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ちりん、とくぐもった音が鳴る。ポッケにある鈴を捏ねるように触る。雄英体育祭当日。指定の体操着を着て、A組控え室で待機する。騒がしい音が多すぎて落ちつかねぇ。忍具なし、ノイズキャンセラーつけれねぇしお守りの鈴しか持てない。鍛錬は1日たりとも怠ったことないし、前年度から体育祭見直ししてイメージトレーニングもした。あの山で基礎メニューを何編も繰り返した。
『ちゃんと見てる』
俺はここで力を見せつけて1位になる。1位になって、オビトに高々と報告してやるんだ。
「爆豪、ばーくーごーおー!」
「…ぁんだよ」
「入場だってよ。精神統一するぐらい爆豪も緊張すんだな」
「黙れモブ」
「上鳴な!名前くらい覚えろ!」
『雄英体育祭!!ヒーローの卵たちが、我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!!どうせてめーらアレだろ、こいつらだろ!!?敵の襲撃を受けたにも拘らず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!!ヒーロー科!!1年!!!A組だろぉぉ!!?』
煽り立てるアナウンス。湧き上がる歓声。拍手喝采のオーケストラ。一歩踏み出すごとに数万の期待、好奇、品定めをした鋭い視線がビリビリと肌を刺す。
「めっちゃ持ち上げられてんな…なんか緊張すんな…!なぁ、爆豪」
「しねえよ」
B組から続々と入場する。持て囃されているA組に舌打ちと増悪こもった目で睨みつける。18禁ヒーローミッドナイトが選手宣誓!!と爆豪の名前を呼ぶ。言動のせいで誤解されがちだが爆豪の入試成績は1位。物事を一回把握すれば理解できるレベルの天才である。両手をポケットに突っ込んで壇上に立つ爆豪に、A組は嫌な予感して固唾を飲む。
「せんせー、俺が1位になる」
「「「絶対やると思った!!!」」」
BOOO!と他クラスからブーイングが飛ぶ。暴言しか吐かない有象無象の連中に嘲笑って首を掻っ切る仕草をする。途端酷くなるブーイング。それらを無視して爆豪は何事もなく列に戻った。
「さーて、それじゃあ早速第一種目行きましょう!いわゆる予選よ!毎年ここで多くの者が涙を飲むわディアドリンク!!さて、運命の第一種目!!今年は……コレ!!!」
モニターにでかでかと障害物競走の文字が映し出される。
「計11クラスでの総当たりレースよ!コースはこのスタジアムの外周約4km!我が校は自由さが売り文句!ウフフフ…コースさえ守れば、何をしたって構わないわ!さあさあ位置につきまくりなさい」
妨害してもいいってことか。いや、ゴールするだけなら妨害行為は無駄な時間だ。ただ進むだけなら簡単だ。スタート位置に立ち、ポンとゲートの上部についているランプが1つずつ消える。
「それじゃあ、用意!………スタート!!」
ダン!と踏み込んだ地面に罅が入り、爆豪は前にいる人を吹き飛ばしながら走り出した。
『さーて実況してくぜ!解説アーユーレディ!?ミイラマン!!』
『無理矢理呼んだんだろうが』
『早速だがミイラマン!序盤の見どころは?』
『今だよ』
狭いゲートに生徒が早くもすし詰め状態。そこに轟が氷結を炸裂させ、足元を凍り付かせる。だがA組は轟の思考を読んで避けることに成功して、轟の後に続く。A組に遅れをとって他クラスも何人か抜け出し始めた。
『さぁいきなり障害物だ!!まずは手始め…第一関門、ロボ・インフェルノ!!』
そして最初の障害物は、ヒーロー科入試で出てきた0Pが何体もひしめいて進行を妨げる。自分よりでかい巨体に足を止める者達が続出。まず抜けたのは轟焦凍。
『1-A轟!!攻略と妨害を一度に!!こいつぁシヴィー!!すげぇな!!一抜けだ!!アレだな、もうなんか…ズリィな!!』
『合理的かつ戦略的行動だ』
『さすがは推薦入学者!!初めて戦ったロボ・インフェルノを全く寄せ付けないエリートっぷりだ!!』
『そのことだが轟が一抜けじゃない。見ろ先頭』
『んん?おっとぉ!?轟が1位だと思っていたがまさかこいつが1位!!ヒーロー科入試1位、爆豪勝己が知らぬ間に第二関門まで行っているぞ!!』
轟との間に数km先に走っている爆豪の姿が映し出される。両手を後ろに走る独特な走り方。しかし誰よりも早くスピードを出して走っている。
『どういうことでしょうかイレイザーヘッドさん』
『スタートダッシュの時点で差が違っていた。すし詰め状態になる前にアイツは既に走り切り、第一関門で立ち止まることなくロボの間をすり抜けるようにパルクールして突破。妨害や攻撃なんて無駄なことをせず走る行為だけしてるな。実に合理的だ』
『そいつぁシヴィー!!強烈だった選手宣言とは裏腹に誰にも気づかれない静寂。まさに静と動!!んじゃ第二関門はどうさ!?落ちればアウト!!それが嫌なら這いずりな!?ザ・フォーール!!!』
何十本もの石柱にロープが張り巡らされた大掛かりなアクティビティ。細いロープに底が見えないという恐怖心を煽る構想されてるが、爆豪はスピードを落とさず躊躇いもなくロープに足をつけた。
『恐怖心なんて存在しないかのようにロープを普通に走ってるぞ!!なんだあいつ!忍者か!?』
『バランス感覚、体幹がしっかりしてなきゃ無理だな。そもそもロープの上を走るなんて行為普通できん』
『なんかあれだな、あいつもズリィな!!先頭が圧倒的に抜けて次に轟!下は団子状態!上位何名が通過するかは公表はしてねぇから安心せずにつき進め!!そして早くも最終関門!!隠してその実態は……』
コースの道に開けた地面。地面をよく見たら、所々少しだけ盛り上がっているのが見える。
『一面地雷原!!!怒りのアフガンだ!!地雷の位置はよく見りゃわかる仕様になってんぞ! !目と脚、酷使しろ!!ちなみに地雷は競技用で威力は大したことねえが、音と見た目は派手だから失禁必至だぜ!』
『人によるだろ』
爆豪は開けた場所とコースの区切り部分を跳躍する。落下直前に両手を後ろに構えて爆破。地雷に向けて爆破したため、個性と地雷が連動して爆風が上乗せされる。個性を連発し、爆破の度に地雷が作動する。スピードを増した爆豪は第三関門を突破。個性を解き、地に足をつけて走り出す。
『雄英体育祭一年ステージ!序盤からトップを譲らずスタジアムに帰ってきたこの男、爆豪勝己が宣言通り1位になったぞ!!』
割れる歓声と拍手、優勝者を讃える紙吹雪が舞う。爆豪はそれさえも目もくれず、休憩するために壁に寄りかかる。
『圧倒的な速さで優勝決まっちまったが、後ろで熾烈な争いをしてる選手にも目を向けるぜ!!よろしくミイラマン!!』
『俺いらないだろ』
「1年ステージ第一種目ようやく終了ね。それじゃあ結果をご覧なさい!」
1位爆豪勝己
2位緑谷出久
3位轟焦凍
:
:
自分の結果に小さくガッツポーズをする。しかし油断できない。半分野郎を追い越したクソナードが2位。このまま1位を死守して優勝してやる。
「予選通過は上位42名!!!残念ながら落ちちゃった人も安心なさい!まだ見せ場はは用意されているわ!!そして次からいよいよ本選よ!ここからは取材陣も白熱してくるよ!キバリなさい!!!さーて第二種目よ!!私はもう知ってるけど~…何かしら!!? 言ってるそばから……コレよ!!!!」
モニターに騎馬戦の文字が映る。
「参加者は2~4人のチームを自由に組んで、騎馬を作ってもらうわ!基本は普通の騎馬戦と同じルールだけど1つ違うのが…先程の結果にしたがい、各自にPが振り当てられること!」
「入試みてえなP稼ぎ方式か。わかりやすいぜ」
「つまり組み合わせによって騎馬のPが違ってくると」
「ぉお〜!」
「あんたら私が喋ってんのにすぐ言うね!!!ええそうよ!!そして与えられるPは下から5ずつ!42位が5P、41位が10P…といった具合よ」
なるほど。上位ほど狙われるって仕組みか。5Pずつってことは俺のPは210か。
「そして…1位に与えられるPは1000万!!!!」
「あ?」
一瞬聞き間違えか?と疑った。
「上位の奴ほど狙われちゃう下剋上のサバイバルよ!」
蹴落としてやる、奪ってやると対抗心剥き出しの視線が突き刺さる。ピリピリした空気に口角が上がる。
「上を行く者には更なる受難を。雄英に在籍する以上、何度でも聞かされるよ。これぞPuls Utra!」
ノってきた
こういう好戦的な方がやりやすい。俺に刃向かってくる奴らをボッコボコに叩き潰してやる。15分しかないチーム決め。人とあまり関わらないせいで自分から話しかけんの癇に障る。そもそも協力ってもん昔っから嫌いだ。どうするかと悩んでいると自分の周りに人集りができる。
「俺と組め!!」
「………」
「えー爆豪私と組も!?」
「私と組みましょ1位の人!」
「………!!!」
は、あ?なんで囲まれてんだ。
「……俺を囲ってんじゃねぇ!!近づくなモブ共!!」
「B組ならまだしも!」
「俺らの名前覚えてねーのか!!」
「おーい!轟の奴ソッコーチーム決めやがったぜ!爆豪!!俺と組もう!!」
「クソ髪」
「切島だよ覚えろ!!おめーの頭とそんな変わんねーぞ!!おめぇ、どうせ騎手やるんだろ!?そんならおめぇの爆発に耐えられる前騎馬は誰だ!!?」
俺の爆破に耐えられる奴、奴………。
「……………根性ある奴」
「違うけどそう!!硬化の俺さ!!ぜってーブレねえ馬だ!とるんだろ!?1位てっぺん…!」
USJの時もそうだったがこいつ、馬鹿正直で心が熱い奴だ。俺の指示に従ってくれたし、硬化なら俺の個性に耐えられる。気に入った。
「うし、クソ髪。俺の前騎馬になれ」
「おうよ!任せとけ」
残り2人。個性と色んな状況に備えれる奴は。
「しょうゆ顔、黒目。俺の馬になれ」
「言い方!!それと瀬呂な!分かった」
「芦戸三奈!任せて!」
「残り時間も限られてる。役割と作戦言うから一度で覚えろ」
切島鋭児郎170P、個性硬化。頑丈で爆破でも耐えられる個性。精神力も強ぇからひよったりしない。なにより俺の指示に従ってくれる。
瀬呂範太175P、個性テープ。地味だが移動や相手に巻き付けて動きを封じたり、トラップ制作などにも利用できる。凡庸性が高い。
芦戸三奈120P、個性酸。溶解液を攻撃、地面をスケートのように滑っての移動、壁や床を溶かせれるほどの強酸。こいつも凡庸性が高い。
「それじゃあ、いよいよ始めるわよ!!」
『さぁ、起きろイレイザー! 15分のチーム決め兼作戦タイムを経て、フィールドに12組の騎馬が並び立った!!』
『………なかなか、面白ぇ組が揃ったな』
『さァ上げてけ鬨の声!!血で血を洗う雄英の合戦が今!!狼煙を上げる!!!!』
「自分の役割忘れんじゃねぇぞ」
「大丈夫だ!しっかり叩き込まれたからな」
「文字通り叩かれてたねー」
「緊張してきた」
『よぉーし、組み終わったな!!?準備はいいかなんて聞かねえぞ!!さぁいくぜ!!残虐バトルロイヤルカウントダウン!!3!!!』
合計1,000,465P。真っ先に狙われるのは俺達のチーム。
『2!!』
狙われると分かっているなら、こっちから先手を打つ。
『1…!』
「おめーらを決勝に連れてってやる。騎馬崩すんじゃねぇぞ」
「おうよ!」
「任せて」
「勝てよ爆豪!」
「 START! 」
合図を皮切り騎馬が一斉に動き出した。
スタート開始時にBOOOM!爆破で上空に飛ぶ爆豪の姿。初手から派手にかます爆豪に注目がいく。
『おおおお!!?いきなり騎馬から離れたぞ!!?いいのかアレ!!?』
「テクニカルなのでオッケー!!地面に足ついていたらダメだったけど!」
下に群がる蛆虫に、まずは牽制で爆破をランダムに連発。
BOOM!BOOM!BOOM!
