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K-Takasaka
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#K-Takasaka
K-Takasaka
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K-Takasaka
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#K-T
地下から響いた振動音は、数秒ほどで止まった。
赤く点滅していた警報灯も消え、旧工場には再び静けさが戻る。
しかし、六人の間に広がった緊張は消えなかった。
「今のは何だったんですか?」
マサカゲが教官へ尋ねる。
「訓練用の設備だ」
「予定表にはないと、アオノちゃんが言っていましたが」
「予定外の事態に対応するのも訓練のうちだ」
教官はそれだけ答えた。
メバルは、教官とアオノを交互に見た。
「もしかして、最初から私たちを試していたんですか?」
「訓練は、開始の号令がかかってから始まるとは限らない」
教官の言葉に、メバルは眉をひそめた。
カキはまだ地下への扉を見ている。
「じゃあ、あの下に何かあるんだな?」
「カキちゃん、勝手に開けないでよ」
「開けてない。確認しているだけだ」
「手が取っ手の上にあるよ!」
メバルがカキの手を引き離す。
K-Tは扉の前へ進み、周囲の床と壁を確認していた。腰を落とし、扉の蝶番、通気口、床に残った水滴まで見ている。
「Kさん、何かわかる?」
マサカゲが尋ねた。
「扉の向こうで機械が動いた。今は止まっている」
「それだけ?」
「それ以上は、開けないとわからない」
「開けるのは?」
「訓練内容にない」
その答えに、メバルは少し驚いた。
危険へ真っ先に向かう人だと思っていたが、K-Tは勝手に扉を開こうとはしなかった。
アオノが床にしゃがみ込み、扉の下を確認する。
「煙、熱、異臭はありません。緊急性は低いと思われます」
「なら、予定どおり始める」
教官が言った。
「今日は候補生四人の基礎能力を確認する。K-Tとアオノは補助と観察に回れ」
「了解」
アオノは短く答えた。
K-Tも無言でうなずいた。
メバルは隣のカキを見た。
「今度こそ、ちゃんと訓練に集中してね」
「任せろ」
「その返事、すごく不安なんだけど」
最初の種目は、装備を身につけた状態での体力測定だった。
候補生たちは、防護ベスト、ヘルメット、手袋、通信機、携帯ライトを装着する。装備一式はそれほど重くないように見えたが、実際に身につけると肩と腰に負担がかかった。
「重い……」
メバルがベストの肩紐を引っ張る。
「これを着たまま走るの?」
「現場では、さらに救助具や盾を持つ」
アオノが答えた。
「だから、最初から無理な速度で動かないほうがいい。転倒すると装備の重量で起き上がりにくくなります」
「アオノちゃん、説明が完全に経験者なんだけど」
「経験者だからです」
「そうだった!」
メバルが頭を抱える。
測定は、二千メートル走から始まった。
工場の周囲に設けられたコースを、全員が一斉に走る。
最初に飛び出したのは、やはりカキだった。
「先に行くぞ!」
「カキちゃん、ペースを考えて!」
メバルが叫ぶが、カキは振り返らない。
マサカゲは一定の速度を保って走っていた。周囲を見ながら、他の三人との距離も確認している。
ミステーは奇妙な走り方をしていた。数歩進むごとに左右を見て、時々、地面に落ちた小石を避けている。
「ミステーちゃん、前を見て走って!」
「前は見ている。地面も見ている」
「両方見て!」
メバル自身も、余裕があるわけではなかった。
ベストが胸を圧迫し、呼吸が浅くなる。足は動いているが、いつものように軽くはない。
最初の一周を終えたところで、カキの速度が明らかに落ちた。
「カキちゃん、無理しないで!」
「まだいける!」
「顔が赤いよ!」
「これは気合いで赤くなっている!」
「違うと思う!」
マサカゲがカキの横へ並んだ。
「速度を落とせ。後半で動けなくなる」
「でも、先頭を走るって決めたんだ」
「先頭を走ることが目的じゃない。最後まで動けることが目的だ」
カキは不満そうだったが、少し速度を落とした。
