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そこには大量のリボンの付いたプレゼント箱。手乗りの小さいものから1メートル近くある箱まで。しのぶの部屋の大半がそのプレゼントで埋まってしまっている。
「あらぁ…これはずいぶんと貰ったのねぇ…」
仕事から帰ってきたカナエはこの惨状に困ったように頬に手を添える。しかしこんなにも妹が慕われているのかと思うと心がじんわり暖かくなった。
「多いわよね、嬉しいんだけど…」
しのぶもまた、満更でもない表情でえへっと笑う。だがこのままというわけにもいかない。一つ一つ開封しなければならないがこの量は今日中には無理だと悟る。ならば今日は諦めて明日の朝開封しようとしのぶに提案した。
「そうね、そうしましょ」
「じゃあ、さっそくお夕飯にしましょうか。 カナヲが待ってるわ」
お夕飯、という言葉に反応するしのぶ。ウキウキで1階へ降りようとするしのぶの腕を軽く掴んだ。こちらを振り返りキョトンとするしのぶの耳元で囁く。
「姉さんもしのぶに渡したい物があるの。寝る前に姉さんの部屋に来てね?」
ちゅっと唇にキスし、そそくさと階段をおりる。しのぶは顔を真っ赤にして少しの間その場に硬直していた。
リビングに入るとカナヲが3人分の食器の用意をしてくれていた。テーブルの中央にはカナエが腕によりをかけた豪華な料理たち。もちろんしのぶが好きな生姜の佃煮も置いてある。
壁にはおめでとうの文字。バースデーハットまである。今日でしのぶは18になる。結婚ができる年齢になる。生まれた時からしのぶを知っているカナエは、あの子がいつか自分から離れていってしまうのではと寂しく感じていた。あんなに小さかったはずなのに。
「しのぶ姉さん呼びに行ってくる」
準備が出来たとカナヲがリビングから出ようとした時、丁度しのぶが来た。僅かに顔を赤くさせながら。
「ちょうどよかった。準備できたよ、座って座って」
カナヲがしのぶを椅子に座らせバースデーハットを付けさせる。少し恥ずかしそうに「もう子供じゃないわ、1人で付けれる」と抗議するもカナヲはそんなことは気にしていない様子でひたすらにかわいいと褒めたてている。
「ケーキ運ぶわよ〜」
カチッとスイッチ式の電気を消す。辺りは暗くなりケーキに付いているロウソクだけがゆらゆらと輝いている。それをしのぶが座っているテーブルの真ん前に置く。18という数字のロウソク。
小さかった頃はただ単純に嬉しかった。自身の年齢の数字をかたどったロウソクを消すのが好きだった。年に一度ということもあるだろうが、こうして家族と、姉と、新しくできた妹と、祝ってくれるのが嬉しかった。
これが最後かもしれない。来年は一緒に祝えないかもしれない。自身が大人になるにつれそう思うことが多くなっていった。
この楽しい瞬間はあっという間で、ロウソクを消すと数秒後に電気がつく。おめでとうと祝ってくれる姉と妹。
すこし泣きそうになったのは内緒である。
夜も深くなってきた頃、しのぶはベッドを整え眠る準備をする。視界の端にちらっと映る皆から貰ったプレゼント。今日は休みだった事もありプレゼントを貰えるとは思っていなかったがわざわざ家まで来てはプレゼントを抱えおめでとうと言って帰っていく。
さすがにそのまま返すのは申し訳ないとしのぶは上がってと言ったがプレゼントを渡しに来ただけと言われ去ってしまった。
一番大きいのは蜜璃からのものだ。中身は何だろうか。今から開けるのが楽しみでしかない。だが一番多いのは冨岡だった。カナエが帰ってくる数十分前に紙袋を4つ5つほど抱え家に来た時は何事かと思ったがどうやら中身は衣類らしい。こんな貰えないと断ったのだがしのぶ用に買ったから貰ってくれないと困ると逆に言い返されしぶしぶ受け取ってしまった。同級生からはクッキーやらアクセサリーやらで困り果ててしまうほど貰ってしまった。嬉しさで頬が緩むなか、カナエとの約束を思い出し姉の寝室へと向かう。コンコンとノックをし「どうぞ」と声がかかる。
「姉さん、来たよ」
「待ってたわ」
部屋の中に入るとカナエのベッドの上にはカナヲがいた。カナヲも用があったのかと出直そうとするしのぶを止めベッドに座るように促す。
数分がしてカナエがノートパソコンを閉じた。仕事をしていたのだろうか、ふぅとため息を吐きベッドの方へと向き直る。
「改めて、しのぶ、誕生日おめでとう」
「ありがとう、姉さん」
カナエが机の引き出しから何やら小さな箱を一つ取り出す。カナヲがしのぶの右手をぎゅっと握った。
「これ、姉さんとカナヲからの、贈り物よ」
豪華そうな木製の箱だ。ラッピングなどはされておらず木箱の蓋を開ける。
「わっ…」
中にはキラリと煌めくシルバーリングが。一目で見ても高級品だとわかるような輝きだ。
「やっぱり買っといて正解だったわ。しのぶはモテるから、虫除けしておこうって思って」
カナヲがリングを手に取ると、しのぶの右手の薬指にはめる。そしてそこにキスを落とす。
「でっ、でも、こんな、高そうなものっ」
「それぐらいしのぶが好きだって、伝わったかしら?」
部屋の電気が消える。明かりはカナエのテーブルの上にある間接照明だけとなった。
ベッドに座るしのぶの上へと、カナエが覆い被さる。3人分の重みでベッドが沈む。
「好きよ、しのぶ」
「しのぶ姉さん…すき、好き…」
甘い声音に しのぶは、自身のベッドを整えた意味がなかったことを理解した。
誕生日なのに、寝てしまうなんてもったいない。夜は長い。この日は特別に長い夜になる。
暗い部屋でもシルバーリングは照明の明かりを反射してキラリと光った。
「ふぁッ…、あ、カナヲ…、姉さんっ…そこ、だめぇッ…」
カナヲとカナエの耳に片方ずつ身に付けている小さなリングが、ゆらゆらと揺れながら輝いていた。