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『僕の神様』『満ちてゆく』の続編です!
もし、読んでいない方がいらっしゃいましたら、先に上記の作品を読んでいただけると幸いです!
暮らしていた山を降りる。そこには、見たことのない景色が広がっていた。
シュウは僕の知らない呪文を唱えた。
「???」
意味が分からず困惑していると、可笑しそうに笑った。
「これでミスタは透明だよ」
「おぉ!シュウは俺が見える?」
「うん、僕はね」
優しく笑うその顔は、懐かしい感じがした。
シュウについて行くと、知らない景色が多く広がっていた。
木より多くの建造物があって、それはものすごく高かった。
呆気に取られて、上を見上げてはシュウを見ていると、可笑しそうに笑われた。
「すごいでしょ?」
黒い艶やかな髪から色白い顔が見えてくる。
…母様。そう、言いそうになった。
急に黙ってしまったから、シュウは顔を覗き込んだ。
「どうした?疲れた?」
精一杯の笑顔で応える。
「ううん、だいじょーぶ!」
シュウが笑い返してくれて、少し眠たくなった。
シュウは道中たくさんの事を教えてくれた。人間のこと、シュウの仕事のこと、新しい土地のこと。
それから、母様のこと。
母様は天の使いなんだって。だから、本当は天界にいなきゃいけないんだけど、森や精霊を守るのに必要以上にこの世にいた。だから、シュウが還したんだって。シュウは人間。呪術師って職業なんだって。でも、精霊と呪霊の力と言葉が使えるんだって。
新しい土地は精霊が少なくて、森の環境が良くない。だから、半精霊が2人いれば1人分。そうやって笑ってくれた。ふたりじゃなきゃいけないんだ。
大きな建物を越えて、たくさんの畑を越えて、目の前には大きな山々が連なっていた。
道という道はなく、深い緑の中には、深い霧が視界を遮っている。
シュウは手を繋いで、一歩一歩ゆっくり進んでいく。
やがて、獣道を見つけた。シュウは安心したようにその道を辿っていく。
「大丈夫だよ!前に1回来たからね!」
形骸化した神社の横に住むそう。
神々が暮らしていたところなら、大丈夫。そう思えた。
やがて、苔むした灰色の鳥居が見えてきた。
「あった!これだよ!」
鮮やかな笑顔の上に光が見えた。
湿気と霧で見えていなかった日光がシュウを照らしていた。
その瞬間、1羽の青い鳥が視界に入った。
何となく、ミスタは手を差し伸べた。
「…おいで」
いつになく、優しい声で。
その鳥は、ゆっくりゆっくり、疑いながらミスタに近づく。
羽が触れる予感がする。羽がふわりと手にあたり、爪から足へ体温を伝えてくれる。
「はじめまして」
眩い光の中、柔らかな笑顔を浮かべた。
その瞬間を見ていたシュウは、切ないような嬉しいような笑顔で言った。
「神様みたいだ」
その言葉にシュウもミスタも固まってしまった。
なんと言えばいいのか、分からなかったのだ。
想いが果てるのは、まだずっと先なんだな。
青い鳥は、パタパタと光の中へ飛んでいってしまった。
輝かしい光の間に重い静寂が流れる。
向かい合った2人は、お互い困った顔をしていた。
「…家に入ろっか」
先に静寂を破ったのは、シュウだった。やるせない顔で微笑んで見せた。
ごめん。
そう言いたげに。
「…うん!」
ミスタは必要以上の大きな声で言った。このままだと泣いてしまいそうだから。シュウの笑顔を見間違いたかった。
ミスタにとって、家に住むのは初めてだった。
母様の結界に守られ、豊かな自然に身を任せて来たからだ。
そんなミスタを思って、シュウは結界を張った。
まだミスタは時々空を見上げる。
その隣にはよく、野生動物がいた。
あの青い鳥だったり、野うさぎを抱えていたり、足元に鹿がいたり…。
何かを求めているような、探しているような…。
声をかける度になんでもないみたいな笑顔を向けるから、何も言えなくなってしまう。
ミスタの彷徨っているような瞳が、シュウにはどうにも落ち着かなかった。
考え抜いた末、シュウはミスタを隣に置き、ミスタも知っている呪文を詠いはじめた。
「…母様」
ミスタの瞳は一気に潤んで行った。
それは、神様もよく唱えていた呪文であった。
精霊を呼び出す呪文。
神様が幾千、幾万、幾億年積み重ねてきた大切な呪文。
やがて、精霊の欠片がやってくる。
白くて丸くて半透明のほわほわしたやつ。
ミスタの潤んだ瞳は、みるみるキラキラと輝いていく。
風はハーモニーを生み、靡く草はリズムを奏でる。そんな光の中、シュウの呪文は詠われた。幾つにも重ねられた旋律がミスタの胸に届く。
…いつか、この景色も失ってしまうんだろうか。
…また、シュウを奪って行ってしまうんだろうか。
…今度は、俺が消えてしまうんだろうか。
