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テラーノベル(Teller Novel)
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夜ずっと降り続いていた雨も止み、元気よく顔を出した太陽がギラギラと輝いている朝だった。

なぜかスっと起きれた自分は下段で寝ている片割れを起こさないようにゆっくり降り、部屋を出ようとした。 チラッと片割れの方を見ると、規則正しい寝息とともに寝返りをうっているのが見える。 、 俺は静かにドアを閉めた。

珍しく遅刻をしないですむ朝の日番の集合に、先生に褒められる近い未来まで見えた。いつもより大分早い登校に少しだけ気分が上がる。

無言で朝の支度をし、カバンを持ち、靴をトントンと履けば”行ってきます” と呟き、逃げるように家を出た。

しばらくして稲荷崎高校に着くと案の定先生に褒められた。『せやろっ』と少しドヤ顔で言う俺に『当たり前のことやけどな』と大笑いする先生、 周りの日番の人もクスクスと笑っている。

“皆して笑うなやっ!!” と大声を上げたもんだから、余計に周りは笑いが止まらないようだった。

その中で一人、みんなと同様にクスッと笑っているのは、少し短い髪の金髪の、身長は高めで、瞳の色は茶色の治の彼女だった。身長高いて言うても、俺らより大分低いぐらいの。

『侑君って面白いねっ』と笑顔で言ってくるソイツに、俺は恐怖を覚えた。

彼氏が居るのにも関わらず、

話す時の距離の近さや、意識してるであろう上目遣い、自慢なのだろう。少し他の女よりもある胸を強調させて俺の方を見る。

キュンっとくるどころか、吐きけしかしない俺は

ソイツのことを無視して男が固まっているところに向かった。

サム、あんな奴のどこが良かったんやろ。

全然理解できないと強く首を左右に振る俺に、あの女は不思議そうに俺を見つめてからニコッと微笑んだ。 寒気しかしなくてブルっと身体を震わせたことも知らずに_______



しばらくして銀が登校してきた。

『お、侑今日間に合ったん? 早いやん。 おはよぉさん!!』

『せやねんっ!おはよぉ〜!』

元気よく返事をする俺に銀は”何や、今日めっちゃ機嫌ええやん” と微笑んで俺の前の席に座った。

全然、むしろムリしかしてないけれど、周りにそう思われているなら良かった。 変な心配をかけないですむから。

それから銀の昨日家で起きたハプニング事件の話を聞いて、今日は担任が休みらしく、1時間目の授業はホームルームになったという知らせを聞き

喜んでいいのか悪いのか、銀と顔を見合わせて少しガッツポーズをした。




その時治が教室の前を通り過ぎたかと思うと、俺と目が合っては『ツム』と呼んだ。 普通に。

いつも通りという感じで呼んだんだ。

“忘れかけていた頃になんや…”

と思ったが、治の手元を見ると俺の弁当袋がぶらさがっていた。

確かに俺は完全にお弁当の存在を忘れていたし、治が届けてくれるのも何や不思議なことではない。

ただ昨日あんなにも話してないような状況で、普通に名前を呼んで取りに来るように言うか?とは思った。 ドアの近くにいる子にでも『これ、ツムに渡してくれへん?』と言ってその場を去るのが普通ではないか。少なくとも俺ならそうする。まぁ、そんな事を心の中で思っていても何も変わらないので普通にいつも通り接した。

『あっ、サム〜!!あんがとー!忘れてもたっ、て思ってたとこやねーん 』

いつも通りできている自分を褒めて欲しい。ホントに。

『アホやろ。俺がどっちも食べたろ思ったわ 』

と一言余計なのも変わらない。

『うっさいわっ!はよ、教室行けや!!』

んべっ

と舌を出せば、なぜか少しフッ と笑い、

『言われんくても行くわ。これからは忘れんよォにな、 ホンマに俺が食うでー。 』

と、やっぱり鼻につくような言い方で去っていく片割れの背中を見送ってから、また自分の机へと戻った。

なぜだろう。昨日の夜に話さなかっただけなのに、物凄く久しぶりに話したように感じた。そしてその話せたことを少し嬉しいと思った俺の情緒はどうなのか…。不安定すぎるといっても過言ではないだろう。

それからあれだ。治の笑い方が好きだ。少し目を細めて俺を見つめて、少しだけ口角が上がる、そんな笑い方。俺よりも少しおとなっぽい雰囲気をまとっている治に思わず息を飲む__俺にしか見せない顔だった。


普通に接してこんでほしい…、サムの事を忘れようと必死なんやって、こっちは。わかってや…

そんな事を心の中で思いながら、サムから受けとったお弁当袋をギュッと握る。 少し顔に熱が籠っているのも自覚している。

結局今日も、1日アイツのことを考えなければいけないのだろう_________

今日も昼食の時間がやってきた。

勿論隣のクラスから角名が一人でやってくる。

窓から外を見ればいつもの場所に治と彼女さんが居る。 『今日も治は彼女と_____』なんて言う銀の言葉は、何回聞いたことやら。

2人を見ていると女の方がカバンからごそごそと何かを取り出した。それは、可愛く丁寧にラッピングされた調理実習で作ったであろうクッキー。しかもピンク色でハートの。

甘ったるそうな色に俺は不満しかなかった。

(サムはいちご系はあんま好きやないのに。なんも知らんやん。あの女。)

そして治も治だ。

苦手なものは苦手って言えばええのに、

甘ったるすぎるのは嫌いってはっきり言えばええのに、

なんで丁寧にお礼を言って笑顔で受け取ってしまうのか…

気づけば俺を呼び止める銀たちの方も向かず治と彼女さんのところへと走っていた。。



今食べて、感想聞かせて、

と、ウザイ治の彼女。

何が好きで “くそだるい女に付き合って、あまり好きやない系の菓子を食う片割れ、片思いの相手”を見ないといけないのだろう?

