_愛してる。まさかこの言葉が、俺のことを呪うなんて思いもしなかった。
彼奴のことが大嫌い、大ッ嫌いなのに、どうしても忘れられない。
いつか撫でてくれたあの手の感覚、俺を満たしてくれたあの言葉一つ一つ、全部が俺を縛り付けて動けない。俺の心は、永遠にあのベッドの上。
使い古されて壊れた身体でも、愛してくれる人がいるのなら。
怨情も劣情も、汚い感情全部なかったことにできる人がもし、この世界にいるのなら。
どうか俺を抱きしめて、全部全部忘れさせて。
泣きたくなるほどに幸せな恋を、貴方ともう一度。
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過激な表現注意_性i行為(近i親i相i姦)有
自己満 。とても長いし拙い 。暇人だけ見てください
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_彼は蓬莱、名を伊織という。家族は母と父、それから5歳差の兄が1人。至って普通の家族だ。…いや、正しくは、だった。
彼もそのうちの1人、至って普通の無邪気な少年。学校が終われば直ぐに鞄を放り投げ、笑いながら駆けていく。伸びきった黒髪を風に揺らすその姿は年相応と言う他なかった。
そんな彼の家庭にヒビが入ってしまったのは、彼が高校2年生に進級した頃だったか。
母が浮気をしている。それを聞かされたのは、いつもと何ら変わらない夕食の時だった。
普段と明らかに違う、冷ややかで重苦しい空気に耐えきれず、目の前にあったハンバーグを口にする。口の中で確かな熱を放つそれは、心做しか味が薄く思えた。
呆れた。両親の冷たい会話を聞きつつ、脳によぎるのはそんな言葉ばかり。
母が浮気をしている事は薄々感じ取っていた。半年程前から急に色気づいたかと思えば、急用だの仕事だの何かと理由をつけての外出が増えて。日を重ねる毎に、母の鏡台の前に化粧道具やら香水やらが増えていくのを、ずっと見ていたのだから。
「_伊織、父さんを宜しくね」
…目を潤ませる母が、彼にそう告げる。悲劇のヒロインを気取っているような態度に怒りを覚えた。
だが、今に始まった事じゃない。即ち腹を立てても無駄なのだ、そう自分に言い聞かせて。彼は静かに、こくりと頷いた。
それからというもの、彼は近隣の住民や友達との間に壁を感じるようになった。不謹慎な噂は出回るのがあまりにも早い。どこにいても、聞こえてくるのは母の浮気の話。
心底鬱陶しかった。まるで蝿の羽音のように、脳裏にこびりつくようなそれは、段々と頭の中を蝕んで。悪夢まで見るようになってしまったのだ。
そんな彼と傷を舐めあっていたのが、彼の兄。
彼奴は一人暮らしをしていたのだが彼と同様浮気には勘づいていたらしく、日を追う事に色っぽく女々しさを見せる母に嫌気がさしていたらしい。
彼奴は2,3週間に1度程こちらへ来て、毎回種類の違うスナック菓子をつまみながら愚痴を吐く。父が帰ってくるギリギリの、夜遅くまで。
彼奴は相変わらずの飽き性で、15分も愚痴を並べていればすぐに話を投げ出してしまう。その自分勝手さも含めて、彼は彼奴のことが好きだった。
そんな奴と話す、数時間。まるで、舐めれば甘い味が心を満たすキャンディのようなもので。抱き締めたくなるほどに愛おしいそれを、彼はいつも心待ちにしていた。
「ねえ伊織、俺の事好き?」
ある夜、彼奴から言われた言葉。それに恋愛感情が隠れている事なんて知る由もなかった。柔く微笑む彼奴に微笑み返せば、
「好き。大好きやで、にいちゃん」
…なんて答えた。あどけないその表情は男子高校生とは思えない。あの悲劇は、彼がこの顔だったからこそ起きたのかもしれない。
その日から、3ヶ月ほど経った日。
彼奴は、彼にキスをした。柔らかく触れた、彼奴の唇。かさついていた彼の唇とは正反対に、リップクリームが塗られ潤んでいた。それが、余計に不快感を増幅させて。
「好きだよ、伊織」
