この作品はいかがでしたか?
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着く頃にはすでに太陽が半分沈んでいた。
辺りが夕焼けに染まる中、私は自分の部屋のドアを掴んだ。
今度こそ嫌われたかもしれない。拒絶されるかもしれない。当たり前だ。それ相応の行いをしてきたのだから。
だけど、やっぱり私はアーサーさんと喧嘩したままなんて嫌です。ちゃんと話したいです。あの行為は愛があったのか……とか……、
いやいや、まず最初は謝らないとですよね。
開けようとした瞬間、ドアが勝手に開いた。自動ドアなんかじゃない。アーサーさんが開けたのだ。
彼の顔は焦りを絵に描いたような顔をしており、私を見るや、すぐに抱きつこうとしてきた。
「あ、アーサーさ、」
「……、」
でも抱きしめてはくれなかった。途中でやめたのだ。彼は何もなかったかのように、
「大丈夫だったか?帰ってこねぇから心配したんだぞ、とりあえず中入れ」
そんな気の利いた言葉を私にかけてくれた。
だけどねアーサーさん、私、我儘かもしれませんが、勘違いかもしれませんが、抱きしめてほしかったです。貴方に抱きしめてもらってそのセリフを言って欲しかったんです。あるで、本物の恋人みたいに。
まぁ、私はそんなことを言える立場じゃないですよね…嫌いな人のことなんて抱きしめたく無いでしょう、
泣きたくないのに涙が溢れてくる。流さないように下を向き、その場から動けなかった。少しでも動いたら涙が出てしまうから。貴方の顔を見たら、きっと泣いてしまうから。
「……菊?」
「すぃ…ませ……ん」
「……」
彼が私の元へ歩いてきた。いろんな感情が頭の中を循環する。きっとこの機会も最後。そんな事を思ったら、言いたいことをちゃんと言わないと。なんて、ネガティブな思考が私を後押ししてくれたのだ。
涙を我慢して、プルプルと震えた私の前に彼が立った?「大丈夫か?」なんて聞かれるが、大丈夫なわけない。今から貴方にホントのことを話すんですから。
「っ!」
ねぇアーサーさん。あの時、本当に私の事を考えて行為に至ったなら、気持ち悪くなんてないです。嬉しいです。とっても。貴方が想像できないぐらい嬉しかったんです。私って、長年生きている癖に引っ込み思案な性格だけは直らないので…積極的なのが気持ち悪いだなんてあるわけ無いじゃないですか。
「貴方の事が嫌いだなんて、あるわけ無いじゃないですか、!」
結局、顔を上げたら泣いてしまった。我慢したのは無駄だったな。なんて思いながら、会話を続ける。
「気持ち悪いだなんて思ってません!嬉しかったんです…、とても、好きな人から手を出されて気持ち悪い訳ないでしょう、!?」
「すっ、!?」
私は彼の胸にすがった。恥ずかしいと思っていたスキンシップも今はどおってことない。この思いに比べたら、ハグぐらい造作もなかった。
「私、貴方のことが好きなんです!大好きなんです、!」
「だから離れないで下さい……嫌わないでくださいアーサーさん、私、貴方の事になると胸が苦しくなっちゃうんです…ねぇアーサーさん、責任取って下さいよ…っ…!」
「貴方も私と同じ気持ちなら、好きってちゃんと言って下さいよ…!」
言いたかったことが洪水のように口から出てくる。
貴方だけなんです。ここまで私を夢中にさせておいて、好きじゃないなんてこと言わないで下さい。遊びだったなんて言い訳も聞きたくないです。
私はまだ、貴方の特別になれますか…?
悲しみをこらえながら、唇を噛みアーサーの目を見つめた。
彼の表情は驚いたように、ぽかんと口を開けたまま固まっていた。
悲しさと苦しみのあまり、私は彼の胸にすがりながら下を向いた。
少しの間が経った頃、彼の声が聞こえた。
「菊、顔を上げてくれ」
「…………嫌われるので嫌です」
「嫌いになんてならねぇよ」
「……本当ですか?」
「あぁ。」
恐る恐る顔を上げた。その瞬間、彼と目があった。彼の綺麗な瞳には私が写っている。
あぁ、今、彼の目には私しか写っていないんだ。私しか見ていない。その事実だけで嬉しさが込み上げてくる。
「やっとこっち向いてくれたな」
「こんなに泣いちゃって……かわいい顔が台無しだろ?」
そう言い、私を慰めるかのように、彼は人差し指で涙をすくった。
「俺だって、お前を嫌いだって思ったことなんて一度もねぇよ。逆に愛おしすぎるぐらいだ」
「……私もです。」
「ごめんなさい、私…貴方に酷いことを沢山言ってしまいました。思ってもないことを……ほんとにすいません、」
彼にすがる私を受け止めるかのように、彼は私を優しく抱きしめた。
「それ聞いて安心した。……拒絶されたかと思った。」
「そんな訳ないです。絶対」
食いつくかのようにすぐ否定した。拒絶なんて絶対するわけない。それぐらい大好きなのだ。好きで好きで、たまらなくて。
「俺、お前が思ってるより嫉妬深いぞ」
「逆に愛おしいです」
「スキンシップだって沢山するし、重いぞ」
「お互い様です」
彼は私の額にキスを落とした。それは愛の証明だ。つけられたことが嬉しく、私の彼への思いは強くなる一方だった。
「すっげぇ好き。大好き。幸せすぎる」
私の頭部をおさえながらさっきよりも強い力で抱きしめられた。猫を吸うかのように、私の肩に顔を埋め、愛を呟いてくる。
「私もです。ずっと一緒に居てくださいね」
「当たり前だ」
「ずっとですよ?」
「あぁ」
「乗り換えたりしないでくださいよ?」
「ぜってーしねぇ。一生菊だけだ」
もうこの人なら大丈夫だ。安心し体に力が抜け、座り込んでしまった。「大丈夫か?」なんてまた聞かれ、今度は自信を持って「大丈夫です」と答えた。
「今日はもう休もう。夕飯は俺が作ってやる」
「え、いえ、私が作りますよ!」
「……そうだよな、俺、料理下手だし……」
「あ、いや、……その、」
「夕飯はやっぱり、嫁が作るものでしょう…?」
少し恥ずかしいセリフを言ってみたが、本心だとしてもやっぱり恥ずかしい。照れた顔を隠しながら、指の隙間から彼を覗き込んだ。
その顔は満面の笑みに変わっていた。
「そうだな…嫁だよな…菊は俺の嫁なんだ、」
彼が喜んでくれるなら、言ってみて良かった。
コメント
1件
嫁、、、ウヘヘ