね」
ほんとになんだかすごいクラスに転校してきたみたい…。私も例外なく、この3人のうちの誰かに恋に落ちるんやろうか…。
ありさ「まぁそんなわけだから、そのMr.Kingがいるクラスに入ってきた転校生が、なんとサッカー部の寮に一緒に住むことになったって知って、学校中の女子たち殺伐としてるから気をつけな~。さっそくれんが”俺が目つけた”とか変なこと言ったから、れんファンが怒り狂ってるって話。れん、風みたいなおしとやかでかわいい子好きだから」
おしとやか…?私、そういうキャラじゃ…。
「さすがあの海ちゃんと同じ系統。ハーフ顔羨ましいわ~」
ずっとアメリカにいたから、すっごい薄顔扱いされてきたんだけどなぁ…。
風「あのさ、さっきから気になってたんだけど、”あの海ちゃん”って何なん?」
そんなにあやつも有名人なんか?
「海ちゃんて、上級生にものすごい人気なんだよー!かわいいよねいつもニコニコしててさぁ。ぎゅーって抱きしめたくなるよね、完全母性本能くすぐり系!」
私がアメリカに行く前は、ただの”ぼんやり小学生”だったのに、いつの間にこんなに年上キラーに…。
身内だから特別意識したことなかったけど、言われてみれば確かにきれいな顔してるのかも。ものすごく綺麗な二重幅の広いハーフ顔だし。
「あれ~?風ちゃ~ん。何してんのぉ~~?」
「あ、海ちゃ…」
「あっ!海ちゃ~ん!キャー(≧∇≦*)」
私の声をかき消すほどの歓声が体育館の中から飛んできて頭上を通過していった。
海ちゃんが笑顔を振りまきながら、体育館の中のダンス部女子に手を振っている。
「キャー(≧∇≦*)」とまた歓声が上がる。
「ダンス部があるよ」と教えてくれたのは海ちゃん。小さい頃から、私と海人と海人のお姉ちゃんの3人で、同じダンススクールに通っていた。
海ちゃんはスポーツは何でもできるので、サッカー部に進んだみたいやけど。
海人「風ちゃん、ダンス部入るんでしょ?そしたらサッカー部の担当になってね~(^O^)」
ダンス部といってもチアダンスなので、基本は運動部の試合のときには応援に出向くことになる。
れん「あれっ!風ちゃんチア部入るん!?最高やーん!」
今度はれんれんがやってきた。
れん「チア部かわええよな~。ポンポン持ってんやで?ツインテールでポンポン持って。かわいい!最高!風ちゃんに応援されたら、めっちゃゴール決めるわ~」
海人「れん先輩、ディフェンスじゃ~ん」
れん「うっさいわ!めっちゃオーバーラップするわ!」
「舞川さんっ!ダンス部入るの!?じゃあこっちこっち!大歓迎よ~」
部長らしき人が、急に笑顔で擦り寄ってきて手招きする。
海人「じゃ、風ちゃんのことよろしくね~。僕の大事な人なんだからね!」
海ちゃんがパチっとウィンクすると、目をハートにさせた部長が今にも腰が砕けそうになっている。
罪なやつ…。
でも、海ちゃんのおかげでなんだか歓迎されたからいっか…。
「じゃあ海ちゃんのリクエストもあったことだし、舞川さんはサッカー部の担当で決定ね」
この高校のチアダンス部は変わっていて、野球部やサッカー部のマネージャー業を兼任することになっているのだそう。
チアダンス部は、他の部活が大会に出場する時などはもちろん応援に駆けつける。
遠くでの遠征の時などには、チームに帯同できる。
つまり、マネージャーにならなくても野球部やサッカー部の男子達と、お近づきになることができるというわけだ。
ジャージを着て砂まみれになってマネージャーの仕事をするよりも、チアダンス部の方がユニホームは可愛いくてちやほやされるし、マネージャー業の手伝いをするのは曜日で当番制なので毎日暑い寒いの中練習に付き合う必要はない。
それでいて人気の部活の男子部員と仲良くなれるのだから、みんなチアダンス部に流れてしまう。そのせいで、逆に野球部やサッカー部のマネージャーに応募する女子が全くいなくなってしまったそうなのだ。
それで代わりに、チアダンス部から当番制でマネージャーの仕事を手伝う人を出す、と言うスタイルに変わったそう。
