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月城 蓮桜音
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saza
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水羽
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燃え盛る監獄を背に、銀髪が美しく輝き、セーレの深紅の瞳は吸い込まれそうなほど妖しく光っていた。 収監されてから三年。
困ったことしかなかったが、最後くらい別れの言葉を。
「さようなら」
「おい、待ってくれ!」
引き留めたのは、看守服を脱ぎ捨て、白Tシャツとジーンズ姿になった青年マークだった。
「……あなたは誰だったかしら?」
セーレは引き止められ、若干腹を立てているようだ。
「俺はマークだ。あんたの監視と世話を任されていた……が、職場も焼け落ちて無職になった」
下から上まで、煤だらけ。近寄りがたい見た目だ。
「そうなの。無職さん、頑張ってね。バイバイ」
セーレの反応は、やはり冷たい。
「おい、待ってくれ! 行くな!」
「話すことは何もないわ。あなたは檻から解き放たれ、自由になった……檻から出た豚には興味がないの」
セーレは興味を失ったように、さっさとその場を立ち去ろうとした。しかし、マークはなおも食い下がる。
「待ってくれ。絶対に得する話があるんだ」
「あなただけで得しなさい。バイバイ」
そう言い捨てると、セーレは背を向けた。
「どこへ行くつもりだ? 三年の間に、この世界は大きく変わった。一人で目的地までたどり着けるのか?」
「しつこい男ね……私の勝手でしょう。もう時間がないの。バイバイ」
虫でも追い払うかのように、マークの手を払いのけた。
「いや、頼む! 行かないでくれ!」
マークは思わず強引にセーレの腕を掴んだ。しかし、まるで止まらない。むしろ、引っ張られるような強い力を感じた。
(……おかしい。三年間も牢にいたのに、なんでこんなに力が強いんだ? 俺も看守生活でそれなりに鍛えていたのに……)
焦りを覚えたその瞬間、セーレが声を荒げた。
「いい加減にしなさい! なら、また私に従わせてあげる」
そのとき、夜空の月が雲に隠れた。同時に、セーレの体がふらつき、その場に倒れ込む。みるみるうちに、彼女の銀髪が白髪へと戻っていった。
「もん、もん……あなたのせいで、時間切れになっちゃったじゃない……何てことしてくれるのよ、もー、もー」
セーレは手足をばたばたさせ、まるで子牛のように鳴いていた。
「いや、ごめんって……えっ?」
セーレはぐったりと気を失っていた。よく見ると、セーレの両足には拷問による傷が無数にあり、さらに火傷まで負っていた。
「……こんな状態で歩いていたのか? 正気の沙汰じゃない」
マークは唾を飲み込んだ。
(今、通報すれば俺の立場も安全だが……)
迷いながらも、彼は彼女を背負った。
「軽いな」
ぼろぼろのセーレの体を抱えながら歩き出す。胸の感触を感じ、マークは密かに感謝しつつ、空を見上げると、星が静かに瞬いていた。
コンコン、タタタタ。
(音? 何だろう?)
セーレはゆっくりと目を覚ました。視界に入ったのは、汚れた木のベッド。狭い三畳ほどの部屋には物が散乱し、足の踏み場もなかった。
「おはよう、セーレ」
声の主はマーク。
「どちら様? ああ、しつこい男か」
「マークだ」
セーレは視線を落とし、傷ついた自分の体を見ながら尋ねた。
「そう……それで、ここはどこ?」
「俺の家だ。倒れた上に傷だらけだったから、連れてきた」
「別に頼んでないわ……イタッ……」
セーレはベッドから起き上がろうとしたが、足を床につけた瞬間、火傷の痛みが走り、再び引っ込める。
「その傷じゃ歩くのも難しいだろうな。それに、君の髪……銀髪から白髪に戻ってる」
マークの的確な指摘に、セーレは「うるさい」と言い返した。
「あなたが邪魔しなければ、目的地に辿り着けたのに……」
二人の間に一瞬、緊張が走ったが、マークはため息をつき、再びセーレを見つめた。
「目的地はどこなんだ?」
「関係ないでしょ」
「関係ないけどさ……利用するだけ利用してポイ捨ては、ちょっと酷くないか?」
