テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
59
41
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
病院の朝は静かだった。
カーテンの隙間から光が入る。
ベッドの上で伊吹藍は眠っている。
そしてその横。
椅子に座ったまま、志摩一未は目を閉じていた。
一晩中起きていたせいで、
少しだけうとうとしている。
コンコン。
ドアをノックする音。
志摩が目を開ける。
看護師だった。
「少し診察をします」
志摩は頷く。
椅子から立つ。
その瞬間――
伊吹の指が動いた。
志摩の服を掴む。
志摩は振り返る。
伊吹の目が、うっすら開いていた。
「……あ……」
志摩は静かに言う。
「ちょっと外す」
伊吹はぼんやり見ている。
理解しているか分からない。
志摩は指をそっと外し頬を優しく撫でる。
「すぐ戻る」
そう言って部屋を出る。
ドアが閉まる。
静寂。
数秒後。
ベッドの上で伊吹がゆっくり目を開ける。
視界がぼやける。
天井。
白い部屋。
そして――
志摩がいない。
伊吹の呼吸が止まる。
「……」
身体を起こす。
急に心臓が速くなる。
「……し……」
声が震える。
ベッドから降りる。
ふらつく。
でもドアへ向かう。
「……し、……?」
廊下へ出る。
人はいる。
でも志摩はいない。
胸が締め付けられる。
「……っ、は…はっ…」
呼吸が速い。
足が止まる。
今すぐにでも志摩を探したいのに足が言うことを聞かない。
もどかしくて、辛くて、不安で、寂しくて、
どうしようもなくうずくまっていた。
その時。
「伊吹」
低い声。
伊吹が振り向く。
そこに――
志摩一未がいた。
伊吹の肩から一気に力が抜ける。
「……し……」
志摩は少し驚いた顔。
「なんで出てる」
伊吹は答えない。
ただ志摩の服を掴む。
志摩はため息をつく。
「……5分だ」
伊吹は離さない。
志摩は軽く頭をかいた。
「戻るぞ」
そう言って伊吹の肩を支える。
二人で部屋に戻る。
ベッドに座らせる。
伊吹はまだ志摩の服を握っている。
志摩は少しだけ笑った。
「逃げねえよ」
伊吹は小さく言う。
「……し」
志摩は頷く。
「ここ」
それだけで伊吹は少し落ち着いた。
「だいじょうぶ、だいじょうぶ。」
そう言って優しく頭を撫でる。ほかにも、
目元を親指で撫でたりして。
撫でられている間伊吹はずっと、志摩を見つめていた。
何かを思い出すように。
あれから1週間。志摩一未は変わらず病院に通った。
病室のカーテンの隙間から、午後の柔らかい光が差し込んでいた。
ベッドに座る伊吹は、まだ完全には回復していない。
目は虚ろで、外の景色をただぼんやりと見つめているだけ。
声も言葉もあまり出さず、呼吸もゆっくりと、まだ少し乱れている。
それでも確実に回復していると志摩一未は確信していた。
ベッドの横に椅子を置き、静かに座る。
手元に何もせず、ただ伊吹を見つめている。
数分の沈黙の後、志摩が低く言った。
「……外、行く?」
伊吹はゆっくり視線を外に戻す。
言葉はまだ出せないけれど、わずかに頷く。
志摩はその微かな反応に小さく息を吐き、立ち上がる。
「よし、行こう」
手を差し出すと、伊吹は指先でそっと触れる。
ぎゅっと握らなくても、志摩の存在を確かめるように。
廊下に出ると、外の光が少し眩しい。
風がカーテンを揺らす。
伊吹はまだ目が虚ろだが、風に当たる顔は少しだけ表情が柔らかい。
志摩はそっと伊吹の腕を支えながら歩く。
「ゆっくりでいい」
「息、整えろ」
伊吹は小さく息を吸い、吐く。
まだ言葉は出せないけど、目が少しずつ外の景色に反応し始める。
木の葉が揺れるのを見て、指先がわずかに動く。
散歩から戻ると、二人は再び病室で座る。
志摩は椅子に座り、伊吹の横でただ静かに過ごす。
伊吹は外の景色を眺め、まるで考え事をしているかのように虚ろな目をしている。
志摩はそっと伊吹の手に触れる。
「ゆっくりでいい」
「俺はずっとここにいるから」
伊吹は微かに手を握り返す。
まだ言葉は出ないけど、心が少し落ち着いたのが分かる。
安心と、まだ残る不安が入り混じった目で、志摩を見上げる。
志摩は微かに笑った。
「焦らないでいいから」
伊吹は小さくうなずき、また窓の外をぼんやりと見つめる。
外の光と風を感じながら、心の中で少しずつ、失われた感覚を取り戻していく