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いざ福島へ
御子柴聖 十七歳
墨汁を垂らしたような深刻な暗闇に浮かぶ月、大輪の桜達が咲き誇る中に二人の男女が居た。
彼等には当然ながら、あたしの姿が見えていないらしい。
「私は、貴方のモノにならないよ」
相手の顔はボヤけて見えないけど、言葉を詰まらせているのは分かる。
「どうしてっ?俺はっ、こんなにも君を愛している。どうして、分かってくれないの?桜」
男の人は縋るように言葉を吐きながら、女の子に近寄る。
桜って名前なのかな、この女の子は。
今にも泣きそうな話し方をする男の人の表情も、桜と同様にボヤけて見えない。
二人の事がよく見えなくても、二人の恋の行方が叶わない恋のものだと分かる。
「私には…、あの人しか愛せないから」
その言葉を聞いた男の人は、伸ばしかけた手を引っ込めた。
「ごめんね…」
「謝罪なんて聞きたくない、聞きたくなんかない」
「…、ー」
何て、言ったの??
よく聞こえなかったけど、男の人の名前を呼んでいた事だけは分かる。
本当に、何の夢なの?
あたしが見ている夢はなんなの?
***
ピピピピピピー!!!
「!?」
けたたましく鳴り響く目覚まし時計の音で、ハッと目が覚めた。
「また…、桜って子の夢。それにあの男の人…、誰かに似ている様な…」
どうしてだろう。
あの夢に出て来る人物は、何処かで見た事あるような気がする。
むしろ、桜って子が話す度に自分が話しているような感覚がした。
それに、顔の見えない男の人は初対面じゃない気が…、誰だろ?
コンコンッ。
「お嬢、起きましたか?」
ガチャッ。
蓮が扉を開け、軽く顔を覗かせていた。
「今、起きたよ…。とりあえず、着替える」
「分かりました。カフェオレを淹れて。待ってますね?」
パタンッ。
蓮はそう言って扉を閉めて行き、キッチンに向かって行く足音が聞こえた。
とりあえず、夢の事は後回しにしておこう。
今日は蓮達と一緒に、任務の為に福島に行くんだから。
ギシッ。
あたしはベットから降りて、手慣れた手付きで義足を装着した。
カチャッ、カチャッ。
念の為にベルトも巻き付けておこう。
太ももと義足の付け根に、きつくベルトを巻いた。
万が一、義足がはずれてしまわないように念の為。
クローゼットから制服を取り出し、パジャマから制服に着替えてから鏡で髪を整えた。
「よし、寝癖は治ったな」
手に持っていた櫛を置き、机の上に置いてある妖銃を手に取る。
カチャッ。
「あ、弾丸を入れてなかった。装弾しないと…」
弾丸が入っている箱を取り出し、教わった通りに妖銃に弾丸を装填して行く。
カチャッ、カチャッ、カチャッ。
マシンガンに弾薬を装填し、本体に挿入、その後にスライドを弾いて離す事で、マシンガンの最上段の弾薬が薬室に送られる。
装弾が済んだ妖獣をヒップホルスターにしまい、予備の弾丸も用意しておく。
素早く準備を済ませて、蓮の待つリビングに向かった。
カチャッ。
「ごめん、遅くなった。妖獣に弾丸を装填してて…」
蓮に謝りながらリビングのドアを開けると、コーヒーの良い匂いが鼻を通る。
「大丈夫ですよ、そんなに時間は掛かってませんでしたよ?」
「本当?それなら良かった…」
そう言いながらソファーに腰を下ろすと、蓮がコーヒーを飲まながらカフェオレを渡してくれた。
「ありがとう、いただきます」
「…。お嬢、嫌な夢でも見ました?」
「え?」
「いや。お嬢の様子が少し変だったので…」
蓮は心配そうな顔をして、隣に座るとあたしを見つめた。
少しの変化でも見逃さないよね…、蓮は。
「あのね…、実はー」
あたしはカフェオレを飲みながら、今朝見た夢の話をした。
「嫌な夢とかじゃなくて…。何か引っ掛かるんだよね」
「嫌な夢じゃなくて良かったです。んー、確かに気になる夢ですね」
そう言って、蓮はコーヒーを口に運ぶ。
「夢に出て来る桜って子、本当にあたしと瓜二つなんだよ。蓮が見たら、びっくりするよ」
「そんなに似てるんですか?」
「そうなんだよね…って、そろそろ。時間だよっ、蓮!!」
時計に目をやると時刻は、五時四十五分を指しており、そろそろ出ないとまずい時間だった。
「行かないとまずいですね、行きますか」
「うん、やばいやばいっ」
あたしと蓮は慌ただしくリビングを飛び出し、急いでエレベータに乗り込む。
チーンッ。
エレベーターを降りると、エントランスに楓と隼人の二人の姿があった。
楓もあたしと同じように、妖銃をヒップホルスターに入れてあるようだ。
