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「ふーん…、ストロベリームーンかぁ…。」
お風呂上がりの火照った身体を扇風機の風で冷やしながら、濡れた髪を雑にタオルで拭う。ネット記事によく流れてくる話題には「ストロベリームーン」という文字がよくあり、「恋」とか「好きな人」などという文字が添えられている。何だか美味しそうな名前だな、と思いながらも、頭の隅には元貴の姿があった。
「あっちも晴れてるのかな…、」
元貴は今、仕事の関係で県外に出ている。確か3日ほど泊まると言っていたような。元貴の居ない間、僕がちゃんと頑張るから任せてね!なんて豪語したが、元貴がいない日常は寂しく、カレンダーを確認する瞬間が増えてしまった。
「んーーー、……」
記事を映し出したままのスマホを握りしめ、深く考え込む。本当は今すぐにでも元貴に電話をかけたい。遠く居る元貴と一緒に、月を見たい。けれど、何故か今日だけは、「ごめん!ちょっと今日忙しいから電話してこないで。」と言われてしまった。何かある度に電話をかけてきてくれていた元貴にそう言われたことの驚きと共に、少しのショックがあったことを覚えている。忙しいなら仕方ない、と自分に言い聞かせ、持っていたスマホを机に置こうとしていた時、つけっぱなしでいたテレビからニュースキャスターの声が聞こえた。
「今日はストロベリームーンが観測出来る日ですね。別名、”恋が叶う満月”と言われているそうです。好きな人と一緒に見ると、その人と結ばれるみたいですよ〜。」
「……、」
テレビの画面に映し出される綺麗なピンク色の満月が美しく、思わず唾を飲む。恋が叶う満月、という魅力的な単語に、勝手に手が動いていた。スマホから発せられるコール音と、画面に映し出される元貴の名前。数回続いた後、元貴の声がした。
「もしもし涼ちゃーん。どうしたの?」
「あ、……元貴……。」
「え?何その反応。間違えてかけた?」
「いや…、」
電話口から聞こえる周囲の雑音に、言葉が詰まる。元貴と話したくてかけた、と素直に自分の想いを伝えたいのに、上手く声が出ない。
「きょ、今日、ストロベリームーン見れるんだって、!!元貴の方は、晴れてる?」
「んー、多分晴れてる。今タクシーだからあんまり空見えないんだよね。」
「ご、ごめん。今移動中だった?忙しいのにかけちゃってごめん!!」
「……」
慌てて紡いだ謝罪の言葉には何も返ってこず、代わりに沈黙が訪れた。自分から電話をかけたと言うのに、この空気をどう断ち切っていいか分からない。何か言葉を発しようと忙しなく辺りを見回していた時、突然元貴が声をあげた。
「涼ちゃんの方は?見えるの?」
「え、っと…、待ってね。多分こっちは晴れてるから見えると思うけど……」
投げかけられた疑問に急いで答えるべく、慌ててベランダの扉を開けて外に出る。このマンションの5階から見下ろす夜景はいつ見ても綺麗で、静かな夜に相応しい。スマホから聞こえる運転手と元貴の会話を耳に、真っ黒な空を見上げる。黒1面に散りばめられた小さな星達を見るに、天気は問題なさそうだ。
「んー、…月何処だろ? 」
「ストロベリームーンってピンクなんだっけ?」
「ピンクらしいよー!めっちゃ美味しそうだった!」
「第1にその感想出てくるんだ?」
そんな会話を繰り返しながら空を見渡していた時、突然元貴が慌てたような声を上げた。
「ちょっとごめん!一瞬ミュートにする。」
「ん!おっけー。」
ごめん、と小さく短く呟かれた謝罪の言葉の後に、スマホからは一切の音が聞こえなくなる。一気に静まり返ってしまった夜に、スマホに伏せていた視線を空に上げる。
「あ、……あった。…あんまピンクじゃない。」
まさか目の前に月があったとは思わず、口から驚いた声が零れ落ちる。勝手にもっと遠くにあるものだと思っていたが、どうやら近くにあったようだ。早速元貴に報告したい気持ちをぐっ、と抑え、大人しく元貴からの声が聞こえるのを待つ。
「、…あれ?通話切れてないよね?」
どのくらい待っただろうか。画面に表示された通話時間が増えていくばかりで、いつまで経っても元貴の声が聞こえない。
「はぁ…、なんか僕の気持ち翻弄されてばっかだなぁ…。」
押してダメなら引いてみろ、という言葉があるように、いつもは元貴の方からかかってくる電話を今日は僕が求めてしまっている。きっと元貴は忙しいんだろう。今だって何か仕事の対応をしているのかもしれない。考えれば考えるだけ元貴のことで頭がいっぱいになってしまう。何とか振り払おうと大きく深呼吸をし、月をみあげる。
「………恋、叶うのかな。」
