テラーノベル
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映画を見ながら号泣してしまって以来、うりはちょくちょくえとを映画に誘うようになった。 はじめはうり好みのしっとりとしたいわゆるエモい作品が多かったけれど、最近では見終わったあとに次どんなものを見たいか互いに相談しあったり、とりあえず集まってから話題作や最新作を見たりしている。
今日は集まってみたものの決まらず、うりが適当に画面を操作してえとが目を閉じて指でタッチして決めた。
たまたま話題作を指したのでそれを見たのだった。
「これは納得の人気作やな」
「なー、まじでおもろかった」
一つ開けて座っていたが、少し感想を言い合ったり、登場人物の名前や設定を確認するのに不便になって今では左にえと、右にうりの隣並びが定位置となっている。
「洋画の女優さんってなんであんなにもスタイルお化けなんだろうね。めっちゃ服もタイトだしセクシーじゃない?」
「地獄の質問やめとけ」
「うりはどこが好き?」
「だから地獄の質問やめとけ」
答えてくれないのかーとわざとらしく拗ねるボケをかますえとをいなしながらシアタールームの片付けを済ませて、うりとえとはそこで別れる。
「またなー」
「おー、またなー」
「納涼ホラー映画鑑賞会しませんか?」
ホラー好きのなおきりが珍しくみんなで揃った晩御飯の席で高々と提案した。
「ホラー映画?」
「鑑賞会?」
ホラーが積極的に好きなのがなおきりくらいなので、全体がえぇと否定的にどよめく。
「動画でもホラー企画は定番ですし、アツいですから参考のためにみんなで見てみるっていうのもいいんじゃないかなあと思うんですよね」
「あー、確かになあ。最低限の知識がなきゃ、アイデアは生まれにくいもんやしなあ」
「でしょ? さっすがたっつんさんはわかってますねえ」
「ホラー映画っても何系の見んの? 俺ジャパニーズホラーは嫌なんだけどぉ」
「息詰まりそうなパニック系もなあ」
各々あれは嫌だこれは嫌だとあげて行き、初めてのホラー鑑賞会なので洋画のど定番作品を見ることとなった。
たっつんが結局見るのは決まりなんかいとツッコんだが作品を選び始めたところでもう決まってただろうと笑った。
「これ僕も見たことないから楽しみだなあ」
なおきりはご機嫌だ。他のメンバーも怖いとはいえみんなで集まる企画に楽しそうだ。
えとものあと怖い嫌なんだけどと言いつつ楽しそうに女子寮に帰っていくのをうりは見た。
ホラー鑑賞会当日。発案者であるなおきりは機械設定が得意なゆあんくんの手を借りながら準備している。
料理に手慣れている女子組、シヴァ、もふが飲み物やポップコーンなどのスナック菓子、ポテトを用意した。
「シアタールーム、ちょっと涼しいから一枚あった方がいいよ」
「あーね」
「あっちにも2枚くらいはあったと思うけど。怖い時に顔隠すときには自分のがいいっしょ」
えとがそうのあにアドバイスすると自分の取ってくると女子寮の方へと走って行った。
「のあさんどこ行ったの。逃げた?」
「逃げてないよー。シアタールーム涼しそうだから一枚あった方がいいよねって」
「あー、なるほどね」
もふとシヴァはそれなら先にシアタールームに食べ物運んじゃおうとなった。
「おーい、運ぶの手伝ってくれー」
シヴァの声がけに暇を持て余していたメンバーは素直に駆けつけた。
大体準備が整ってくると次に席順はどうするかとなる。
えとはちらりとうりを見たが視線が合うことはなかったのでのあと何処がいいかなあと相談する。
「ぜぇったい後ろ」
「1番後ろだとスピーカーの音ヤバくない」
「確かに。2列前にしよ」
「おけ」
後ろから二列目と決まったところで、真ん中も嫌だとなり端の方に座ろうとするとハゲーズが失礼しますよと真ん中の方に押し込まれる。
「ちょっ、なおきりさんたち!?」