「おはよう、姉ちゃん」
「おはよ、聖」
「二人共もおはよう。どうして、ここに?」
あたしがそう言うと、隼人眠そうにが答える。
「聖を迎えに行こうと思ったらよ…。途中でコイツと鉢合わせたって訳」
隼人が嫌そうな顔をしながら、隣にいる楓に視線を送る。
「お前だけ嫌な顔してんじゃねーよ、俺の方が百倍嫌だわ」
「あ?何だと糞ガキ」
どうやら、隼人と楓は同じ事を考えていたらしい。
「あー、成る程。大介は?」
「大介は、学院の前で待ち合わせになってる。それに、俺等がいた方が大介にあやしまれないだろ?」
「あたしと蓮が一緒にマンションから出てくるのを見たら、大介は驚くだろうしね…」
隼人の話を聞いて、二人が来てくれて良かったと思った。
騒ぎ立てる大介の顔が脳内に浮かぶ。
一足先に駐車場に向かっていた蓮が、アルファードにエンジンをかけてからドアを開けた。
「さ、皆さん車に乗って下さい」
「あたしも楓達と同じように、後ろに座った方が良いかな?」
「いや、お嬢は助手席に乗って下さい。僕が安心出来ないので」
「?、分かった」
蓮に言われてあたしは助手席に乗り、楓と隼人が後ろの席に乗った
「前田には早乙女と坊ちゃんを、途中で拾った事にして下さいね」
蓮はシートベルトを付けながら、二人に声を掛けた。
「分かってるよ。」
「了解。」
二人は蓮の問いに答えると、車がゆっくりと走り出した。
***
六時丁度に学院の校門に着くと、大介と智也さんの二人が眠そうに立っているのが見えた。
蓮は車を停車させた後、一人で降りて行き、友也さんに頭を軽く下げる。
「おはようございます、智也さん」
「おはよう蓮、時間丁度だな。他のメンバーは車に乗ってるのか?」
「はい、後ろに居ますよ。学院に向かう途中で拾って来ました。ほら、前田も乗れよー」
蓮はそう言って、後ろのドアを開けた。
「おーす、隼人!!!おはようー!!!楓君も聖ちゃんも!!!」
さっきまで眠そうにしていたのに、あたし達の顔を見て眠気が飛んだらしい。
大介の陽なパワーに、こちらが押し潰されそうになる。
「朝からテンション高いね、大介…」
あたしは大介のテンションの高さに驚き、つい口に出してしまった。
早朝からこのテンション、寝起きが良いな。
楓と隼人も、あたしと同じようにポカーンっとしている。
「俺、寝起きは良い方だからさ!!!あ、楓君も隼人と同じで朝は苦手かな?」
「は?」
楓は大介の顔を見て、不服そうに睨み付けた。
どうやら、大介は楓と仲良くしたいみたいだな。
あたしは二人の光景を見ていると、隼人がハッとした。
「コイツは、お前のテンションに追い付いてないんだよ。もうちょい、テンション下げろ」
えぇ!?隼人が楓に気を使った!?
昨日、蓮が言った通りにしてくれてる!?
「おっ、悪い悪い!!!もう少し、テンション下げるわ」
大介は謝りながら、後部座席に乗り込んだ。
「ほい、これ警視庁の連絡先な?学院に依頼してきた警察署の。着いたら連絡入れてやって」
そう言って、智也さんは蓮に小さな紙切れを渡す。
「分かりました。福島に着いたら…、この駅に行けば良いんですか?」
「そうそう。この駅に行けば、刑事達が待ってるだろうよ」
蓮はスマホを操作しながら尋ねると、智也さんは頷いた。
「分かりました。それじゃあ、行ってきます」
「あぁ、何かあったら連絡してくれ」
「分かりました」
「お前等も気を付けてな」
智也さんは車の窓から、あたし達を覗き込んだ。
「気を引き締めます」
あたしは、智也さんの目を見て答えた。
「はーい、理事長!!!」
大介が智也さんに向かって敬礼のポーズをしている中、楓と隼人は黙って頷いているだけだった。
車に乗り込んだ蓮は、福島に向かう為に車を再び走らせて数十分後。
高速道路のETCを通過したい所で、あたした蓮に尋ねて見る事に。
「福島って、どれぐらい時間かかるの?」
「高速で三時間〜四時間かな?あ、トイレに行きたくなったら、すぐ言えよ。パーキングに寄るから」
そんな遠くなんだ、福島って…。
あたしは遠出をした事がないから、他の県に行くのにどれだけ時間が掛かるのか分からない。
京都から東京に行くのにも、時間掛かったよね。
そう思っていると、大介が大きな声で返事をした。
「はーい、田中っち!!!」
「おい、大介。遠足じゃないんだからな?もう少し…」
はしゃぐ大介を落ち着かせようと、蓮派少し困りながら声をかける。
「分かってるよ!!!だけどさ…。やっぱ、遠出ってなるとワクワクしちゃうんだよなー」
「…ップ!!子供かよ、お前は」
