テラーノベル
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温泉リゾート施設での戦いは、いよいよ大詰めを迎えていた。
だが、決戦は対等な条件で行われない。
これは地の利を生かした結果であり、命の取り合いをする上で非難される類のものではなかった。
7番ギッド・ガードナーは「敵の排除」と言う明確な目的を持ってはいるものの、その任務に命をかけるような情熱は持ち合わせていない。
上官に文句を言われない程度の仕事をすれば、あとは好きにやるのが彼の流儀。
既に充分に敵部隊の足を止めている7番にとって、「最低限の仕事」は果たされたのである。
仮に敵部隊の何某かが転移スキルでも使ってヴァルガラに行ったとしても、7番は胸を張って言うだろう。
「オレはやれるだけの事をやった。あとは上位ナンバー様たちの仕事だろ」と。
それよりも、今は目の前にいる日本探索員協会の生きる伝説・久坂剣友監察官である。
7番は本当に久坂の事を尊敬しており、敬愛していた。
国際探索員協会出身の彼だが、駆け出しの頃にそこの教えを申し訳程度に学んだのち、久坂流の教本を読みふけり、久坂流を習得すべく汗を流した。
久坂流は非常に癖のある流派であり、扱う人間を選ぶ。
彼の監察官室に所属する人間が少ないのはそのためである。
だが、皮肉なことに7番と久坂流の相性は抜群と評しても良いレベルであり、彼はそれをほぼ完ぺきに自分のものにしていた。
さらに長い時を経て、肩書をアトミルカナンバー7に変えて、ついに出会う。
憧れの存在と。
7番の精神は激しく高揚していた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「おい、見てくれよ久坂剣友! オレの槍術!! おらぁ! いくぜ!! 『玄武一閃』!!」
「ぬおっ!? こやつ、ワシの槍術をマジでマスターしちょるで……。なんちゅうか、自分の動画見せられよるみたいで気色悪いのぉ」
今回の久坂の装備は籠手であり、ダンジョンでは主に鳳凰拳を使用していた。
鳳凰拳と槍術の相性は結構な勢いで最悪である。
それを察した四郎が、作業を中断して久坂に【黄箱】を投げる。
「久坂さん、それを使ってくだされ! そこそこの業物ですじゃ!」
【黄箱】の封印が解かれると、一振りの槍が現れた。
『山女魚刺し』と言う名の槍は、四郎が周回者時代に転生した先の異世界で鍛冶職人が鍛えた無銘の逸品。
「ほぉ! こりゃあ助かるわい! 四郎さんはまるでドラえもんじゃのぉ!」
「ハハッ! 久坂剣友と槍で戦えるとは! アトミルカにも入ってみるもんだ!! だが、外野は引っ込んでな! 邪魔だ!! 『ガンズ・ストーンバレット』!!」
四郎に向かって7番のスキルが迫る。
だが3倍の重力下とは言え、この男もまだまだ健在。
「四郎さんはお気になさらず! っりゃあ! 守勢・伍式! 『梟の翼』!!」
「なんだよ。あいつも結構やるな。お手本みたいな受け流しスキルだ。まあ、いいか。今は久坂剣友に集中するとしよう!」
「のぉ。55の。ものっすごい見られちょるんじゃが。これをストーカー言うんじゃないんか? まさかワシ、この年になってそがいな被害に遭うっちゃあ思いもせんかったで……」
「確かにそうかもしれん! 久坂剣友、ストーカーの対処は断固とした拒絶だと聞く!!」
7番が槍を構えて口笛を吹く。
「つれない事を言うなよ。せっかく会えたんだ。楽しもうぜ!!」
「おー。嫌じゃ。せめて相手が女子じゃったらいくらかマシなんじゃがのぉ。……と、いかんいかん。こりゃあ、令和のご時世に怒られるところじゃったわ」
久坂も四郎から受け取った槍を構える。
久坂流と久坂流亜種の打ち合いが始まった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
久坂流槍術は薙ぎ払いと突きの2点に特化した戦法であり、攻防に隙のないスタイルは無類の強さを誇る。
「ハハッ! 楽しいなぁ! おい! さすが、本家の槍捌きは鮮烈だ! あんた、全然年齢を感じさせないな!! おらぁ!!」
「こがいな小僧にやられるほど耄碌しちょらんわい! ひょっひょ! 足元がお留守じゃぞ!! そいやっ!!」
7番は「待っていました」と言わんばかりに口元を歪めて、久坂の払いをさらに重ねて払った。
