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第10話
「ありがとう」
あの夜、4人で泣き笑いしながら新しい約束を交わした日から、10年が経った。
時は流れ、俺たちはそれぞれの道を歩きながらも、約束だけは決して忘れなかった。
灰色だった俺の人生は、あの夜から確かに色づいた。
俺の人生に面白さを教えてくれたのは海斗。
俺の人生に恋を教えてくれたのはりあ。
俺の人生に暖かさを教えてくれたのはゆいな。
3人と過ごした日々は、俺の記憶を鮮やかに塗り替えた。
――そして今日。
俺たちは、また同じ場所に立っている。
今度は子どもの頃とは違う。
スーツや白いドレスに身を包み、大人になった4人がそこにいる。
公園の隅に、あの日埋めたタイムカプセルが今も眠っている。
そのそばで、俺たちは一緒に式を挙げることにした。
4人同時の結婚式――そんな無茶なことを計画したのも、俺たちらしかった。
「本当にやっちゃうんだな、俺たち。」
海斗が笑いながら涙を拭く。
ゆいなが白いハンカチで目元を押さえながら、嬉しそうに笑う。
「当たり前でしょ。だって、これが私たちの約束だから。」
りあは俺の手を強く握った。
「やっとだね……」
その笑顔を見て、胸がいっぱいになった。
神父の言葉が終わり、誓いのキスを交わすと、周りから拍手が湧き起こった。
家族、友人、同級生……あの日から10年の時を経て、4人の周りにはたくさんの人が集まっていた。
俺は、泣いていた。
海斗も泣いていた。
ゆいなも、りあも泣いていた。
嬉し涙が頬を伝い、胸の奥から溢れて止まらなかった。
俺はマイクを手に取り、震える声で言った。
「俺は、この3人と出逢えたことが本当に嬉しかった。
本当に楽しかった。
普通に生きていた俺の人生が、一瞬で変わった。
灰色だった人生が、一瞬にして色鮮やかになった。」
客席のあちこちからすすり泣く声が聞こえた。
「俺の人生に面白さを教えてくれた海斗。
俺の人生に恋を教えてくれたりあ。
俺の人生に暖かみを教えてくれたゆいな。
みんな大好きだ。
本当にありがとう。」
俺の声が震え、言葉が途切れたとき、海斗が隣で笑った。
「バカだな。俺だって同じだよ。お前がいたから、ゆいなに出会えたし、強くなれたんだ。」
ゆいなが泣き笑いしながら言う。
「私もだよ。みんながいたから、私、ここまで来られた。」
りあは俺を見上げて、優しく囁いた。
「ありがとう、祐介。ずっと好きでいてくれて。」
俺はうなずいた。
「ありがとう、りあ。君がいたから、俺はちゃんと生きてこれた。」
そして、俺たちは4人でゆっくりと歩き、公園の片隅に立つ小さな石碑の前に立った。
そこには、10年前に埋めたタイムカプセルが眠っている。
あの日の誓いが詰まった、小さな箱。
「開けようか。」
海斗が言う。
りあが笑いながら頷く。
「うん、みんなで。」
俺はゆっくりとしゃがみ、土を掘り返した。
指先にあの頃の感触が蘇る。
泣きながら笑って、未来を信じて埋めた小さな宝物。
箱のフタをそっと開けると、中には色あせた手紙と写真が入っていた。
「……懐かしい。」
ゆいなが涙をこぼし、りあが声をあげて笑う。
俺は胸がいっぱいになった。
この瞬間のために、生きてきたような気がした。
「みんな、俺の人生を変えてくれてありがとう。
俺の記憶を戻してくれてありがとう。
俺のお嫁さんをくれてありがとう。
俺の永遠の友をくれてありがとう。
――ありがとう。」
4人は箱の中の手紙を見つめながら、肩を寄せ合って泣いた。
夜空には星が散りばめられ、風が優しく吹き抜ける。
あの頃と同じ公園、でももう子どもではない。
4人は大人になり、約束を果たした。
そして、未来へ歩き出す――
笑顔と涙のままに。
(完)