変わらぬ明るさでこちらを見下ろす満月を見つめ、小さく零す。僕の悩みも葛藤も、全て包み込んでくれそうな優しい光に、叶うはずのない恋を願ってみる。誰にも言えないこの気持ちを、今日だけは月に聞いてもらおう。
「…元貴と付き合えますように。」
そっと呟いた言葉が夜の静けさに溶けていく。勿論何も言葉を返すはずのない月に、段々気恥しさが湧いてきてしまった。持っていたスマホを握りしめ、恥ずかしさに悶えていた時、手のひらから待ち侘びていた声がした。
「ごめん涼ちゃん。お待たせ。」
「!全然待ってないよ、大丈夫! やっぱりお仕事忙しかった?」
「いや、仕事は大丈夫……」
僕の質問に言葉を返そうとした元貴の声を、インターホンの音が遮る。何故か二重に聞こえた音に一瞬迷ったものの、どうやら鳴ったのは僕の家のようだ。折角出来た会話がまた途切れてしまった。
「あー……、ごめん!ちょっと出てくるね!…何か荷物頼んだっけなぁ…。 」
慌ててベランダから部屋に戻り、机の上にスマホを置く。何かネットで買い物をした記憶があるか、頭の中で思考しながら玄関へと向かい、扉を開く。
「…………え、?」
扉の先に立っていた人物に目を見開き、驚きに言葉を失う。
「ただいま、涼ちゃん。」
「元貴……?」
「俺じゃなかったら誰なの。」
予想外の姿に何も言えず固まる僕を他所に、さっさと靴を脱いだ元貴が部屋に上がっていく。
「お邪魔しまーす。あ、そういえば月見たよ。綺麗な満月だったね。」
「う、うん……。あれぇ…元貴って帰り明日じゃなかったっけ、?僕の思い違い…?」
「明日だよ。涼ちゃんにはそう伝えた。」
左手に持っていた上質そうな紙袋から何かを取り出した元貴が、直ぐに服のポケットにそれを入れた。何だか不審な様子に疑問を持ちつつも、いつも元貴に注意されている玄関の鍵を閉めるために背を向ける。冷たい鉄製の鍵に指先が触れた時、背後から元貴の楽しそうな声が聞こえた。
「おー、やっぱ綺麗な満月ー!ここ景色いいね。」
鍵を閉め、声が聞こえる方に歩いていくと、いつの間にかベランダに出ていた元貴の姿が、夜風に靡くカーテンの隙間からちらりと見えた。月明かりに照らされ、楽しそうに微笑む元貴の元へと駆け、同じように隣で月を見上げる。
「…元貴と見れた。」
「え?」
「一緒に見たかったから、うれしい。」
隣に居る元貴の表情に目を向けぬまま、真っ直ぐと月を見てそう呟く。したかったことが叶った嬉しさからか、何だか思考がふわふわとする。幸せで胸がいっぱいに満たされ、どうしようもなく頬が緩んでしまう。こんな表情を面と向かって元貴に見せられるわけが無い。
「俺居なくて寂しかった?」
「…ちょっとだけね。」
「ふーん……、」
曖昧な相槌を返し黙ってしまった元貴に視線を向けようとすると、手のひらに何かが触れた。
「…元貴?」
振り向くと、僕の手を掴んだままこちらをじっ、と見つめる元貴の姿があった。
「涼ちゃん。」
真剣な元貴の声色に、ふわふわと覚束無かった思考が鋭くなる。ガラリと変わってしまった場の雰囲気に、心が落ち着かなくなるのを感じた。何かやらかしてしまっただろうか、と不安になる僕に1歩踏み出した元貴が、ポケットから何かを取り出した。
「…俺と付き合ってください。」
「……え、?」
そう言いながら僕の目の前に差し出された小さな箱の中には、月明かりを反射しキラキラと光を放つ小さな指輪があった。思わぬ展開に、箱の中の指輪と元貴の表情を交互に見つめる。果たしてこの状況は現実なのか、夢とまで思える幸せな空間に、自身の頬をつねってみる。
「…、夢じゃない…?」
「夢じゃないよ。」
しっかりと痛みを感じ、思わず眉を顰めてしまう。そんな僕の様子に、緊張した表情だった元貴が頬を緩めた。それに釣られて、僕もふわりと笑みを浮かべる。そして、細められた瞳を見つめ、口を開く。
「お願いします。」
コメント
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やばい見るのめちゃ遅れてしまった😣💦すみません😭😭 3日間だけなら大丈夫って言ってた涼ちゃんがすぐ寂しくなっちゃうの尊い…🥹💘考えたら考えただけ森さんの事で頭いっぱいになっちゃってるの解釈一致すぎますよ😫💗しかもサプライズ帰宅、からの告白💌ロマンチックですねぇ🤭✨これはちゃんと忘れない夜になりましたね😚💖てぇてぇです😇💞
はあ、もう可愛すぎて、ずっと2人で幸せで居てって気持ちです✨ ちょっとキュンとして、切なくて、でもふんわり幸せな気分にさせてくださってありがとうございます💕
幸せな一日だったんだろうなってくらい、心が満たされる素敵なお話しでした。 これ雫騎の別アカウントです。これからもよろしくお願いします。