そんなん目の前でマズッとか、言えるわけないやんか、サムが。

んまぁ俺はやったことあるとかは言わんけど…

体の底からふつふつと怒りが湧いてくる。

この女を知れば知るほど。サムのことを好きになればなるほど、叶わない恋を呪って、双子だと言うことを武器にする。


俺はその2人の前に立って、サムからクッキーを奪い、残ってるやつをすべて己の口に放り込んだ。予想通りサムの嫌いな甘ったるい味がした。

『つ、む?』キョトンとした顔で見つめる治をよそに女に言ってやった。

『彼女さんスマンなぁ。こいつ、こーゆー甘ったるいイチゴ系の菓子、むっちゃ嫌いやねん。作るんなら、甘ったるいやつ以外のにしたってや。後、彼氏の苦手なもん知らんとか、彼女としてどぉなん?笑 しかも、 歪な形やし、笑 よォサムに渡せたな~? 笑 』

と 、笑顔で告げる。正確に言うと目は笑っていないが。

半分泣きそうになっている治の彼女と裏腹に、怒った表情で俺を睨んでくる治。 朝とは違う雰囲気の治に、俺の心臓はズキッと鳴った。

『おい、ツム。人のやつ勝手に食べといてその態度なんなん? 失礼にも程があるやろ。謝れや。 』

うぇぇん、 と 誰が見ても嘘泣きだとわかる感じで治に抱きついた彼女。

『なんで謝らなあかんの??ホンマのこと言っただけやん。 あと、女、 嘘泣きキモイからやめ?? 』

すると治が立ち上がり俺の胸ぐらを掴んた。

『お前、ホンマ何なん?、 女泣かせて楽しいんか? もうコイツに関わんな。』

そして立ち去っていく2人。

そうだ、これで良かった。

女に嫌われて、

治に嫌われて、

そしたらいつか俺の治への思いはなくなると思うから。





あれ、



なんでやろ。




涙が止まらへん。







女の方に行かんといてほしい。

俺のそばに居てほしい。

『さm……』

と片割れを呼び止めようとした時、俺の事を背後から優しく抱きしめた奴がいた。驚いて振り返ると、そこには角名がいた_____

『角名っ…!?』

彼は俺の涙を服で拭って、『治ばっかじゃなくて、そろそろ俺の気持ちにも気づいてよ。 ばーか。 』と少し微笑み、ぽすっと タオルで顔を隠してくれた。

『へ、? 角名の気持ち…』と、疑問符を浮かべると、何でもなーい。と棒読みでそう答える。


『ほら、もうチャイムなるよ?、 行こ。』

そう述べ俺の袖を掴み、歩き出した。

なぜか教室と真反対の方向へ。

『角名っ、そっちちゃうで?、』

『 分かってるって。 二人でサボろ。次の時間だけ』

袖を掴んでたはずの手はいつの間にかしっかりと手を握っており、 屋上への階段を登っていく。



さっきまで寂しい、 つらい、 と思ってた気持ちは少し軽くなり、優しくしてくれる角名に甘えてしまいそうになる。

屋上へ入ると同時に、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

『こーゆー感じで授業サボるのはじめて(笑』

なんてへらっ と言う角名に俺も少し微笑み返した。

『角名、すまんっ。 タオル、濡らしてもた 』

ギュッとタオルを握ると “別にいーよ。 洗って返してくれたら” と、やっぱり愛おしそうに俺を見つめて言う。

『ぁぁ、アカンっ。 角名が優しすぎて泣いてまいそぉ~』

なんて言ったら、 『 もう泣いてんじゃん。何言ってんの?』と、 2人で笑いあった。

しばらく他愛もない話をして、さっきの出来事を忘れることが出来るぐらいには楽しんでいた。

授業終わりのチャイムがなる。

『 そろそろ、戻ろっか 』

と 言った角名に 俺は『 もっとここにおりたい… 』と甘えた声で述べた。

少し驚いた表情をした角名は、俺と同じ目線になって『じゃあさ、これから屋上で食べようよ。 銀も入れて3人で。 そしたら治が目に入ることはないでしょ? 』と言う。

確かにそうだと思った。

俺は了承して、自分の勝手な都合で角名をずっと付き合わせることも迷惑だと思い、素直に頷いた。

『 ん 。 いい子 。 』

俺の頭を撫で優しく微笑む 。

話の流れ的に、角名は俺の事が好きなんだと言うことが分かった。 別に嫌いじゃないし、どちらかというと大好きだ。 けどそれは恋愛じゃなくて多分、親友として。 そう思うとなんとも言えない、複雑な気持ちになる。

けど、今はちょっとだけ角名を利用させて欲しい。 あいつの事を忘れることができるまで、好きじゃなくなるまで、俺を支えて欲しい。一方的な愛は辛いから、少しだけ心の拠り所にさせて欲しい。 何て、やっぱ俺人でなしなんかな?

それとも“ それでもいいよ。 “ 何て言う角名の方がおかしいんだろうか?、?、

よく分からないがアイツの事を忘れることができるのなら何でもいい。本気でそう思い、2人で階段をおりる。 2年1組の前まで来た時角名がボソッと呟いた。

“ 侑に協力はするけど、 俺 、侑が思ってるより良い奴じゃないから。 気をつけてね? “

んじゃ 。 と俺に手を振り立ち去った角名を、俺は見つめることしかできなかった。

その言葉の意味を理解するのはまだ先の話で、

俺はきょとん とするしかなかった。______










𝓽𝓸 𝓫𝓮 𝓬𝓸𝓷𝓽𝓲𝓷𝓾𝓮𝓭…

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