私の夢は、この世界を護ってくださっているウタウタイの使徒になることだった。
しかし、私の夢は叶うはずもなかった。ウタウタイの使徒は…なにやら、人間とは違う何かだそうで人間の母から生まれた私にはできない。
その事を書庫にあった本で知ったときには私は絶望した。いつか、私のような人間でも使徒になれるはずと思っていたが、すぐにその夢は打ち壊された…。
悲しくて、悲しくて…。でも、私には心優しい父がいた。だからこそ立ち直れたのかもしれない。
母は元々体が弱く、私をやっとの思いで産んで、私の顔を涙を流しながら拝んだあとにこの世を去ったらしい。
それから父親は慣れない中、一生懸命に私を育ててくれた。時には嫌になってしまったかもしれないが、父親はそれでも私をここまで育ててくれた。
私の家は他の人よりも裕福であり、家政婦を雇うことだってできたというのに…。父親は家政婦を雇うことなく、ただ一人で私を育ててくれた。…本当は、母も一緒に生きて、食卓を囲んで何気ない話をして笑い合いたかった。
でも、私はそんな文句は言わない。父親がここまで育ててくれたのだからそんな文句を言う資格なんぞ私には無い。
…話を戻すが、私の夢は使徒になること。でも…それが叶わないとわかった。それでも私は…諦めることができなかった。いや、諦めたくなかった。
だからこそ、人一倍努力をした。毎日家の近くにある書庫で歴史や言葉を学び、父からは今現在の国の状況や政治に関しての知識を学び、空いた時間は槍の稽古や戦闘訓練に励んだ。周りからは「お前は女の子だから、女の子らしくしなさい」と言われたが私はそれを無視し続けた。
それから、いくつもの年が経って私は20歳になった。私の父は20歳になったお祝いに私専用でオーダーメイドの通気性や動きやすさに特化した上で、白と黒で統一した綺麗な服と、私の体や筋力に合わせた武器をくれた。私はとても嬉しくってその場で涙が出てしまった。でも…これが、父からの最後のプレゼントだとはこの時の私は思いもしなかった。
父はプレゼントをくれた翌日に私達の住んでいる森の国から山の国へと向かう予定があり、私に家を任して山の国へと護衛の兵士たちとともに向かっていった。しかし、道中で魔物の群れに襲われ死亡したと…父が向かってから数日後に連絡が来た。
…なぜ、こうも、私の大切なものは全て失われていくのだろう。全ては誰のせい?私のせい?…いくら考えても答えが帰ってくることもない。私はもう…わからなくなった。
20歳になって、父を亡くしてから数ヶ月がたつ頃、ふと風のうわさが私の耳に入って来た。なにやら、他の国の領主となっているウタウタイ様を殺して回っているウタウタイがいる、と…。私は耳を疑った。それはそうだ、私の家にある古くから伝わる書物によればこう書かれているのだ。
「遠い昔、世界は暴虐な領主たちによって圧政が敷かれ、多くの人々が苦しめられていた。だがある時、「ウタウタイ」と呼ばれる五人の女性が現れる。彼女たちは「ウタ」を歌うことで様々な魔力を行使できる特殊な力の持ち主だった。五人のウタウタイたちはその力で各地の領主を次々討伐し、やがて世界に平和をもたらした。彼女たちは人々から女神「ウタヒメ」として崇められ、領主に代わり各国を統治することとなった。」
私達を守るために国を統治しているウタヒメ様達を殺す…?私には到底ありえないものだった。なぜ殺し合わなければならないのか、なぜそうなってしまったのか。考えても理解ができない…、まぁ、所詮はただの戯言だろうと思い気にしないようにしていた。
…でも、最近は周りの人間たちがおかしくなったように思えてきた。皆、ウタヒメのウタの力に頼りきっていて、ウタヒメがいないとおかしくなってしまいそうな様子が感じ取れる。前まではウタヒメがいると安心できるなみたいな、そこまで信じきっているというか頼りきっている方じゃなかったのに。