「いやー、ホラーはやっぱり1番怖がってる人と見るのが1番楽しいじゃないですか」
「おー、そうだそうだ」
そういうなおきりとシヴァを見てうりは面白そうに笑っている。
「真ん中の方嫌なのに!じゃあ、真ん中譲りますから私たちが端っこでその隣になおきりさんたちが真ん中行けばいいじゃないですか!」
「そうだよー!ホラー好きでしょなおきりさん!言い出しっぺじゃんか!」
「まあまあまあまあ」
じゃあ、のあとえとは反対の端っこに行くかと反対に行こうとするともふとヒロが隣に腰を下ろしてる。
「ねー、うちら奥行くからどーいーてー」
「えー、まあいいけど」
「挟まれてる方が安心できね?」
のあとえとは奥に行く気満々でそうもふヒロに声をかけたがシヴァの言葉にそれはそうかもとその席に腰を下ろした。
「なんだよ、もう。まあオレも隣いる方がいいからいいけど」
「えっ、オレ端っこめっちゃ怖いじゃん!」
「ヒロくん頑張ってー」
「ふははははははっ。楽しみですねぇ!」
「もー、それなおきりさんだけだからぁ」
結果、席順は左端からうり、シヴァ、なおきり、のあ、えと、もふ、ヒロ。
その前の真ん中寄りに、たっつん、ゆあんくん、じゃぱぱ、どぬくで座ることとなった。
前情報をまったく入れないまま映画が始まると以前うりと見た映画に出てきたスタイル抜群の女優さんがタイトで露出多めな衣装で出てくるのでえとは思わず笑ってしまう。のあにどうしたんだと怪しまれる視線を送られて持ってきたタオルケットを被りながらなんでもないと首を振る。
ちらりと3人越しにうりを見ればここでは視線がかち合って、もっと笑けてきてしまうのを俯くことで流した。
シヴァがうり何笑ってるのという小さな声が聞こえる。
早々にえととのあは持ってきたタオルケットを被りながら、汗が滲む手をお互いに握りしめ見進めていく。
バカデカいじゃぱぱの悲鳴にみんなでツッコんだり、出てくるキャラに変なあだ名が付いて怖さが半減するところもあったりとわいわい見てはいるが本気で怖がらせようとしているところもあってそこでは悲鳴らしい悲鳴も上がらずに逆にのどが引き攣るようなそれが漏れる。
えとは思わず、右側にあった手を掴んだ。その手は痛いくらいに握り返してきて、なんなら腕まで抱え込まれた。
「はー、怖かったあ」
「いやぁ、いい悲鳴でしたねえ。寿命が伸びた気がする」
「なおきりさんその発言は妖怪すぎるわ」
「あははははっ」
エンドロールまできっちりと見切って照明のスイッチに近い人が明かりをつけた。
明るさにホッとして体の力が抜けたえとはそういえば繋がれたままだった手を放す。
「ごめーん」
「あ、こっちこそごめん」
互いに無意識だったので素直に謝ると返ってきた声がもふでえとは頭が混乱した。そうか、うりではなかったのだったと今思い出したからだった。
「あ、そっかもふくんだったんだっけ」
「え、そうだけど?」
「いや、意識してなさ過ぎて頭バグった」
だって、めっちゃ腕抱え込まれてたから途中と指摘するともふは確かにとバツの悪そうな顔をした。
「ぽとずっと右側寄ってるんだもん」
「そう、左から右から引っ張られてたけど右から引っ張られる面積が大きくて右に寄ってた」
もふくんそんなに怖かったのとイジりながら片付けを進めていけば人数がいるのであっという間に終わる。
「いやー、ホラーじゃなくてもこうやってみんなで映画見んのもええなあ」
「確かに。普通の映画館じゃ喋れないけどうちなら多少喋ってもいいから楽しかったよね」
「じゃあ、次はトトロで!」
「もー、それはいつものやつじゃんー」
ゆあんくんがせっかくサブスク入れたのにと呆れながら悲鳴を上げる。
「うりりん?」
なおきりはぼうっとどこかを見るうりに声をかけた。
「え?」
「眠くなっちゃった?」
「いや、大丈夫」
「ふぅん」
なおきりはそれ以上興味がなくなったのか、じゃあ何が見たいんだよとシアタールームから出ようとしているゆあんくんの方へと向かっていった。
