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夜。

部屋の明かりが落ち、

風の音と冷蔵庫の低い唸りだけが、静かに響いていた。


ギロチンは廊下の片隅で座り込み、

膝の上に乗ったニャーコを、ゆっくりと撫でていた。


「……柔らかい。……動くのに、切れない」


指先が毛並みをなぞるたび、

かすかに刃の音が混じる。

それでも、ニャーコは逃げなかった。

喉を鳴らして、安心したように丸くなる。


ギロチンは目を細めた。

暗闇の中、瞳の奥にほんのわずかな光。

それは、今日アキに教わった“心”の名残のようだった。


「……静か。ニャーコ、静か。……好き」


風がカーテンを揺らし、

外の街灯が一瞬、光を投げかける。

金属の刃が淡く光って、

一瞬だけ“人間らしい横顔”を浮かび上がらせた。


しばらくして、ギロチンはぽつりと呟く。


「……マキマ、怖い」


その声は、刃の響きではなく――

かすかに震える“心の声”だった。


ニャーコが小さく「にゃ」と鳴く。

ギロチンはその声に顔を向けて、静かに続けた。


「……笑うけど、目、笑ってない。

見られると、刃が……冷たくなる。

……アキとデンジ…あとパワー、優しい。

マキマは……静か。違う静か」


言葉が途切れ、

小さな沈黙が落ちる。


ギロチンは、ニャーコの背に額を寄せた。

「……静かなの、好き。でも……マキマの静けさ、怖い」


ニャーコがもう一度、

まるで答えるように喉を鳴らした。


「……ニャーコ、あたたかい」


その声には、ほんのわずかに“安堵”の響きがあった。


ギロチンはそのまま、

猫のぬくもりに頬を埋めて、

小さく囁いた。


「……かわいい、」


夜は静かに流れていく。

刃も血もない、ただの“優しい静けさ”。

ギロチンはその中で、

初めて“恐れ”と“やすらぎ”を同時に抱いていた。

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