最近は「ウタヒメ様がいないと私達は生きている意味がない」みたいな…。そんな雰囲気が漂っていた。前までの活気はどこに行ったのやら…。
そんなことを思いながら部屋で読書をしていると外から爆音が聞こえてきた。何事かと思い窓から外を見ると戦いが起きていた。
「な、なにあれ…!?ど、どうして戦いが起きているの…!?」
私には理解ができなかった。突如として始まった戦い。相手が魔物という訳でもなく、よく見れば相手は武器を持った人間の4人と白いドラゴンが1匹。ドラゴンを倒そうとしているのか?と思ったが状況を見ていればすぐに違うと言うことがわかる。
ドラゴンは4人に味方をしていた。よってドラゴンは敵側の味方であるということがわかった。…でも、普通の人間がドラゴンなんて扱えるわけもない。人を襲う凶悪な魔物、そんな生物を扱えるのは…。
そう思っていたときに、ふと、先頭で戦いを繰り広げている白髪の女性に目が止まった。
「目に……花が…咲いている…?」
そう、その女性の片目の方には綺麗な花が咲いていたのだ。ここで私は確信する。あの女性は…噂に聞いた「ウタウタイ達を殺す事を目的としたウタウタイ」だと言うことを。
それがわかった途端に、体や手足が酷く震えた。その女性の後ろにいる者たちも向かってくる兵士達を片っ端から倒していっている。いくら武器に血がつこうとお構いなし。あんな奴らに私が見つかったら…あっという間に力の差で殺されてしまう。
でも……、こんなかつての活気すらなくなった国で一生、この武器も使わず、知識も使わず、老いて死んで行くことが果たして幸せなのだろうか?それなら、ダメ元でもいいからあの人達の所に行き、仲間にしてもらえないかと頼んだほうが面白いのでは?
あの人もウタウタイ…つまり、ウタヒメと言うわけでもある。実質的に…夢が叶えられるのでは…?そう考えた私は服装を整え、野暮ったく伸びていた長い髪をミディアムボブぐらいまでハサミで切り、少し整えたあとに父と撮った写真に別れを告げる。
「ごめんね、父さん…、私…家のことは守れそうにない…。けど、私、夢を叶えてくるよ。例え…その道が血みどろにまみれた茨の道だとしても…、父さんのように進んでいくよ。…どうか、こんな身勝手な私を…見守っててね。」
外に出れば大砲から出た火薬の匂いや、鉄の匂いが充満し、所々に死体や肉片やらが散っていた。…私があの人達に敵と思われないようにする方法はたった一つ。…ここにいる兵隊達を共に…殺すことだ。
実行しようとすると手足の震えが更にひどくなる。振動のせいでカタカタと武器が音を鳴らす。怖いけど、嫌だけど、でも…やらなくてはならない。
覚悟を決めて私は走り出した。兵隊達は私の事を駆けつけてくれた者と見ていたが私は容赦なく武器を振り兵隊達を切り裂いていく。
私の武器は持ち手が槍のように長く、両方の先端にはどちらも逆方向を向いている斧のような刃をつけているオリジナルの武器だ。リーチが長い上に回していればズバッと切れていく。でも…全体的に重いのが弱点でもあり、振り回すにも時間がかかってしまう。そこを補いながら戦うのは疲れるが、今だけは何も辛くない。むしろ、いつもよりも軽く思えた。
父が支えてくれているのだろうか、それとも…開放されるからか…。よくわからないが、いつの間にか私だけで残っていた兵隊達を片付けてしまっていた。その私を見て白髪の女性は私に唐突な質問を投げかけた。
「…なんで兵隊達を殺した?恨みでもあったのか?」
冷たくて淡白な言葉。私は質問される事すら予想していなかった為少し驚いてしまう。そしてその女性は武器を構えながら私の返事をじっと待っていた。他の3人も武器を構えて警戒していた。
「…貴方様の、…仲間にしていただきたいのです。」
私はそっと武器を地面において両手を上げ、降参の姿勢を取る。するとその女性は短く「え…?」と困惑したような声を出す。