シヴァはのあと何食べるか話している。
出ていく波に乗っているうりにえとがこそっと話しかけた。
「あの女優さん出てたね」
「な。ていうか見てくんなよ笑っちまっただろう」
「いや、あれはさ。ていうか自分だってこっち見たじゃん」
「そりゃそうなんだけどさ」
序盤それだけで面白かったと二人は笑う。
うりはえとの右手を見た。その会話でもふと繋がれていたえとの手のモヤモヤが晴れた気がした。
ホラー鑑賞会以降忙しくてうりとえとの映画鑑賞ができなくなっていた。
この日に見ると決めていたわけではないし、互いに計画的というよりは感覚的なので意識しなければこんなものなのだろうが。
しかし、見る習慣が続いたことで見たいなあと思う作品は積み重なるものの一人で見るのもなあとも思う。
しばらく空いてしまうと誘いづらいところもある。
「んー、どうすっかなあ」
うりが背を伸ばせば、椅子がギッと鳴る。二、三回クルクルと回ってよしっと膝を叩いた。
「久々じゃね。もう誘ってくれんかと思った」
「別にそっちから誘ってくれてもえぇんよ」
「えー、こっちから誘ったところで来るぅ?」
なんやそれと笑いながら、手慣れた準備をこなしていく。
二人だけのシアタールーム。
左にえと、右にうり。できた定位置に座った。
今日の作品はアクションものでハラハラドキドキするので少しびっくりするところも出てくる。
そんなシーンではえとがうりに手を伸ばしてそういえば前にもこんなことがあったなと。
そういえば、えとがずっと右側にいたのってとホラー鑑賞会を思い出した。
キュッと握り返せばぎゅうっと握り返されるのがなんだかこそばゆくてうりは気づかないフリをしながらエンドロールを迎える。
「あ、ごめん。ずっと握っちゃってたわ」
「いや、こっちも握っちゃってたし」
あくまで無意識だというのを匂わせながら手を放した。
「そうそう、この間もさー、ホラーのやつ」
「うん」
「右側にうりが定位置だったじゃん、最近」
「そうね」
「だから、終わった後にもふくんだったの忘れててびっくりちゃった。失礼な話なんだけどさ」
「もふくんかわいそうに」
「それは確かにそうなんだけど。もふくん握力強くて一晩くらい実は手の握り跡残ってたんよね。どんだけ怖かったんだよあいつ」
周りにはナイショだよとケラケラ笑うえとにうりは胸がチクリとした気がした。
「うり?」
疲れた?と様子を伺ってくるえとの右手を取る。一晩だけと言っていたのですでにきれいな肌をしている。
「いんや、痛くなかったのかなあって」
「うん、ちょっと違和感はあったけど全然」
うりはぺちとえとと手のひらを合わせた。えとは首を傾げつつもうりの好きにさせる。
「えとさん、柔いしちっちぇな」
「うるさいな。うりはギター弾いてるからなのかな。ちょっとかたいとこあるね」
ふふっと小さく笑うえとを見てうりはこれは観念するしかないなあとひとりで降参した。
──はぁ。
作業がひと段落した頃、うりは重いため息を吐いた。
「あれあれー、うりりんため息? 幸せ逃げちゃうぜぇ」
「んぁ? そーねー」
「あれ、このセリフ誰かにも言ったな。からぴち大丈夫か?」
「このグループそんなに幸せ逃げてんの?」
「あ、そうだ、えとさんだ。隣でバカデカため息ついてたんだよね、誰かさんみたいに」
「えとさん、な」
明らかに含みがあるうりになおきりは様子を伺う。
しかし、そこから黙り込んでしまううりになおきりは聞いた。
「うりさぁ、最近えとさんとシアタールームよくいるよね」
「えっ、知ってんの?」
隠しているわけではないが知らせているわけでもなかったこと聞かれてうりはギクリとしてしまう。
「なになにー、やらしいことでもしちゃってんのぉ?」
「ばか言え。普通に映画見てるだけですぅ。内容がみんなでワイワイ見る系じゃねえってだけだよ」
「なるほどね」
