テラーノベル
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「僕が生放送…ですか?1ヶ月間?」
「はい、マンスリーエンタメプレゼンターという名目で正確には週に一度になりますが。きっと藤澤さんは3人の中で特に柔らかく朗らかな雰囲気をお持ちなので、朝の憂鬱さを吹き飛ばしてくれるでしょう、とのことです」
「はぁ…。なるほど…。」
ある日突然決まった、朝の情報番組での生出演。1ヶ月ではあるが、まあ俗に言うパーソナリティーという立場だろう。よくご飯を食べたり連絡を取ったりする大人気アイドルグループの一人も、たしか他局で毎週金曜日に務めていたはずだ。ぼんやりと、朝強くて凄いなあとか生放送で緊張しないのかなあとかそんな風に他人事として捉えていた分、連絡があった時は驚いた。
柔らかい雰囲気、ねえ。勿論テレビうけの為多少誇張して自分を語る時もあるが、メンバーの中では自分でも思うくらい1番しっかりしていない。でも2人より年上な事もあり、掛けていないように見えてプレッシャーを実は感じていた。そんな僕が朝から真面目な番組で大丈夫なんだろうか。
一抹の不安を抱えながらいつものスタジオに出向くため今日も車で揺られる。
◻︎◻︎◻︎
着いてすぐ、始まる前に決まった事を2人に伝えると…
「だはははっ!りょっ、涼ちゃんが朝番組にぃ!?」
「…大丈夫なのそれ。え、ほんとに大丈夫なの?」
案の定。元貴は大笑い、若井は本気で心配。
まあこうなるよね…と苦笑いしつつ経緯など説明する。
「なんか、藤澤さんなら朝の憂鬱な感じを吹き飛ばしてくれますよ〜みたいな事を一応言われて、特に心配とかして無さそうだったんだけど…ねぇ元貴笑いすぎ!」
先程からヒィヒィと笑い転げている恋人を窘める。でもその隣にいる若井も説明を聞いて更に難しい顔になりうーんと唸っている。君ら、どっちも失礼だからね?
「それ過信してないか、涼ちゃんのこと…」
「うはははは、やばいだろっ…!」
元貴は遂に目元に涙が浮かんでおり、若井はぶつぶつと考え込んでしまった。が、ふと2人ともぴたりと止まってこちらを見る。え、何、なんでシンクロしてんの…
「「あ、でも涼ちゃん。おめでとうね」」
…いや高速手のひら返しで言われましても。
その後、いじり半分でしっかり喜ばれ祝われたけれど、不安は益々強くなるのに対し自分への自信が小さくなっていき、正直あまり楽しみではなかった。
◻︎◻︎◻︎
『涼ちゃんが朝番組に!嬉しいけど、大丈夫かな…?』
『原稿読みって、涼ちゃんww大丈夫!?漢字とかカタカナとか読めるかな…w』
『やった〜朝から幸せ!涼ちゃん、自分のペースでいつも通り頑張れ〜!笑』
数週間後の朝。情報が公開され、ダイニングのテーブルでみんなの反応をチェックしていると、喜んでくれているようだけどやっぱり心配が多くて…。はあ、と肩を下ろしエゴサーチを続けていると。
「何、涼ちゃんファンにすら心配されてんの?」
するりと背後に回り込んだ元貴が、画面を覗き込んだ。びっくりしてあ、えと、と言った言葉しか出てこない。固まっている僕の手を取って、元貴が椅子を引いて正面に座る。
「そんな気にしなくても大丈夫。涼ちゃんは涼ちゃんらしくていいんだよ」
この前まで散々弄られていたのに急に優しくそう諭され歯がゆい気分になる。
「でも、僕らしくとか分かんないよ…。それにほら、ミセスファンだけが見るわけじゃないからさ」
不特定多数の人に、リアルタイムで見られる。
それはテレビ局のジャックで経験したものとは比にならないほどの重圧で。「好き」は醜いものも不格好なものもフィルターをかけて不透明にしてくれるけど、ミセスを好きじゃない人が見て嫌じゃないだろうか。昔からテレビに出る時は、この緊張がずっと着いてきていた。まあライブはライブでベクトルの違う緊張があるけれど。
年下にこんなことを相談してしまうのは恋人だからか、はたまた元貴が僕よりかなり大人っぽいからか。自分が情けなくてちょっとずつ視界が滲んでくる。
「…。あのね涼ちゃん。関係ない人を救う訳ではないじゃない?」
「ん…??うん…?」
「俺はね、何気ない言葉に傷つく癖に、涼ちゃんこそ正しく言葉を使えずにいると思うんだ」
ぐさり、と。図星だった。
「あ…そう、だよね…。ごめん僕やっぱり…」
「だーかーら!」
がしっ、と腕を掴まれ、泣かないよう指で抑えようとしていたのを防がれる。
「どうなったって自分のせいでいいから、嫌わないでなんて思わないでね。俺は涼ちゃんを世間に嫌われて欲しくないから」
これは、昔から元貴によく言われる言葉だ。人一倍自己肯定感の低い僕は、ほぼほぼ自己犠牲の精神で生きている。もし現場が僕の所為でぐだっちゃったら、僕が全部請け負って周りに嫌われればいい。大切な人に嫌われさえしなければ。そう思っていた事を、やはり元貴には見透かされていたようだ。
「涼ちゃんだけの世界が、他の誰でもない何でもない軌跡を持ってるんだからさ。涼ちゃんが馬鹿でも阿呆でも、人の暖かいところをわかってればいいんだよ」
「今どさくさに紛れてすっごい罵倒した…?」
「ふふふ。まあそういうことだよ」
目が笑っていない。実際怒っているのだろう。もっと自分を大切にしろ、直接的な表現では言われなくとも、ひしひしと伝わってきた。あれ、それは強めに腕を掴まれてるから?
「よし、気合い入れるためにも、冷めないうちに暖かいご飯食べよ?」
「あ、う、うん!」
唐突に立ち上がり、そう君は言った。キッチンに一足遅れて行くと、元貴が皿を運んでくる。と同時にふわりと食欲の湧く香りが漂ってきた。
「はい、涼ちゃんがだらだらスマホ眺めてる間に作っておきました〜」
「ごめんって!うわぁ、美味しそう!あ、元貴…。」
ん?と目玉焼きにケチャップをドバドバと掛けながら、こちらを見る。大事なことは、言葉で伝えて置かないと。でもこういういざって時程、どう言っていいか分かんないんだよな。
「その、ありがとう。僕取り敢えず、もうちょっとしっかりできるよう頑張ってみる。それで…元貴。大好きだよ」
大きく目が見開かれ、照れたようにまあいいけどと変顔した後、にかっと笑う。僕は心底貴方だけの世界観に惚れているようだ。二人で手を合わせて、今日も安全に過ごせていることに感謝しながら。
『いただきます』
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読んでくださりありがとうございます!
暫くこっちの更新をしていなかったので、いい機会だと某朝番組の事を抜擢しました。breakfastを聴きながら、これ涼ちゃんへの応援ソングじゃん!?と思ってから即執筆したので歌詞入れがわかり易すぎたかもしれません笑 それと奇跡の部分、もしかして大森さんは軌跡の意味も込めたんじゃないかな?と思い改変させて頂きました。
朝から涼ちゃんを見れて幸せだし、朝にピッタリな曲もあるし、明日からも頑張れそうですね。
次も是非読んで頂けると嬉しいです。
コメント
2件
涼ちゃん 頑張ってますよね~(*´▽`*)