メバルはその様子を見て、口元を緩めた。
「マサカゲちゃん、もうリーダーみたい」
「まだ候補生だ。指示を出す立場ではない」
「でも、助かるよ」
最後の直線に入った時、ミステーが突然立ち止まった。
「何してるの、ミステーちゃん!」
「音がする」
「今は走る音しか――」
地面の下から、低い金属音が響いた。
カキも足を止める。
「さっきの地下の音か?」
「違う。これは右側の排水管」
ミステーが道路脇の金属蓋を指差す。
アオノが測定器を取り出した。
「振動を確認。工場の地下配管を通じて、ポンプが作動しています」
教官が腕時計を確認した。
「そのまま走れ」
「でも、異常じゃないんですか?」
マサカゲが尋ねる。
「施設の設備が作動しただけだ。現場では、異常に気づいても任務を中断できない場合がある。報告して、指示を待て」
マサカゲは通信機に手を伸ばした。
「こちらマサカゲ。コース右側の排水管付近で振動を確認。設備の作動音と思われます。走行を継続します」
『了解』
教官から返事があった。
「今の報告はよかった」
アオノが言った。
「勝手に調べに行かなかった点も」
ミステーが首を傾げる。
「調べてはいけなかった?」
「調べる必要がある場合もあります。ただし、優先順位があります。今は走行中で、負傷者も危険も確認されていない。なら、報告と継続が適切です」
「なるほど」
ミステーは納得したようにうなずいた。
「では、あとで排水管に聞いてみる」
「聞かなくていいからね」
二千メートル走を終えると、次は階段昇降だった。
工場の外階段を使い、三階まで上がって降りる。それを五往復する。
最初は誰もが勢いよく進んだが、三往復目で疲労が見え始めた。
カキは手すりを使わずに上っていたが、四往復目で足が止まった。
「くそ……足が動かない」
「カキちゃん、一度止まって呼吸を整えて」
メバルが隣に立つ。
「まだ行ける」
「行けるかどうかじゃなくて、転ばないことが大事なの」
カキが悔しそうに息を吐く。
マサカゲは一段下から、カキの足元を見ていた。
「右足を先に出せ。左のつま先が少し内側に入っている」
「そんなところまで見てるのか?」
「動きが乱れると、転倒しやすい」
「マサカゲ、すごいな」
「俺は全体を見ているだけだ」
「それがすごいんだよ」
その間、ミステーは階段の踊り場にある消火器を眺めていた。
「この赤い筒、私たちを守ってくれる」
「そうだけど、今は階段を上って!」
「名前を聞いている」
「消火器に名前をつけないで!」
四往復目を終えた時、カキが階段の途中でつまずいた。
メバルが腕をつかみ、マサカゲが背中を支える。
「大丈夫か?」
「問題ない」
カキが言った。
その言葉を聞いたK-Tが、初めてカキのそばへ来た。
「問題ないかどうかは、自分で決めるな」
「え?」
「足を確認する」
K-Tはカキの足首と靴の状態を確認した。
「ひねってはいない。だが、疲労で踏み外した」
「じゃあ、まだ動ける」
「動ける。だが、速度を落とせ」
カキはK-Tを見上げた。
「Kさん、やっぱり慣れてるんだな」
「ああ」
「最初から言ってくれればいいのに」
「教官の指示だった」
「それ、何回も聞いたぞ」
K-Tは返事をしなかった。
階段訓練を終えると、最後は重量物搬送になった。
訓練用のダミーを一人の負傷者に見立て、二人一組で運ぶ。ダミーは七十キロ近くあり、持ち上げるだけでも体力を使った。
「これは、二人で運べばいいんだな」
カキが腕まくりをする。
「腰を痛めるから、持ち上げる前に姿勢を確認して」
アオノが言った。
「足を開き、背中をまっすぐにする。腕だけで引き上げない」
メバルとミステー、マサカゲとカキが組むことになった。
メバルとミステーの組は、最初の持ち上げには成功したものの、歩き出すとすぐに進行方向がずれた。
「ミステーちゃん、右!」
「私から見て右?」
「あなたの右!」
「私の右は、メバルちゃんの左?」
「そうだけど、今はどっちでもいいから右へ!」
ダミーが大きく傾き、メバルが慌てて持ち直す。
一方、マサカゲとカキの組は、動き自体は安定していた。
しかし、カキが速く進みすぎるため、マサカゲが何度も声をかける。
「歩幅を合わせろ!」
「合わせてる!」
「合わせていない!」
「俺の歩幅に合わせればいいだろ!」
「負傷者を運ぶ訓練だ。自分の都合で動くな!」