『最初に動いたのは爆豪!個性で飛行して他チームに向けて爆破連発!!』
『行為に騎馬を崩したらアウトだが、爆豪は目眩しと牽制目的でしているな』
爆破に怯んでいるチームが続出する中、爆破に恐れず立ち向かってくるチームと個性を使って攻撃してくるチームが現れる。持ち前の身体能力で空中で避け、爆破で防御していると体が引っ張られる。じじじじ、とテープ音に巻かれ瀬呂前へ3 / 4 ページ次へ
スタート開始時にBOOOM!爆破で上空に飛ぶ爆豪の姿。初手から派手にかます爆豪に注目がいく。
『おおおお!!?いきなり騎馬から離れたぞ!!?いいのかアレ!!?』
「テクニカルなのでオッケー!!地面に足ついていたらダメだったけど!」
下に群がる蛆虫に、まずは牽制で爆破をランダムに連発。
BOOM!BOOM!BOOM!
『最初に動いたのは爆豪!個性で飛行して他チームに向けて爆破連発!!』
『行為に騎馬を崩したらアウトだが、爆豪は目眩しと牽制目的でしているな』
爆破に怯んでいるチームが続出する中、爆破に恐れず立ち向かってくるチームと個性を使って攻撃してくるチームが現れる。持ち前の身体能力で空中で避け、爆破で防御していると体が引っ張られる。じじじじ、とテープ音に巻かれ瀬呂に受け止められる。
「へいキャッチ!」
「おせぇ!しょうゆ顔!!」
「タイミングバッチリだろ!」
「ハチマキ!!」
「ばっちりだよ!」
差し出されたハチマキを首に巻く。
『おっとどいいうことだ!!爆豪チームにハチマキが渡っているぞ!!』
『爆豪が派手に立ち回っているおかげで騎馬が他チームからハチマキを取ったな。騎馬はPがない分、崩されてなければハチマキを取れる。爆豪のチームは4人とも凡庸性が高くてバランスがいい。いいチームだ』
『説明センキュー!!』
「俺達に任せて好きなだけ暴れてこい!!」
「おめーに言われなくてもやるわ!!」
BOOM!とまた空中へ飛び出した。右、左、真下。近づいてきた奴を片っ端から爆破させる。視界の端で騎馬が順調に怯んだ他チームからハチマキを奪取していた。P維持?そんやひよったことしねぇ。他の奴らから奪って更にP稼ぐのが完璧な1位だろうが。空中に俺以外の奴が来た。見るとクソナードの姿。
BOOOM!
「俺と同じ土俵に立つんじゃねぇ!堕ちろクソナード!!」
「常闇くんっ!!」
《オオットォ!!》
「………!」
黒い影が爆破を防ぎ、思ったよりデカい影に体制が崩れる。肩にテープが張り付き、巻かれて戻った。
「今度はナイスタイミング」
「ッチ!」
「落ち着け爆豪。集めたハチマキ巻いてくれ」
「ふん」
合計5本のハチマキが首元に揺れる。
「ちゃんとやってきたか?」
「もちのロン!与えられた任務はやっといたよ」
「俺も言われた通り確認したぜ」
「うし」
BOOM!と後ろに近づいてきたモブどもを爆破し、ついでにハチマキを取る。
「クソ髪、あとはてめぇ次第だ。やれんな」
「あたりめーだ!俺はブレねー騎馬だ!!任せろ!!」
「残り8分。派手にやるぞ」
勝負事に感情を抑えているはずの爆豪が、初めてニヤリと笑った。
『やはり狙われまくる1位と、猛追仕掛けるA組の面々共に実力者揃い!現在の保持Pはどうなっているのか…7分経過した現在のランクを見てみよう!』
モニターに騎馬戦のチームとPが映し出される。爆破はPを稼いでいるため1位のまま。その他は0P、またP変動が起きていた。B組がクラスで結託し、A組を虎視眈々と狙っていたのだ。
『さァ残り時間半分を切ったぞ!!』
「そろそろ奪るぞ」
「半分野郎……」
『B組隆盛の中、果たして1000万Pは誰に頭を垂れるのか!!!』
前面に闘争心燃やしてる半分野郎と後方に近づいてくる手の野郎。そして周りに集まってきたモブども。
「クソ髪、全身硬化」
「切島!」
「しょうゆ顔、11時方向にテープ。その後2時にいろ」
「瀬呂なっと!!」
「黒目合わせろ」
「あ・し・ど・み・な!」
「飯田、全身」
「ああ!」
「八百万、ガードと伝導を準備」
「ええ!」
「上鳴は…」
「いいよわかってる!!しっかり防げよ…」
「どけぇ!!!」
BOOOM!と後方に向けて爆破する。爆豪チームはテープの方向に向かって滑る。あらかじめ芦戸が仕込んだ弱めの溶解液。瀬呂は進行方向のポイントを下見し、爆豪の指示でテープを貼りだす。移動する際前騎馬である切島は負担がかかるため全身硬化、爆豪が進路変更で爆風にあたっても攻撃中でも傷一つつかない。弱めの溶解液の上にテープで進行、爆豪の爆破で加速。前騎馬である切島が耐えれば体制を崩すことはない。フィールドをスケートリンクみたいに滑る。轟チームに真正面から突っ込み、爆豪だけが宙に跳ぶ。
「無差別放電130万V!!」
「死ねぇ!!」
BZZZZZ!
BOOOM!
上鳴の無差別放電が絶縁で防御した自分のチームを除き、他チームへと放電する。宙にいた爆豪は轟に目掛けて爆破した。
「残り6分弱、後は引かねぇ」
「ッチ!」
ガラガラと氷の壁が落ちる。防がれたことに舌打ちする。氷の礫が襲ってくるのを翻して回避し、待機していた騎馬に乱暴に降り立つ。
「周りを把握してテープで回避!弱めの溶解液噴出し続けろ!周りは俺がやる!!」
「頼むぞマジで!」
BOOM!と爆破してフィールドを滑る。芦戸と瀬呂は個性を使うために足場を放してるため、爆豪は座椅子の腕でバランスを取る。肩しか手を置かれてない切島は体制崩れないように持ち堪える。フィールドが凍りで覆われるのを溶解液で溶かし、爆破で加速と近くにいるチームを片っ端から撃つ。
『上鳴の放電で確実に動きを止めてから凍らせた…さすがというか…障害物競走で結構な数を避けられたのを省みてるな』
『ナイス解説!!』
「爆豪!前方に氷山!!」
「そのまま前進!!2人は切島に捕まっとけ!」
進行を防ぐように氷に囲まれる。前に両手を出し、一点に集中させる。BOOM!と氷が砕けて抜け出す。そのまま爆豪チームはさっきと同じようにフィールドを滑り出した。
「右往左往にテープを伸ばしてろ」
「え?なんで」
「クソ眼鏡の個性で来る可能性あるだろ。あの半分野郎から距離取れ」
「あ、そっか。あいつ早ぇもんなっと!」
「溶解液はどのくらいもつ」
「これ以上出すと服とけるかも」
「…………切島、保つな」
「おうよ!!」
「残り時間までこのまま行くぞ!!」
「「「了解!!」」」
轟チームから距離をとり、まだPを持っているチームにハチマキを奪う。後方に轟チーム、前方に緑谷チームが迫ってくる。
「勝負だかっちゃん!」
「クソナード」
『さぁさぁ時間ももうわずか!!』
ふぅ、吐息を吐いて拳を握る。個性の乱用で少し手が震える。しかしそんなことどうでもいい。残り時間、前後挟まれた状況、それぞれの個性。俺が今、できる最善の方法。
「お前ら、俺についてこれんな」
「できる!」
「お前を引っ張ってきたのは俺だぜ?できるにきまってんだろ」
「崩れねえよ絶対。ダチを信じろ!」
何度目かの口角が上がる。両手を爆破させ、宙へ舞う。個性の限界?危機的状況?そんなもん関係ねぇ!俺が、諦めるわけねぇだろ!!
黒い影、氷、空気振動、雷、投擲物などを身を翻して躱し、時に個性で防御する。落下しても切島達が必ず待機しており、足場にしてまた飛ぶ。
「取った!」
「クッソが…!」
『残り17秒!圧倒的強者の爆豪から、初めてハチマキを奪ったのは緑谷出久だ!!』
クソナード相手にハチマキ奪られた。最っ悪だ!!
