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ジ
21
4,285
病院の朝は静かだった。
カーテンの隙間から光が入る。
ベッドの上で伊吹藍は眠っている。
そしてその横。
椅子に座ったまま、志摩一未は目を閉じていた。
一晩中起きていたせいで、
少しだけうとうとしている。
コンコン。
ドアをノックする音。
志摩が目を開ける。
看護師だった。
「少し診察をします」
志摩は頷く。
椅子から立つ。
その瞬間――
伊吹の指が動いた。
志摩の服を掴む。
志摩は振り返る。
伊吹の目が、うっすら開いていた。
「……あ……」
志摩は静かに言う。
「ちょっと外す」
伊吹はぼんやり見ている。
理解しているか分からない。
志摩は指をそっと外し頬を優しく撫でる。
「すぐ戻る」
そう言って部屋を出る。
ドアが閉まる。
静寂。
数秒後。
ベッドの上で伊吹がゆっくり目を開ける。
視界がぼやける。
天井。
白い部屋。
そして――
志摩がいない。
伊吹の呼吸が止まる。
「……」
身体を起こす。
急に心臓が速くなる。
「……し……」
声が震える。
ベッドから降りる。
ふらつく。
でもドアへ向かう。
「……し、……?」
廊下へ出る。
人はいる。
でも志摩はいない。
胸が締め付けられる。
「……っ、は…はっ…」
呼吸が速い。
足が止まる。
今すぐにでも志摩を探したいのに足が言うことを聞かない。
もどかしくて、辛くて、不安で、寂しくて、
どうしようもなくうずくまっていた。
その時。
「伊吹」
低い声。
伊吹が振り向く。
そこに――
志摩一未がいた。
伊吹の肩から一気に力が抜ける。
「……し……」
志摩は少し驚いた顔。
「なんで出てる」
伊吹は答えない。
ただ志摩の服を掴む。
志摩はため息をつく。
「……5分だ」
伊吹は離さない。
志摩は軽く頭をかいた。
「戻るぞ」
そう言って伊吹の肩を支える。
二人で部屋に戻る。
ベッドに座らせる。
伊吹はまだ志摩の服を握っている。
志摩は少しだけ笑った。
「逃げねえよ」
伊吹は小さく言う。
「……し」
志摩は頷く。
「ここ」
それだけで伊吹は少し落ち着いた。
「だいじょうぶ、だいじょうぶ。」
そう言って優しく頭を撫でる。ほかにも、
目元を親指で撫でたりして。
撫でられている間伊吹はずっと、志摩を見つめていた。
何かを思い出すように。
あれから1週間。志摩一未は変わらず病院に通った。
病室のカーテンの隙間から、午後の柔らかい光が差し込んでいた。
ベッドに座る伊吹は、まだ完全には回復していない。
目は虚ろで、外の景色をただぼんやりと見つめているだけ。
声も言葉もあまり出さず、呼吸もゆっくりと、まだ少し乱れている。
それでも確実に回復していると志摩一未は確信していた。
ベッドの横に椅子を置き、静かに座る。
手元に何もせず、ただ伊吹を見つめている。
数分の沈黙の後、志摩が低く言った。
「……外、行く?」
伊吹はゆっくり視線を外に戻す。
言葉はまだ出せないけれど、わずかに頷く。
志摩はその微かな反応に小さく息を吐き、立ち上がる。
「よし、行こう」
手を差し出すと、伊吹は指先でそっと触れる。
ぎゅっと握らなくても、志摩の存在を確かめるように。
廊下に出ると、外の光が少し眩しい。
風がカーテンを揺らす。
伊吹はまだ目が虚ろだが、風に当たる顔は少しだけ表情が柔らかい。
志摩はそっと伊吹の腕を支えながら歩く。
「ゆっくりでいい」
「息、整えろ」
伊吹は小さく息を吸い、吐く。
まだ言葉は出せないけど、目が少しずつ外の景色に反応し始める。
木の葉が揺れるのを見て、指先がわずかに動く。
散歩から戻ると、二人は再び病室で座る。
志摩は椅子に座り、伊吹の横でただ静かに過ごす。
伊吹は外の景色を眺め、まるで考え事をしているかのように虚ろな目をしている。
志摩はそっと伊吹の手に触れる。
「ゆっくりでいい」
「俺はずっとここにいるから」
伊吹は微かに手を握り返す。
まだ言葉は出ないけど、心が少し落ち着いたのが分かる。
安心と、まだ残る不安が入り混じった目で、志摩を見上げる。
志摩は微かに笑った。
「焦らないでいいから」
伊吹は小さくうなずき、また窓の外をぼんやりと見つめる。
外の光と風を感じながら、心の中で少しずつ、失われた感覚を取り戻していく
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