_気味が悪かった。途端に感じる、一抹の吐き気。誰にもあげるまいととっておいたファーストキスが、今この瞬間に奪われてしまうなんて。しかも、実の兄に。
何も言葉を発する事ができずに、彼は自分よりずっと背の高い彼奴を見つめた。揺らぐことのない、静かで、今にも零れそうな闇を湛える双眸。それが、怖くて仕方がなかった。拒否でもしたら、何をされるかわかったものじゃない。
沈黙が5秒。その静けさは一生分にも感じられるほど長かった。彼はなにか言おうとして口を開いたが、またキスで口を塞がれる。抵抗しようのない現実。いきなりそんなものを突き付けられ、彼は何もすることができなかった。
それからずっと、彼奴にキスをされては愛でられる日々が続いた。拒否なんてできない、できるはずがない。此奴がいなくなってしまえば、自分のことを解ってくれる存在が居なくなってしまう。だから、逃げ出すことも別れを告げることもできなかった。
そんな彼奴に好意を感じてしまったのは、それから1年半程経った頃だろうか。
彼は、なんとか受かった大学に行くからとか適当な理由をつけて父の家から出ていった。一人暮らしを始めた家にも、彼奴はやってきた_それを見越して態と彼奴の家の近くに住んだ_のだ。
いつも通りのキスをする度に、説明のつかない幸福感で満たされる。もっと先のことまでしたい、なんて思って。キスの後とくとくと心地よく揺れる心臓が、それは好意だ、と教えているようだった。なぜ此奴なんかに好意を覚えたのだろうか? 終わらない現実への諦めか、はたまた優しさへの依存か。今は知る由もない。
彼奴は彼の頬を撫でる。伊織、なんて名前を呼び、好きだ、愛してるなんて在り来りな言葉を投げかけた。彼は嬉しそうに頬を染め、あのあどけない表情で。
「すき」
なんて、一言。彼は幸せだった。両親への怒り、呆れ。これだけで全て、癒えるような気がして。この時が永遠に続いてくれればいいのに。実の兄であることなど、この際どうでもいい。そう思っていた。
それから彼は、彼奴の”理想”を追うために色々なものに手を出した。髪を腰辺りまで伸ばして綺麗に整え、化粧なんてものにも手を出して。彼は日を追う事に可愛らしく、綺麗になっていった。
全ては、彼奴ただ1人のために。あの人に、もっと好きになってもらうために。その一心で、彼は自分を磨き続けた。
両思いになってから約2ヶ月。彼は自分の時間だけでなく、処i女まで捧げた。
痛み、快i楽、そして確かに感じた、幸せ。頭が蕩けてしまいそうなほどだった。狂ったように”好き”と言い続ける彼の身体を、彼奴は何時間と揺らし続けた。何回も何回もキスを交わして名前を呼び、好きだの愛してるだのと言い合って。濡れた睫毛が囲う彼の潤んだ瞳は、幸せの色を湛えていた。
それからというもの、2人は兄弟ではなく恋人として接するようになった。血が繋がっていようが関係ない。愛し合えていればそれでいい、なんてくさいことを思いながら抱き合って。
快i楽、幸せ。それらがぐちゃぐちゃになった、言葉にし難い感情が心の奥でぐるぐると回る。その感覚は、心地よい他なかった。この幸せが永遠に続けばいいのに、なんて。…本当に、その通りだった。
「飽きた」
「…は?」
あまりにもあっさりと告げられた別れ。やはり、彼は飽き性で。脳の処理が追いつかない。彼はその1文字を発したきり動かなくなってしまった。
「両思いだって分かってから、つまんなくなったんだよね」
いつもの優しい声と全く違う。冷たく、ぐさりと刺さるような程痛い言葉。捨てられてしまう。この日々が終わってしまう。怖くて、寂しくて。
ふいに、視界がぼやけていることに気づいた。その後すぐに、涙が溢れ出す。言葉が出てこない。その代わりに、ぐるぐると渦巻く感情が熱い塊となって喉の奥でつっかえる。逃げ場のない苦しさに、呼吸は荒くなるばかり。
_愛していたのに。大好きだったのに。俺は貴方にとって、一体何だったの?