『そろそろ時間だ!!カウントいくぜエヴィバディセイヘイ!10!』
カウントダウンコールが始まる。1000万持つ爆豪1人に多対一。緑谷とダークシャドウ、轟相手に攻防している。騎馬である切島達は足止めされ、中々爆豪の元へ向かえない。終盤でのランキング変動と派手に立ち回っている試合で観客は大いに盛り上がる。
『 TIME UP!! 』
「クソナードがっ……」
ハチマキを2本、クソナードのチームに奪われた。クソナードと死角で黒い影にやられた。こんなの屈辱だ。
『第二種目騎馬戦終了!!早速上位4チーム見てみよか!!』
1位爆豪チーム
2位轟チーム
3位心操チーム
4位緑谷チーム
「やった1位だ!」
「途中どうなるかと思ったけど結果オーライ」
「やったな爆豪!!」
拳をひとつ前に出して笑うクソ髪。1番負担だったはずなのに文句を言わず、前騎馬としての役割を果たしてくれた。勝利したことが嬉しいと全身のオーラが伝わってくる。
「………おう」
だからこれは気まぐれ。よくやってくれたという労り。拳を前に出してコツン、とあてた。
『以上4組が最終種目へ…進出だああ!!それじゃあ一時間ほど昼休憩挟んでから午後の部だぜ!じゃあな!!!オイ、イレイザーヘッド飯行こうぜ…!』
『寝る』
『ヒュー』
《カァ!カァ!》
「お前、ほんとどこからでも現れるな」
《クゥ》
「褒めてねーよ」
昼休憩、誰にも目がつかない木々のゾーンで木の枝に寝転ぶ。胸の上にぐるぐるが座る。
「俺の活躍見てくれたか?」
《カアア!!カァ、カァ!》
「見てくれたんか。次の決勝戦に優勝すれば本当の1位だ。完璧な1位とればオビトは褒めてくれると思うか?」
《カアア!!》
「だったらいいな」
勿論!と羽をバサバサするぐるぐるに、落ち着けと羽を撫でる。優勝して、オビトに報告するんだ。雄英にいる誰よりも強いと、オビトが鍛錬つけてくれたおかげで1位になれたんだと。俺はオビトに師事を仰いだことに後悔はない。半分野郎が個性婚で生まれ、憎んで半分の力を出さなくたって俺から言わせれば勿体無いこと。自分の力は自分のものだ。オビトが犯罪者だろうが戦争起こした戦犯だろうが俺は出し惜しみしない。中途半端な覚悟でヒーローになろうとしてる奴に、俺が負けるわけない。負けるはずがない。
《クゥゥア?》
「なんでもねぇ。俺は寝る」
瞼を閉じて寝る姿勢に入った俺に、ぐるぐるは飛び立つことはせず寝る体制に入る。変な白い烏。烏らしくない陽気な性格でオビトのそばにいた一匹。オビトが消えてから入学祝いの荷物が届いた日に、いつのまにか部屋にいた可笑しな鳥。お前はなんで俺と一緒にいてくれるんだろう。人と動物とじゃ会話ができない。もし会話できるなら、俺の知らないオビトの話を聞けただろうに。昼休憩が終わるまで、俺はぐるぐると一緒に眠った。
6
『相手から目を逸らすな』
相手の動作、仕草を見逃さないように。隙が生まれたら攻撃できるように。目を逸らせば死ぬのは自分だ。
『無駄なことをするな』
感情を殺せ。余計な動作をするな。厄介なことになる前に先手を打て。
『思考を止めるな』
目の前の情報を、先の未来を予測しろ。勝ち筋を、凌ぐための算段を見つけるために思考をぶん回せ。
『殺す気でやれ』
勝つためならどんな手段でも厭わない。それがオビトから教わった俺の戦闘スタイル。
昼休憩が終わり、トーナメントのくじ引きが行われた。そこで辞退する者、繰り上がりで入るという事態が起きる。それを好みで片付けるミッドナイトも受け入れる雄英もさすがというかなんというか。午後の部ではレクリエーションが行われ、峰田に騙されたチア姿の女子が応援する。楽しい余興を経て、ついに待ちに待ったトーナメント戦が行われる。
『ヘイガイズ、アァユゥレディ!?色々やってきましたが!!結局これだぜガチンコ勝負!!頼れるのは己のみ!ヒーローでなくともそんな場面ばっかりだ!わかるよな!!心・技・体に知恵知識!!総動員して駆け上がれ!!』
会場のど真ん中にコンクリートで作られたステージ。待ちに待ったガチンコ勝負に観客の歓声が大きく湧き上がる。第一試合は緑谷と普通科の心操の試合が始まろうとしていた。
「どっちが勝つと思う?」
「どっちでもいい。勝ち上がったら俺が殺す」
「爆豪らしいな!」
どちらが勝っても関係ない。俺の前に立ち塞がる奴は殺るのみ。クソナードの試合はイライラしちまう試合だった。内容なんざ言いたくねぇ。あとはパッとしない試合ばかり。つまんねー試合が続いた。そしてやっと俺の番が回ってきた。
『第一回戦、最後の第八試合!中学からちょっとした有名人!!堅気の顔じゃねえヒーロー科、爆豪勝己!!』
目を閉じて脳内で水面を思い浮かべる。うるさい雑音も、いらない感情を押し流す。俺がすべきことは敵を倒すこと。
『対…俺こっち応援したい!!ヒーロー科、麗日お茶子!』
ゆっくりと目を開く。凪のように静かに佇む爆豪。光のない目が、対戦相手である麗日を捉える。
『 START! 』
麗日が速攻とばかり正面から爆豪に突っ込む。麗日の個性、無重力で相手に触れば浮かべて場外に放り出せると考えていた。爆豪は麗日の速攻に動じておらず、相手の個性を把握した上でその場に立っている。触れようと手を伸ばす麗日に最小限に躱し、腕をとって遠心力を利用して場外に出るよう飛ばす。麗日は場外に出ないよう転がって勢いを殺し、すぐさま体制を整えて特攻してくる。
「………」
触れようとしてくる丸顔を最小限に躱して腹や背中に一撃を入れる。単調な動き。全体的に動きが遅い。次に狙う視線がバレバレ。自分の個性頼りの勝ち筋。
「まだまだぁ!!」
めげずに何度も特攻する丸顔。どうすれば戦意喪失してくれる。どんな方法で諦めさせる。骨を折れば諦めるか?身を屈めて足払いを仕掛ける。意識が手に向いていたから簡単に体制が崩れる。倒れる体をうつ伏せで押さえつけ馬乗りになり片足を折る。
「あぁぁぁああ!!」
「………」
ゴキッと骨を折る音と悲鳴がスタジアム内に響く。
『女の子相手に容赦ねぇぇ!!そこまでやるか!!?』
「なァ止めなくていいのか?」
「大分クソだぞ…」
「………」
「見てらんねぇ……!!おい!!それでもヒーロー志望かよ!そんだけ実力差あるなら早く場外にでも放りだせよ!!女の子いたぶって遊んでんじゃねーよ!!」
「そーだそーだ」
BOOO!とブーイングが起こる。そんな会場を制したのは爆発音。爆豪は観客の声も放送も聞いていない。爆発させたのは麗日に対しての脅し。
「ここでまた片足を折られるか、爆破で焼かれるか、好きな方を選べ」
「っつ……」
「敵わない相手に諦めず立ち向かったことは褒めてやる。だが実力差は歴然。ここでギムアップするか、立ち向かうか、お前はどちらを選ぶ」
「ぅ…確かに……私じゃ、爆豪くんの力には…届かない………でも、だから…私は…負けたくない!!」
ぱら、と小さな石の欠片が落ちる。ステージの上空にコンクリートの瓦礫が埋め尽くしていた。
「勝あアアァつ!!」
丸顔から何故か嫌いな奴の顔が脳裏によぎった。丸顔から素早く離れ、片手を降り注ぐ瓦礫に向かって爆発させる。
BOOOOOM!!
一撃で全ての瓦礫を粉々に吹き飛ばした爆豪に、観客と麗日は圧倒的な強さに引いていた。
「いい作戦だったが、俺相手じゃ通用しないぞヒーロー志望」
「………………一撃て…」
『爆豪!会心の爆撃!!麗日の秘策を堂々、正面突破!!』
「うう”…ハッ、ハッ、んの…」
麗日は許容重量を超えて震える体に鞭打って腕だけで前進する。足を折られても、圧倒的な実力を目の当たりにしても諦めなかった。
「まだ…〜〜父ちゃん…!!」
ただ勝ちたい。心は諦めていない麗日だったが、体は限界でついに動かなくなった。
「麗日さん…行動不能。二回戦進出爆豪くん!」
担架に運ばれる麗日に目もくれず、爆豪は踵を翻す。勝った喜びを感じず、音さえ耳に入れていない爆豪は知らない。
『さっき遊んでるっつったのプロか?何年目だ?シラフで言ってんならもう見る意味ねぇから帰れ。帰って転職サイトでも見てろ』
担任の教師がブーイングを飛ばしてるヒーローに非難しているのを。
『ここまで上がってきた相手の力を、認めてるから警戒してんだろう。本気で勝とうとしてるからこそ手加減も油断も出来ねぇんだろうが』
爆豪のヒーローとしての認識を知っているからこそ、プロとして喝を入れたことを爆豪は聞いていなかった。
この会場で、画面の向こう側で一体何人が爆豪の異常さを気付いているだろうかと相澤は思う。麗日の瓦礫の流星群が降りかかるまで爆豪は立った場所から移動していない。最小限に避けれる動体視力と技量、死角ついても反応できる反射神経。行動不能にするために躊躇わず足の骨を綺麗に折る腕前。入試からやけに戦闘慣れしているなと思っていたが、これ程とは思っていなかった。元軍人が爆豪にどこまで教えたのか。普段の爆豪とは打って変わって戦闘になるとまるで別人。死線を潜って生き抜いたような、この世を絶望した目をしていた。いらないことでも教えたんじゃないだろうなと怒りが込み上げる。ヒーローになる教え子が、敵になるように育てていたんじゃないのかと疑ってしまう。まだ16のガキに何を教えてんだ。子どもが、ましてやヒーローを目指す教え子がヒーローらしかぬ戦闘スタイルに頭を抱えてしまいたい。実際は包帯で手すら動かせられねぇけどそれぐらい悩ませる問題だった。
『俺はアンタらを信用してねぇ』
ヒーローを目指す子がヒーローを信じていない。皮肉なことだ。これ以上、爆豪がヒーローを失望しないように導くのは教師の仕事。
『ああ麗日…ウン、爆豪の一回戦とっぱ』
「ちゃんとやれよやるなら…」
まずは横にいるどうしようもない奴から指導だな。
観戦席に戻る道すがら緑谷とバッタリ出会う。
「うわあかっちゃん…!」
「んだてめぇ、何の用だ死ねカス」
「いや…次僕だから…控え室で準備…あと…一回戦おめでとう…じゃあ…」
相変わらずビクビク怯える態度に苛ついてしまう。控え室に行くクソナードを呼び止める。
「てめェの入れ知恵だろ。あの捨て身のクソ策は」
俺が嫌いな自己犠牲。傍迷惑でダサい自殺行為。あんな行動取るのはクソナードぐらい。だから仲がいい丸顔に入れ知恵したんだと思った。
「厄介なことしやがって、ふざけんじゃ…」
「違う………全部……麗日さんが君に勝つ為に考えて組んだんだよ。厄介だって思ったんならそれは……麗日さんが君を翻弄したんだ」
「…………」
俺が、翻弄……?
違う、違う、違う、違う!
俺は翻弄されてなんかいねぇ!!
お前に関わると碌なことがない。思考も生き様も、ヒーローとしてのあり方何もかも理解できない。お前が嫌いだ。大っ嫌いだ!
「おーう、爆豪!なんか大変だったな悪人面!!」
「組み合わせの妙とはいえ、とんでもないヒールっぷりだったわ爆豪ちゃん」
「黙れ砂利ども」
「えっ、モブじゃない強烈な言葉きたんだけど」
「まぁーしかし、か弱い女の子によくあんな容赦なくするよな。俺はもーつい遠慮しちまって」
「完封されてたわ上鳴ちゃん」
「…あのな梅雨ちゃん」
「ふんっ」
空いた席に座り、クソ髪とモブが腕相撲するさまを眺める。
「どこがか弱ェんだよ」
丸顔の闘志に、弱さなんて何一つなかっただろうが。
あぁ、なんか、嫌だな。丸顔と対戦した時から。クソナードと会ってから、クソナードと半分野郎の試合を見た後から胸の辺りがモヤモヤする。イライラが止まらない。落ち着け、落ち着け。余計なことを考えるな。無駄な感情は捨てろ。俺はただ、目の前の敵を倒すだけだ。
「うぉらあぁぁああ!!」
「………」
硬化した拳が頬を切って少量の血が流れる。ガラ空きの脇腹に向かって爆発させた。
BOOOM!!
『カァウゥンタァ〜〜!!!』
「効かねーっての爆発さん太郎がぁ!!」
「……固いな」
騎馬戦から分かっていたが、俺の爆発に耐えるだけの自信はある。硬化した拳が襲い掛かる。最小限に躱して腕を受け流す。
『切島の猛攻になかなか手が出せない爆豪!!』
「オラァァァ!早よ倒れろ!!」
見ろ、見ろ。観察し続けろ。騎馬戦で指示出した俺が分かってること。大ぶりで工夫ない。稚拙でシンプルな殴るコマンドしかない切島に、また脇腹に向けて爆破する。
BOOOM!!
『あぁー!!爆豪再びのカウンター!!んだぁ!?さっきと違って効いてるぅ!?』
「って……!!」
「騎馬戦からなんとなく予想していたが硬化という個性、気を張り続けなければ維持できんだろ。その状態で速攻仕掛ければいずれどこか綻びがでる」
BOOM!BOOM!BOOM!BOOM!
爆破の連打が切島を襲う。硬化で固めてもダメージをくらう切島に止めと言わんばかりの大きな爆発を浴びせた。
BOOOM!!
「………」
「まァ、俺と持久戦やらない心構えは褒めてやる」
「切島くん戦闘不能!爆豪くんの勝利!!」
『爆豪のエゲツない絨毯爆撃で三回戦進出!!これでベスト4が出揃った!!』
なんか、疲れた。今は人気のないとこで休もう。無性に鈴の音が聞きたくなった。
「…爆豪……………?」
ぼんやりとした視界に、背を向けて歩く爆豪の姿がやけに寂しそうに見えた。
『準決勝第二試合!爆豪対常闇!爆豪のラッシュが止まらねえ!!』
ダークシャドウをちまちま出す腰抜けに何度目かの爆破する。
BOOOM!!