「あんたの教本に書いてあったスキルだぜ!! 『玄武転輪』!!」
「ぬぅ! 自分の考えた技で攻撃を返されるの、ものっすごい腹立つのぉ。完成度が高いところもイライラポイントじゃわい」
槍同士の攻防戦は一進一退の様相を呈し始める。
だが、実のところ3倍の重力下で互角の戦いを見せている久坂剣友監察官。
つまり、本来の実力はこの老人の方が格段に上なのである。
それは7番も理解している。
理解した上で狡猾な罠を仕掛けているところが実に憎たらしい。
「55の!」
「了解した、久坂剣友!! 『ローゼンクロイツ』!!」
「また目くらましか!! 何度もその手は食わないべっ!?」
「ひょっひょっひょ! 恥ずかしいヤツじゃのぉ! 普通にバラの花束を顔面に喰ろうちょるわ!! お主、まだまだ青いのぉー。探索員も中途半端で辞めたんじゃろ? 結局、ひとつの事を極められん者にゃ、どこの流派を学んでも免許皆伝にゃあ至れんもんじゃけぇのぉ!」
「ハハッ! 言ってくれるぜ!! 『玄武回閃』!! おまけだ! 『ライトカッター・スライサー』!!」
「ふぅむ。筋はええんじゃがのぉ。それだけに残念じゃ」
久坂は本気を出せば、あるいはこの重力下でも7番に勝てていたかもしれない。
だが、現在は作戦行動中。
他の部隊の状況が不明な現状、少しでも余力を残して作戦を遂行し、速やかに救援へと舵を切る事こそが肝要。
ならば、久坂剣友とて正々堂々にはこだわらない。
「久坂さん! 準備できましたぞい!! そりゃあ! 『男郎花』!! 最大出力!!」
「四郎さん、自分の煌気も使ってください!!」
「ほっほっほ! 助かりますじゃ!! さあ、呪いの斧よ! この場の煌気を全て吸い尽くすのじゃて!!」
今回の作戦で完全に市民権を得た異世界生まれの呪いの斧、『男郎花』である。
この斧が吸い取るものは煌気。
つまり、煌気力場も例外にあらず。
ガガガガと不気味な音を立てながら、重力属性の煌気を『男郎花』が吸い込み続ける。
これは無差別発現に限りなく近いものであり、敵も味方も関係なしに斧は煌気を吸収し続けるため、時間の経過とともに弱い者から倒れていく。
「うぉぉぉぉっ!! 私の全煌気を使い、仲間を守る!! 『ローゼンシルト・茨』!!」
55番の発現する薔薇の防御膜が、久坂隊のメンバーを覆い隠す。
ならば、全ての条件は整った。
「小僧。特別に本家の久坂流槍術を見せちゃろう!! 一突きで全てを砕く、これが久坂流槍術の奥義よ!! その身で味わうとええで!! 『玄武甲羅割り』!!」
「なんだ!? そんなスキル、教本にはなかったぞ!! 『玄武一閃』!! がぁっ!? 押し負けるだと!? ぐあっはぁぁっ!!」
7番の体が宙に浮き、そこに久坂がトドメの連撃を加えた。
「当たり前じゃろうが。奥義までご丁寧に教本に書いてどがいするんじゃ。奥義っちゅうもんはのぉ、本当に信頼できる弟子にだけ教えちゃるもんなんじゃ。おお、もう聞こえちょらんか。やれやれ。モノマネはやっぱり歌合戦に限るのぉ。自分のマネするヤツはお腹いっぱいじゃわ」
7番ギッド・ガードナーは久坂剣友監察官の前に完敗。
壁に叩きつけられた彼は力なく倒れた。
そののち、22番が代表として投降を申し出る。
無論、それを受け入れるのが久坂隊。
アトミルカ殲滅作戦。
同時侵攻が行われている中、久坂隊が一番手で敵拠点の制圧に成功した。
「おー。もしもーし。本部ー。聞こえちょるかー」
『わ、私です! 雷門です!! 大丈夫です、まだやれます!! やらせてください!! こっちか! このボタンだな!! あ゛あ゛あ゛っ!!』
その報告が楠木後方防衛司令に届くまで、10分少々の時を要するのであった。
五木友人
9,953
#現代ダンジョン
夜鐘
997
裏五条
19,334
コメント
1件
わあ、472話、お疲れ様でした! 久坂監察官の「自分のマネされるの腹立つ」発言、めちゃくちゃわかります(笑)弟子が増えない理由も納得のキャラ立ちでした。それにしても、ギッドさんの久坂へのリスペクトと「最低限やればいい」スタンスのギャップが絶妙で、憎めない敵役だなあと感じました。 四郎さんの異世界武器『男郎花』が重力フィールドを吸い込む展開、痺れましたね…!作戦の鍵になる伏線回収、とても気持ちよかったです。最後の雷門さんの通信オペレーター大奮闘も微笑ましくて(笑) 次の展開が待ち遠しいです!