テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
睡眠のため明かりの落とされた飛行機の中で、
「……先生、寝てますか?」
傍らのシートに座る彼に、ふと声をかけた。
「…いいえ、まだ」という返事が聞こえて、
「眠れないので、少しだけお話をしてもいいですか?」と、尋ねた。
「ええ、構いませんよ」
薄暗い中で微かな衣擦れの音がして彼がそばに寄る気配がすると、頭が片腕に抱き寄せられた。
「……あの、他愛ない話かもしれないのですが、最近”ありがとう”と言われることが増えましたよね?」
「…………。」考えるような間の後で、「そうかもしれないですね…」と、彼が応えた。
「それだけありがとうと思えるようなことが増えたのだとしたら、素敵なことですね。私がこんなにも穏やかな気持ちでいられるのも、きっとあなたのおかげだと……改めてありがとう、智香」
「……そんな、私の方こそ先生のおかげで幸せです……ありがとうございます」
互いに口にして、どちらからともなく唇を重ね合った。
「……君といられる幸せに、心からのありがとうを……」
頭がそっと彼の肩にもたせかけられて、
「おやすみなさい。起きればもうドイツには着きますから」
そう低く抑えられた声音で耳元に囁きかけられると、真近に感じる彼の温もりの心地良さに瞼は自然と下りた……。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!