《グァァァ!!》
「ッチ!修羅め…!!」
『常闇はここまで無敵に近い個性で勝ち上がってきたが今回は防戦一辺倒!!懐に入らせない!!』
常闇踏影、個性黒影。伸縮自在の影のようなモンスターを操作する個性。こういう遠距離持ちの個性持ちは接近戦に弱いのが鉄則。個性頼りなら尚更。
爆豪が対戦試合で初めて自分から特攻に仕掛ける。捕まえようとするダークシャドウを飛び越えながら爆破し、常闇の背後へ移動する。地に足がついた瞬間に身を低くし、両手を前に合わせる。
閃光弾スタンドグレネード」
眩い光が常闇とダークシャドウを襲う。煙が立ち込め、常闇のいる位置に突っ込む。首を掴んで地面に薙ぎ倒す。
「がはっ!」
片腕なのに首を絞める腕力が強い。なにより空いた手は小さな爆破の光でダークシャドウを牽制している。光のない赤い目が常闇を見下ろす。
「………っ知って、いた…のか…」
「影があるところに光あり、だろ?俺との相性が悪かったみたいだな。詰みだ。このまま絞め殺していいが、言う言葉は……?」
「……………まいった…」
「常闇くんの降参!爆豪くんの勝利!!」
『これで決勝は轟対爆豪に決定だあ!!!』
首から手を離し上から退く。スタスタと会場を去る爆豪に声援や労りの言葉はなかった。
ちりん、ちりん
無言で鈴を揺らす。
ちりん、ちりん
光のない目が鈴をじっと見つめ続ける。次が最終決戦。控室に入らず、階段に座って鈴の音を聞いていた。雑音を、感情を消すために。
「爆豪!」
ちり。鈴を手の中にしまい、声した方向に顔を向ける。そこには包帯を巻いている切島の姿。
「控え室にいねぇでこんなとこに居たのかよ。探したぜ」
「……何のようだ」
「えーと、その、激励しに?ダチを応援すんのは悪いことじゃねぇだろ?」
だから来た!と笑う切島に目を細める。
「轟は強ぇが爆豪も強ぇ!USJから爆豪の強さを知る俺が言うんだ!絶対1位獲るって信じてる!!」
「当たり前だ。俺が1位になるに決まってんだろ」
「選手宣誓で爆豪の言葉痺れたぜ!漢らしいじゃねぇか!って。だから周りなんか気にすんな。爆豪は爆豪らしくありのままぶつければいいんだからな!」
真っ直ぐで下手な励ましに小さく笑う。今まで考えてたのがバカらしくなるほど能天気な野郎だ。あぁそうかよ、と移動するために立ち上がる。次は半分野郎との試合。派手なことになると予測はしている。だから手の中にある物を、まだ気が許せるコイツに預けようと思った。
「切島、これ持っとけ」
「お、おう。ん?鈴?」
「俺の大事な宝だ。次の試合で傷一つつけたくねぇから預ける。壊したら殺すぞ」
「分かった!爆豪の宝は俺が守るぜ」「ふん」
「頑張れよ爆豪!!応援してるからな!!」
切島の言葉に手だけ振り返した。
『さァいよいよラスト!!雄英1年の頂点がここで決まる!!決勝戦轟対爆豪!!』
俺が勝つ。1位の称号を勝ち取れる。勝ち取って、オビトに報告して俺の力で世の中に知らしめてやる。
『今!! START!!!!』
開始時に氷と爆破が同時にぶつかる。爆破で氷の欠片が飛び散るが、分厚い氷の壁がが爆発ごと爆豪を閉じ込める。
「小賢しい」
足を肩幅程度に広げ、右手の拳を握る。拳に力を一点集中させて氷の壁に向かって突き出した。途端分厚い氷の壁が割れ、ガラガラと崩れ落ちる。
『コイツァーシヴィー!!氷壁を拳一つで破壊したぁ!!どんな怪力だ!!』
両手を爆破させて半分野郎に向かって進む。派手な個性ゆえに動きが大雑把。接近戦慣れしてないと今までの試合を思い浮かべる。左側を掴み、思いっきり顔面に殴り飛ばした。
「くっ………!」
苦痛の声を上げ、轟は白線に飛ばされそうになった体を氷の壁で防ぐ。爆豪は轟の位置まで移動し接近戦に持ち込んだ。目、鼻、首、足。急所を的確に突き、左側を重点的に狙う爆豪に顔を顰める。
『左側をわざわざ掴んだり、爆発のタイミングだったり…研究してるよ。戦う度にセンスが光ってくなアイツは』
『ホゥホゥ』
『轟も動きは良いんだが……攻撃が単純だ。緑谷戦以降どこか調子が崩れてるなァ…』
爆豪の右手を掴み、氷で閉じ込めようとするも簡単に躱された。二人を閉じ込めるように氷の壁が囲う。
「つまんねぇな…お前」
「どういう…」
服についた小さな氷の欠片を払い、首をコキリと鳴らす。傷一つなくダメージを受けていない爆豪。対して顔に一撃もらい、精神的に疲労ある轟。
「自分の強さは意志の強さで変わる。分かるか?てめぇと俺とで意志の強さが段違いだ。俺はNo. 1ヒーローになるためにここに立っている。お前は何のためにここにいる」
「俺、は」
「自分の力を出さずにヒーローになるなんざ笑止千万。片腹が痛い。ヒーローになる気ないなら、勝つつもりがないならここから去れ」
パチパチと手のひらで小さな爆発が起こる。BOM!と火力を上げた爆発を両手で発動し、体を捻って回転する。
「なんで雄英ここにいるんだ砂利が」
轟の気持ちに変化が起きたのか左側に炎が昇る。だがすぐさま炎を消し、顔を俯かせた。抵抗で心もとない氷の壁で防御する。諦めてようが戦意喪失だろうが関係なく、爆豪は容赦なく技を放つ。
「榴弾砲着弾ハウザーインパクト」
『麗日戦で見せた特大火力に、勢いと回転を加えてまさに人間榴弾!!轟は緑谷戦での超爆風を撃たなかったようだが果たして……』
煙が晴れ、ステージには白線を越えて氷壁にぐったりと倒れている轟と無傷で立つ爆豪の姿。
「轟くん場外!!よって爆豪くんの勝ち!!」
『以上で全ての競技が終了!!今年度の雄英体育祭1年優勝は、A組爆豪勝己!!!!』
湧き上がる歓声を聞いていない爆豪は無表情で倒れている轟をつまらなそうに見る。
「つまんねぇ試合だったな」
利益なかった決勝戦に落胆した。
「それではこれより!!表彰式に移ります!3位には常闇くんともう一人飯田くんがいるんだけど、ちょっとお家の事情で早退になっちゃったのでご了承くださいな」
1位から3位と書かれた台にそれぞれ乗る。両手をポケットに突っ込んで早く終わんねかなー、と密集するモブどもを見下ろす。
「メダル授与よ!!今年のメダル贈呈するのはもちろんこの人!!」
「私が、メダルを持って来」
「我らがヒーローオールマイト!!」
「…………」
「カブった。それではオールマイト、3位からメダルの授与を」
モブどもの個性や戦い方はあらかた把握できた。俺にはまだ改善点があるし直さなきゃいけない課題もでた。まだ未熟でオビトの強さに届いていない。まだまだだなと自己反省していると視界に筋肉だるまが入る。
「さて爆豪少年!!選手宣誓の伏線回収見事だったな」
「……こんなの過程にすぎねぇ。個性頼りで体が仕上がってねぇモブどもに俺が遅れとるわけねぇだろ。たかが体育祭の1位だ。俺がなりたいのはNo. 1ヒーロー。アンタを超えるヒーローになってやるから老後でも考えてろ」
「君は毎回息するように毒吐くね!自分で分かっているようだから私のアドバイスはいらないだろう。だが言わせてほしい。もう少し肩の力を抜いて、子どものままでいてもいいんだ。早くに大人になろうとしなくていいんだよ爆豪少年」
「はっ。余計なお世話だ」
ハグしてくるオールマイトを、触んなと制してメダルだけ貰う。
「さァ!!今回の勝者は彼らだった!!しかし皆さん!この場の誰にもここに立つ可能性はあった!!ご覧いただいた通りだ!競い!高め合い!さらに先へと登っていくその姿!!次代のヒーローは確実にその目を伸ばしてる!!」
まだ俺は強くなれる。オビトのように圧倒的な力で敵を倒せれるように。
最後はオールマイトらしく閉まらない形で体育祭は幕を閉じた。
7
雨の日は嫌いだ。
個性のせいか調子がイマイチだし、髪が湿気で余計に爆発する。耳障りな音を余計に拾ってしまうからイラついてしまう。
「勝己くん、帰りは本当にいいの?」
「子供じゃあるまいし1人で帰れるわ」
「勝己くんがそういうならいいけど、もししんどくなったら僕か光己さんに連絡してね。帰りは晴れらしいけど早退してタクシー使ってもいいから。あ、お金ある?」
「余計なお節介だクソが!車ありがとな!会社遅れるぞ早よ行けクソ親父!!」
乱暴に車のドアを閉めて校内に入る。雨粒がしきりに傘に滴り落ちていく。パシャパシャと水溜りを跳ねて近づいてくる目に痛い黄色。
「おは〜爆豪。今日も不機嫌顔だな」
「アホ面のせいで不機嫌にもなるわ」
「俺のせい?そりゃないぜかっちゃん」
「かっちゃん言うな」
「今日色んな人に声かけられたんだよ。体育祭見たよ!って。やっぱ雄英の体育祭全国放送するだけあって人気すげぇわ。モテ期きたんじゃね?」
「モブどもに群がられても邪魔なだけだろ」
「おまっ、夢ないこと言うなよ!モテたいと思うのは誰だって抱くことだろ!」
「肉と骨で歩く猿に群がられても気持ち悪ぃだけだ」
「表現!!お前人のことそんな風に思ってたの!?」
玄関に入り、傘を閉じて滴を飛ばす。下駄箱で靴を履き替え教室に向かう。それにしてもこのアホ面、いつまで隣にいるんだ。
「爆豪は声かけられなかったの?優勝者じゃん」
「知らね。親父の車で来たし」
「いいなぁ。俺も雨の日送ってほしいー。電車じゃ満員だし湿気と汗でくせぇし最悪なんだよ」
「ざまぁねぇな」
「ほんっと勝己くんてばお口が悪くてよ!」
「キャラブレてっぞ。あと名前呼ぶんじゃねぇ」
無駄にでかい扉に入れば既に半分ぐらいの人数がワイワイと騒いでいた。自分の席に座ると前にアホ面が立つ。なんでくんだよ。
「やっぱ周りの奴らも体育祭の影響出てんだな。一気に有名人になった気分」
「てめぇは全国にアホ面晒したんだからクソガキに揶揄われて終わりだろ」
「なんで分かったんだよ!子どもに今日笑われたわ!」
「はっ」
アホ面が担任が入ってくるまでずっと喋っていた。そんな話すことねぇだろって思うぐらいくだらねぇこと沢山。
「おはよう」
ガラッと入ってきた担任に俊敏に自分の席に着いて静まるA組。その動きを体育祭でも発揮すればいいのにと余計なこと考えてしまう。
「相澤先生包帯取れたのね。良かったわ」
「婆さんの処置が大ゲサなんだよ。んなもんより今日のヒーロー情報学ちょっと特別だぞ」
大袈裟じゃねぇだろ絶対。医者が包帯ぐるぐる巻きにするぐらいひでぇってことだろ。
「コードネーム。ヒーロー名の考案だ」
「「「胸膨らむヤツきたああああ!!」」」
騒ぐクラスメイトに黙らせるために個性発動する担任。当然躾けられてるA組は静まり返る。
「というのも、先日話したプロヒーローからのドラフト指名に関係してくる。指名が本格化するのは経験を積み、即戦力として判断される2、3年から…つまり今回1年のお前らに来た指名は将来性に対する興味に近い。卒業までにその興味が削がれたら、一方的にキャンセルなんてことはよくある」
「大人は勝手だ!」
「いただいた指名がそのまま自身へのハードルになるんですね!」
「そ。で、その指名の集計結果がこうだ」