「たまたま居合わせたのがきっかけでさ。あ、そうそうそれこそなおきりさんがえとさんに散歩してこいって言った日だよ」
「あー、目パンパンでのあさんとシヴァさんが慌ててたのそれか」
うりはあの時号泣していたえとを思い出して小さく笑いながらそうそうと返す。
「目ぇ溶けんじゃねえかと思ったわ」
「映画だけじゃないでしょ。あれ」
なおきりの問いになんとも言えずにうりは黙るが、なおきりもうりから聞くことではないなと深追いはしない。
「オレとえとさんが映画見てんの他に誰が知ってんの?」
「僕が知ってるのはシヴァさんだけだよ。たまたま二人がシアタールームか出てきたとこ見つけてシヴァさん知ってるって聞いたから。まあ、シヴァさんは知らなくて僕が教えちゃったみたいになるけれども」
「んー、まあそこはええか」
「ええやろ」
うりは少し考える。少し考えたうりを見てなおきりはこの話題を振ったのは間違いだったなあと少し後悔した。
「メンバー内ってどう思う?」
「えぇ、それってそういう意味で言ってるんでしょ」
「まぁ」
やっぱりなとなおきりは思い、作業を一度保存してきちんと考え始める。
「正直、かわいそうよ。かわいそうだけど、うりりんがフラれたら今のままメンバー内は変わらないと思う。二人ともそういうの引きずるタイプじゃなさそうだから、特にあっちはね」
「なるほどね。確かにそうかもしんない」
その状況を想像して、その可能性は全然あるよなと胸は痛みもしない。むしろ納得すらある。
「けど、上手くいっちゃったパターンだよね問題は」
「確かに」
確かにと心の底から湧き上がる。フラれるのであれば点での出来事であるが、上手くいくとなれば継続する線の出来事となる。
メンバーとしての関係性も当人同士だけでなく周りも含めて大きく変わるだろう。
「えー、うりりんさあ」
「んー」
「最近遊んでる?」
なおきりの言いたいことも理解できる。
「うちの女子としか接点がないからそこに行くってことが言いたいんやろ?」
「そ。そっちにいく前に別の道を考えてからでもいいんじゃないかなあとは思うけど。そうなればそっちの方が平和じゃない」
「それは間違いない」
なおきりは思いついたと言いたげに指をパチンと鳴らした。
「シヴァさん経由でじゃぱぱさんにリアルで交流会してみない?って提案してみたらどうよ」
「えー、あー、うーん」
「ま、僕そういうの好きじゃないから行かないけど」
「ですよね!!アンタはそういうやつだよ!!」
ニシシッとイタズラに笑うなおきりにうりは呆れつつ、アドバイスは割と的確なのはさすがグループ最年長だなと納得せざる得なかった。
乾杯をしてからしばらくうりは開催してもらった交流会に下心的な意味で後悔した。
会自体は楽しいし、人の財布で飲む酒は美味いし、同業者との直接できる情報交換も充実感を得られて素晴らしい。
しかし、しかしながら、開催してもらった大本命の理由のところはむしろ負の感情を抱いてしまう。
「うーりりん。目が怖いよぉ」
言い出しっぺなんだからついてきてくれと頼み込んだら、様子を見守るのは楽しそうだから今回は行くわとすっかり高みの見物モードのなおきりが深酔いする前のうりにこっそりと耳打ちをする。
なおきりは理由はわからなくないなあとえとの方を見た。
始めは女子組は固まってそれぞれのリーダーの近くにいて一線を引いているようだったが、場が進むにつれて空気がゆるんできた。
すると、実況者たちが天然な一面を持つえとを放っておくはずもなく、えと自身も普段からいじられ慣れているため、もう!っと文句を言いつつ笑いの中心にいる。
「もー!えとさん!」
「えーっ、なんでよ!?」
「あははっ、えとさぁん」
「えとちゃんっ」
男子にいじられてにこにことしているえとを見てうりは他の女子とどうとか考えている暇がなくなった。
トンッとなおきりがうりをひじで小突く。
