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MAKO
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読ませていただきました…。ラスト、両親が「死んだのがテディで良かった」と言うシーン、ゾッとすると同時に胸が締め付けられました。テディが兄のフリをして生きていく選択も、茉白だけがその仮面の裏を知っているという構図が切なくて。茉白が泣きながら「好きだったテディ君はもういない」と言う場面、すごく心に響きました。でも最後に「寄り添う」と決めた彼女の強さに、少し救われた気がします。続きが気になります…!
テディが茉白と暮らし始めてから1月経った。
茉白はテディと大分打ち解けて、事務的な会話だけではなく学校であったことや自分の家族のことなども話すようになっていた。
2人とも学校で浮いていること、家に居ても心の内を吐き出せる人がいないことなど話題は明るくなかったが、誰にも理解されたことのなかった2人は友達以上の関係になっていた。
また、テディの兄は親の目を掻い潜ってたまにテディの様子を見に来て、ブラウン兄弟の関係も少しずつ改善していっていた。
今日は家の近くの公園で3人で近況を報告しあって、とりとめのない会話を楽しんだ。
テディの兄は部活と嘘をついて休日に家を出てきたらしく、夕方まで家に帰らなくていいと笑っていた。
茉白は3人分の弁当を用意してきていて、食べ盛りの兄弟は嬉しそうにもりもりと食べてくれた。
「…あ、もう帰らないと」
夕方5時のチャイムが聞こえて、テディの兄は残念そうにそう言った。
「そっか。兄貴、また今度」
「うん、またね。茉白さん、テディをよろしく」
『はい、お任せください』
3人は公園の出口まで一緒に歩いていった。
公園の出口は少し入り組んでいて横断歩道が見えづらい。
信号もない横断歩道を歩いていると、死角になっている角から高速でトラックが走ってきた。
「茉白!!」「テディ!!」
テディが茉白を公園側に突き飛ばし、テディの兄がテディを家側に突き飛ばし、テディの兄はトラックにそのままぶつかった。
トラックが近くの電柱にぶつかって止まると、突き飛ばされた2人は呆然とトラックを見つめた。
テディがふらふらとトラックの方に向かうのを茉白も追って歩いた。
「兄貴…?」
テディの兄は電柱と大破したトラックに押しつぶされて、血まみれで下半身は原型を留めていなかった。
『ブラウン君…どうしようっ、救急車呼ばないとっ』
茉白は震える手で携帯電話を取り出して救急車を呼んだ。
大きな音がしたことで近所の人達が何事かと集まってきた。
「あの子、ブラウンさん家の子じゃない?」
「事故に遭ったのって双子のどっちかでしょ?」
数分で救急車が到着してテディの兄はトラックを人力で動かして引きずり出され、担架に乗せられた。
「あっあの、俺も乗せていってください兄弟なんです!」
『私も…!さっきまで一緒に居たんです!』
救急隊員にそう言って茉白とテディも同乗し、救急車は病院に向かって走り出した。
テディの兄は病院に運ばれたときにはもう手遅れだったらしい。
テディたちの両親にすぐ連絡が行き、ブラウン夫妻は急いで病院に駆けつけた。
廊下の長椅子に座って待っていた茉白とテディと共にテディの兄の遺体を確認しに行く。
テディの兄は下半身の損傷が酷く、頭も強く打っていたために即死だったと言われた。
夫妻は茉白が思っていたよりも落ち着いていて、テディの兄の死に顔を見ても激しく取り乱したりはしなかった。
ただ、テディの肩に手を置いてそっと母親が呟いた。
「死んだのがテディで良かったわ」
『…え』
テディも目を見開いて母親を見つめる。
「何の取り柄もないと思っていたが、こんなことで役に立つとは思わなかったな」
父親もそう続ける。
茉白は必死で考えた。死んだのは兄の方でテディは生きている。でもどうして両親は逆に思ったのか。
そして思い出す。兄の方は今日部活に行っていることになっている。そして奇しくもテディがサッカーチームのユニフォームを着ていたのだ。家を出るときの服装と違っているのも部活で着替えたからだと思って、シンプルなTシャツを着ている兄の方をテディだと勘違いしたということか。
「「〇〇、無事で良かった」」
テディは母親に抱きしめられて、父親に頭を撫でられて、複雑そうな表情をしていた。
茉白はテディと2人で話す時間も取れず、1人で家に帰った。
テディが両親に死んだのが兄の方だと知らせていないのが気になっていたが、既に近所でもいらない子だったテディが死んだことになっていた。
(どうして…テディ君は生きてるのに…
テディ君はこれからどうするんだろう?