とりあえず、今日は私がサッカー部のマネージャーに出向くことになった。
他にも何人かマネージャー当番の女の子がいたけど、サッカー部男子にタオルを渡したりとか”おいしい係”をやりたいため、新人の私はひたすら重たい麦茶を運ぶことに。
両手に1つずつ麦茶のボトルを抱え、ヒーヒーながら歩いていると突然腕がふわっと軽くなった。
「大丈夫ですか?僕が持ちますよ」
覗き込んできたのは、背のスラットした瞳の綺麗な大人っぽい雰囲気のイケメン。
このレベルのイケメンは…
風「Mr.Prince!?」
「え…?」
「あ、あの、他の子から1年生にMr.Princeって言うイケメン3人組が1年生にいるって聞いたから。髙橋海人と、えっと…誰と誰だったかな」
「僕は、神宮寺です」
「あーそうや!神宮寺くん!やっぱりMr.Princeや!通常のイケメンレベルじゃないからすぐわかった!!」
神宮寺君は、ちょっとびっくりした顔をした後、
「光栄です」
と言ってにっこりと笑った。
さ、爽やか…。まさに王子の微笑み。
ほんま、ここはイケメンパラダイスですか…?
「あーん、重ーい!」
声がして振り返ると、後ろに大きな荷物を持った小柄な男の子。色白でたれ目で、一見女の子のようにも見える。
「玄樹!無理すんなよ。そういうのは俺がやるっていつも言ってるだろ?」
神宮寺君が駆けつける。
「あ、こいつうちの唯一のマネージャーの岩橋玄樹です」
神宮寺君が、紹介する。
岩橋…?あっ!Mr.Princeの残りの1人だ!
Mr.Princeはイケメン3人と言うよりも、王子と王子と姫、と言う構成なんやな。
「私、転校してきた2年の舞川風言います。1年生の高橋海人のいとこなんです」
「知ってますよ。昨日、寮で僕たちもいましたから。な?玄樹?」
へーそっか。この子たちも寮生なんや。昨日は人数が多くて、全然まだ覚えてないや。
あ、そっか。ありさがKing & Princeが寮に住んでるって言うてたな。れんれんだけは、実家暮らしみたいやけど。
結局神宮寺くんが、私の荷物も岩橋くんの荷物も持ってくれた。
「あの、でもこれじゃ私、マネージャーの仕事全然してないし、選手に持たせてたらだめだよね?」
「全然気にしないでください。重いもの持つのは女の子の仕事じゃないですよ。玄樹もか弱いから、いつも俺が手伝ってるんですよ。ね?」
「ねっ」
同意を求められた岩橋くんが、ふわっとした笑顔で答える。
あ、この子、笑うとエクボできるんだ。笑うとめちゃくちゃかわいい。ふわっとしてて、バックにお花畑が見えるみたいなイメージ。
神宮寺「まだ1年だし、筋トレだと思って荷物運びくらいいつでもやりますから、困った時はいつでも言って下さいね?」
ニコッ。
いちいち笑顔が貴公子なんだよなぁ…。
背が高いから、話しかけるときに覗き込むような体勢でしっかり目を合わせてくるところがまたドキっとする。
爽やかで優しい年下ジェントルマンに尽くされる恋、うんこれも悪くない。
年下なのに自分よりしっかりしてて守ってくれるって、何かええわ~。
神宮寺「ダンスやりたくてチアダンス部に入っているのに、規則でマネージャー業もやらなきゃいけないなんて嫌ですよね?」
神宮寺くんは私に質問を投げかけたのに、横から岩橋くんが答える。
岩橋「ダンスやりたくてチアダンス部に入る人よりも、サッカー部のマネージャー”もどき”をやりたくてチアダンス部に入る人の方が多いんじゃないですかぁ?」
神宮寺「こら、玄樹」
神宮寺くんが岩橋くんをなだめるが、岩橋くんはツーンとすたすた歩いていってしまった。
岩橋「1年ですけど、一応マネージャーとしては僕の方が先輩なので、仕事を教えますね」
神宮寺君はいちど部室に戻り、私は岩橋くんに指導されることとなった。
岩橋「とりあえず、練習始まる前にスプリンクラーで砂ぼこりを抑えときましょうか。やり方教えるんで、あとでやっといてもらっていいですか?」
一通り指示を受けて、岩橋くんはビブスをとってくると言って部室に戻った。
早速習った通り、スプリンクラーの水を出す…
ぶしゃー!!