リコモンで黒板に集計結果のデータが映る。1番指名が多いのは轟、次に爆豪で2人に4桁の指名が来ていた。
「例年はもっとバラけるんだが、二人に注目が偏った」
「だーー白黒ついた!」
「見る目ないよねプロ」
「1位轟、2位爆豪って」
「体育祭で順位逆転してんじゃん」
「ヘイト集めてたし、ボスモードの爆豪にビビるもんな」
「ビビってんじゃねーよプロが」
「さすがですわ轟さん」
「ほとんど親の話題ありきだろ…」
「わあああ!指名きてる!」
「うむ」
「緑谷無いな!あんな無茶な戦い方すっから怖がられたんだ」
「んん……」
見る目ねぇわマジで。ヒーロー辞めろクソが。
「これを踏まえ…指名の有無関係なく、いわゆる職場体験ってのに行ってもらう」
「「「!!」」」
「おまえらはUSJの時、一足先に敵との戦闘を経験してしまったがプロの活動を実際に体験して、より実りある訓練をしようってこった」
「それでヒーロー名か!」
「俄然楽しみになってきたァ!」
「まァそのヒーロー名はまだ仮ではあるが適当なもんは…」
「付けたら地獄を見ちゃうよ!!」
扉から入ってきたのは体育祭で進行していたミッドナイト。
「学生時代につけたヒーロー名が世に認知され、そのままプロ名になってる人多いからね!!」
「「「ミッドナイト!!」」
「まァそういうことだ。その辺のセンスをミッドナイトさんに査定してもらう。俺はそういうのできん」
そう言って教卓の下からゴソゴソと寝袋を取り出す。寝る気満々の担任に誰もツッコまない。
「将来自分がどうなるのか、名を付ける事でイメージが固まりそこに近付いていく。それが名は体を表すってことだ。オールマイトとかな」
ボードを配られて後ろに回す。
名前、名前、名前?考えたことなかったな。ヒーロー名………強ぇ名前がいいな。名を聞いた途端平伏すようなインパクトあるヒーロー名。ペンのキャップを外し、ボードに書き込む。
「じゃ、そろそろ出来た人から発表してね!」
ミッドナイトのせいで発表形式になってしまい戸惑いを隠せない。さらに最初に発表した青山と芦戸のせいで空気は完全に大喜利。気まずい空気の中、流れを変えたのは蛙吹。流れを変えてくれた蛙吹に感謝を込めてフロッピーコールが起きる。爆豪はうるさっと指で耳を防いだ。
「んじゃ俺も!!剛健ヒーロー烈怒頼雄斗!!」
「赤の狂騒!これはアレね!?漢気ヒーロー紅頼雄斗リスペクトね!」
「そっス!だいぶ古いけど、俺の目指すヒーロー像は紅そのものなんス」
「フフ…憧れの名を背負うってからには相応の重圧がついてまわるわよ」
「覚悟の上っス!!」
ふーん。いい名前じゃねぇか。クソ髪の認識を少し見直している俺を他所に次々とヒーロー名が発表される。正直誰1人も覚えちゃいない。次は俺の番だと教卓の上にボードを置く。
「爆殺王」
「そういうのはやめた方が良いわね」
「なんでだよ!!」
「爆発さん太郎にしろよ!」
「黙ってろクソ髪!」
やり直し食らわされて席に戻る。良いだろうが爆殺王。強いし平伏すようなヒーロー名だろうが。ペンをとって新たなボードに書き込む。ペンを走らせていると教室にどよめきが走る。なんだと前を向くと教卓に立つクソナードの姿。
「緑谷?」
「いいのかそれで?」
「一生呼ばれ続けるかもしんねぇんだぜ?」
「うん、この呼び名…今まで好きじゃなかった。けど、ある人に意味を変えられて…僕には結構衝撃で…嬉しかったんだ。それにこの名でもう一度呼んでほしい人がいるから」
木偶の坊。雑魚で出来損ないにピッタリなアイツに呼んでいた蔑称。なのに堂々と、自信満ち溢れた表情でその名を告げる。
「デク。これが僕のヒーロー名です」
今すぐそのボードを爆破で粉々にしたい気持ちを抑える。ムカつく。存在ごと消し去ってやりたい。見ないように視線をボードに戻す。一生そのヒーロー名を口にすることなんかない。てめぇなんかクソナードで十分だ。怒りをぶつけるように筆圧が荒くなった。
「爆殺卿!!」
「違う。そうじゃない」
考えたヒーロー名は何故か却下され続けた。
「さて、全員のヒーロー名が決まったとろこで話は職場体験に戻す。期間は一週間。肝心の職場だが指名のあった者は個別にリストを渡すから、その中から自分で選択しろ。指名なかった者は予め、こちらからオファーした全国の受け入れ可の事務所40件。この中から選んでもらう。それぞれの活動地域や得意なジャンルが異なる」
「例えば13号なら、対敵より事故・災害等の人命救助中心…とかね」
「よく考えて選べよ」
「「「はい!」」」
「今週末までに提出しろよ」
「あと2日しかねーの!?」
「効率的に判断しろ。以上だ」
一限の終わりを告げるチャイムが鳴る。ガヤガヤと騒ぎだすモブどもを遮断するべくノイズキャンセラーを付け、音楽を最小限に流して分厚い紙の束をパラパラと捲る。知らねぇ事務所、興味ねぇヒーローばかり。クソしかないヒーロー事務所を速読で流す。
「爆豪、ばーくーごーおー!」
「……あ”?」
片耳を取られ、周囲の音が聞こえた。アホ面が俺のイヤホンを取ったことが分かった。
「返せや」
「だってこうでもしねーと話聞いてくれないじゃんか。爆豪のリスト見せてくれよ。指名2位の爆豪にどんな事務所来てるか見たいし」
「俺も気になる!いいか?爆豪」
「勝手にしろ」
イヤホンを返してもらい、アホ面としょうゆ顔に紙の束を渡す。やべー!すげー!と語彙力ない2人が騒ぐ。
「なぁなぁ爆豪。俺さ、都市部での対・凶悪犯罪の事務所に行きたいんだけど何処か分かるか?」
「あ?自分で調べろや」
「だってこういう情報系って爆豪得意だろ?俺頭悪ぃから頼むよ」
「………貸せ」
「おう!頼むわ!」
そういえば根気はよくても頭悪かったな。切島の要望通りリストをざっと見る。希望に沿って切島に必要なこと、学ぶべきものがある事務所は……。
「ここだな」
「フォースカインド?」
「ほとんどのヒーロー事務所は犯罪の取り締まり、警察と協力関係ある事務所ばかりだ。この事務所ならクソ髪の性格的に合う。足りねぇこと学んでこい。まぁてめぇの相性ならファットガムでもいいが、最初の職場体験ならここだな」
「分かった!爆豪が言うなら間違いなしだな!」
「切島ずりぃ!なぁ俺も選んでくれよ爆豪。騎馬戦の仲だろ?」
「自分で選べしょうゆ顔」
「切島って爆豪に対する信頼感高すぎじゃね?」
「そうか?爆豪は間違ったこと言わねー男だからな。ダチだし信頼してる!」
小っ恥ずかしいことを言うクソ髪にリストを顔面に叩きつける。
「そういえば爆豪のリストにトップ5以内のヒーローがいたな。すげぇじゃん」
「そんなんいたか?」
「周り見てねーって分かってたけどヒーローも見てないのね。そんな爆豪くんに上鳴くんが教えてあげよう。えーと、ヒーローランキングで1番高かったのは……あったあった。これだよ」
「ジーニスト?」
「ヒーローランキング4位ベストジーニスト!結構人気なヒーローなんだぜ!?本当に興味ねぇんだな」
「ふーん」
「トップヒーローになるなら良い経験学べんじゃね?俺も人気ヒーローの職場気になるし行ってこいよ爆豪。そして感想教えてくれ」
どうせくじ引きで決める予定だったし、アホ面達がそう言うなら行くか。第一希望にベストジーニストと書いた。
「で!で!俺も体験先選んでかっちゃん」
「よろしく!」
「うぜぇ!貸せやリスト!!」
昼休憩。教室で弁当食ってるとクソ髪どもと食べることになっていた。何故だ。
「結局爆豪のヒーロー名決まらなかったな」
「爆発さん太郎でいいじゃんね?覚えやすいし」
「チッ!口を閉じてろ砂利」
「でたボスモード。このさい名前でいいじゃん。轟とか飯田とか名前だったし」
「有象無象に名前呼ばれたくねぇ。鳥肌立つ」
「そこまでいう?」
「じゃあアレは?切島と同じように憧れのヒーローからもじるとか」
「てか爆豪いんの?憧れの人とか」
「確かに」
紫装束の背が浮かぶ。
俺が目指す人、目標となる俺のヒーロー。
「………いる」
「え!?どんなヒーロー?」
「ヒーローじゃねぇ。オールマイトより強い、俺の憧れの人だ」
「確かに」
紫装束の背が浮かぶ。
俺が目指す人、目標となる俺のヒーロー。
「………いる」
「え!?どんなヒーロー?」
「ヒーローじゃねぇ。オールマイトより強い、俺の憧れの人だ」
「へぇ。じゃあその人の名前を借りたら?」
「嫌だ」
「爆豪?」
「絶対に嫌だ。あの人の名はあの人だけのもんだ。俺が使っていいような人じゃねぇ」
オビトはオビトだ。関連性もなにもかもあの人のもんだ。俺如きがオビトの名は重すぎる。
「爆豪がそこまで言う人ならすげぇ人なんだろうな」
「俺の師匠だ。数年で勝ったことなんか一回しかない」
「マジか!爆豪の師匠!?」
「ボスモードの爆豪より強いって相当だな」
「まぁまだ仮のヒーロー名だし、卒業するまでしっくりくるの決めればいいじゃん」
「才能マンのくせにネーミングセンスは才能ないけど」
「殺してやろうかアホ面」
いつもより賑やかな昼食。窓の外はいつの間にか晴れていた。鬱陶しいと思っていた人付き合いは、この時間だけ苦にはならなかった。
8
職場体験当日。
アホ面達に言われて4位であるヒーローの事務所に来たのはいいものの後悔している。
「正直君の事は好きじゃない」
「は?」
いきなりの罵倒。なんだコイツ。アホ面の言い分に乗っかるんじゃなかった。今すぐ帰りてぇ。
「私の事務所ウチを選んだのもどうせ、五本の指に入る超人気ヒーローだからだろ?」
いや、アホ面が言ったから選んだだけで正直あんたの存在認識すらしていなかったわ。
「指名入れたのあんただろうが…」
「そう!最近は良い子な志望者ばかりでねえ。久々にグッと来たよ」
自意識過剰の上に変態ときた。これが4位?世間騙されてんじゃねぇのか。
「君の体育祭での活躍見せてもらった。潜在能力の高い個性を自在に操り、更に応用力まで身につけてる。今すぐ事務所のSKに採用されてもおかしくないほどの逸材だ。しかし、君には致命的な欠陥がある。自分が一番強いと思い込み、なりふり構わずそれを実践しようとする凶暴な人間性」
「わざわざ指名してお説教かっ…!」
説教かましてくる目の前の奴に言い返そうと前に出ると、腕と足に何かを拘束される。視線を下に向けると細い糸が巻きついていた。目の前の奴が服の繊維で俺を拘束したと理解する。
「その者達を矯正するのが私のヒーロー活動。敵もヒーローも表裏一体…そのギラついた目に見せてやるよ。何が人をヒーローたらしめるのか」
「………何しようってんだ」
「決まっている。ヒーローの規範となるべき人間になるよう教育するのさ。言葉遣い、身だしなみ、感情の抑制、モラルの徹底。やるべき事は無数にある。一週間という短い期間で君の体にそれらを縫い付ける」
「あぁ…そうかよ………」
気に入らない。気に食わない。そいつ自身もヒーローの姿勢も、この拘束も気に入らない。気持ち悪い。
「あんたの言い分は理解した。理解したが、その前に………俺に、触んじゃねぇ!!」
BOOM!