少し考えた後、セーレもマークを見つめた。
「地図はある?」
「ああ、持ってくる」
マークは「持ってくる」とだけ言い残し、部屋を出ていった。
「はぁ、全身痛い」
セーレはベッドに横になりながら、自分の左手の掌を見つめる。そこには、赤い蛇の刺青が刻まれていた。
マークの補助を受けながら、セーレは車椅子に乗り、二人で目的地へ向かうことになった。彼らの最初の目的地は、山の麓に住むヘーゼルという女性のもと。彼女は治療のエキスパートらしい。
麓に近づくと、深い霧が立ち込めていた。コンパスと地図を頼りにしても、道を見失いそうになる。
「本当にこっちで合ってるのか?」
「あそこよ」
セーレが指差した方角へ進むと、目的地に辿り着いた。
そこには、山小屋のような家が建っていた。外観は見窄らしく、煙突からは異常なほどの煙が湧き出していた。
(まるで……霧を作っているみたいだ)
セーレは大きな声で呼びかけた。
「ヘーゼル! 私よ、セーレだよ!」
一分ほど反応がなかったが、木がミシミシと軋む音が近づき、玄関前で止まった。
「……その声は、セーレなのかい?」
「そうよ! 久々なんだから、顔くらい見せてほしいな! それと、歯と足の治療をお願い!」
ドアが開いた。
「セーレ!!」
そこに立っていたのは――筋肉隆々の老婆だった。
(マジか……婆さんとは思えない……)
マークは驚くしかなかった。しかし、それ以上に衝撃的だったのは、ヘーゼルが斧をこちらへ向け、怒りを露わにしたからだ。
「帰んな!! この裏切り者の馬鹿小娘が!」
意味がわからず、セーレも手を振り宥めようとした。
「えっ、酷くない? かつては一緒に言論の自由を勝ち取るために戦った仲じゃない!」
「うるさい!! 面倒ごとを持ち込むんじゃないよ!!」
「困るなぁ。見てよ、この歯と足。あなたの力で治してくれないと、どうにもならないの」
「お断りだよ!」――バタンッ!! そっ閉じされた。
「てめぇ、このババア! 三年も牢に入れられたのは、あんたの責任でもあるだろうが!!」
ヘーゼルとセーレの口論が始まった。
「小娘が! 本性を晒したね……」
「ふふ……ええ、そうよ。だから、やってもらうわ。力ずくでね!」
その瞬間、森の影から三人の黒装束が飛び出し、一斉にセーレへ刃を向けた。「――って、違う! 私じゃない! 相手するのはそっち!」
暗殺者の一人は、セーレに狙いを定めた。慣れた手つきで、ナイフを投げようと構える。
「お命、頂戴する!」
セーレは足の火傷で、逃げられない。車椅子で自由もない。思考の余裕もない。ないの三拍子が揃い、思考は軽く混乱した。
「わ、私よりヘーゼルを狙ってよ。うーん、仕方ない。力はだいぶ落ちるけど。動きを止めよ。Freeze!」
セーレは掌を前に突き出した。その動きに呼応するように、三人の暗殺者は硬直し、その場から動けなくなった。そして、利き手から、ぽろりとナイフが落下した。
「すごい」
マークは、セーレを見て驚愕した。
「くぅ、やはり、リスクが高いわね」
セーレの額から、おびただしい汗が流れる。車椅子に座りながら、どれ程無茶をしているのか、マークには想像もできなかった。しかし、暗殺者たちも諦めない。拘束を無理に解こうと力技でセーレに詰め寄る。
「危ない!」
マークは車椅子の取っ手を離した。セーレを守ろうと壁になる。
「心配ないわ」
その様子を見て、セーレは少し笑みを浮かべた。そして、マークに首を横に数回振った。
「あなたは、もう豚じゃないの、守ってもらう必要はないわ」
セーレの髪が、白髪から銀髪に変わる。深紅の瞳が妖しく輝く。睨みつけているのだが、どこか優しい顔をしている。
「私は、こんな所で止まれない!」
マークはセーレの力に操られる。足が自分の意思と反対方向に進む。本人の意思は無視され、止められない。
(守らせてもくれないのかよ)
そうして、気付けば木の前まで歩かされ、その場に、木の根元で体育座りになった。
その間も暗殺者たちは、背中の刀を掴み襲いかかって来た。セーレに刃を突き立てた。胸部、腹部、肩付近に命中。かろうじで、深く刺さらず、貫通もしていない。
「……ごふ、誰の命令か知らないけど。あなたたちは、なぜ、私を狙うの?」
「狙う理由は知らん。金のために死んでくれ」
「そう。あなたたちも囚われた、豚なのね」
