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翌週の土曜日、午前九時。普段ならば起きてランニングなり、筋トレなりをしている時間になってもあたしは、大して高いわけでもない真っ白な天井をぼんやりと眺めていた。
「ねー裸男ー、どうしてあたしって落とされたんだと思うー?」
昨日、マンションのポストに届いた不合格通知。そのことを目が覚めるなり思い出してしまう。何とかしてパソコンをテレパシー操作しようとしていた裸男に聞いてみる。駄目で元々。分かっていても期待しまくっていた分、ショックは大きい。
「まあ審査員にも役割があるからな。演技力を観察する真壁(
まかべ
)監督には気に入られたんだろうが、取締役とかスポンサーとか、商品力を審査する人にウケなかったのかもしれない」
「あの人、真壁監督なの!? 超有名人じゃん……緊張して気付かなかった」
くそう。真壁監督に嵌められた。なんて言える事実があるだけ、あたしは頑張った方なのかもしれない。「あーあ」溜息みたいな声が出て、少しだけオーディションのことを思い出す。
夢みたいだったなあ。みんながあたしの演技に感激して拍手をくれてさ。幸せだった。
「やっぱりあたし、お芝居が好きだ。仕事にしたいと思うくらいに好き」
「あの真壁が褒めるくらいだ。才能は、あるってことだから頑張れ」
「……ありがとね。あのとき、アドバイスくれて」
おかげで火事を想像することができた。もしも、家が燃えていたらって。
それから言わないけど、裸男がいなかったら既に諦めていたかもしれない。
「あたし、絶対トップになって、あんたの願いも叶えてあげるから」
「どうした急に。寝不足でおかしくなったか?」
や、何でもない。そう答えて身体を起こし、裸男を視界の中心に捉える。ムカつくくらい顔だけはイケメンだった。
「というか監督と知り合いなの?」「んまあな。若手の頃に数回面倒見てもらった」「裸男ってもしかして凄い人?」「お前なあ……」そんな間の抜けた会話をして、それから改まった声で裸男が言う。
「でもま、これは極稀にある話だが、オーディションに落とされたのには――」
そんな言葉半ばでインターホンの音が鳴った。「誰だろう」こんな早朝に。不思議に思いながら玄関扉を開ける。
「おはよう。石ノ森ちゃん」
するとそこには、にっこりと微笑む真壁監督が立っていた。
「君をスカウトするために来ました」
【二章】