爆破で拘束してる糸を燃やす。他所のヒーローだか事務所だか関係ねぇ。俺が認めないヒーローはヒーローじゃない。
「理解したが納得はしない。ヒーローの規範?そんなもの存在しない。存在するならクズなヒーローはこの世にいないからだ」
どいつもこいつも人気になりたいなら別の仕事に就けばいい。本気でヒーローを目指す奴らの邪魔だ。
「俺はあんたのことを初めから認識してない。クラスメイトに言われて来ただけだ。俺が認めるヒーローはオールマイトとイレイザーヘッドの2名のみ。あんたは本物のヒーローだと、認知される存在か?俺からすればそこらのクズと同じヒーローに見えるぞ」
「なるほど。話は聞いていたが相当捻くれてるな。いいだろう。その信念、私が矯正させてやる」
やってみろよ、と中指立てた。
「君には私が直々に教えよう。SK達には荷が重いからね。さぁまずは基本中の基本である挨拶からだ。今日から一週間ウチの社員。小さい子ができる挨拶を、君はできないはずはないが…まさかできないのかい?」
「ッチ!雄英高校ヒーロー科1年、爆豪勝己。今日から一週間世話になる」
「口は悪いがまぁそういうことだ。君達は先輩らしくこの子を導いてやってほしい」
「「「シュア!!ベストジーニスト」」」
軍隊のように返事をするモブどもに寒気が走る。ほんと来る場所間違えた。
「爆豪、まずこちらに来なさい」
手招かれて別室に案内される。一脚の椅子が置かれおり座れと言われた。警戒しながら一応座る。
「ヒーローとは、救いを求める人々に安心を与えなければならない。能力はもちろんのこと容姿、言葉遣い、立ち振る舞い、エレガントさがヒーローには必要だ。分かるかい?」
また説教かよと思っているとサワ、と髪を触られる感触がした。
BOOM!
「触るな……俺に、触んなっ……!」
「っと…重症だな」
気持ち悪い。なんだ、何された。俺に何しようとした。
「イレイザーヘッドから聞いてるよ。ヒーロー目指してるのにヒーロー嫌い。とても不安定な子だとね。大丈夫、そこでじっとしていなさい」
あいつの手にあるのは櫛。櫛?俺の髪に触れたのはアレか?
「人に触れられるのが苦手なようだから、まず君に人馴れしてもらう。私が敵じゃないことを知ってほしい。だからそう怯えなくていい」
怯える?俺が怯えるわけねぇだろ。息を吐いて椅子に浅く座る。コツコツと靴を慣らしてまた背後に立たれた。
「改めて自己紹介しよう。私の名前は袴田維、ヒーロー名はベストジーニスト。ジーニアスオフィスの所長だ。個性はファイバーマスターといって服の繊維を自在に操る」
「あ……?」
「私は敵じゃない。君の上司だ。だから安心しなさい。決して君に危害を加えない。何故なら守るべき子どもだからな」
「………」
「今から君にこの櫛で髪をとかす。無理せず嫌になったら遠慮なく言いなさい。髪をとかすだけだ。それ以外は何もしない。いいね?」
「…………1分だけだ。それ以上やったら吐く」
「シュア。では今から君に触れるよ」
さり、と髪をとかれる。思わず肩を張ってしまう。
「一週間、私が毎日君の髪をとく。少しずつ人に触れられることを慣れてくれ」
「………」
「君は多くのヒーローをクズだと認識しているのにそれでもヒーローを目指している。嬉しいことだが悲しいところだ。君を戒めたヒーローを今すぐ矯正してやりたい」
「無理に…決まってんだろ……クズはクズだ……人は簡単に、変われねぇ………」
「だが認識は変えられる。私が君の視野を広げさせる。ヒーローは無数にいるが、プロヒーローはそういない。この一週間、有意義な職場体験を送らせてあげよう」
ちょうど1分。引っ込めた櫛に素早く離れる。肩の力を抜いて息を吐き、整えられた髪をわしゃわしゃと戻す。
「では早速、パトロールに行こうかバクゴー」
櫛を袖にしまってカッコつけるジーパン野郎に舌打ちした。
「パトロールは地区によって区間がある。管轄地区があるのは何故だと思う?」
「範囲が広いと対処できないから」
「それもある。ヒーローはその街の顔役。パトロールは不審人物や敵を捉えることもあるが敵の抑制、ヒーローが来たと市民は安心する」
「ふーん。あのモブどもみてぇにか?」
喉を潰すぐらい黄色い歓声を上げるモブども。キーキーして五月蝿い。
「口が悪い。人気あるのはそれぐらいヒーローとして活躍を認めてくれているということだ。ありがたいことにね」
「そんなもんか」
「まぁ私がカッコいいのは認めるがね」
「ナルシスト野郎が」
「私がイケメンなのはそうだろう?」
「イケメン……?」
爆豪は人の良し悪しは分からない。何故なら人は皆モブと認識して興味ないからだ。それに爆豪が憧れてるオビトは美人で有名なうちは一族。ミステリアスで大人の雰囲気をもつオビトが人類の中で1番カッコいいと認識し、実の母親が周りから美人だと言われてきた。そんな2人を見て育ったせいかジーニストがイケメンと言われても首をかしげる。むしろ爆豪はオビト以外眼中にない。
「守る者と守られる者との信頼関係を築くこと。ヒーローにとって大事なことだ」
「ご機嫌伺いかよ」
胸糞悪いとファンサしてるジーパン野郎を追い抜く。
「あー!この人テレビで見たことある!前に敵に捕まって泣きそうになってたよな!」
子どもの無邪気な声にジーニストは絶対怒るだろうなと身構えていたが、予想に反して爆豪は聞いていないように普通に歩く。
「てっきり私はあの子どもに怒鳴ると思っていたよバクゴー」
「あ?雑音をいちいち拾うわけねぇだろ。必要な音だけ拾えればいい。時間の無駄だ」
「ふむ。プロ意識は人一倍だな」
16の歳でとジーニストは思う。体育祭でみた爆豪の戦闘スタイル、プライドの高さ。ヒーローになるという明確な意思があるからいいものの、もしその意識が敵に傾いていたらとゾッとする。髪に触れただけで本気こそ出していないものの殺気を出し、殺意に満ちたあの目。さて、どうしたものかと足音を立てず歩く爆豪に頭を悩ませた。
パトロールをしてると明らかに重量オーバーの荷物を持つ婆さんに出会う。このご時世に歩きで買い物をしていたらしい。
「市民が困っていたら助けるのもヒーローの仕事。的確な対処をするんだバクゴー」
「ッチ!俺かよ」
職場体験のため上司の指示に従う。ババアに近づいて手のひらで小さな爆破を起こす。
BOOM!
「おいババア!そんな荷物持ってたら日が暮れるぞ!貸せ!」
「おぉ?誰だか知らんがありがとねぇ。でも重いだろ?返しんしゃい」
「うるっせぇな!ババアは散歩だけで十分だ。こんなの重いうちに入んねぇよ。俺が家まで散歩に付き添ってやる。どこだ家」
「ほほ。ババに付き合ってくれんのかい?こんな若い子と隣に歩けるなんて嬉しぃねぇ」
「何言ってんだ。こんな荷物持って買い物するぐらいババアも十分若いだろうが」
「あらやぁねぇ。お菓子いるかい?」
「飴以外いらねぇ」
行くぞとババアの隣に歩く。ババアから普通に飴を貰いすぐに口に入れた。
「ん、うめ」
「まだまだ沢山あるよ」
「舐め終わったら貰うわ。後ろにいる自称イケメンヒーローさんにでも渡してやれ」
「ん?おやおやこれまたイケメンさんなヒーローだね。アメちゃんいるかい?」
「よろしいので?それでは遠慮なくいただきますご婦人」
「ふふ、この歳で若い子と散歩できるなんて嬉しぃねぇ」
「家までな!そこ間違えんな!」
「口が悪いぞバクゴー」
「元気があっていいねぇ」
ケホケホと笑うババアに家まで荷物を送り届ける。
「ババに付き合ってくれてありがとねぇ。お礼しなくちゃ」
「そんなんいいから飴だけよこせ。それが礼でいい」
「おやそうかい?」
「ん。次、買い物する時買いすぎんなよ!もし買いすぎたら横にいるヒーローに声かけやがれ」
「私か」
「ふふ、ありがとねぇヒーロー。助かったわ」
飴袋を貰い、ババアに別れてパトロールに戻る。婆さんの家が見えなくなったところで飴袋をジーパン野郎に押し付ける。
「やる」
「おや、君のお礼じゃないか。素直に受け取りなさい」
「俺は辛いのが好きだからそんな甘いのいらね。飴なら市販だし毒も入ってない、異物混入の心配がねぇから安心安全の物だ。それにあんたはこの街のヒーローの顔役なんだろ。なら礼を貰うのはあんたの方だ」
「……ご婦人の声かけで思ったが君の気配りは難しいな」
「ふん」
職場体験初日。この日の初のパトロールは何事もなく平和に終わった。
職場体験5日目。
「今日もピッチリ平常運行。タイトなジーンズで心身共に引き締めよう」
「「「シュア!!ベストジーニスト!」」」
「…っ吐いていいか?」
「よく頑張ったねバクゴー。前回より10秒長い、記録更新だ」
「うぇっ」
整えられた髪をすぐさまかき乱す。朝礼でモブどもの前で髪整えられる俺の気持ちになれ。この事務所おかしな奴しかいねぇのか!
