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#ヤクザ
夏目萌*優しい彼~コミカライズ
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鷹槻れん

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話をするにあたり指定された店へ向かう間も和葉の胸には嫌な予感があったけれど逃げずに立ち向かう。
店に着いて向かいの席に腰を下ろすと、ほどなくして父親は本題を切り出した。
「単刀直入に言おう。息子と別れてもらいたい」
それは予想していた言葉だったけれど、実際に告げられると胸が締めつけられる。
「……どうして、ですか?」
「息子には既に決まった相手がいる」
「え……?」
「家同士の付き合いがある女性だ。両家の間でも以前から話が進められている」
「そんな……話、私は聞いていません」
「当然だ。息子にはまだ詳しく話していないからな。今回の海外研修から戻れば正式に婚約へ進めるつもりでいる。だから、その前に君には身を引いてもらいたい」
それはあまりにも一方的な話で、驚きのあまり和葉は何も言えなくなる。
(湊さんも知らない話なのに、こんなの横暴過ぎる……)
本人が詳しく知らない話を一方的に進めるのはおかしい。
湊がそれを聞いて受け入れるわけもない。
とにかく、湊以外から別れを強要されるなんて有り得ない。
そう思った和葉は、
「……申し訳ありません。どんな状況であっても、湊さん本人から言われない限り私は納得できません。もし湊さんが話をお聞きになってその方との結婚を望んでいるのなら……私も考えます。ですから、今この場で別れろと言われてもそれを受け入れることは出来ません」
そうキッパリ言い切った。
和葉の言葉を聞いた湊の父親は溜め息を吐いた。
「ならば、これだけは伝えておく。私は息子の父親で息子の将来について責任を持つ立場でもある。海外研修を終えて帰国したら重要な仕事を任せる予定になっているがしかし、私の意向に逆らい続ける人間に、その仕事を任せられると思うか?」
「…………っ」
「君が息子との交際を続けるということは、私と対立するということ。どちらかを選べと言えば、アイツはきっと君を選ぶだろう。例え、地位を捨ててでも」
「…………」
「まあ、本人が覚悟の上でそれをするなら構わないが…………私には多方面に繋がりがある。家を出て自分の力だけで仕事を探そうとしても……まともな職に就けるかどうかも分からぬな」
「それは……脅しですか?」
「好きに取ればいい。それでも息子と一緒にいたいというのなら私は止めない。どんな状況でも二人で頑張るというなら、それでも構わぬが……よく考えることだな。今日の今日で答えを出せとは言わないが、出来るだけ早いうちに考えてもらいたい。それでは失礼する」
それだけを告げると父親は店を出て行き、一人残された和葉は暫く動くことが出来なかった。
この話を湊にするか悩んだ。
けれど、研修に行った湊は忙しくしていることを知っていた和葉は負担を掛けたくないと一人悩む。
この時は勿論別れる選択は無くて、どうにか出来ないかを考えていた矢先、自身の身体に変化を感じるようになり、色々な原因を考えた結果産婦人科を受診した和葉は妊娠している事実を知ることになる。
それを知った和葉の脳裏に浮かんだのは湊の顔。
すぐにでも伝えたかったし、知ればきっと喜んでくれる。
そう思っていたけれど湊の仕事も忙しくなり、連絡は次第に途切れ途切れになったり電話をしてもタイミングが合わないことが増えていた。
そんな矢先、和葉の前に再び湊の父親が現れた。
「そろそろ決めてもらおう」
「……私は……」
「どうしても受け入れられないというのなら、君の両親にも話さなければならない」
その瞬間、和葉の顔から血の気が引いた。
「……それだけは、やめてください」
和葉にとって両親に知られることだけは避けたかった。
幼い頃から両親の関心は常に兄に向けられ、何をしても兄と比べられる。
自分にはいつも、『迷惑だけはかけるな』とだけ言われてきた。
だからこそ両親に知られればどうなるのか分からない。
湊の父親はそんな和葉の家庭環境まで調べ上げていたのだ。
「それが嫌ならもう一度よく考えておけ。一週間後、返事を聞きに来る」
そう言い残してこの日は帰っていった。
妊娠してからというもの身体の調子が悪い日も増えていて、精神的にも不安定になり以前なら冷静に考えられたことさえ上手く整理できない状態の中で突きつけられた話に和葉は困惑していた。
そして考えが纏まらないまま一週間が経ち、湊の父親とともに一人の女性が現れた。
父親が言うに、それは湊の正式な婚約者だとのこと。
しかも婚約者の女性は和葉の妊娠に気づき、それを聞いた父親の表情が変わる。
「息子の子なのか?」
「…………はい」
「どうだか分からぬが、血が繋がっているというのならそうだな、もし男が産まれれば、その子供はこちらで引き取ろう」
「……え?」
「当然だろう? 湊の血の繋がった子供なら後継ぎなんだから。だが結婚は認めない。子供がいようがお前のような女と結婚させるつもりはない」
そんな冷たい言葉を言い放った父親は一枚の小切手をテーブルの上へ置いた。
そこに記された金額を見て和葉は息を呑んだ。
(五百万円……)
「これは手切れ金だ。これを受け取って息子の前から消えろ」
「……いりません…………私は、お金の為に湊さんと一緒にいるわけではありませんから……」
「そうか、ならば勝手にしろ――子供が無事に産まれると良いな」
その言葉を聞いた瞬間、和葉の背筋が凍った。
(この人は……何かをするつもりなんだ……)
どんな手を使ってでも自分と湊を引き離そうとするだろう。
そう直感で思った和葉。
自分一人ならどうなってもいい。
けれど、お腹の中にいる小さな命だけは何としてでも守らなければならない。
その思いだけが和葉の中に残り、差し出された小切手を静かに押し返した。
「…………分かりました、私が……身を引きます…………二度と彼には会いませんし、連絡も取りません。ですから、私からこの子を奪わないでください。お願いします……」
本当は湊に伝えたかった。
一緒に喜んでほしかった。
この先もずっと一緒に生きたかった。
けれど、恐怖と不安に追い詰められた和葉にはそれを押し通す勇気が無かった。
何より、大切な湊との子供を危険に晒したくなかった。
その思いだけを胸に和葉は湊の元から姿を消すことを決めた。
自分が憎まれることになっても、二度と会えなくても子供を守る為に、和葉は一人で全てを背負うことを選んだのだった。
コメント
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このエピソード、読んでて胸がぎゅっとなりました…。和葉が父親に一方的に別れを迫られる場面から、妊娠発覚、そして身を引く決断に至るまでの心理描写が本当に丁寧で。特に「湊さん本人から言われない限り納得できない」と言い返す強さと、その後に「子供を奪わないでください」と折れる弱さの対比が切なすぎます。父親の「子供が無事に産まれると良いな」の一言で背筋が凍る感じ、よく伝わってきました。和葉の選択は間違ってないと思いたいけど、湊さんにはどうにか辿り着いてほしい…続きが気になります!