高度育成高校を卒業してから、約3年の月日が経った。私たちは見事Aクラスとして卒業するができ、今はそれぞれの道に進んでいる。Bクラスの坂柳さん、Cクラスの一之瀬さん、Dクラスの龍園くんも、自分なりの道に進めている。たとえAクラスで卒業出来なくても、人生が潰される訳じゃない。あの頃の私たちは、良くも悪くも幼かった。
「堀北」
「綾小路くん」
今日は成人してから、初めての同窓会。その前から集まっていたが、綾小路くんは一度も来なかった。同級生のみんなが心配していた。それは別クラスの人たちもだった。
「貴方、今まで連絡もくれないで、何をしていたの?」
「言わない。内緒だ」
「…そう」
またそうやって、私に何も言わないのね。悪い意味で、あの頃から変わらないわ。
「…なんだ、その顔」
「何でもないわ。行きましょう」
「ああ」
そういえば、どうしていきなり連絡をくれたのかしら。彼の中で、何か変わった出来事でもあった……?
「……」
綾小路くんの顔をみても、真顔を返されるだけだった。卒業しても、彼のことだけ何も分からないままなのが悔しく思う。
「堀北」
「…何かしら」
袖をくいっと引っ張られ、仕方なく歩みを止める。顔を見上げると、綾小路くんは一点を見つめたまま止まっていた。
「……?」
彼が見つめている方向に視線を移すと、クレープのお店があった。今どきの女性に人気そうな可愛らしさがあって、櫛田さんとかが気に入りそうだわ。けど、綾小路くんが興味を持つかと言われれば、大きな声で否と答えられる。
「……」
あの頃の私だったら。
「綾小路くん、クレープ食べたいの?」
「うん」
「……???」
私の袖から手を放し、そっちの方へと向かった。クレープを買いに行ったのだろう。もう私の頭は混乱していて、疑問符で埋め尽くされているせいで、綾小路くんを見送ることしか出来なかった。
「堀北」
しばらくして、2つのクレープを持った綾小路くんが戻ってきた。右手にはイチゴ、左手にはチョコバナナ。欲張り過ぎじゃないかしら。
「お前はどっちがいい」
「え?」
「店員に1つおまけしてもらったんだ。流石にオレ1人で2つも食べきれないから、堀北にあげようと思って」
「…そう」
さっきは変わってないって思ったけど、違うのかもしれない。根本的なところは変わっていないかもしれないけど、綾小路くんは少し変わった。それも良い方向へ変わっているわ。
「じゃあ、イチゴの方を貰うわ」
「っ……そうか」
「……綾小路くん?」
何故か悲しそうな表情をした綾小路くんに、どうしたのかと思考を巡らせる。
「……」
いえ、考えるほどでもないわね。
「やっぱり、こっちの方が欲しいわ」
「!ほ、本当か」
「え、えぇ……」
本当に綾小路くんなのかしら。私の知っている彼は、こんな笑みを浮かべないのだけれど。彼から貰ったクレープを食べながら、そう思った。
「美味しいか?」
「…美味しいわよ」
「そうか、良かった」
「……」
小さく口角を上げた彼の笑みを見て、ある記憶が頭を過ぎる。あの頃の彼も、今どき同じような笑みを浮かべていた。後にも先にも、その笑みを見ることはなかったけれど。まさか、卒業した今になって、また見れるとは思わなかった。
「綾小路くん、行きましょう」
「ん。分かった」
「ひたら…だいてくれ……」
「え!?」
「ん、だきしめて……」
「あ、はい……」
平田くんと綾小路くんが抱きしめ合っているのを横目に、ため息をつかずにはいられなかった。綾小路くん、お酒が弱いなんて、色々と盛りすぎじゃないかしら。
「あああ、綾小路くんが……!」
「落ち着いて愛里!それにしても、平綾……ありね!」
「意外だな、清隆と平田が付き合っていたなんて」
「嘘だろお前……何がどうしたらそういう考えになるんだ」
「けいせーい……」
「うわぁぁぁぁぁ!!こっちくるなぁぁぁ!!!」
「……」
今日の同窓会、Aクラスだけにしておいて良かったわ。他クラスまでいたら、収集がつかないもの。
「鈴音ちゃん、ちょっと良いかな?」
「櫛田さ……桔梗さん、何かしら」
「ふふ、ふふふ、綾小路くんのこと、後で聞かせてね?」
「……考えておくわ」
終
コメント
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めっちゃ可愛いです!!!