えー!?スプリンクラーってこーゆー水の出方!?
滝のように水が吹き出した。
平野「舞川!?お前何やってんだよ!?」
ちょうどゾロゾロと部員たちがグランドに出てきて、ずぶ濡れになって立ち尽くしている私を見て平野が声を上げる。
「こらー!誰だ!?スプリンクラー出したのはー!故障中だから触るなって言っただろー!」
職員室から河合先生が走ってくるのが見えた。
平野「やっべぇ!ふみふみ超キレてる!舞川!逃げるぞ!」
へ?
何が起こったのかわからずに呆然としている私に、平野が手を伸ばす。
「舞川!早く!」
平野が強引に私の手を取って、引っ張って走り出す。
「え!でも!水、どうしよう…!?」
「大丈夫大丈夫!岸くんが何とかしてくれるから!」
平野が振り返って「けけけ!」と笑う。
濡れた平野の髪が、光に当たってキラキラと揺れていた。
やば。何この少女漫画展開。
イケメンに手を引かれて走る。これぞ青春、胸キュン、恋の始まり?
頭の中で、勝手に爽やかなラブソングが流れ始める。
2人目と目があって 不意に弾けるラブ
君と2人あの街へ 駆け抜けて行こう シャララ…
King&Prince「Sha-la-laハジけるLove」
作詞:MORISHIN 作曲:Susumu Kawaguchi・Fredrik“Figge”Bostrom
あれ、これなんて曲だったかな…
「お前足遅いな!こっちの方が早えーな!」
急に体がふわっと持ち上がった。
平野が私の体を片手で担ぎ上げて平然と走っている。超人…。
「ちょっと…!降ろしてよ!変なとこ触らないでよぉ変態!」
「はあ? 何言ってんだよ!?俺はもっと肉付きの良いタイプの体が好きなんだよ!ぷにぷにした感じのぉ~。もっと太れ!」
「あんたの好みの体とか聞いてないから!しかもそれめちゃくちゃセクハラやから!!おろせおろせおろせー!!」
「うわっお前あばれんなよ!」
さすがに私がじたばた暴れるので、水道のところまで来てそっとおろしてくれた。
「ここまでくればもう大丈夫だろう!あー疲れた」
水道でがぶがぶ水を飲む平野の後ろ姿を見て、こいつこんなにマッチョだったのかと初めて気づく。顔だけ見たら、全然そんな感じしないし、制服着てるときはわかんなかった。
確かに”ティラノ”のあだ名は納得(笑)
ぶしゃー!
「ぅわー!」
平野が水道を止めようとして、蛇口を反対側に回し顔面にもろに水をくらった。
「えぇ~!?大丈夫!?ちょっと、待って嘘でしょ、何年使ってて、蛇口の向き覚えらんないの!?あっはははは」
私がお腹を抱えて笑っていると、平野がぽかんとしながら見ていた。やばい、そんなにまだ仲良くもないのに、笑いすぎたか。
「なんだ、普通に笑うじゃん」
え?
「舞川ってさぁ、もっとおとなしいやつかと思ってた。昨日みんなに囲まれてる時、全然喋ってなかったし」
あー、そういえばさっきありさも「おしとやか」なタイプとか、言ってたな。
「あれは…みんなが質問攻めするから。悪いけど、おとなしいタイプでは無いかも」
「悪くないよ。いいじゃん、そっちの方が」
なんか今、すごく嬉しかった。
平野が褒めてくれたことももちろんあるし、久しぶりに自分がこんな風にお腹を抱えて笑っていることに気づいたから。
なぜだかわからないけど、この人の前では自然な自分でいられる…
…ってこれ、よく少女漫画の主人公が自分の恋心に気づく瞬間に感じるやつーー…!!
てことは、もしかして、私の運命的な恋の相手は…!?
いやいや、でも私イケメン苦手やし…。