「私はただの人間です。貴方様のお役に立てるかはわかりませんが知識と戦闘技術も私にはあります、どうか…私を仲間にしていただけませんでしょうか…?」
よく伝わっていなかったのかと思い、長所も短く伝えながら再度、その女性に仲間にしてくれないかと頼んでみる。
……どうしてだろうか、…いくら待っても、返事が帰ってこない。
「クシュンッ!」
静寂な空間に包まれた中で、女性の後ろにいた槍を持った少年がくしゃみをした。その音も静かに響いてすぐに消えてしまう。次に音を出したのは…まさかのドラゴンの方だった。
「ほ、ほら!ゼロ!な、仲間になってくれるんだって!また頼もしい仲間が増えるからいいじゃん!それに、戦わなくても済むし…!」
「そうです、戦わずに済むことですし、貴方様の目的の手助けをしたいのです。」
一応ドラゴンの言葉に乗ってそう伝えるが…ドラゴンってそんなに可愛らしい声をしていたのか…。そして、今になってわかったが白髪の女性の名前は「ゼロ」と言うみたいだ。
それからずっと静寂な時間が続き…
「あぁ……、うん……はい…。」
ようやくわかってもらえたのだろう、ゼロさんは私に向けていた剣をおろして納得したような返事をくれたのだ。ゼロさんが武器を下ろすと仲間の者たちも武器を下ろしてくれた。
「仲間に入れてくださりありがとうございます、これからゼロ様にお役に立てるように精一杯頑張らせていただきます、」
その場で膝をつき、忠誠を誓うことを意思表示した。多分…これでいいんだろう。
「ねぇ、ゼロ、この感じ…見たことあるよ?」
「爺さんが仲間に入れてくれって言ってきたあの時みたいだよね〜、デジャヴすぎるでしょ。」
「ほっほっほ、思い出しますなぁ、あの時はゼロ様が認めてくださるかとヒヤヒヤしました。」
「まぁ、新たに仲間が加わったことに関しては素直に喜んでもいいでしょう、」
ドラゴンの話から始まり、青年や老人、屈強な体格をした眼鏡の人に話がつながりなにやらあっちだけで盛り上がっている。…というか、あのご老人の方が仲間になる時にも私みたいなことになったのだろうか…。それはさぞ、静かだったんだろうなぁ…。
「…聞き忘れてたが、名前は?」
「あっ…えっと、申し遅れました。私の名前はリアラと申します、」
「そうか、」
か、会話がなんとも続かない…。いや、私から話しかければ続くはず…と、思うが私には話しかけるほどの度胸がないため話しかけることは無理そうだ。
「えっと…そして、後ろの方々のお名前も聞いてもよろしいでしょうか…?」
「ん、あぁ、まだだったね。僕の名前はディト。」
「私はデカートと申します」
「オクタと申します、お気軽にお呼びくださいませ、」
そうして、少年、眼鏡をかけた男性、老人の順番で自己紹介をしてもらった。しっかり覚えなくては…。どうやら、ゼロ様からの紹介だと3人ともウタウタイのウタヒメ様に仕えていた使徒様だということだし…。
「それよりも聞きたいことがある。」
「は、はい…、なんでしょうか…?」
「ここ辺りには詳しいのか?」
「もちろんです、道中の分かれ道や近道、出口なども完全に把握しております。」
頭の中でそんなことを思っていると急にそんな質問を投げかけられたが私は冷静に答えることができた。私の唯一の取り柄といえば記憶力だ。読んだ書物の内容を覚えたり、教えられたことをちゃんと記憶ができると言う、まぁ…普通なぐらいの取り柄しかない。けど、こういう時には役立つだろう。この人達は一刻も早くに残るウタウタイ達のもとへ行かなければならないのだ。最短ルートがあるだけでも多分、助けになれるだろう。
「なら、案内は任せたぞ。近道の方で案内してくれ。」
「了解いたしました、でも、まだ道中には先程の兵隊の援護に向かっている兵隊達もいますので、油断はなさらないでください。」