「ほら、ひと笑い起きたとこだし、凸っておいでよ」
「うぅ」
確かに輪に入るにはちょうど良いタイミングだろう。的確すぎるパスにうりは恨みすら覚えながらハンパに残っていたチューハイをブースターに盛り上がる輪の中に飛び込んでいった。
なおきりは手のかかる弟分だなあとうりの様子を見ていると同じ輪の中にいる人物に目が止まる。
飛び込んできたうりに嬉しそうにしたものの、参加している女子にテンション高く迎えいれられている様子を見て不満げに唇を引き締めるえとの姿が。
「おいおいおいおい」
なおきりはこれからどうなることやらと思考を押し流すように手元のアルコールを喉へ。
「なおきりさん隣ええ? さっすがに疲れた」
「いいですよ」
たっつんが声をかけてきたことも、氷がカランと鳴ったこともその時ばかりは記憶が朧げだった。
どちらかというと秘密主義だとうりは自認している。
えとへの気持ちを自覚したからと撮影や普段の生活でそれをあらわにすることはないし、あらわにならないよう努めている。
しかし、最近は少しそれが難しいところまで来てしまった。
なおきりに提案されて参加した交流会もむしろ嫉妬に近い感情ゆえに自分の気持ちをさらに浮き彫りにする結果となってしまった。
あぁ、自分はこんなにもドロドロとした感情を抱いてしまうのだなと。
もうすでに体の内側から押し上げるほどのそれに破裂寸前なのを自覚する。
「時間作ってくれてありがとう。じゃぱさん」
「いや全然それはいいんだけどさ。うりが仕事以外でそんな真面目な感じ珍しいじゃん」
うりはじゃぱぱの指摘に苦笑する。
うりはひと口持参した水分を口に含ませ湿らせるとどうしても乾きがちになる唇をぺろりとする。
「あのさ、オレ、えとさんに告白しようと思っとるんよね」
「え」
告白をするという、うりの告白に、あまりもナナメの方向からの話題にじゃぱぱは頭をうたれたような心地がした。
「ちょ、ちょっと待って。えとさんって、あの、うちのグループのオレンジ担当、肉じゃがことあのえとさん?」
「そう、肉じゃがことえとさん」
じゃぱぱ頭に手を当て、少し待ってと考えこむ。
そんな様子のじゃぱぱを見て、あぁ彼にすらバレていなかったのだなとうりは少しだけ安堵していた。
「あー、言葉が難しいな。いや、まあ、来てくれた時点で」
漏れ出る言葉から混乱しているのがよくわかる。後出しで混乱させるのを避けるために来たのだから当然だろう。
うりだってわかっている。男女混合グループでこんな気持ちを持つことの重大さは。だからこそ、どう転ぶかわからない今筋を通そうとじゃぱぱのところまで来た。
「申し訳ないけど、素直に応援してあげられないのが1番オレの素直な言葉かな。オレリーダーだしさ」
「うん」
「いや、わかってる。わかってるんよ、うりがさグループのことを考えてくれてるからきてくれたってのは」
「うん」
「告白するのはいいわ。上手くいかなくてもなんとかなるだろ」
「なおきりさんも同じようなこと言っとったわ」
「え、なおきりさん知ってんの」
「交流会仕組んだのあの人よ」
「あー、だからシヴァさん経由で」
「視野を広く持てって。目の前にそれしかないからじゃないって」
じゃぱぱはなおきりさんさすがだなあと思いつつ、それでも揺らがなかったかとうりの決意の固さを感じることになった。
百歩譲ってたしかに黙って付き合ってられるよりはある程度見守れるほうがいい。本人たちも他人の目があると分かっているのでそれ相応の付き合い方をするだろうということは想定できる。
なおきりさーん!!1人で抱えるのはきついよこの案件とじゃぱぱは内心叫んだ。
「というかさ、なんでそこ?そんな接点あったっけ」
じゃぱぱの素直な疑問にうりは、映画を一緒に見ていること、ホラー鑑賞会での手繋ぎの件、交流会でのやきもちの話をさらりとした。
「はぁん。なるほどね、なるほどねー。なんかいいな、なんかいいよなあそういうの。もうちょっと羨ましいと思いつつあるもんオレ」