煌めきと輝きの間にそんな考えがよぎった。それでもシュウが笑ってこっちを見つめるから、思わずミスタも笑みが溢れた。運命を変えることは出来ない。それはずっと前からわかってた。でも、シュウが居てくれるなら、この景色、この笑顔、この温度はきっと、ずっと、忘れられない物語に_
シュウは度々、隣で寝ているミスタの指先と自分の指先を絡めている。
その寝顔は、昼間と同一人物とは思えないほどに、透き通っているから。
シュウは小声で呪文を唱えた。
そうすると、紫色の瞳に炎が灯った。
ゆらりと移ろう炎。視線の先にはミスタがいる。
シュウが詠ったのは、『思考共有』の呪文。シュウはミスタの夢に触れ、いつも気を回している。
ミスタの夢は…、いつも同じだ。神様が木の下で僕達を見守り、僕がミスタを追いかけている。眩しい陽の光に精霊達が喜んでいて、心地よい温度の結界。
ずっと心に刻まれた想い。ミスタは滅多にそれを出さない。でも、こだまだけが響いているんだろう。ミスタの思いの核はこの記憶なんだろうか。勝手に確認して、勝手に不安になって、勝手に罪悪感を覚える。
…やめたい。やめられるんだったらやめたいよ。
ミスタは感情表現が豊かだ。豊かすぎる程豊かだ。それでも、昔と比べてしまう。再会した時から薄々思っていた。
…ミスタの笑顔ってこれだっけ…?
思いを自覚する度に枕が濡れる。でも、その寝顔が美しく優しいからシュウは少しだけ瞼を閉じた。
シュウはまだ若い呪術師である。からこそ、神様のような完璧な結界は張れない。絶対に劣化していく。だから、定期的に張り替えるのである。
その時は絶対にミスタが見てる。
何かを懐かしむような嬉しむような顔で。
言の葉を紡いで、詠を詠う。
新しい結界を張った時、ミスタは微睡んでいた。泡沫の隅で何を思うのか。シュウは確認したかった。でも、そうはいかなかった。
「キュン…」
結界内に子狐が迷い込んでいたのだ。
シュウもミスタも目を見開いて、息を飲んだ。
きっと同じ事を思ったのだろう。
「母様…」
「神様…」
声が重なる。そうすると、ひゅるりと姿を人間に変え、幼児程の小さな背丈になった。
その子はハテナマークを頭に浮かべて言う。
「…迷っちゃいまして…案内してくれませんか?」
聞くと旅人らしく、精霊の力も持ち合わせているそう。
だからこの結界に本能的に反応し、森に入ったところ迷ってしまったそうだ。
「…お恥ずかしいです」
顔を赤くして、シュウの淹れたお茶を飲む。
ミスタはシュウの隣で警戒しつつ、興味を持っているように見えた。
「…狐の旅人かぁ」
ミスタが呟くと、幼声が笑って言った。
「妖怪みたいなものですけどね」
その笑顔は、どこか疲れているように2人には見えた。
そして、ミスタはシュウに耳打ちをする。
「少しの間だけでも、ここに置いちゃダメかな…?」
ミスタには、ミスタなりの考えがあるようで、珍しく強く押されてしまった。それに、狐という共通点からか同情も少しはあるのかもしれない。
シュウも少し心配であったため、それを許可することにした。
木の匂いが漂う家の中、西日がさす頃に、3人の暮らしは始まる。
「ご飯どのくらい食べる?あー、」
食事の時、台所ならシュウの声が聞こえた。ミスタと子狐はすごろくをして遊んでいるようだ。
「あ、名前は_。どうぞキツネとお呼びください、ご飯はお茶碗半分くらいでお願いします!」
子狐の名前が聞き取れない。そして、ふと思い出した。神様の名前も聞き取れなかったな、と。
ご飯の部分だけやけに元気に聞こえたから、シュウは思わず笑ってしまった。
ミスタも聞き取れなかったようで、困惑の表情が伺えるが、すぐに「よろしくね!」と笑っていた。
今日は、部屋がいつもより明るい。
その日からミスタは子狐に森を案内するようになった。
子狐の小さな手を引いて、一緒に歩き回る姿はまるで兄弟のようだ。
楽しそうに森を紹介するミスタ。
子狐が何を求めているのか探すシュウ。
森を彷徨っているキツネ。
キツネは、ありとあらゆる植物や動物に驚いた。川から魚を取る鳥、カワセミや木に穴を開ける鳥、キツツキ。どんな動物ともミスタは仲がいい。から、キツネと動物達の中間で紹介し合っていた。
昼間から夜になるまでずっと話していることだってある。そんな時にはシュウが迎えに行ってやるのだった。
しばらくして、キツネはこう言った。
「色々お世話していただき、ありがとうございました。実は、私天界からの使いの者でして、急な精霊の力の変化について調べておりました。天界からは、妖しい者であれば殺して構わない。と指示を受けておりました。」
キツネは申し訳なさそうにずっと俯いて話している。
「お二人ともとても親切にしてくださって、それなのに…。とても申し訳なくなりました。本当にごめんなさい。」
言いたいことはたくさんあった。
なんで殺さなかったの?
