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午後の空気は、いつもより少し重たく感じた。
わしはルカと手を繋いだまま会社の敷地を出て、コン○二でアイスを買って、ベンチに座っていた。ルカはチョコミント、わしはバニラ。会話がたわいもないもので、空気が軽やかだった。
「お前、あいつらにモテてんな」
ルカが突然そんなことを言った。アイスを1口かじりながら、にやりと笑っている。
「モテてるとか、そういうんじゃないよ。わしは、ただイタズラしてるだけ」
そう言うと、ルカはフッと笑った。
「イタズラにしちゃ、ちょっと本気に見えたけどな。…特にあの二人には」
わしは言葉を返さず、空を見上げた。昼の青空は何も知らない顔をしていて、眩しくて、ちょっとまぶたが暑くなった。
一方その頃、オフィスの休憩スペースでは、夢魔とすかーが珍しく2人きりで向かい合っていた。コーヒーの香りが漂う静かな空間。どちらも黙ったままだが、空気にははっきりとした緊張が満ちていた。
「……なぁ、夢魔?」
すかーが先に口を開いた。普段の関西弁も、今日は抑え気味だった。
「俺ら、たぶん同じこと思ってると思うねん」
夢魔はコーヒーを口に含んだあと、静かにカップをテーブルに戻した。
「ルカ、邪魔だな」
淡々とした声だが、その裏には確かな怒りと焦りがあった。
「佐藤、俺らがちょっと気を抜いたら、あんなヤツに持ってかれるような女じゃないやろ」
すかーが小さく笑ったが、それはどこか自嘲にも近かった。
「なぁ、すかー?俺たち、ちゃんと”伝えて”ないよな」
「……せやな、守ってるつもりで距離取ってたんかもな」
2人の言葉はどこか噛み合っていないようで、でも確かに重なっていた。
「今夜、奪い返す」
夢魔が立ち上がった。
珍しく静かな闘志が灯っていた。
すかーも黙って立ち上がる。
「佐藤が”本気”になる前に、な」
その夜、仕事が終わる頃、おふあの雰囲気は妙にざわついていた。ルカとわしは、さっさとタイムカードを切り、出入り口へ向かおうとしていた。
が。
「佐藤」
静かに呼び止めたのは夢魔だった。スーツの上着は脱いで、シャツの袖をまくっていて、いつもより砕けた雰囲気……それでも、目は一切笑っていなかった。
「少し、いいか?」
わしが言葉に詰まっていると、今度はすかーが隣から声をかける。
「佐藤、今日は俺と飲みに行こうや。話したいこと、あんねん」
ルカがすぐさま一歩前に出る。
「すまんけど、佐藤は今日、俺と約束してんだわ。部長も課長も、”業務外”の話はすんなや」
「”業務外”の話こそ、今しなあかんやろが」
すかーの関西弁が強く出た瞬間、オフィスの空気がピリついた
わしは真ん中で、ただ困ったように笑うしか無かった。
「やれやれ……」
だけど、ふと目が合ってしまった。
夢魔の切なそうな、それでいて強い視線。
すかーの、どこか諦めたような、それでも必死な表情。
ーーわしは、このままで良いんだろうか。
だけど、その迷いを断ち切ったのはルカの無邪気な笑顔だった。
「行こ?ネグちゃん。ゲームして、カプ麺作って、夜更かししよ?」
「うん、行こっか」
わしはそのままルカの手を取り、2人の視線を背にオフィスを出た。
その夜、ルカの部屋。
ゲームのコントローラーを握りながら、わしは何度も夢魔とすかーの顔を思い出していた。
「なあ」
ルカが、ゲームの合間にポツリと言った。
「本当にいいのか?」
「何が?」
わしは聞き返す。
「お前、本当は……」
「……」
わしは、コントローラーをそっと置いた。
そして、静かに言った。
「わしは今、”イタズラ”をしているだけ。でも、ずっとは続けられない。」
その言葉にルカは少しだけは寂しそうに笑った。
「そっか、…まぁ、せめて今夜は、ちゃんと笑ってくれよな?」
「うん」
わしはその言葉に、ふにゃっと笑った。
だけど、その笑みの奥には、明日には戻れなくなるかもしれない”何か”が、静かに灯っていた。