なんで。なんで俺を捨てるの。こうなるなら愛したくなんかなかったのに_
重くのしかかる感情のせいで、息ができない。何か言葉を捻り出しでもしないと、死iんでしまいそうだった。
「…いかないで、お願い……」
彼奴は不快そうに眉を顰めた。涙でグズグズになった彼の顔を、じっと見つめて。ゆっくりと1歩、彼に近づいた。
「……めんどくさ。こういう奴嫌いなんだよね」
_それからのことは、あまり覚えていないと彼は言う。彼奴は彼を、身体がだめになってしまう程に酷く抱いた。まるで、2人の思い出に泥を塗り付けて穢すように。
嫌い。面倒な奴。意識が朦朧とする中、彼奴の吐いた冷たい言葉だけが頭の中を巡る。彼奴は彼が泣こうが喚こうが表情ひとつ変えず、身体を揺らし続けた。
そして、彼は呆気なく捨てられた。最後の記憶、彼にキスもせずに出ていった彼奴。ただベッドに座り込んだまま、彼はその背中を見つめていた。
ドアの音がして、それと同時にベッドへと倒れ込む。濡れたシーツに体温が奪われて、身体がだんだん冷たくなっていくのを感じていた。
「……バカみたい」
なんて、一言。彼は寂しかった。この穴を埋めてくれる存在が、この世にいてくれたらいいのに。この出来事を全部なかったことにしてくれる、そんな人が。
_いるはずないか。僅かに見えた希望を、自らの手で潰す。使い古された身体を愛してくれる人なんて、きっとこの世にはいない。俺が幸せになるのは、最初から無理だったんだ。
彼は蹲って泣き続けた。日が昇っても、ずっと。冷えきった身体を抱き締めてくれるのは、きっとこれからも自分だけ。
_それから1ヶ月後、夜の街。騒がしい人混みの中に、彼はいた。上がった睫毛に囲われた双眸は大きく、長い黒髪を風に揺らしながら待ち合わせをしている。
「伊織くん」
なんて、名前を呼ばれた。見れば、小太りくらいの中年の男が前に立っている。「伊織くんは今日もかわいいね」なんて、気味の悪いコメントは一旦無視して。
「その名前で呼ばないで」
彼は俯いて言った。彼奴に幾度となく呼ばれ、使い古された名前。大嫌いな、名前。もう誰にも呼ばれたくなかった。
「…じゃあ、蓬莱くん?」
彼は柔く微笑んで頷いた。同時に、男の手を引いて歩みを進める。向かった先はいつものラブホテルだった。
愛してくれるならば誰でもいい。身体も心も、全部忘れるくらいに抱かれて、壊されて。それだけで、彼は幸せであると錯覚できた。自分の存在意義はきっとこれなんだと、彼はいつも自分に言い聞かせる。抱きたい、なんて言われて、身体を必要とされる度に幸せを感じたのだ。そんな彼は、誰にとっても都合のいいラブiドール。
_彼はきっと、幸せ。
これは、愛に飢えて自分を蔑ろにした、可哀想なお姫様のお話。
おしまい
急に何を出したんやこいつって感じですよね。
そうです常連です。こっちの方がより残酷かなーと思ったので兄ちゃんに捨てられることになりました ()
4000文字。疲れました。誤字脱字等あったらすみません(´・ω・`)
では。
コメント
2件
常連ー!?!?お兄さんに捨てられちゃったんか……可哀想に ‘そういう行為’が一種の愛情表現で呪いみたいになってるのね…残酷だわこれ… 常連が幸せになるルートは果たしてあるのか心配になってきた