なんで言わなかったの?
なんで君が?
でも、顔を歪めていたのはシュウだけだった。
目にいっぱいの涙を溜めた瞳がこちらを見上げる。その表情に言葉が出なくなった。
そんなシュウの隣で、ミスタは笑顔を作って言う。
「大丈夫だよ!殺さないで居てくれてありがとうね?」
ははって笑って、子狐の頭を撫でる。
ミスタの笑顔はずっと変わらない。
ポロポロと落ちる涙は子狐のものだった。
「君も大変だね、頑張って」
ミスタの行動に背中を押されて、優しい言葉をかけることができた。
キツネはその後何度も何度も謝ってから、ミスタとシュウにハグをした。
誰も責めないよとミスタは言う。シュウは、黙ってキツネの背中を撫でるのだった。
家に帰る頃には道が出来ていた。
それはけもの道のような跡に過ぎなかったけど、カワセミやキツツキが木を行き来しているのが見えた。
幾千幾万幾億、このまま放置されていたのか分からない。でも、まだまだこの森を好きになれる。そうシュウは思った。
先を行くミスタの顔が見られない。声も聞こえない。ミスタは今、どんな事を思っているのだろうか。
家に着くともうすっかり日は落ちていた。家に入るなりミスタがシュウに抱きつくから、びっくりしたシュウはその場に倒れてしまった。
「え?なに?」
そこには、シュウの胸を涙で濡らすミスタがいた。
「…ありがとう」
「…ごめん」
「…なんで…」
「…ありがとう…ありがとう…」
そんな言葉が度々聞こえてくる。
でも、シュウは何も聞かなかった。ただただミスタの背中を撫でて、頭を撫でた。
月が昇り始めた今、その光を遮っているのは、あの青い鳥であった。
時々聞こえる嗚咽はまばらで声にならない声も混じっている。
鳥居の隣には、いつもとは違うシュウとミスタの日常がある。シュウはその鳥にそっと囁いた。
「…おやすみ」
聞き取れたかのようにひと鳴きし、宵に消えていった。
いつか失われるし、奪われる。
別れはいつだって急だ。
それは、仕事上よく見てきた。
人間にとっては悪でも呪霊でも、案外土地の環境や動物と上手くやっていることもある。
そんな消えてしまうような運命でも、どんな出来事も忘れない物語なんだ。
…ミスタだって、そうなのかもしれない。
別れも出会いも全部、物語だから_。
シュウが考えを巡らせていると、ミスタと話したくなった。
ちゃんと伝えたくなったのだ。
「ミスタ?」
「…シュウ…?」
「ミスタ?寝てるの?」
「…うー」「シュウ、ありがとう」
耳を澄ますと小さな寝息が聞こえてきた。ミスタは泣き疲れて寝てしまったのだ。
シュウは思わず笑みを零した。
このまま寝たら風邪をひくかもしれない。
まだ夜ご飯も食べていない。
真夜中に起きてしまうかもしれない。
明日の朝、起きられないかもしれない。
…シュウはこのまま寝ることを選んだ。
ミスタの背中には、シュウの手が暖かく置かれていた。
Very very 長編…笑
になってしまいましたね笑
楽しいんでいただけたら嬉しいです!
いいと思ったらコメントください!!!
泣くほど喜びます笑
コメント
1件
「忘れじの言の葉」、読ませていただきました……🤍 ミスタが新しい世界に戸惑いながらも、精霊や動物たちと優しく繋がっていく姿がとても綺麗で、胸がぎゅっとなりました。特にシュウの「神様みたいだ」という言葉、あの瞬間の空気が切なくて……。母様のこと、運命に抗えないもどかしさが静かに滲んでいて、重すぎず、それでいて確かに心に刺さる文章でした。子狐が去る場面、ミスタが泣きながら「ありがとう」って言うところ、もう私も一緒に泣きそうに……。物語の空気感が本当に好きです。続きもゆっくり読みに行きます🌙
#Mysta Rias
#闇ノシュウ
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