そう言ってゼロ様の隣に並びながら走り始める。やはりゼロ様と共に歩んできたからこそなのだろう、走るスピードが尋常じゃないほどに早い。すぐにでも追い抜かれてしまいそうだ…。
「皆さんは大丈夫ですか…?先程の戦いといい、連戦となりますが…」
「全然、あのクソ女と過ごしていたときよりかはずっと楽だよ、」
ディト様が軽々と言ったけど…。えっ…い、今の子ってこういうもの…?よ、よくわからない…けど、クソ女って…ま、まさか…ウタヒメ様のこと…かな。
「そ、そういうわけじゃなくて…無いと思うのですか、万が一ものとき、ゼロ様が危険な状態になったときにその傷や疲れた状態で駆けつけれるかどうか…」
「そんな時に身を挺してでも駆けつけるのが我ら使徒なのです。自分の身が例え犠牲になろうとゼロ様を守ることが、使徒の役目なのです。」
「そう…なのですね、」
デカート様の言葉が、何故か私の心に刺さった。使徒様の言葉だからと言うのもあるが、それ以前に使徒としての役目を語られると改めて使徒というものかを、そして、どういう役目を背負うものなのかを実感させられる。
「でも、その…、心配なのです。いくら大丈夫だからと言っても…その、失礼になるかもしれませんがご老人の方もいらっしゃいますし、」
「おや、私の事を心配してくださっているのですか、心より感謝いたしますぞリアラ殿。しかし、心配は無用でございます。このオクタ、貴方のようなお嬢さんに心配されるほどやわな人生は送っておりませんぞ、」
なんともまぁ…使徒様はすごいものだ。このようなご老人でも戦えるのか…。まぁ、それほどの力がなければ使徒として認められないのだろう。
そんな会話をしながらも私は記憶力を活かし、一番近い抜け道への最短ルートを案内していく。やはり、道中には先程の現場へと向かっている途中の援軍の兵隊達がいた。しかし遠慮なんてせずに片っ端から切り裂いて道を進んでいく。
「やはり、使徒様は凄いですね、どれだけ攻撃を受けようとも怯みもしない…。私も負けていられません。」
「我らは共に死ぬ覚悟で生きていますから、例え炎の中でも水の中でも…、炎…熱…熱い……、うぅっ…!」
「えっ…!?ちょっ!?どうしたんです…!?傷口が開いたのです…!?」
突然、先程まで生き生きと語っていたデカート様が唸り始めたのだ。私は慌てるが、周りは妙に冷静でおかしいと思っていたが、すぐに衝撃の事実を言い渡される。
「あぁ〜、気にしないで、自分でそう言う妄想してただ単に感じちゃってる変態だから。」
「…はぁ!?」
私は…開いた口を閉じることができなかった。も、妄想して感じちゃってる変態…?ど、どういうこと…!?意味がわからないよ!?
「えっ、ちょっ…、それって…」
「それぐらい察しがつくでしょ?デカートは単なるドM。マゾヒストってやつだよ。」
「はぁ!!?」
走っている途中で思わずずっこけそうになる。こ、こんな真面目そうな人が!?マゾヒスト!?ドM!?もう意味がわからなすぎてお腹いっぱいなんですけど!?
「気にするな、というか、慣れろ。」
「ゼロ様!?さ、流石に酷くありません!?」
「慣れなきゃこの先、ずっと苦労するぞ」
「えぇ〜!?」
もう私は…ゼロ様に言われたとおりに諦めるというか…慣れるしかないのだろうか…。確かに…言われてみれば先程から…敵と戦う時もわざと食らいに行っている様子が見られたような…。いや、もうやめよう。何かがおかしくなりそう。
「それはそうと、リアラ殿、」
「は…はい?何でしょうか…?オクタ様、」
「リアラ殿は、既にセルフ・ジョイはされたのですかな?」
「えっ…?な、なんです…?そのセルフジョイって…」
今度はオクタ様が話しかけてくれたが…またもや意味がわからない。セルフ…?ジョイ…?な、なんだろう…?何を意味しているんだろう…?言葉の意味すら読み取れない…。オクタ様がいた国の特有の言葉なのかな…?
