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僕にとって「死」は「救い」。
だから神様の前にいるはずのみんなを探し回った。
まだ僕は本当の「幸せ」を見せてあげれていないから。
なのにみんながどこにもいない。
頑張って天上に昇っても、どれだけ御使いから逃げても見つからない。
どうして?
なんで?
みんなは?
思い切って逃げながら聞いてみた。
もう深い眠りの中である、神の中で眠っている、と。
僕は逃げるのを辞めた。
もうみんなには会えないの?
僕はもうみんなを「助け」られない?
僕はこれから何をすればいいの?
あの頃に戻っちゃうの?
お兄ちゃん……お兄ちゃんも……?
御使いは僕の肩を掴んだ、暖かく優しかった。あなたは善行を教えられてこなかった、ただそれだけであってあなたは決して悪では無い、そんなようなことを言われた。ただ、腕を引かれて、とぼり、とぼり、歩いた。
必死で「助け」ようとした今まではなんの意味もなかったんだ。殺されて、やっと「助け」方を知ったのに、役に立てると思っていたのに、役に立つどころか悪影響を成していたと、遠回しに御使いに言われていたように思えた。じわじわと胸の中にあった意欲が収縮し、体にあったような気がしていた温度が引いていく。僕は今まで何をしていたんだろう。何も思い出せなくなっていく。思い出したくなくなっていく。このまま消えてしまえればいいのにな。
過去の努力も意思も否定された。青の君はこんなもの達を愛しているというのか。僕の志を無下にするものが世界中で尊ばれている。知らなかった。世の中はこんなに生きづらいものだったかな。
もう、みんな忘れてくれはしないか。僕なんてものが生きていたことに価値はないでしょう。価値が欲しいから人の役に立ちたかったんだ。優の印を押して欲しかったんだ。彼にはわかるのかな、僕のこの気持ちが。君がたった今、否定した人間がどれほどのショックを受け、落胆しているのか。人間だけでなく、御使いまでもが気の効いた言葉も言えないだなんて。せめてもの救いには程遠い。さすが、あなたの努力のさじ加減で幸を与えましょうと言うだけはある。
矛盾してるんだ、人間であっても神様であっても。愛している割には自分への愛を確かめるために悪魔の試みを許すだなんて。それで命以外の全てを奪われてもなお自分を愛してくれていることに喜ぶんだ。なんて子供っぽいんだろう。愛の神だなんて嘘なんじゃないのかな。愛しているのなら飼っていた羊も、友人も、妻も含めて彼の全てを護ってあげられればいいのに。 今からそんな神様の中で眠らなければならないのか。嫌だな、自分勝手なものの相手だなんてもうしたくない。生きていた頃に毎日したことだ。「助け」てくれだなんて言わないし、「救い」も求めないから早く消して欲しい。全部無意味なんだから。
しばらく歩くと館の中に入るよう言われた。館の奥の1室に通され、座らされる。僕には神様の姿は見えないけれど目の前にいるらしい。この薄ら白く光っているのが神様なのだろうか。
「神様なら僕を消すなんて簡単ですよね。」
挨拶なんてしなかった、感謝なんてできなかった。ただ消してくるのならそれだけでいい。死んでいようが寝ていようが似たようなものだと言うのなら僕はなんだったのだろう。分からなかったけれど、もうどうでもいい。
神様はゆっくりと頷いた。後ろから御使いが僕に声をかけた。
「あなたの今までが不幸であったとは思います。けれど、霊として地上へ降ろしたのは他でもない神様なのです。」
だから何?要は感謝しろってことでしょう。不幸を見過ごしてそれでもやってあげたって言いたいのか。神様が、御使いが、何をしていたのかは分からないけれど、信者を優先にしていたのだろうと思うし、見過ごされていようが僕には分からないし、そもそもこのもの達を信じてもいなかった。信じる隙もなかった。祈る暇があるのなら父に酒を注ぐ。だからそこはなんだっていい。けれど、まるで僕が霊体を望んだと言いたげだ。「助け」たいとは願った。が、霊体にしろとは言ってない。なのに感謝をしろと?誰がしてやるものか。制御出来なかった言い訳をこちらによこさないでもらいたい。
振り返って始めて目を合わせたその御使いは兄に少し似ていた。愛の神の前だが、因果だと思った。僕はその御使いの心臓部分に穴を空けた。そいつはひらりと布を揺らして床に落ちた。
「良かったね、これで君の大好きな神様の中で愛してもらえるね。」
俺の弟は神様の怒りを買って首を落とされたと、7つのラッパがなった後で救世主から聞かされた。あわよくばと思っていたが、あいつはまた俺との生活を蹴った。もう2度とあいつには会えない。お互いにどこか救われないなと思いながらも俺の方がマシな道をたどれそうだと妙な自信で長く永く生きることになった。
(お終い。)