「今日もジーンズを履いてくれないとは。実に残念だ」
「残念なのはアンタの思考だジーパン野郎。戦闘服は個人の自由。いくら上司でも戦闘服にケチつけんな」
「口が悪い。仕方ないな、髪を触らせてくれるだけでも譲渡された方だ。今日は諦めるよ」
「そのまま墓場まで諦めろや」
いつまで続けんだこのやりとり。最終日までず言われんのか?あのクソダサいジーンズとか履きたくねぇんだよ殺傷力ないし武器隠せれねぇだろ。
「さて、今日の日程だが午前は雑用。午後は戦闘訓練だ」
「訓練……あんたとか?」
「いや、残念ながら私ではなくSK達だ。参加したいのは山々だが外せない用事があってね。終わり次第駆けつけるから先輩の言うことちゃんと聞くように」
「……わぁったよ」
「返事できて偉いな。ビデオ録画もするから見直して私が評価してやろう。貴重だぞ?プロから評価を得られるのは」
「別に。雄英じゃ珍しくねぇし」
「他所は他所。では仕事を始めよう、まずは」
与えられた雑用をこなしていると、SKから器用だとか上手とか親戚のジジイどもみてぇにやたら褒めてくる。俺はガキじゃねぇって何回言わせんだ!と怒鳴るも生ぬるい目をされた。なんなんだこの事務所。
「用事が終わり次第すぐ戻る」
「早よ行け」
「ちゃんといい子でお留守番するんだぞ」
「だから行けって」
「お土産は七味でいいか?」
「早よ行けっつってんだろジーパン野郎!時間厳守どこいった!!さっさと行け!!」
「バクゴーのこと頼んだよ」
「シュア!!ベストジーニスト!」
カッコつけて去る変態野郎。俺を犬猫か、小さい子どもだと思ってんのか。ウチの親父みてぇで腹立つ。やっぱ歳か。三十路後半だもんな。
「ジーニストさんがいなくて寂しいだろうけど」
「寂しくねぇ。頭沸いてんのか」
「午後は僕達と戦闘訓練。体育祭で見たことあるけど、改めて実力見せてもらうよ」
「ルールは?」
「個性ありの勝ち抜き戦。多対一でどれぐらい倒せれるか。集中力と体力が試される」
「どの範囲の怪我ならさせていい」
「もしかして骨折る宣言されてる?引退ならないぐらいの怪我で、えっと………明日の仕事に支障がない程度にお願い」
「分かった」
「よし、早速地下に行って訓練開始だ。プロヒーローの胸を借りるぐらい本気で構わないからね」
「へぇ……その言葉違えるんじゃねぇぞ」
築き上げられた人の山に腰をかける子ども。
「次はどいつだ?」
ただ座ってるだけなのに威圧感が襲う。残りのSK達は子ども相手に気圧されていた。開始時で殺気を放たれ半数が膝を折った。首元に鋭利を向けられたような殺気。個性使わずに体術で気絶させられる。どれぐらい時間が経ったのか、一瞬の気もするし長くも感じた。半ば戦意喪失だった彼らに現れたのは用事を終わらせたベストジーニスト。
「私が相手だバクゴー」
「いいだろう。胸を借りるぞプロヒーロー」
「来い」
ベストジーニストは敵と敵対するような真剣な目つきで爆豪を捉えていた。
「あんた、本当に強かったんだな」
「見直したかい?」
「その口一生閉じてたらな」
「年頃の少年は気が難しくていけない。矯正のしがいがあるよ」
「キモイ」
「分かってはいたが君は本当に強いな」
「武器ねぇし、明日の仕事に支障がない程度にって制限されてなければ目玉潰せたのに残念だ」
「容赦ない。転がっているSKを叩き起こして治療しよう。バクゴーも手伝ってくれ」
「あんたも人のこと言えねぇぞ」
お互い戦闘服ボロボロなのに気絶してるSK達を文字通り叩き起こした。
夜のパトロール。昼間より夜間の方が敵と犯罪が活発化すると教えられ、今日も今日とて上司と共にパトロール。ブブ、とスマホが振動し取り出す。
「こら、仕事中だぞ」
無理やり入れられたA組のグループライン。腹立たしいクソナードから地図の画像を送られていた。所在位置。その地区の敵情報。近くのヒーロー事務所。職場体験に行った奴。ここからの移動距離を計算する。
「保須市に敵出たらしいがこの場合どうなる」
「その場合は応援要請がなければその地区に任せる。一箇所にヒーロー集中してしまうと他の敵の対処が遅れるからね。なに、エンデヴァーさんの事務所が近くに構えてるから安心しなさい」
「ふーん」
念のためだと指笛でぐるぐるを呼ぶ。
《カァア!》
「この位置に行って周辺の様子見てこい。見るだけでいい」
《カァー》
「落胆すんな。早よ行け」
《カァ、カァ!》
腕を無理やり振り払うと飛び立つぐるぐる。幻聴でもう!人使い荒いんだから〜と聞こえたような気がしたが絶対空耳だ。
「君の相棒か何かかい?」
「いや、俺が預かってるだけ。ぐるぐるは元々師匠のパートナーだからいつか帰る」
「ホォ」
「足止めて悪かったな。行くぞ」
俺の情報が正しければヒーロー殺しがいたはず。敵連合と名乗るチンピラが大人しいのも気になる。ぐるぐるなら情報収集得意だから任せられるが、その分意思疎通とるのは大変なのが欠点だな。
「バクゴーのお師匠さんはどんな人だい?」
「………なんであんたに言わなきゃなんねぇんだよ」
「言動はどうであれ、君のような強い子を育てたんだ。ヒーローとして気になるさ。答えられる範囲で構わないよ」
「………多分、元軍人。ガキの頃に出会って高校入試まで鍛錬つけてくれた。体の使い方や知識を教えてくれたすごく強くて、カッコいい人だ」
「君がそこまで言わしめるならぜひ会ってみたいものだ。バクゴーにとってその人は君のヒーローなんだね」
「ん。オールマイトを超えるために応援してくれた……俺の、目標となるヒーローだ」
「そうか。君にも君自身のヒーローがいるようでよかった。その気持ちを決して忘れないように。頑固な意志がある君は強くて良いヒーローになる。身につけた力も知識も決して無駄ではない。ここでの経験が君の成長に繋げられることを祈るよ」
「そん時は俺がNo. 1ヒーローになって、インタビューであんたの職場体験の話してやるよ」
「………頭を撫でてもいいかい?」
「なんでだよ。触れ合いは朝だけだろ触んな」
触れようと伸ばしてくる手を払った。
職場体験最終日。最後なのにまた大人しく椅子に座らせられ、さり、と頭皮を痛めないように櫛で髪をとかされる。初日と違うのは拒否反応がすぐに起こらないこと。触れられても気にならなくなった。
「ずっと疑問だったのだが、どうしてバクゴーなんだい?」
「ボツったんだよ。全部却下された」
「ホォ…教えたまえ」
「爆殺王、爆殺卿、爆殺」
「小学生かな?」
強い名前だろうが。全部却下しやがってあのクソババア。
「名は願い。己がどう在りたいか、在るべきか。君はまだ世界そとを見ようとしていない。私は君に世界そとを見せたいのだ」
見た結果が今の俺だ。現実を受け止めて今の俺があるんだろうが。
「この一週間、君にヒーローとは何かをその身に縫いつけようとしたが、矯正出来ずに終わってしまった。確固たる意志とプライドの高さ。私が手こずったのは後にも先にも君だけだ」
「はっ!清々するわ。俺よか簡単に矯正できる奴でも引き入れとくんだな」
「しかし君の存在は私にとっては新鮮だったよ。この一週間とても有意義で、色々と考えさせられた」
ぽん、と頭の上に大きな手が乗せられた。
「だから2年になり、仮免を取得したらまたおいで」
「は…………?」
「その時再び名を訊こう」
「………覚えていたらな」
「あぁ、それでいい。来年が待ち遠しいな」
「はっ、何言ってんだ。まだ気が早ぇよジーニスト」
左右に動く大きな手に嫌悪感を抱かなかった。
9
職場体験が終わり、普通の授業へと戻る。もうすぐ林間合宿もあり浮き足立つ奴もちらほらと存在する。しかし色々と行事ごとが多かったせいで忘れがちだが、学生にとって避けられない難所が待っている。
「うし、授業はここまでにする。期末テストまで残すとこ一週間だが、お前らちゃんと勉強してるだろうな。当然知ってるだろうがテストは筆記だけでなく演習もある。頭と体を同時に鍛えておけ。以上だ」
出ていった担任の言葉に現実に引き戻される。一番科目が多い期末テスト。誰しもが目を逸らしたい嫌いな時期。
「「全く勉強してなーーーーい!!」」
期末テストまで一週間を切り、頭を抱える奴らが半分。普通に授業受けてりゃ赤点なんてあるわけねぇのにアホしかいねぇんか。騒がしいモブどもを無視してスマホを取り出す。親といつの間にか登録されたジーパン野郎に返信を返す。心配性の親父とパシリにするババア、プロのくせにメールをよこすオッサン。仕事しろ。
「良いデストモ!!」
「この人徳の差よ」
「………あ?」
横にいたクソ髪に言われ、周りを見ると一部人だかりができている。ポニーテールが勉強教えるらしいってことだけは分かった。
「お前も教わりゃいいだろ」
「八百万が大変だろ?爆豪頭いいから俺に教えてくれよ」
「は?なんで俺に」
「頼むよ。この前の中間順位15位だったし、俺が頭悪いの知ってるだろ?どうか俺に勉強教えてくれ!」
「………教え殺したるから空いてる予定聞かせろ」
「おぉ!頼む!」
俺の予定はこのクソ髪に使われんのかと、脳みそ空っぽのこいつにどうしようかと頭悩ませた。
放課後、荷物まとめてクソ髪を呼ぶ。
「おい、行くぞクソ髪」
「おぉ!分かった」
「何切島、爆豪に勉強見てもらうの?」
「おうよ!叩き込まれてくる!」
「文字通りね」
「騎馬戦で作戦言われた時理解してなくて叩かれてたな」
「切島」
「ごめん!じゃあまた明日!」
空っぽに詰め込む時間ねぇんだから早よしろ。一週間切った今、クソ髪が頭悪いと理解しても実力がどんなものか知らねぇ。そもそも偏差値70といわれる雄英に入ってる時点で頭は悪くない。ただ難しいこと言われたら理解できねぇだけだ。応用問題が苦手なのもそこかもしれねぇ。
「演習ロボットだってよ。楽勝だな!」
「楽勝もクソもあるか。人でもロボでもぶっ飛ばすのは同じだろ。てめぇは馬鹿正直に真正面に突っ込む脳筋だろ。恐れねぇで立ち向かうのは美徳が、頭使わねぇと勝ち筋見えてこねぇぞ。体育祭で鉄野郎に引き分けになった時とかな」
「うぐっ、そ、それはそうだがよぉ。でも爆豪がいれば勝ち筋見つけてくれんじゃん。俺は爆豪がどんな作戦でも従えるぜ!」
「俺がいない前提だアホ。自分で探せ」
「ほんと厳しいよなぁお前」
「まぁ、興味あるなら勉強の合間に教えてやってもいい。対人戦で勝つためのポイントとか気をつけることとかその他諸々……」
「マジか!?やる気出てきた!絶対だぞ爆豪!」
「うるせぇ」
そんな頭詰め込める要領あんのかこいつに。まだ座学の実力を把握してないのに先が不安になる。
「前から気になってたんだけどよ。爆豪と緑谷って前から知り合いなのか?」
「あ”?なんで」
「いや、だって緑谷お前のことかっちゃんって呼んでるじゃん。名前呼び嫌いなのになんでだろうなって思って」
「………あいつは小学校からの付き合いで、顔見知りなだけだ」
「何?喧嘩でもしてんの?」
「違う。元々仲良くねぇよ」
「そっか」
あいつの話題持ち込むな胸糞悪い。今日やる教科と時間を伝えると苦い顔をするクソ髪。そんな2人の後ろ姿をチェックする担任はため息吐いた。
「なんでお前雄英に入れたんだ」
「根性!!」
筆記テストが難なく終わり、クソ髪も出来たと喜んでいたのも束の間もう一つの実技試験が行われる。戦闘服に着替え、集合場所に向かえば担任以外の教師がずらりと並んでいた。
「それじゃあ演習試験を始めていく。この試験でももちろん赤点はある。林間合宿行きたけりゃ、みっともねえヘマするなよ」
「先生多いな…?」
「諸君なら事前に情報仕入れて、何するか薄々わかってるとは思うが…」
