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トリカブト とは
(鳥兜・草鳥頭、学名:*Aconitum*)
キンポウゲ科トリカブト属の総称である。有毒植物の一種として知られる。スミレと同じ「菫」と漢字で表記することもある。
万が一口にした場合、初期は舌のしびれや流唾・嘔吐がおこり、やがて酩酊状態となり、後に不整脈や昏睡をきたし、ついには心停止によって死に至る。
日本三大毒草のうちの一つとして知られており、特に根に強い毒を持つ。
「縁壱殿!縁壱殿!」
私が帰ってくると、柱の一人が私の方へ駆けてきた。
何故かは知らないが、表情や細かな仕草からして、焦っていることだけはよく理解した。
「一体何が?」
私はそう尋ねた。
「それが_____。」
その柱は、四日前に兄がお館様を殺そうとしたこと、それを寸前のところで阻止したこと、その理由を聞こうとしているが話す気配が全くないことなどを私に伝えた。
「それで、私を介して事情を聞いてもらおうと…?」
柱は頷いた。
「ところで、兄はどちらに___」
そう言いかけた時、柱は「こちらです」と、案内し出した。
私はそちらへ駆けて向かった。
嗚呼、これは何かの悪夢だろうか。
私は、縁壱と約束した「日本で一番の侍」にもなれなかった。
それどころか、縁壱の才能に嫉妬し、鬼になろうと決断するとは。
挙げ句の果て、それすらも失敗し、今は手足を縛られ、柱達に問い詰められた。
彼らが激昂するのも無理はなかった。
私がやろうとしたことは、彼らにとって、到底許されざる行為だったのだから。
情けなかった。
妻子を捨て、人間であろうことを捨てようとしてまで、縁壱の剣技に嫉妬した。
そんな私には今、何が残っている___?
「兄上、入りますね。」
扉の方から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
_____、縁壱?何故?何故ここにいる?
私は疑問やら何やらで頭がはち切れそうだった。
「兄上がお館様を殺めようとしたと聞いて。走ってこちらに。半刻程度かかりました。」
縁壱はそう説明した。
半刻?半刻も走った?それでいて息ひとつ上がってない?
その言葉だけでも、常軌を逸していた。
やはり、縁壱は正気の沙汰ではなかった。
同時に、全てが弟に負けている私が尚更情けなくなった。
「兄上、私は知りたいのです。何故、兄上がお館様を殺めようとしたのですか?」
純粋な哀れみの目と涙。
____、言えるわけがない。こんな怨毒塗れの感情など。
「___、言わない。お前にも言うわけがない。」
氷よりも冷たい口調。
心中が察されないよう、ぎろっと睨む。
それが、太陽のように優しいお前に対してできる、最大限の抵抗だった。
「そうですか。」
縁壱の反応は、意外とあっさりしていた。にこやかにこう話す。
「私はしばらくここにいます。話したくなれば、いつでも話してください。」
「___、『しばらく』とは、いつまでだ?」
「三日でも四日でも五日でも。話したくなるまで、気長に待ちます。大丈夫です。兄上が話したくなるまで、ここから離れるつもりなどは、さらさらありませんから。」
調子の良い奴だ、とつくづく思う。
私が事情を話すと決まったわけでもないくせに。
そこから四半刻か半刻程度は「暑いですね」「今日は一段と晴れていますね」など、他愛ない世間話のような会話が続いた。
ふと、縁壱は懐から小さな袋を出した。
その袋の中には小さな笛が入っていた。
幼い私が縁壱に渡した笛。
吹くと、トンチンカンな音が鳴る笛。
それを見ただけで、縁壱が何を言おうとしているのか、よく理解した。
馬鹿。
やめろ、やめろ。それだけはやめろ。
私はお前が嫌いだ。
この世で何よりも悍ましい化け物。
お前は私よりも非常に優れている。私と比べることが烏滸がましいほどに。
しかし、それでいて、見下したりなどしない。
むしろ、優しさ故に机上論のような発言を私に向けてくる。
気味が悪い、気味が悪い。
嗚呼。この空気に耐えきれず、息が詰まりそうだ。
縛られた手には、汗が滲む。
お前に馬鹿にされた方がどれだけ良かっただろうか。
お前に嘲笑された方がどれだけ良かっただろうか。
お前の隣にいる度に、私の自尊心は___。
「兄上、この笛を覚えていますか?」
縁壱はにこやかに語り出す。
「この笛は子供の頃、兄上が鍛錬の合間を縫って作ってくださった、大切な笛です。」
それは、お前が化け物だと発覚する前のことだったから。
お前を守るのが、長男である私の勤めだと考えたから。
父の目を盗んでお前にしてやれることが、それぐらいしかなかったから。
「この笛を兄上だと思い、今まで精進してきました。」
その瞳は誰よりも慈愛に満ち溢れていた。
それと同時に、子供の頃の記憶が徐々に蘇ってくる。
縁壱の声が、その頃の声と重なり続ける。
「兄上はこうおっしゃってくださいました。『助けて欲しい時はこの笛を吹け。兄さんがすぐに駆けつける。だから、心配することなど何もない』と。」
___。嗚呼。
無邪気だったあの頃はずっと信じていた。
誰よりも強く、弟を守れるような兄になれると。
そうだ、一つ思い出した。
私は、お前になりたかったのだ。
お前のような強さを持つ兄に。
清濁合わせ呑む海のような、寛大な心を持つ兄に。
「私も兄上も、そう長いこと鬼殺隊にいることはできないでしょう。兄上はお館様を討とうとし、私は無惨を倒すことができなかった挙句、珠世という鬼を取り逃したのだから。」
鬼舞辻無惨。
私がお館様の首を献上しようとした相手だった。
「無惨に協力しようとした」などと言ったら、いくらお人好しの縁壱でも、流石に縁を切ろうとするだろうか。
「縁壱。一つだけ言えることができるものがある。私がお館様を殺そうとしたわけ。」
私はそう話し始めた。
縁壱はきちんとこちらを向き、話を聞く姿勢を。
「それは___。鬼になろうとしたからだ。お前を超えるために。」
その衝撃的な事実に、流石の縁壱も目を見開いていた。
どうせ、お前には理解できないだろう。
鬼の残虐性や習性をよく知る鬼殺隊の者が、鬼になろうとする行為など。
ましてや理由が嫉妬。
嫉妬も知らない、強く優しいお前には、理解できるはずがないのだ。
「そうですか、兄上もまた___。鬼舞辻無惨の被害者だったのですね___。」
何を言っているんだ?話が通じているのか?
「お前は何を言っているんだ?私は、自ら望んで鬼になろうとしたのだ。鬼の習性や残虐性を知って尚のこと。」
「___、兄上のお気持ちわからず、申し訳ございませんでした。」
何故謝る?理解ができない。気味も悪い。
お前は何も悪くない、何も悪くないはずだ。
「兄上が深くお悩みになっているのに、ここまで事態が深刻になるまで、一切気づかなかったので。」
その言葉で私は確信した。
どう頑張っても、私は縁壱にはなれないのだ。
神の寵愛を受けたお前には、どれほど頑張ろうと、勝てないのだ。
「___。ですから、思い直してくださいませ。兄上。」
私は、縁壱のその言葉にただただ頷くことしかできなかった______。
・「騎士道」
・「栄光」
・「人間嫌い」
・「復讐」
など。
思い立ったが吉日とのことで。
昨日思い浮かべていたネタを書いてみました。
個人的にこの二人は互いに平行線上に立っていて、交わったりすることのない関係だと良いなと思ってきます。