ご両親に愛されていたお兄さんとして生きていくのかな?)
茉白は真っ暗なリビングでテディが暮らしていた痕跡を思い返しながら、テディの今後を心配していた。
翌日、学校に行くと教室の真ん中にブラウン君がいた。いつも通り賑やかなサークルには入れず、自分の席から聞き耳を立てていると、ブラウン君は“事故に巻き込まれて記憶が混濁している”という体で皆と話していた。
本当にテディは兄の真似が上手だった。
笑い方も言葉選びも友人への触れ方も歩き方もペンの持ち方もお弁当の食べ方も…
全てが兄と同じになっていたのだ。
この1ヶ月一緒に孤独を分かち合ったテディはもう居ないんだと悲しくなって、茉白は昼休みになると誰も居ない中庭で1人で弁当をつついていた。
「あぁ、やっぱりここにいた。茉白」
すると突然テディが声を掛けてきた。
『…“ブラウン君”は私のこと呼び捨てになんてしませんよ。やっぱりテディ君なんですよね』
「あれ?うまくやってたつもりだったんだけどな…
やっぱり茉白には分かっちゃうか」
テディは悲しそうな目で笑っていた。
「俺が兄貴のフリをしてるだけで皆が優しくしてくれる。兄貴がどれだけ良い奴だったのかなんとなくだけど分かってきた。でもさ、皆兄貴の表面上しか見てないんだな。成績とか運動神経とか…それこそ顔とか。皆それっぽいことをするだけで兄貴だって信じ込んでくれるよ」
テディは茉白の横に腰を下ろして膝に顔を埋めた。
「やっぱり俺っていらない子だったんだなって改めて思ったよ。愛想もない、頭もない、才もない、そんな人間だったんだなって」
『そんなことないです…私にとってはテディ君だけが味方でいてくれました。独りぼっちの寂しさを共感してくれる唯一の人でした』
「…でもね、俺にも1つだけ才能があったみたいなんだ。
“人を模倣する”こと。その人の行動、思考、性格、大体全部わかるし、それを演じることができる。
俺は兄貴として生きるのは案外簡単なんだ。今まで欲しくても手に入れられなかったものが簡単に手に入るようになって結構楽しいしね」
茉白は完璧に兄を演じて生きていくというテディに何と言えばよいのか分からなかった。
ただただ自分のことを理解してくれた、孤独を埋めてくれたテディが居なくなってしまったことを悲しく思った。
「あぁ、そうそう…これを言いたかったんだった。
ねぇ茉白、俺がテディだってこと誰にも言わないでね。まぁ茉白には俺以外に友達とか居ないから大丈夫だとは思うけど」
『…話はそれだけですか?私と一緒にいるところを見られたら困るのは“ブラウン君”ですよ』
「つれないなぁ…でもこれだけは覚えていて。“テディ”は茉白のこと好きだったよ」
茉白はそれを聞いて箸をギュッと握りしめた。
『そんな事言ったって、もうテディ君は居ないじゃないですか…私が好きだったテディ君は…』
茉白はしゃくりあげて泣き出した。
テディは茉白の頭を撫でてやりながら耳元で囁いた。
「ごめんね。でも兄貴も茉白のこと好きだったんだよ。だから茉白の寂しさは俺が埋めてあげる。これからも俺だけは味方で居るから」
それは“テディ”からの言葉なのか“兄”としての言葉なのか、茉白には分からなかった。
それでも、不器用で愛想がなく孤独だったテディが死んだわけじゃない。
いくら表面だけ取り繕ってもきっと本質は変わらない。いつか綻びが出て全てが明るみに出るかもしれない。
だから、いつかテディがテディとして生きられるようになるまで茉白は彼に寄り添おうと思ったのだった。