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ピアスで繋がる佐野さんと吉田さんの話。
バルーンさんの"愛及屋烏"より着想を得ています🕊️
匂わせ程度のセンシティブあり
昔、仁人にピアスをプレゼントしたことがある。
仁人はそのために覚悟を決めてピアスの穴を空けてくれた。
もちろん俺は仁人の耳に穴が空いていないのは知っていた。
プレゼントすれば俺のために開けてくれないかなと考えていたら見事に叶ったわけだ。
人は数年も経てば飽きは来るし趣味も変わる。
そもそも仁人の好みかは定かでなかった。
それでもずっとつけていてくれたから少し期待していた。
だから最近、仁人の耳元に輝くそれが俺のものではないことに若干の怒りを感じていた。
「仁人さー、最近俺があげたピアスつけてくれないよね」
「最近ってかだいぶ前からね」
「なんで?」
「なんでって、もうだいぶ前のやつだし」
仁人は耳からピアスを外し照明に翳す。
それを見つめる愛おしそうな目にいっそ気味悪さを感じた。
「…似合ってないわ、それ」
「は?」
「俺があげたやつの方が似合ってる」
「なんなのお前」
「ずっと着けてたじゃん。なんでつけてくれないの」
「言っときますけどかなり長いこと使ってましたからね、あれ」
「じゃあ着けてくれてもいいじゃん」
「いや…俺こっちの方が好みだし」
その言葉に胸の内の何かが切れる感覚がした。
途端に俺は仁人の手の中からピアスを奪う。
返してと繰り返し俺の手を掴んだが、俺が握りしめた手のひらを開くことはなかった。
「…勇斗の意見とか知らないから。俺の好みも知らなかったくせに」
「仁人のことはいちばん知ってる」
「あっそ」
そう言い残して、ピアスに向けたあの目は微塵も俺に向かないまま、ただ軽蔑するような目を向けて部屋を出た。
応援してくれる人達が俺と勇斗のことをそういう目で見てくる時がある。
人によって感じ方も応援の仕方も違うから、その辺は好きにすればいいと思う。
けど、勇斗はその人達のために俺に絡んでくる時がある。
それが酷く不快だった。
どうせフィクションだ。
勇斗が俺に向けるそれは、俺が勇斗に向けるものとは違う。
そう思ってピアスを着けるのも辞めた。期待するだけ無駄だから。
だからその数年後、勇斗から好意を伝えられるなんて思ってもいなかった。
それが本心であれば、かなり勇気を出してくれたんだと思う。けれどその時の俺はひねくれていた。
「どうせ嘘だろ。視聴者が喜ぶからってそういうの__」
「ちがう!それはちがう!」
珍しく大声を出されて耳が痛む。
そんな俺の顔を両手で包んで、目の奥まで見つめるように俺を見た。
「お願い仁人、信じて。」
「いっつもそうじゃん」
「いつもと違う。カメラもないしネタにもしない」
「……俺のことなんにも知らないくせに」
「じゃあ今から全部知る。だから、全部教えて」
何を考えていたんだろう。
俺はそのまま勇斗に流されて全て暴かれることになる。
勇斗の下で喘ぐとき、ふと視界にキラリと光るものが見えた。
…あ、このピアス、俺とおそろいだったんだな。
しばらく付けなかったのに、急にピアスまでもが勇斗の身体の1部のように見えて愛おしく思えた。
思わず手を伸ばしてそれに触れれば、勇斗の表情がわずかに綻んだ気がした。
翌朝、目の前にある恋人の顔にこれ以上ないほどの安堵を覚えた。
いつもの顔だった。
数時間前に暗闇で見えたのは、俺をどこにも行かせないという束縛と他の人間を思わせない独占欲に塗れた瞳だったのに。
「…別人みたいだなぁ…」
昨日のようにそのピアスに触れる。声か、その感覚か、勇斗はゆっくりと目を開けた。
「…なに」
「いや、別に」
「……ピアス、やっぱり仁人もつけてよ」
「…俺のピアス返してくれたらいいよ」
「それは……、」
「うそ。やっぱりいらない」
それを聞いて勇斗は複雑な表情をしていた。
本当は勇斗のくれたピアスの方が好きだし、あんなものは安いお店で買った自分好みでもないその場しのぎのものだったし。
俺に一番似合うのはこのピアスだと思ってる。
でもそれを口に出すのは今じゃなくてもいいと思った。
#吉田仁人
#さのじん