血だらけになりながらも、懸命にセーレは拘束の力を行使する。暗殺者たちはセーレ暗殺を果たすべく、刀の柄に力を込めた。押し込もうとする暗殺者に抗うべく、弱々しくも、相手を拘束し続けた。座っている車椅子が倒れそうになったが、セーレは火傷した足で懸命に踏ん張った。
「ねぇ、ヘーゼル。あなたも考えるのを止めてしまったの?」
セーレは、必死な目で問いかけた。
「お前には関係のないことだ」
ヘーゼルの反応が無関心で興味も無さそうに見えるが、懸命にセーレは訴えかけた。
「三年の間、あなたに何があったのか、私は知らない。けど、三年前のあなたは、今より輝いていたし、物事は自分の意志で決めていたでしょう」
三年前の意志に訴えかけるように、何とか説得しようとするセーレの言葉に、ヘーゼルは少し考えてから返答した。
「ふん、小娘が言うようになったじゃないか。だがな、あんたも年を取ればわかるさ。結局、どんなに行動を起こそうと、何をしても無駄だとね。私は疲れたんだ」
「疲れた? 笑わせないでよ。私は三年間、手に入れた力をどう使いこなすか、檻の中で、考えてきたのよ。あなたの意志を動かすぐらい容易いはずよ。あなたも私の力で……」
セーレの拘束能力が働かない。相手を拘束できず、流れる血も多くなった。
「まぁ、そのなりじゃ、無理だろうね。残念だね。あんたに付き合う程、暇じゃないんだ。そこで、暗殺者に仕留められるのも人生だよ」
「観念しな」とヘーゼルも畳みかけた。
「私は、諦めない。だから、もっと頭を働かせてよ。無理なんて、言葉で現実から目を背けないでよ。輝いていた、あの時のあなたの姿を見せてよ。お願いだから、私を落胆させないでよ」
悲壮な表情で、セーレは訴えた。月の光を受けても、老いた石では輝くのは不可能。物事の境界線も決めた。しかし、後悔の裏に隠された栄光が燻る。心の皮が剥がされそうになった。
「考えないで、言われたことに従うのは、囚われた豚と一緒よ。あなたは豚ではないでしょう? そうでしょう、卑しい魔女の聞かん坊、ヘーゼル!! 脳みそまで筋肉に侵されたか、このクソババア!」
「だ、がな……」
「私、知ってるんだから。あなたがショタ……」
「うぉぉりゃあああ」
ヘーゼルは、暗殺者たちに斧を振り下ろした。斧の一撃を受け、暗殺者たちは全員倒れた。血の池が広がり、臓物が転がった。
「やればできんじゃん。聞かん坊のヘーゼル」
「へ、うるさいね、泣き虫セーレ」
「ははは……」
セーレはその場に倒れ込んだ。滴る血液の中で、眠るように気を失った。髪色も銀髪から白髪へ戻った。
マークへの拘束が解け、彼は素早く彼女に駆け寄った。
「セーレ! おい、死ぬな!」
「男のくせに、狼狽えるんじゃない。こんな傷、私から言わせれば、ただのかすり傷さ」
ヘーゼルはセーレの頭を支え、鎮静剤と水を飲ませた。
少し深呼吸した後に、刺し傷や切り傷に両手をかざす。暖かな青い光が発生した。段々と手も青く色付いてくる。
掌を傷に触れ、なぞる。みるみるセーレの傷跡が塞がっていく。足の火傷も瘡蓋になり、傷が塞がっていった。
「ふぅ、応急処置はこんなもんかな。さて、マークだったか。本格的に治療するから、セーレを家まで運んでくれるかい?」
「はい、わかりました」
マークはセーレを両手で抱え、ヘーゼルの家の中まで運んだ。案内されたのは、ワンルームほどの間取り。怪しげな瓶が棚にいくつも並べられており、奇妙な動物の骨も飾られていた。
「さて、やるか」
ヘーゼルは手際良く、治療の準備を始めた。抜歯鉗子やメスなどの治療器具をトレイに並べた。
準備が整うと、ヘーゼルはマークに「中央の台に寝かせな」と指示した。
セーレを寝かせた後、マークはヘーゼルに尋ねた。
「あなたたちは人智を超えた力をもっていますが、一体何者なんですか?」
「何者か? なんだろうね。まぁ、私もセーレも、能力に目覚めるまでは普通の一般人だった。セーレと私はね、呪いを受けた者たちなんだよ」
何やら訳ありの事情があるようだ。不吉な緊張感の中、興味は尽きない探究心が、マークの心を突き動かそうとしていた。
コメント
1件
うわ、セーレめっちゃかっこいい…!🔥 でも怪我で弱ってるところもあって、そのギャップがたまらないです。ヘーゼルとの口論シーン、めっちゃ熱かった…「私は諦めない」って言葉にぐっときました。呪いとか能力とか、まだ謎だらけだけど続きが気になる…次も楽しみにしてます!🤍