TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する





ーーそれは、まだ滉斗と出会う前のこと。

高校の入学式よりも少し前、音楽室での出来事だった。


入学予定者向けの説明会と、部活動紹介が兼ねて行われていた午後。

元貴はまだ、学校の中を一人で歩いていた。




(……別に部活に入りたいわけじゃないけど)




校舎の2階、ふと目に入った「音楽室」のプレート。

静かにドアを開けると——そこにいたのが、藤澤先生だった。


ピアノの前に座り、ひとり、誰もいない部屋で弾いていた。


静かな旋律。

柔らかく、でもどこか深く響く音。


初めて聴いた気がした。

スピーカーやイヤホンからではない、“空気が震える音”。


先生の指が鍵盤をなぞり、音が部屋の奥に向かって吸い込まれていく。


元貴は、その場から動けなかった。







「……ごめんなさい。見てたの、気づいてましたよね?」




演奏が終わったあと、元貴がそっと声をかけると、先生はやさしく微笑んだ。




「うん。でも、すごく静かにしてくれてたから、そのまま弾かせてもらった」


「……すごかったです。音が、生きてるみたいで」


「ありがとう。君も、音楽やってる?」


「……少しだけ、家で。パソコンで作ったり、ギターをちょっと」


「DTMか。今どきだね。……じゃあ、君の“音”、今度聴かせてよ」


「えっ……」




まさか、先生のほうからそんな言葉が返ってくるなんて思っていなかった。




「……うれしいです。よければ、また来てもいいですか?」


「もちろん。ここは、音楽を好きな人なら、いつでも歓迎だよ」




そう言って、藤澤先生はもう一度ピアノの前に向き直る。


それが、元貴にとって——音に本気で向き合う“誰か”との、最初の出会いだった。





それ以来、元貴は昼休みや放課後、ふらっと音楽室をのぞくようになった。

先生がいない日も、譜面棚を眺めたり、誰もいないピアノの鍵盤にそっと指を置いたり。


あの人の音は、息みたいだった。

自然で、あたたかくて、自分の奥にあった“音楽を好きな気持ち”をもう一度引っ張り出してくれた。




(僕も……ああなりたい)




それは、ただの“憧れ”から始まった。


でもこの時、元貴はまだ知らなかった。

その想いがやがて、“もっと深い”ものに変わっていくことを——。







🍏mga🍏短編集🍏#1

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

8,618

コメント

2

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