「じゃぱさんには悪いと思うけど、告白はしようと思っとる。最近、抑え込むのも限界なんよね」
「そっか。まあ、リーダーとしてはやめてくれると助かるとしか言えないんだけど個人的にはうりが好きなようにすればいいと思う。どっちにしろ人間の感情に制限はかけられないわけだし変な方向に爆発されてもそれはそれだし」
「ごめん。申し訳ない」
「うん。うん? 謝られるのも違うとは思うんだけど、それ以外の言葉もなさそうだよね。いやまあ、報告してくれて良かった。ありがとうね、頑張ってね」
「うん。まあ、落ち着いた頃に改めて報告しにくるわ。まだ、いつとか、どうとかは決めてなくて。とりあえず、こうしようっていうのは言っとこうと思ったから」
「うん、わかった」
忙しいのにごめんねとまた謝ってうりはじゃぱぱの部屋から出ていった。
ぱたりと閉じ切ったドアをたっぷり10秒見つめてじゃぱぱは深い息を吐く。
「うわぁ、まじかー。まじか。まじかー」
さすがに飲み込み切るまでもう少し時間がかかりそうだった。
「なお兄に連絡しよ」
じゃぱぱとなおきりはシェアハウスから近い居酒屋に来ていた。
「あっはははっ!!あっそう、うりりんじゃぱぱさんに報告までしたんだ」
軽く乾杯してすぐ、じゃぱぱはなおきりに今日うりが訪ねてきたことを伝える。
「そうだよ、もうオレなんて言っていいか」
「そうだよねえ。僕もなんて言っていいのかわかんなかった」
「普通の恋愛相談なら全然いいんですけど」
「内輪の話だと難しいよね」
ぽちぽちとつまみながら最年長は頭を悩ませるリーダーの話を聞いてあげる。
「相手ってどうなんすかね。どこまで脈あんだろう。のあさんに聞いて藪蛇になるわけにも行かないし」
「相手ねぇ」
含みがあるなおきりの言い方になんすかとじゃぱぱは訝しげに先を促す。
「この間の交流会さ」
「あぁ、うりの視野を広げようの会」
「あ、聞いちゃいました? そのとき、女子に絡まれるうり見て複雑そうな顔してましたよ。僕から見てね」
「えー、そんな感じなんだ」
「僕としても、こっちサイドの話は知っててもあっちはわからなかったんで、そうなんだそういう感じなのねってなりましたよ」
またぽちぽちとつまみをつまむ二人。
「うーん、まあでも、筋は通してくれたし、後はなるようにしかならないと思うんで良いように収まってくれればっていうのが本音ですよね。幸せになれよってさ」
「そうよそうよ。もうね、そこまでやられちゃったら我々に出来ることは見守るだけよ、ほんと」
「一つだけ言うなら、えとさんのこと中2、3? の頃から知ってるんで、そこの恋愛事情を聞くかゆさみたいなのはあるよねっていう」
「それはくすぐったいねー」
「でしょぉ!?」
二人の時間は居酒屋閉店時間まで続いた。
うりは二度ほど大きく深呼吸してスマホに向かうが指先が冷え冷えとして軽くふるえてしまうのにますます緊張を煽られた。
もういっそ電話の方が、と思うがろくに会話ができる気がしないし心臓が持たない気がする。
指先に温かい息を吹きかけて、何度か打ち直ししたその文面をようやく送信した。
「はぁー」
バフッと布団に埋もれ、言葉にならない言葉を発しながらもぞもぞとのたうち回る。
なんてことない、いつものように映画に誘っただけだ。うり自身として大きく意味合いが違うだけで。
いつもスマホと友達の彼女からは即レスレベルで『り』とゆるい返信が来て、安堵と行き場のない勝手な怒りのようなものが沸き上がった。
「人の気も知らんでー!!」
緊張疲れでその日のうりはそのまま寝落ちた。
えととうりは今日もえとが左、うりが右の定位置で映画を見る。
「これ、あの時のやつじゃん」
「うん、今日はこれが良くて」
今日の作品はあの日えとが大号泣したときの映画だった。
