五 : 人 面 桃 花 、さ れ ど 君 想 ふ
かつての姿は嘘の様に
廃れたこの家で寝そべる 。
瞼を閉じるのが怖い 。
でも瞼を閉じて目を逸らしたくなる 。
真っ暗な中 、独りぼっち 。
「 っ雪 、那? 」
君と出会う迄 。
辺りは切り替わり 、寝室 。
ぬいぐるみ 、絵本 、積み木に人形 。
聞けば 、此処は彼女の部屋らしい 。
だかどうも年齢に合わない気がする 。
もしかすると 、僕が思っているより彼女は若いのかもしれない 。
「 ねぇ 、 」
部屋を見渡すフリをして
彼女から目を逸らしていた事がバレたのか
彼女はベッドに座り乍 ドアの近くで
立ち込んだ僕に首を傾けて可愛らしく尋ねた 。
「 お名前 、教えてほしいな 」
つい彼女と目を合わせてしまった 。
逃げられないこの状況に心臓が酷く高鳴る 。
震える手を握り締めて名前を名乗った 。
彼女の顔を見ると何処かパッとしない様な
納得にいかないと言わんばかりの顔をしていた 。
「 珍しい名前だね 」
「 えっ 」
正直 、僕の名前を珍しいと言う人はそう居ないだろう 。
探さなくても普通に生きていたら同じ名前の人に
会うのも可笑しくない様な在り来りな名前だ 。
「 たかのりとか 、三郎とか 、 」
「 え 、ちょっと古くない 、? 」
「 えっ 」
「 えっ 」
驚いて目を見開いたかと思えば
眉を顰め下を俯き出した 。
思ってたより表情が豊かで
困惑している自分が居る 。
そんな事を思っていると次は
ベッドに身体を沈め出した 。
「 .. せ 、つな 、 ? 」
僕の声に被せる様に 、彼女が僕の名前を呼んだ 。
身体が強ばる 。何を言うか 、僕は何一つ予想出来ない 。
「 幽霊って信じてる? 」
つう 、と
汗が彼の頬を伝う 。
それにどんな理由が含まれているかは分からないが
彼がこの屋敷に来たのは私目的なのは確かだ 。
「 な 、んで 、いや 、 」
後退りする音が聞こえて
ベッドから立ち上がり彼の元へ足を運ぶ 。
自分より一回り大きいその身体を
震わせている姿は面白くも不安にも感じる 。
そんな彼を安心させようと
目の前に立ち 、口端を上げて笑みを作る 。
「 .. もし 、私が幽霊だって言ったら 」
「 君は 、どうする? 」
「 .. もっと 、雪那を知りたいと 、思う 」
私は多分 、彼がなんて答えようと
もし私を拒絶したとしても
消えれない理由が増えるだけで 、
心底期待しない様に 、そう思っていた 。
「 .. ██ くん 」
堪え切れず笑みが零れ出る 。
いつの間にか 、意識しなければ
作れなくなっていた筈なのに 。
彼の左胸に手を置く 。
でも 、私は彼の心臓には触れられない 。
私の手は沼に沈む様に
彼の服を通り抜け 、身体を貫通した 。
そんな見慣れた様子を
彼は呼吸も忘れて見入っていたのか 、
突然糸が切れた様に倒れ尻もちをついた 。
目線を合わせる様にしゃがんで
咳き込む彼が落ち着くのを待つ 。
触れられない 、というのは
もう当たり前になっていて 、
まず屋敷内に人を入れる事もないから
触れようとする事も少なくて 、
でも 、偶に触れられないという事実に当たると
心は痛まないが何処かもどかしく 、行き場のない虚しさが宙を踊る 。
初めて触れられない事を知った時 、
彼みたいに酸欠になって倒れたりはしなかったけれど 。
「 君にお願いがあるんだけど 」
肩で息をする彼に言う 。
「 私の夢を 、未練を 、 」
「 一緒に晴らしてくれませんか 」
人面桃花という四字熟語がある 。
国語は嫌いだ 。作者の気持ちを考えろとか 、
まず暗記科目は得意じゃない 。
でもその四字熟語は少し好きだった 。
美しい女性と会った場所に行っても 、
再びその人とは会えない 。という意味らしい 。
初めて聞いた時 、なんて儚くて
綺麗な言葉なんだろうと思った 。
でも 、今はあまり好きと思えない 。
「 私の夢を 、未練を 、 」
「 一緒に晴らしてくれませんか 」
彼女にそう言われて 、最初に浮かんだ感情は
あまり綺麗とは言えないもので 、
自分でもその醜さに笑いが込み上げてきそうだ 。
彼女が霊として生きているのは
その未練が原因なのだろう 。
その未練を晴らしてしまったら
彼女は消えてしまうのだろうか 。
僕は彼女の事をこれっぽっちも知らない 。
噂される屋敷の霊で 、それ以外はさっぱりだ 。
でも人目見た時に恋に落ちて 、
彼女に会えなくなると思うと目頭が熱くなる 。
屋敷に会いに行ったとしても
彼女とは会えない 。
「 .. 晴ら 、したら 」
「 雪那は 、どうなるの 」
「 .. 」
「 消えるよ 、何も無かったみたいに 」
そんなの 、嫌だ 。
僕は異性どころか 、同性とも
まともに話せないけれど 、
会いたい 、話したい 、
彼女相手だとそんな欲が溢れ出てくる 。
でも 、
彼女が好きだ 。
大切だと想うから 。
「 わかっ 、た 、 」
蝉すら狼狽える夏 。
彼女の未練を晴らす為に僕は生きる 。
例え 、あの四字熟語の様に
2度と会えなくなるとしても 。
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コメント
11件
瀬戸のスト言葉選びが天才すぎ
せととのストすきです☝🏻‼️ 表現とかえぐくて読みやすいしおもしろいからすらすらよめて一気見しちゃう😽🫶🏻 四字熟語でてくるの最高すぎる切なすぎる未練晴らしたら会えなくなるけど女の子の気持ちを優先したいって思って結局女の子の気持ち優先するのが最高に儚くてだいすきです👊🏻♡
大 切 だ か ら 未 練 を 晴 ら す で も 会 え な く な る か も ! っ て ゆ ー 葛 藤 と か 欲 と か 神 ✨ 主 人 公 が 恐 れ て る 感 じ と か も リア ル 〜 ! ! 一 つ 一 つ の 表 現 が大 好き す ぎ る