第10話:「熱にうかされて」
季節は少しずつ秋から冬へと移り変わり、学校での忙しい日々も少し落ち着いてきた。文化祭の準備もひと段落し、みんながほっと一息つく中、突然の風邪が流行り始めた。
その日、斗真は突然の発熱に見舞われ、学校を早退することになった。熱がひどく、体もだるくて動けない状態だった。普段からあまり体調を崩すことのない斗真にとって、これは予想外の出来事だった。
家で横になっている斗真に、悠真が心配そうに声をかけた。
「おい、大丈夫か?今日はゆっくり休めよ。」悠真は冷蔵庫から水を取り出して、斗真に渡した。
「うるせぇ…」斗真はあまりにもダルそうに言った。熱は38℃。かなりヤバメ。
悠真は苦笑しながらも、弟の額に手を当て、しばらく考えてから言った。「お前、今日はちょっとひとりじゃ無理だろ?お見舞いに誰か来てもらったほうがいいんじゃないか?」
「誰か…って、あんまり他人に来られてもな。」斗真は顔をしかめた。
「だから、えりに頼んでおいたんだ。」悠真はにやりと笑って、弟を見た。
「は」斗真は目を見開いた。「お前、頼んだのか?」
「うん、頼んだよ。お前が嫌でも、ちょっとくらいお前を気にしてくれるだろ。」悠真はにっこりと笑う。
「なんでだ?」斗真は恥ずかしそうに顔を背けたが、心の中では少しドキドキしていた。えりが来るということに、何となく期待してしまっていた。
その頃、私は悠真さんから頼まれたことを聞いていた。最初は「何で私が?」と思ったが、悠真が「えりさんが行ったほうがいい」と言うので、仕方なく了承した。
「別に、私は義理で行くだけなんだから。」えりは自分に言い聞かせるように呟きながら、斗真の家へ向かうことにした。
えりが斗真の家に到着すると、玄関の扉が少し開いていて、悠真が迎えてくれた。
「おお、えりさん。来てくれてありがとうな。」悠真はにこやかに言う。
「別に、お見舞いなんて…。まあ、仕方なく来ただけよ。」えりは少し皮肉を込めて返事をした。
「そうか、でもありがとな。斗真は寝てるから、部屋はあっちだ。俺これから塾だから」悠真は軽く手を振って、えりを部屋へ案内した。
部屋に入ると、斗真はベッドに横たわり、薄い布団をかけてぐったりとしていた。額に汗をかきながら、うつろな目をしている。
「大丈夫?」えりは一歩踏み込んで、しばらく斗真を見つめた。
斗真はぼんやりとえりを見上げ、少し照れくさそうに言った。「お前、来る必要なかったのに…。」
私はなんか腹が立った。
「あーそ?なら来ない。行かない」
「や…ま…ね?ちょっと座れよ」斗真は気まずそうにすぐに目を閉じた。
その時、私はふとこいつの寝顔を見て、少し不思議な気持ちが湧いてきた。普段は強気でうるさくて、ちっとも面倒を見てくれない彼が、こんな風に弱っているのを見るのは少し新鮮だった。
その後、しばらく静かな時間が流れ、えりは黙々と部屋の片付けを続けた。斗真は時折うなされながら寝ていたが、そのたびにえりは少し焦って彼を見守った。
「どうして私はこんなことしてるんだろう…?」えりは心の中で呟いたが、その理由は分からなかった。
数時間後、斗真はようやく少し元気を取り戻し、寝ていた体を起こした。
「もう、なんでこんなにだるいんだ…。」斗真はうつろな目でえりを見て、少し不安そうに言う。
「熱があるからよ。無理して起き上がらないで。」えりは少し優しく声をかけ、水を差し出した。
「ありがとう。」斗真は再び水を飲みながら、ふと目を閉じた。「あの、えり…」
「ん?」えりは少し驚いたように彼を見た。
その途端、バンッと音がして紗希が入ってきた
「斗真くん?大丈夫?て、えりも!?一体どーしちゃったの!?」
「えーと、悠真さんに頼まれて…?」
えりは少し驚いた表情を浮かべるが、その後、口元を引き締めて言った。
その言葉に、斗真は少し寂しそうな顔をしたが、すぐに「そうです」とつぶやき、再び目を閉じた。
その後、えりはそのまま部屋を出ることになった。斗真が少し元気を取り戻したので、もう必要ないと思ったのだ。
「じゃあ、私は帰る。もうこれ以上弱々しいとこ見たくなーい」えりは扉の前で振り返り、軽く手を振った。
「こっち病人だぞ…?」斗真はぼんやりと答えた。
私が家を出るとき、ふと斗真のことが頭をよぎった。あんなに弱った斗真を見て、少しだけ心が温かくなるのを感じていた。しかし、すぐにその思いを振り払い、家路を急いだ。
「もう、なんでこんなに気になるんだろう…。」えりは心の中で呟き、頬を少し赤くしながら歩いていった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!