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昼休みの教室。
「なぁ聞いたか?駅前のコンビニ、新しく入った人めっちゃ可愛いらしいぞ」
朝比奈湊が、いつも通りの調子で言う。
机に頬杖をつきながら、軽く笑っている。
「へぇ」
玲央は短く返すだけ。
その視線は、どこか静かだった。
「マジで?じゃあ今日寄るしかなくね?」
一陽翔が乗っかる。
「だろ?俺もう昨日行ったし」
「は?」
「いや普通に買い物な?」
湊は肩をすくめて笑う。
どこにでもいる男子高校生みたいな会話。
明るくて、軽くて、何も重くない。
──そのはずなのに。
玲央は、わずかな違和感を見逃さなかった。
⸻
放課後。
三人は例のコンビニに立ち寄っていた。
「いらっしゃいませー」
レジに立つ女性店員。
湊は迷いなくカウンターへ向かう。
「これと、あとガム」
いつも通りの声色。
自然で、引っかかりがない。
商品を受け取り、小銭を差し出す。
そして。
店員の手から、直接釣り銭を受け取る。
ほんの一瞬、指先が触れる距離。
湊は、何事もなかったようにそれを受け取った。
「どーも」
軽く手を上げて、そのまま店を出る。
⸻
外に出たあと。
「……普通だな」
陽翔がぽつりと呟く。
「ああ」
玲央も短く返す。
二人とも、同じことを見ていた。
同じところを、気にしていた。
「慣れたのかね」
陽翔は明るく言う。
わざと、軽く。
「……いや」
玲央は少しだけ間を置いた。
「慣れてるように見せてるだけだ」
その言葉に、陽翔は少し黙る。
ガムを噛みながら歩く湊の背中。
いつも通りで。
何も変わっていないように見える。
でも。
「あいつ、自分からは言わねぇだろうな」
陽翔が小さく言う。
「……ああ」
玲央は頷いた。
“普通でいようとしてる”
それが、あいつのやり方だから。
⸻
「おーい、何してんだよ」
前を歩いていた湊が振り返る。
「早く来いって」
その顔は、いつも通り笑っている。
屈託なくて、明るくて。
どこにでもいる男子高校生の顔。
「今行く」
玲央が答える。
陽翔も「はいはい」と手を振る。
二人は歩き出す。
その背中を見ながら、少しだけ思う。
——無理してるなら、それでいい。
無理してでも前に進もうとしてるなら。
それを、止める理由はない。
ただ。
崩れそうになった時だけ。
その時だけは、絶対に見逃さない。
⸻
三人の距離は、変わらない。
あの日からずっと。
少しだけ形を変えながら。
それでも確かに、繋がったまま。
⸻