アバターとなった守は、マリアとルナが戦っている中心部を目指し走っていた。
耳をつんざくようなモンスターの叫び声と、遥か奥で続くマリアとルナ、
ガーディアンたちの戦闘音が響き渡る中、守の意識はかつてないほど冴え渡っていた。
恐怖はまだ完全に消え去ってはいなかったが、それは体の奥底に追いやられ、思考を鈍らせるものではなくなっていた。
マシンガンのトリガーを引くたびに、スウォームフライが次々と地に落ちていった。
自分の攻撃が確実に敵に通じているのを感じるたび、体の奥から力が湧き上がってくるようだった。
「マリアさんたちと合流しなきゃ……!」
守はそう呟くと、
自分に注意を引きつけながら、走り出す。
「速い!……これなら、これなら勝てるかも!」
風を切る感覚、地面を蹴る力強さ。心臓がドクドクと高鳴る。
それは恐怖ではなく、どこか興奮に似た、未知の感覚が胸を満たしていくものだった。
守は、周囲に群がるスウォームフライを適度に牽制しながら、
迷いなくマリアたちがいる中心部を目指した。
やがてスウォームフライの群れをかき分けて辿り着いた守は、目の前の光景に息を呑んだ。
「マリアさん!ルナさん!」
巨大な母体が戦場を埋め尽くすように立ちはだかり
その足元では、粘液に絡み取られたマリアが必死にもがき、ルナは単身で敵と渡り合っていた。
助けなきゃ!頭で考えるより早く、体が動いた。迷いはない!
フクは、二体のガーディアンとマリア、ルナの間に、滑り込むように割って入り
手にしたマシンガンを、迫りくるガーディアンに向け、迷わずトリガーを引く。
ズガガガガガッ!!
耳をつんざく轟音。銃弾の嵐が放たれ、
ガーディアンの硬い甲殻に火花を散らす。
周囲のスウォームフライも巻き込み、黒い体液が飛び散った。
「バカ―!なんで戻ってくるのよ!」マリアが苛立ちを隠せない声を上げる。
「ボクも戦います!」フクは一歩も引かない。
マリアは一瞬ため息をついたが、すぐに叫んだ。
「あんたの武器じゃガーディアンに敵わない!私のドラゴンズモウを使って!」
「はい!」と答えたものの、フクの目に映ったのは特大サイズの火炎放射器ドラゴンズモウ。
ルナが敵を牽制しながら援護する中、フクはなんとかドラゴンズモウを掴もうとした。
「これがマリアさんの武器…!?お、重い!」マリアとのレベル差が40以上もあることを思い知る。
武器はびくともしない。「くそぉ!」そう言いながら、フクは渾身の力でドラゴンズモウを引きずるように動かし、
その場に向かってくる敵に炎を浴びせた。
「ゴォォォォォ!!」ドラゴンズモウから吐き出される炎が目の前を焼き尽くす。
その攻撃力は凄まじく、一瞬で敵の波を押し返した。
しかし、同時に襲いかかる熱量もまた凄まじい。火炎放射器を操作しているフク自身の体にも
灼熱の熱波が容赦なく襲いかかる。
フクは思わず叫んだ。「あっつぅ!!!」
この巨大で重い武器を、自分一人で扱い続けるのは困難だ。
ルナならどうだろうか、というかすかな期待を込めて、フクは攻撃の合間に声を張り上げた。
「ルナさん!この武器持てませんか?!」
ルナは、フクの問いかけに表情を変えず、端的に答える。
「無理だ」
「ですよね…」フクは汗を拭いながら、それでも諦めきれない表情を浮かべた。
どうにかして、この武器を母体まで運ばなければならない。
地を這うような羽音と、空気を震わせる重低音。
スォームフライの群れが空を覆い尽くす中、フクは汗まみれの顔をしかめながら、
重い火炎放射器《ドラゴンズモウ》を必死に抱えて進んでいた。粘液と焼け焦げた羽の臭いが鼻を刺す。
「ルナさん、マリアさんを助けましょう!」
叫んだフクの声は、爆音のなかでも鋭く響いた。
だが、前線で粘液に脚を絡め取られながらも踏みとどまるマリアが、振り返りもせずに叫び返す。
「私のことは大丈夫!」
「だけど──!」
「いいから、そのまま母体まで進んで!」
フクは一瞬、逡巡する。だがすぐに、ルナが冷静に言った。
「マリアなら大丈夫だ。」
フクはぎゅっと唇を噛みながら、それでもマリアの方を見た。
マリアは火傷ひとつ恐れぬ瞳でこちらを見て、ふっと笑った。
「フクちゃん……戻ってきてくれて、本当にうれしいよ」
その笑みは、戦場の中にあってもなお穏やかで、力強かった。
「三人いれば、絶対に勝てる。だから、進んで。私は援護する!」
「援護って……?」
問い返すフクに、マリアはゆっくりと背中からもう一つの武器を引き抜いた。
――《ヘルバスター・アックス》。
赤黒い金属の斧に内蔵された燃料装置が、ゴウ、と音を立てて点火する。
炎を纏ったその刃は、まるで彼女の闘志そのもののように赤く燃え上がった。
「私の武器がドラゴンズモウだけなわけないでしょ」
マリアの笑顔が闘志に満ちたものへと変わる。
そして、彼女の周囲を取り囲むスォームフライの群れへと、燃え盛る一撃が振り下ろされた。
フクは思わず息をのんだ。
──本当に、マリアなら大丈夫だ。