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#いるなつ
3e1
718
# 梅雨の妖精
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公園のベンチ。
らんとなつは並んで座っていた。
夕方の風が静かに吹いている。
🌸「さっき話したのは」
らんが口を開く。
🌸「家の話」
なつは黙って聞いていた。
🌸「でもさ」
らんは少し苦笑した。
🌸「実はそれだけじゃないんだよね」
🍍「え?」
🌸「こさめが過保護にされてる理由」
🌸「そりゃね、俺は弟傷つけるもの全員嫌いだけど」
🌸「どうしてこさめがこんなにも守られてるか」
なつはらんを見る。
するとらんは少し考えてから言った。
🌸「中学の時、いじめられてた」
なつの目が見開く。
やっぱり。
前に聞いた噂は本当だったんだ。
🌸「男のくせに可愛いとか」
らんの声が少し低くなる。
🌸「女みたいとか」
🍍「……」
🌸「気持ち悪いとか」
なつは拳を握った。
そんなことを言われていたのか。
あのこさめが。
🌸「こさめはあんまり話さなかったけどね」
🌸「‥殴られたり、物隠されたり壊されたり」
🌸「おとこおんな〜って言われたり‥」
らんは空を見上げる。
🌸「それでも」
🌸「いつも通り笑ってた」
それが余計に厄介だった。
🍍「家では普通だったんですか」
🌸「普通だった」
らんは頷く。
🌸「少なくともそう見せてた」
そして。
小さく息を吐いた。
🌸「でも、すちは気付いた」
なつは静かに続きを待つ。
🌸「気付いた時には結構落ち込んだよ」
らんが苦笑した。
🌸「自分のせいだって」
🍍「自分の?」
🌸「うん」
らんは少し懐かしそうに笑う。
🌸「昔さ」
そして。
記憶を辿るように語り始めた。
昔。
まだらんが小学生で、すちとみことがその後ろを追いかけていた頃。
家には怒鳴り声が響く日があった。
母を守る。
弟たちを守る。
それが長男だったらんの役目になっていた。
怖くないわけじゃない。
痛くないわけじゃない。
それでも前に立った。
俺はみんなより強いからって。
大切な弟たちを傷つけられるくらいなら。
ある日。
泣きそうな顔をしたすちが聞いた。
🍵「らんにぃ‥」
🌸「ん?」
🍵「おれ、こわいよ」
らんは少しだけ笑った。
本当は自分だって怖かった。
でも。
弟たちまで怖がらせたくなかった。
だから頭を撫でて言った。
🌸「大丈夫」
その言葉を。
すちはずっと覚えていた。
やがて両親は離婚した。
新しい父親ができた。
優しくて穏やかな人だった。
家から怒鳴り声は消えた。
みんな少しずつ笑えるようになった。
もう大丈夫だと思った。
らんも。
すちも。
みことも。
みんな。
だから。
中学二年のある日。
すちが偶然見かけた光景は衝撃だった。
下校中のこさめ。
少し離れた場所に数人の男子。
「おい」
「またいた」
「ほんと可愛い顔してるよな」
「ほんとは女なんだろ」
みたいな声。
笑い声。
馬鹿にする声。
からかう声。
こさめは困ったように笑っていた。
🦈「やめてよぉ」
そう言いながら。
笑っていた。
男子たちは去っていく。
その場に一人残されたこさめ。
そして。
誰も見ていないと思ったのだろう。
ほんの一瞬だけ。
泣きそうな顔をした。
その瞬間。
すちは動けなくなった。
胸が苦しくなった。
昔の自分たちと同じだった。
大丈夫なふり。
平気なふり。
何もないように笑う顔。
あの日の自分たちと同じだった。
こさめちゃんは小さかったから昔の父のことなんて覚えていないはず。
🍵「こさめちゃん」
思わず声を掛けた。
こさめは慌てて振り返る。
🦈「すっちー?」
もう笑っていた。
無理に。
何事もなかったみたいに。
🦈「どうしたの?」
その笑顔を見て。
すちは何も言えなくなった。
守れなかった。
気付かなかった。
らん兄が守ってくれた。
だから次は自分が守るんだ。
そう思っていたのに。
大切な弟が苦しんでいることに気付かなかった。
その日の夜。
すちは一人で泣いた。
悔しくて。
情けなくて。
自分が許せなくて。
そして翌日から。
すちは変わった。
送り迎えをするようになった。
よく話を聞くようになった。
ご飯を作るようになった。
体調を気にするようになった。
少しでも笑っていてほしかった。
少しでも安心してほしかった。
それが今に繋がっている。
話を終えたらんは小さく笑った。
🌸「だからね」
なつは黙って聞いていた。
🌸「今のすちは過保護なんだよ」
🍍「……」
🌸「昔はらんが守ったから、次は俺が守るんだってずっと思ってる」
らんは少し肩をすくめる。
🌸「真面目なんだよな、あいつ」
確かにそうだと思った。
なつはすちの顔を思い浮かべる。
優しくて。
穏やかで。
いつも笑っていて。
でも。
誰よりも弟たちのことを気にしている。
理由が分かった気がした。
🌸「こさめは今元気だけど」
らんが言う。
🌸「俺たちはたまに昔を思い出しちゃうから」
その声は優しかった。
🌸「だから心配しすぎるんだよね」
少し苦笑する。
🌸「うざいくらいに」
なつは思わず笑った。
🍍「知ってる」
🌸「だよね」
らんも笑った。
そして少しだけ真面目な顔になる。
🌸「でもさ」
🍍「うん」
🌸「こさめは可哀想な子じゃないから」
なつは頷く。
それは本当にそうだった。
過去はある。
辛いこともあった。
でも。
今のこさめはちゃんと前を向いている。
笑っている。
友達と騒いでいる。
兄たちに呆れながらも笑っている。
🌸「だから」
らんは立ち上がった。
夕日が差し込む。
🌸「普通に接してやって」
なつも立ち上がる。
🌸「それがあいつは一番嬉しいから」
なつは静かに頷いた。
🍍「分かった」
その返事を聞いたらんは。
どこか安心したように笑った。
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