j.k
私が生まれたのは、今から千年前のことだ。
生まれた時から、私の母親はいなかった。
父は……いた。
けれど、父は私に何も教えなかった。
倫理も、道徳も、愛も、憎しみさえも。
私の周りにはただ、空気と、冷たい世界だけがあった。
父は私を育てたわけではない。
ただ「そこに置いていた」だけだった。
私は何も持たずに育った。
持つ必要がなかった。
世界を見て、ただ飲み込んでいけばよかった。
人が泣いていた。
私は眺めた。
人が笑っていた。
私は眺めた。
人が殺し合っていた。
私は──微笑んだ。
私には、彼らがなぜそんなことをするのか、理解できなかった。
けれど、理解する必要もなかった。
私は、観察者だったから。
千年が経った。
時代は変わり、街には鉄と光が満ちた。
人はより複雑になり、より醜く、より滑稽になった。
それでも本質は何も変わらない。
私はいま、「殺し屋」と呼ばれている。
殺し屋。
ふふ、それは正確な表現ではない。
私は、選別しているだけだ。
この世界に必要なものと、不要なものを。
必要だと感じたものには肩を貸し、
不要だと感じたものには背を向ける。
選ぶのは、彼ら自身だ。
私はただ、導くだけだ。
導く手に、温もりもなければ、冷たさもない。
私の手は、ただの道具だ。
いまも私は、人間社会を観察している。
彼らは喋り、泣き、笑い、裏切り、壊れる。
それを私は、興味深く見つめている。
誰かが私に尋ねたことがあった。
「あなたには、愛するものがないのか」と。
私は答えた。
「私は、世界そのものを愛している」と。
壊れた世界も、
腐った社会も、
絶望している子供たちも、
私はすべて愛している。
ただし、それに意味などない。
私の愛は、選別も、差別もない。
ただ、全てを見つめ、飲み込み、また吐き出すだけだ。
……
今日もまた、誰かが、命を落とす。
今日もまた、誰かが、救いを求める。
私は、それをただ、眺める。
そして、微笑む。
__私には、世界が美しい。
それだけでいいのだ。
コメント
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ワ…ヮァ泣‼️‼️‼️‼️闇深くて最高でしたありがとう😭😭😭👍😊😊😊⁉️⁉️‼️愛‼️‼️