「おやおや、知っておられぬのですか?」
「は、はい…、知識があると言っても限りある範囲内の知識だけなので…」
「ホッホッホ、それでは私がお教えいたしましょうぞ、セルフ・ジョイというのはですな…」
「…!皆さん!避けてください!大砲の砲弾が飛んできます!!」
あぁもう…!!せっかくオクタ様に貴重な知識を教えてもらえるところだったのにぃ…!!兵隊達もいよいよ本気を出したのか、こんな狭い道中にいる私達に向かって大砲などを惜しみなく使ってくる。あの砲弾に当たったらひとたまりもないだろう。
「おい、クソドラゴン、先に行って砲台を潰してこい。」
「ねぇ!酷いよ!酷いよ!なんで名前で呼んでくれないの!?」
「いいから行け、さもなくば全滅になるぞ。それと、2回も言わなくていい、」
「うぅ〜…わ、わかったよぉ…!」
そう言ってミハイル様が先に砲台の方向へと飛んでいった。…それにしても、名前があるというのにゼロ様からの呼び方がクソドラゴンとは…。ミハイル様もなかなかに苦労をされている様子だ…。
あれからどれだけ連戦を重ねたのだろうか…。街を出るのにさえも何回も兵隊達とぶつかりあった。兵隊達は皆、「ウタヒメ様の為に!!」やら「ウタヒメ様がいる限り、我らは無敵だ!!」など阿呆みたいな事をほざいていた。聞いているだけでもうんざりしてしまう。それは私だけではなくゼロ様も同じようだ。そんなことを思いながらもやっとの思いで激戦区から抜け出した。
「ハァッ…ハァッ…、こ、ここまで来れば…、あとはあの道をまっすぐ行けばこの国から出れます。今の時期ですと門番も休みなため出入り口もガラ空きです。」
「よく知っているな。」
「もちろん、ここは私の生まれ育った故郷。故郷の事ならば何でも知っています。さっ、先を急ぎましょう。もしかしたらこの緊急事態で門番が来てしまうかもしれないので。」
「あぁ、そうだな。」
そんな会話を走りながら交わし、門番は予想通りに居ることはなく、無事に出ることができた。
「はぁ〜あ、連戦続きで疲れた。」
「今回は敵が多かったですな。私も少々疲れてしまいましたな。」
「やはり連戦ですと体に疲労が蓄積されます…。でも…その疲労と拳にまだ残る痛みがっ…、うぅっ…!」
…なんだろう。もう、反応することもできないほど疲れてしまった。デカート様の事にも、オクタ様に聞きそびれた知識のことも…全て…聞く気力がない。
「満身創痍のようだな、」
「ゼ…ゼロ様…。えぇ…こんな事、初めてでしたから…どうしても…疲れてしまって…。」
思い返してみれば、今日にあったすべての出来事は私にとっては初めてな事ばかりだった。家出をした事も、国を裏切ったのも、夢を叶えたのも、使徒様に出会えたのも、ゼロ様とミハイル様に会えたことも、そして…人を殺した事も。すべてを含めて初めてなことばかりだ。
「…ここで休憩をしたらすぐに出発する、それまでに少しでも体を休めておけ。足手まといになったら困る。」
「わかりました、ゼロ様。ゼロ様の足手まといにならぬようにしっかり休みますね、」
ゼロ様の言葉はどれもこれも少し冷たいものばかりだし、場合によれば言い方がキツイときもある。でも…なんだかんだ、心の優しい人なんだということは分かる。
「…明日は…どんな冒険が待っているのだろう…」
デカート様がどこからか持ってきてくださった毛布に身を包みながら誰にも聞こえないぐらいの小さな声でそう呟く。
これからの道は修羅の道だ。茨の道といったがそれでは生ぬるいほどだ。…これから先は私が生き残れる確証はない。魔獣だろうがウタウタイだろうが人だろうが、関係なく私を、私達を敵として襲ってくる。抗うためには殺される前に殺すしかない。でも…殺すときにはとても手が痛くなるし、震えてしまう。それでも…ゼロ様の為ならばと思うと、不思議と辛くも何もない。
私は…これからたくさんの人を殺し、魔獣を殺し、ウタウタイの者たちが死んでいくのを目の前で見ることになるだろう。ただ、それでもいい。
この世界を変えれるなら。ウタの力に取り憑かれたこの世界を変えることができるのなら私は構わない。反乱者や裏切り者と言われても痛くも痒くもない。ゼロ様や使徒様達と一緒ならば怖くない。
さぁ、進んでいこうじゃない。
これからの、私の新しい人生の幕開け。
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