カキが不満そうにしながら速度を落とす。
その時、ダミーの足が床の段差に引っかかった。
カキが体勢を崩し、ダミーを落としかける。
K-Tがすぐに近づき、ダミーの片側を支えた。
「三人で運ぶのは、訓練の目的と違う」
マサカゲが言う。
「落とすよりいい」
「それはそうだが……」
「俺が支える。お前たちは歩け」
K-Tはダミーを持ったまま、ほとんど力を使っていないように見えた。
アオノが記録用端末に入力する。
「Kさん、候補生の補助は必要最小限にしてください」
「必要だった」
「今の補助は、候補生が自力で修正できる範囲でした」
「落とすところだった」
「それも含めて訓練です」
K-Tはアオノを見る。
アオノも視線を逸らさない。
「……わかった」
K-Tが手を離すと、カキとマサカゲは急に重くなったダミーを支え直した。
「うわっ、重い!」
「だから、最初から二人でやる訓練なんだ!」
マサカゲが歯を食いしばる。
メバルとミステーも、遅れながらダミーを運び続けた。
誰もきれいにはできなかった。
それでも、途中で投げ出す者はいなかった。
訓練終了の合図が鳴った時、六人は工場の床に座り込んでいた。
カキは仰向けになり、メバルは水を飲み、マサカゲは反省点を手帳へ書いている。ミステーは床の模様を眺め、アオノは装備の損傷を確認していた。
K-Tだけが立ったままだった。
「Kさん、疲れてないの?」
メバルが尋ねる。
「疲れている」
「顔に出ないね」
「出す必要がない」
「必要あるよ。疲れたら疲れたって言って」
「わかった」
教官が全員の前へ立った。
「初回訓練としては、悪くない。ただし、体力だけなら不合格だ」
カキが起き上がる。
「不合格なのか?」
「まだ評価の途中だ。お前たちは、周囲を見る前に動く。声を掛け合う前に、それぞれの判断で進む。だが、失敗した後に修正する力はある」
教官はK-Tとアオノにも目を向けた。
「そして、経験者二人。候補生を助けることと、候補生の代わりに動くことは違う」
アオノがうなずいた。
K-Tは黙っていたが、やがて短く答えた。
「覚える」
メバルは、その言葉を聞いて少しだけ笑った。
「Kさんも訓練生みたい」
「俺も訓練中だ」
K-Tの返事に、カキが驚く。
「ベテランでも訓練するのか?」
「する。現場に完成はない」
その時、地下から再び振動音が聞こえた。
今度は、先ほどよりもはっきりしていた。
アオノが端末を確認する。
「地下設備が、また起動しています」
マサカゲが立ち上がった。
「予定外の事態なら、報告するべきですね」
「そうだ」
教官が答えた。
「では、誰が報告する?」
全員の視線がマサカゲへ集まった。
マサカゲは通信機を手に取った。
「こちらマサカゲ。地下設備から振動音を確認。原因は不明。確認の指示を求めます」
通信機の向こうから、しばらくノイズが返った。
やがて、教官の通信機が鳴る。
『地下区画のセンサーに異常。訓練を一時中断し、全員を正面ロビーへ移動させてください』
教官の表情が変わった。
「全員、移動する」
K-Tがすぐに周囲を見回す。
「俺が最後尾につく」
「Kさん、今回は勝手に離れないでね」
メバルが言った。
「わかっている」
六人は、先ほどまで訓練していた工場の奥から、正面ロビーへ向かって歩き始めた。
その途中、ミステーがふと足を止めた。
「誰か、地下にいる」
全員が振り返る。
「根拠は?」
マサカゲが尋ねた。
ミステーは床に耳を当てた。
「機械の音の他に、三回、壁を叩いた音がした」
アオノが測定器を確認する。
「……振動パターンを確認。機械音ではありません」
K-Tが地下扉を見る。
「人がいる」
教官は、すぐに警備員へ連絡した。
初回訓練は、予定どおりには終わらなかった。
そして六人は、まだ知らなかった。
地下から聞こえた三回の音が、単なる設備異常ではなく、誰かが助けを求める合図だったことを。
コメント
1件
いやー、第2話もめっちゃ面白かった!!😭💕 訓練シーンひとつとってもキャラの性格が爆発してて、カキちゃんの猪突猛進っぷりとメバルちゃんのツッコミのコンビが尊すぎる…!マサカゲくんの冷静な観察眼もカッコよかったし、ミステーちゃんの独特な感性がクセになる〜笑 でも何より最後の地下からの合図!「誰かが助けを求めてる」って伏線がもう心臓バクバクする…早く続き読ませてくださいお願いします!!😭🙏✨