「入試みてぇなロボ無双だろ!!」
「花火!カレー!肝試ーー!!」
「残念!!諸事情あって今回から内容を変更しちゃうのさ!」
「「「校長先生!」」」
担任の首にいてる捕縛帯からでてきた校長。あの大きさで重くないんかと馬鹿なことを考えた。
「変更って…」
「これからは対人戦闘・活動を見据えた、より実践に近い教えを重視するのさ!というわけで…諸君らにはこれから二人一組でここにいる教師一人と戦闘を行なってもらう!」
「「「!?」」」
「先…生方と…!?」
「尚、ペアの組と対戦する教師は既に決定済み。動きの傾向や成績、親密度……諸々を踏まえて独断で組ませてもらったから発表していくぞ」
ロボから人、教師との対人戦闘と聞いて胸が躍る。久々にグッときた。対人なのはいいがペアは嫌だな。一番いいのはクソ髪………いや、やっぱ誰とも組みたくねぇ。きちぃ。
「そして緑谷と爆豪がチーム」
「は……?」
「かっ…!?」
「で…相手は…」
「私がする!」
オールマイトが相手。
「協力して勝ちにこいよお二人さん!!」
ギリっと奥歯を噛む。なんでこいつとチームなんだふざけんな。こいつと組むぐらいなら1人であんたに立ち向かってやる。協力なんざ、してやんねぇ。
「試験の制限時間30分!君たちの目的は、このハンドカフスを教師にかけるorどちらか1人がステージから脱出するかさ!」
「先生捕らえるか逃げるか、戦闘訓練と似てんな」
「ほんとに逃げてもいーんですか!?」
「うん!」
「とはいえ戦闘訓練とは訳が違うからな!!相手はちょーーー格上」
「格…上…?イメージないんスけど…」
「っっ!!」
「ダミッ!ヘイガールウォッチャウユアマウスハァン!?」
「今回は極めて実践に近い状況での試験。僕らを敵そのものだと考えて下さい」
「会敵したと仮定し、そこで戦い勝てるならそれで良し。だが」
「実力差が大きすぎる場合、逃げて応援呼んだ方が賢明。轟、飯田、緑谷……お前らはよくわかってるハズだ」
「………」
「戦って勝つか、逃げて勝つか……」
「そう!君らの判断力が試される!けどこんなルール逃げの一択じゃね!?って思っちゃいますよね。そこで私達がサポート科にこんなの作ってもらいました!!超圧縮おーもーりー!!」
体重の約半分の重量を装着する教師陣。戦闘経験がないヒーローの卵にハンデをつけて勝負できるぞと煽られる。
「戦闘を視野に入れさせる為か、ナメてんな」
「HAHAHA!どうかな!」
「よし、チームごとに用意したステージで一戦目から順番に演習試験を始める」
もう一度武器確認するか。邪魔な存在に話しかけられる前にその場を後にした。
手榴弾、クナイ、起爆札、その他諸々。欠けも傷一つない。クナイを一つとって磨く。何かを考える時、落ち着きたい時は何かするといいと教わったから。
平和の象徴、No. 1ヒーローオールマイト。見た目通りパワー系統の個性。どんな場面でもパワーで乗り切る筋肉だるま。技術、技量、速さ、どれをとっても格上。戦闘経験が豊富なオールマイトにどう挑む。どう戦う。一瞬で全てを終わらせるヒーローだ。いや、策はある。相手は敵でありヒーロー。その曖昧な立場を利用すればいい。俺なら、できる。
いくつかのクナイに起爆札を取り付ける爆豪の頭の中は、オールマイトをどのように倒すかというシミュレーションのみ。緑谷の存在は一ミリも入っていなかった。
『緑谷・爆豪チーム。演習試験READY GO』
最後のペア、爆豪と緑谷の出番が回ってきた。2人は街中エリアを歩く。
「か、かっちゃん!この試験は先生が敵役で、僕達がヒーロー役という設定で…つまり敵の戦闘能力を鑑みて、戦うか逃げるかの選択するわけだけど……僕らの場合敵はオールマイトで、オールマイトと戦うのは危険というか愚の骨頂だと思うから」
苛々が募る。うるさい雑音が耳につく。
「って、待ってよかっちゃん!」
うるさい
「真っ直ぐ進めばオールマイトが待ち構えてるはず…ここは迂回して」
うるさい
「せ……戦闘は何があっても避けるべきだって。オールマイトを……な…なんだと思ってんのさ。いくらハンデがあってもかっちゃんがオールマイトに勝つなんて…」
うるさい!!
カッとなってつい手が出た。モサイ頭を殴り飛ばす。
「これ以上喋んな。調子良いからって喋んなムカつくから」
「ごっ…試験合格する為に僕は言ってるんだよ!聞いてってかっちゃん…!」
「てめぇの力なんざいらねぇ!逃げたいなら逃げればいいだろうが!」
「怒鳴らないでよ!!それで会話にならないんだよ!!」
言い争う2人に轟音と共に建物が崩壊していく。砂塵が舞う中、オールマイトが現れる。
「街への被害などクソくらえだ。試験だなんだと考えてると痛い目見るぞ。私は敵だヒーローよ。真心込めてかかってこい」
オールマイトから威圧感が放たれる。
カチッと、戦闘スイッチが入った。
「正面戦闘はマズい!逃げよう!」
「お前だけ逃げればいい。俺には関係ない」
「かっちゃん!?」
「腰抜けが。何故ヒーローなんぞやっている。逃げたいなら1人でゴールに走っていろ。大口叩いて逃げの姿勢、だからお前は木偶の坊なんだよ砂利」
「かっちゃん!」
「お前に出来ることはゴールに走ることだけ。俺が時間を稼いでやる」
真正面からくるオールマイトを閃光弾を放つ。その場から爆破で飛び、真下の敵に向かって爆破を連発する。
「いたたたた!よくやるねぇ、そんな弱連打じゃ私には敵わないよ!」
「それはどうかな?」
カ、カ、カ、カ、とオールマイトの足元に突き刺さる札付きのクナイ。
「爆」
ドォォォン!と爆炎が昇る。その光景を建物の屋上で眺めた。
「敵がオールマイトだか関係ない。殺す気でこいオールマイト。でなければ死ぬのはあんた自身だ」
「sits!これじゃどちらか敵か分かんないな爆豪少年」
肌に刺すぐらい痛い殺気を出す爆豪。光のない目に、オールマイトはタラリと汗を流した。
激しい轟音が街エリアに響く。
BOOM!BOOM!BOOM!BOOM!
「ほんと素早いな君!」
「…………」
街中を飛ぶ爆豪に対し、体重の半分の重しをつけてるとは思えないほどスピードをだすオールマイト。耐久力、持久力、パワー。並はずれた身体能力の高さ。爆豪はまた爆破で加速した。
「逃げてばかりじゃ勝てないぞ!」
懐に入られ、迫り来る拳をガードするが地面に向かって落下する。回転で勢いを殺し、素早く身を起こした途端襲いかかる拳と蹴り。風を切る拳を躱し、時には腕に手を添えて流す。ミシッと受け止めた腕に嫌な音がなる。
「ゴリラが……」
「喋ったと思ったらいきなりの罵倒!君本当に口が悪いね!」
クナイを取り出して眼球に向けて突き出す、が腕を掴まれて投げ飛ばされた。空中で身を翻してターボを向け、籠手の栓を抜く。
「ぶっ飛べ」
BOOOOOOOM!!
「ほんと容赦ない!!」
爆破を受けたのに大してダメージが入ってない。いや、別に構わない。BOM!と爆破で加速し、迫る拳を身を屈めて回避してオールマイトの懐に入る。
BOOM!!
苦痛の声が頭上で聞こえる。至近距離、威力を高めた爆破が効いたらしい。すると視界に太い脚が迫り、ガードをするが蹴り飛ばされた。回転して勢い殺し姿勢を起こす。両腕の籠手を外して建物付近に飛ばし、クナイを手にする。
「今のは効いたよ。だが1人で私に勝つつもりかい?」
「逆に問うが俺1人に相手してていいのか?もう1人出口に向かった砂利がいるぞ」
「そうしたいのは山々だが、君がそうさせてくれないだろ。出口に行くまでの道を君が防いでいるんだからな」
バレてる。だがそれも想定内。
札付きのクナイを斜め上に飛ばす。相手の視線がクナイに向けた瞬間に爆豪はオールマイトに接近戦に挑んだ。
首の皮から少量の血が流れる。爆豪の手には別のクナイ。首、目、心臓、脚。明らかな殺意を持って斬りつける。籠手がない分身軽になり、腕から背中へと蛇のように回り込んで殺そうとする。体を掴んで投げ飛ばしても爆破でまた接近戦に挑む。足を止めずに動き続け、閃光弾や爆破で視界を遮られる。
BOOM!
「ぐっ……!」
空に飛ばした札付きクナイが、ちょうどオールマイトのいた場所に落下した。目の前で爆破され、ダメージを受ける。相手の時間を与えず攻撃をしかけた。
「動きが単調だぞオールマイト。やはりハンデは辛いか?その筋肉ただでさえ重いもんな」
「実力も嫌味も十分だね!」
「当たらなきゃ意味がない。ほら見ろ、薄らと蒸気が出てるぞNo. 1」
「!?」
BOOM!!
「ハッタリに決まってんだろ」
しれっと背中に貼った起爆札が起爆する。
「何を驚いている。人体から蒸気が出るわけないだろ。それとも、何か秘密があるのか?あのクソナードと、あんたの個性が似てるのに対して」
「……そうかい?増強系の個性は沢山いるからね。似たような個性があってもおかしくはない」
「ふーん?」
「お喋りはここまでだ。本気で叩き潰すぞヒーロー」
「っ!」
はやい。
目の前にいつの間にかオールマイトが現れ、腹に重い一撃が入る。
「がはっ!」
体がバウンドし、身を起こそうとしてもまた拳が襲う。
「っっ」
「さぁさっきの威勢はどうしたヒーロー!!」
今まで手加減していたのか。ナメられてる。内心舌打ちして周辺を見渡す。
「おっと、敵前によそ見とは余裕だね」
ドゴッ!と重い拳に当てられ、建物の壁にぶつかる。視界が狭まり、額から濡れた感触がした。
「私に立ち向かってきたことを褒めよう。だが1人で戦うのはナンセンスだ」
「なに、言ってんだ…敵を前に、ヒーローが逃げ出すわけねぇだろ。ヒーローなんだから……」
「爆豪少年…」
敵を倒すのがヒーロー。倒して、勝った姿はどれだけ安心と尊敬の念を抱くかしらねぇだろ。あの人のようになるには、まだ俺じゃ届かない。でも、勝つ方法はいくらでもある。
「かっちゃんから離れてください…オールマイト!!」
「緑谷少年!」
こうなるのも想定内。俺がいくらオールマイトの気をひいても脱出した放送がならなかった。正義感強いお前がこの状況を放っておけるわけねぇよな。だから、それを利用させてもらう。
緑谷がオールマイトに捕らえられていた時にそれは起こった。
BOOOOOOOM!!
爆豪がいた建物の裏側で爆発が起きる。
「なんだ……!」
連続で爆発し、黒煙が昇る。コンクリートの建物にミシミシと亀裂が走った。
「は………?」
「かっちゃん!!?」
建物の一部が崩れ落ちる。オールマイトのパンチで壁に埋まっていた爆豪は脱出しようとするが、無情にも大きな影が覆う。ガラガラとコンクリートの塊が爆豪めがけて倒壊する。
「っおーる、まいと……」
オールマイトは敵だ。しかし恐怖に染まり、震えた声で呼ぶ子どもを無視できるはずがない。
「爆豪少年!!」
敵である前にヒーロー。オールマイトは助けを求める声を、危機的状況を見過ごせない。
「SMASH!!」
ドォォォン!と拳一つで建物をぶっ飛ばす。
「爆豪少年!怪我はないかい!!?」
「怪我は…ない……」
「よかった!思わぬアクシデントだったが無事で何よりだ!!」
「あぁ……」
ガシャン、とオールマイトの腕にハンドカフスが嵌められる。
「ほんと、予想通りに動いてくれてよかったわ。オールマイト…………」
『緑谷・爆豪チーム、条件達成』
はは、と薄暗い笑みを浮かべた。
いくらオールマイトが適役でも本質はヒーローだ。危険な目にあってる人を放っておけない
卑怯な手?姑息?なんとでも言え
「かっちゃん…なんでっ」
「合格したのに浮かねぇ顔すんじゃねぇよ緑谷。敵を捕らえたのに不満でもあんのかよ」
どんな手を使ってでも勝てばいい
勝ってこそのヒーローだろうが