えととしては思い出と過去のことにするにはまだ日が浅くて恥ずかしさを感じる。ちょっと文句でも言って変えたいことを伝えようかと思ったのだけれど、いつもより固い空気を持つうりに言い出せず渋々それを見ることにした。
淡々とした映画で淡々と時間が進んでいく。次第にえとが涙したシーンに近づいてきて、確かに胸に来るものはあるがあの日のようにボロボロと涙が止まらないほどでない。改めて、あの日が追い詰められていたことがわかる。
じんわりとくる内容にえとが軽く鼻をすするとやけに熱いうりの手がえとの右手を握るので、うりを見ればえとはギクリとしてしまう。
うりは映画など見ておらずにえとの方をじっと見つめていたから。
「うり」
戸惑いに名前を呼べばぎゅうっと手を握られた少し痛いくらいだ。
「うり」
どうしたのと聞きたいけれどそれを聞いてしまうのも怖いとえとは喉までで止める。
「えとさん」
えとは返事ができない。
「えとさん。好きだ」
「え」
えとが返せた一音はそれでも掠れていた。
1番最初に来たのはなんで。次に好きってなんだっけ。そこからじんわりと思考に染み入って、好きってこの場面で好きってそういうこと?と戸惑う。
「あ、え?」
「突然ごめん。困らせてごめん。それでも、えとさんが好きなんや」
うりはすがるように繋ぐ手に額を寄せる。ミルクティーカラーのクセのある猫っ毛、ふわふわのつむじが見える。
はじめて映画を一緒に見て見守るかたちで慰めてくれたあの日、それから何度も一緒に見た映画、女子にもてはやされるのに唇を引き締めた日。
えともうっすらと自覚していたところはある。けれどグループのことが大切だからと見ないフリをしていたのにうりはそれを乗り越えてくるのかと混乱した。
嬉しいけど。嬉しい、けど。そう、どうしてもけれどが取れない。
じゃぱぱを筆頭にメンバーの顔がチラつく。
「ぐ、グループあるし」
「外堀埋めるみたいで卑怯やけど、オレもメンバーに迷惑かけたくないからじゃぱさんには先にえとさんに好きだって伝えるって報告してある」
「ウソでしょ!?」
「本当に。まあ、どっちにしろ黙ってられるわけないだろうなって。オレとえとさんやし」
「まぁ、確かに」
人狼やピエロなどのゲームは別としてプライベートでは嘘が付けない二人だ。えともその言葉に納得する。
「じゃっぴ、なんて?」
「人の感情に制限はかけられんって」
「なるほど」
リーダーであるじゃぱぱは知っているのかとえとは少しだけ緊張を緩めた。確かに人の心は制限できない、しなくてもいいという選択肢にえとは改めてうりを見る。
「だから、いったんグループとかメンバーは忘れてオレの気持ちに答えてほしい」
えとはこくりと頷き繋がれた手を見る。きゅっと握ると繋いでいない反対の手で頬をおおう。
「いったんグループを忘れていいなら、私もうりが好き」
震える手を誤魔化すようにえとはきゅうっとさらに手を握る力を強める。すると、グイッと体が引っ張られて目の前が真っ暗になる。腰骨に軽く当たった手すりが少しだけ痛かった。
えとはうりに抱きしめられている。それを頭が処理したあとえともうりに腕を回した。
えとの耳に安堵したうりの深呼吸が聞こえてくる。
ドキドキもするし、嬉しい気持ちもいっぱいになる。
そういえばまたこの映画まともに見られなかったなとうり越しにスクリーンの方を見ればすでにエンドロールを迎えている。
「エンドロール」
えとがそう言ったところで、うりは集中してとえとの顔を取った。
スクリーンから発せられる光が生み出す二人の影が重なる。
またしてもえとはこの映画のエンドロールを見ることはできなかった。
コメント
5件
やはりもう投稿するのは辞めてしまったのでしょうか?(><)774さんの書くストーリーもっと見たかったです。
ギャグ要素も取り入れつつ、ストーリーもめちゃ甘々で最高です!もっといろんな人に知ってほしい作品…
774さんの書き方、表現が好きです 次の話も楽しみにしてます!