目が覚めて真っ先に、見慣れない白い天井が目に入った。
少し視線を落とすと、たくさんの管と白いカーテン。
そうだ、私。
野上くんと別れたあと写真を現像しに行こうとしたらいきなり苦しくなって、そのまま…
思い出すだけで息が詰まりそうになる。
辞めだ、辞め。
そう思っても、発作の感覚は消えていかない。
足元から力が抜けていくような脱力感と、呼吸しているはずなのに空気が肺に入っていかないような苦しさ。
最近落ち着いていたから、油断していた。
サイドボードの時計はAM3時をディスプレイしている。
12時間近く昏倒していたことになる。
当分、学校には行けないだろう。
「遥」
朝9時。
母の声で目が覚める。いつのまにか眠ってしまったらしい。
「大丈夫?辛いところはない?」
そう問う母の目が明らかに腫れていたのが気になった。
「うん…ちょっと息苦しいかもだけど」
「薬、もらってきたから。あと先生が遥と話したいって」
「先生…?」
母はそう言うと主治医の先生と入れ替わりで病室を出ていく。
「おはよう、小野さん」
「…おはようございます」
「まだ苦しいんだって?薬は貰ったかい?」
「あ、今母から、」
「そうか…実は、小野さんに言っておかなきゃならないことがあるんだ。お母さんにはもう話してある」
小野さんの命は、もってあと2ヶ月。
神妙な面持ちで先生は告げた。
私の知らない間に、私の体は病魔に侵されていたらしい。
正直こんな結末だろうと、病気が判明した時から覚悟していた。
特に取り乱すこともなく、淡々と受け入れられた。
しばらくは入院生活が続くらしいが、容体が安定していれば一定期間家に帰ることも可能だという。
ぼうっとしながら、そんな話を聞き流した気がする。
一通り説明と体調の確認を終えたあと、真っ先に結奈にメッセージを入れた。
あと2ヶ月。私は、どう過ごすことが出来るだろう。
〜蓮side〜
昨日の夜、小野が倒れた。
病院に着いたのが9時前後。
そこから11時近くまで病室の前で、真山と経過を待っていたが、ただでさえ未成年であるということに加え、
今の段階では小野の回復が見込めないということから、終電に間に合う時間に帰されてしまった。
暗い夜道を、2人で歩く。
空気は重い。
「…真山、なんかあったかいものいる?」
「いらない、」
震えた声で、真山は返事を寄越した。
「そっか…」
沈黙とも、寂寥とも言えない空気が自分達を取り巻いて、どんどん濃さを増していた。
「…体調、悪かったのかな」
「え?」
「今日、小野と一緒に帰った時は元気そうだったらから…あの時も、無理してたのかなって」
思い返しても、彼女からそんな素振りは見えなかったはずだ。どこを切り取っても、楽しそうな笑顔が浮かぶ。
不意に真山が立ち止まった。
「…ごめん、なんか、変なこと言ったかも」
「病気」
「え?」
「心臓の、病気なの。余命宣告もされてる」
心臓
病気
余命宣告
聞こえているはずなのに理解できない、まるで異国の言葉のようだ。
「…それはどういう、」
「そのままの意味…遥には、黙っててって言われたけど、私だけじゃもう、抱えきれないから」
そう言いながらも、彼女の目には涙が浮かんでいる。
僕が出来たことといえば、真山をただ、見つめ返すことだけだった。
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