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僕の自宅アパートは沼津の街なかの 狩野川かのがわのほとりにある。部屋の窓から富士山は見えるが、近隣のビルが邪魔して香貫山は見えない。走りだせば香貫山がずっと見えている。ゴール地点が見えていることは何より安心だ。

逆に人生はゴールの見えないチキンレース。萌さんと知り合ってから特にそう感じる。僕は彼女とどうなりたいのだろう? さっぱり分からないまま、彼女と二人で香貫山へと駆けだした。

萌さんは三分も経たずに音を上げた。

「ペースが速すぎだ。いつものペースで走れよ」

「君に合わせていつもより遅く走ってるんだけど」

「もっと遅くしろ」

「アスルヴェーラのためにともに戦うんじゃなかったの? そんな根性じゃアスルヴェーラの最下位脱出はなさそうだね」

「そこまで言うならあたしの本気を見せてやる!」

萌さんのペースが急に上がった。煽ったのは失敗だった。無茶したらバテるのが早くなるだけだ。

案の定、平地を過ぎて山登りが始まる頃には普通に歩くより遅いスピードに落ちていた。 ランニング用のウエストポーチにスポドリのペットボトルを入れて持ってきたのを萌さんに渡したら、引ったくるように奪われてゴクゴクと飲みだした。この程度の距離を走るだけなら、ふだんドリンクなど用意しない。こうなる気がしたから持ってきた。緊急時連絡用のスマホや熱中症対策の塩飴なんかもポーチの中に入れておいた。

「無理しない方がいい。引き返そうか?」

「ふざけるな。それよりデカくて丸い葉っぱがたくさん並んでるけど、あれは何?」

「ツワブキ。君んちに庭があれば植えてみれば?」

「あそこに青い鳥がいるけど、野鳥か?」

「イソヒヨドリ。珍しい鳥じゃないよ」

「女知らないくせに、鳥や植物には詳しいんだな」

「置いてくね」

「ごめん」

山登りの途中で歩き出すと思ったけど、彼女のアスルヴェーラ愛ゆえか、フラフラになりながらも 香陵台こうりょうだいまでは走りきった。香陵台は標高80m。香貫山の中腹にある広場。

「ここから先、車は通行禁止なんだ。君に何かあった場合タクシーを呼ぶこともできないから今日はここで引き返そう。君の根性は十分に見せてもらったよ。次の試合、アスルヴェーラはきっと勝って勝ち点3をゲットできるはずだよ」

「ここまで来たからには頂上まで行きたかったけど、おまえがそこまで言うなら今日のところはここまでにしといてやるぜ」

ときどきむせながら肩で息をして今にも倒れそうなくせに、それでも無駄に強がるところはヤンキーらしいと言うべきか。ベンチに腰を下ろして真っ赤な顔でペットボトルにむしゃぶりついていたけど、ペットボトルから口を離してようやく笑顔を見せた。

「ごめん。全部飲んじゃった」

「僕はのど渇いてないから大丈夫」

「なんでそんなにあたしに優しくするんだ?」

と言われて言葉につまった。下心があると見抜かれたのだろうか? 彼女は僕の下心を冷ますような話を始めた。

君はスタジアムに吹く風のように

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