テラーノベル
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あと数センチ顔を近づけたら
お前はどんな顔をするんだろう
「おい!聞いてんのか留三郎!」
鼓膜を震わせる怒鳴り声。
目の前には見慣れた険しい顔。
いつもなら同じぐらいの勢いで言い返しているはずなのに今の俺は文次郎の動く唇をただぼんやりと眺めていた。
(近いな… )
掴みかかってきた文次郎の拳が俺の胸ぐらをきつく絞りかかっている。お互いの鼻が触れ合いそうな僅か数センチの距離。
奴が流した汗の匂いと、激しい呼気、そして俺と同じくらい速く脈打つ鼓動が伝わってくる。
「……留三郎? おい、顔色が悪いぞ。どこか怪我でも――」
さっきまであんなに激昂していたくせに、俺が黙り込んだ途端、こいつはすぐに心配そうな顔をする。
その真っ直ぐな瞳に映り込んでいるのは、情けないほど動揺している俺の姿だ。
(ああ、クソ。なんでこいつなんだよ。)
この数センチを埋めてしまいたい。
「犬猿」という便利な言葉で守ってきたこの境界線を、今すぐぶち壊して、こいつの『特別』になりたい。
一度そう自覚してしまったら、もう元の喧嘩の仕方を思い出せそうになかった。
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