大介と楽しそうに話している隼人は、あたしと話している時とは違う。
やっぱり、幼馴染だからこそ気を許せる相手なんだろうな。
あたしは二人を見て、内心ホッコリしていた。
「少し遅くなったが、朝飯でも食うか。皆んな、お腹空いてるか?」
「空いてるー!!!」
「本当に元気だな、前田は…。じゃあ、パーキングエリアに寄るか」
蓮の問い掛けに大介が答え、途中でパーキングエリアに止まり、朝食とトイレを済ませてまた車を走らせた。
会話は途切れる事は無く、楽しい車内だった。
楓もなんとなく、大介と打ち明けられている感じだし。
良い雰囲気なんじゃないかな、最初の頃よりは。
そんな事を思いながら、運転している蓮の横顔を静かに見つめた。
***
三時間〜四時間程、高速道路を走り、ETCを通るといよいよ福島県へと到着した。
東京や京都と違う街並みで、レトロな街並みが広がる。
少しだけ、気持ちが昂るのを感じた。
どうやら、知らない土地に来て興奮してるみたい。
「おー!!!東京とは景色が違うな。他県に来たって感じがするな!!!」
窓を開けて顔を出しながら、大介は街の風景を見て興奮している。
隣に座っている隼人も、言葉にはしないが表情を見たら興奮しているのが分かった。
「待ち合わせ場所はどこなの?」
「郡山駅って所だよ」
あたしは蓮に聞いてみたが、名前を言われても分からなかった。
「名前を聞いてもピンと来ない…」
「僕達はこっちの人間じゃないから、名前聞いても分からないよね」
そう言って、蓮はクククッと笑っていた。
***
北海道のとある神社にてー
佐和進 二十九歳
俺とジュリエッタは理事長である智也さんから依頼を受け、雪女の封印状況を確認すると言う内容だ。
*雪女、日本の雪国地方の伝承に登場する、雪の降る夜に現れる白い着物の美女の姿をした妖怪(雪の精)です。
触れたものを凍らせる冷気を持ち、男を凍死させる恐ろしい存在である一方、人間の男と結婚して子をもうけたりもする。
階段也昔話に多い「異類婚姻譚」の側面も持っています*
十年前、京都にある明治時代からある陰陽師家系、御子柴家で何百年もの間、封印されていた大妖怪の八岐大蛇の封印が解かれてしまった事から、次々と大妖怪達の封印が解けると言う事態が起きていた。
八岐大蛇は御子柴家の本家に居た人間達を惨殺後、東京のどこかに身を隠していると言う情報は陰陽師達の中で、広まるのに時間は掛からなかった。
御子柴家惨殺事件と言う名で通るようになり、陰陽師の家系ので出ない俺でさえも、御子柴家惨殺事件で話は通る。
同僚であり幼馴染のジュリエッタと、雪女が封印されていると言う神社に訪れたのだが…。
俺達の目の前で広がってい光景は言葉を失うものだった。
山奥の中にある神社の鳥居の中には、巫女服を着た女性達の手足のない死体が至る所に転がっている。
石畳の上には引き千切れたであろう手足が落ちていて、血肉と血液がベットリと付着し、鴉達が音を立てて食い始めていた。
「これは酷い匂いだな、腹を空かせた獣が山から降りて来るかもな」
「進ちゃん、社殿の前に座ってるのって…。ここの神社の神主じゃない?」
そう言って、、ジュリエッタは社殿を指さした。
*社殿とは、神社の境内にある建物は社殿と称され、主な建物に神様が鎮座する本殿、参拝する拝殿、祭祀を行う幣殿、お祓いをする祓殿、神楽を奉納する神楽殿と言います*
ジュリエッタと共に社殿に向かうと、下を向いたまま座っている神主の姿が目に入り、顔を覗き込んで見た。
ボタボタボタ…。
神主の顔の皮が乱暴に拭き剥がされており、本来なら見る事ない顔の筋肉が血を垂れ落としながら露わになっている。
剥き出しになった両目の眼球、鼻の骨、顎の骨が折れているのが見て分かった。
「進ちゃん、やっぱり封印は解かれたみたい」
社殿の中に入っていたジュリエッタに呼ばれ、警戒しながら俺も社殿の中に入る。
中に入ると、大きな岩が真っ二つに割れていて、岩を縛っていたであろう札付きの太い紐縄が解けていた。
「雪女が自力で封印を解いた訳じゃなさそうじゃない?」
「あぁ…、この状況。御子柴家惨殺事件に似てないか?」
「神主達の殺され方を見たら、似てるかもしれないね。八岐大蛇が妖怪達の封印を解いて回ってるて言う噂も、あながち間違ってなさそう」
「とにかく、理事長に報告しないとな…」
ズボンのポケットに入れていたスマホを取り出し、すぐに理事長に通話を掛けた。
プルルルルッ、プルルルルッ、プルルッ。
「お疲れ様です、理事長。今、お時間宜しいですか」
「佐和か、大丈夫だ。そっちの状況はどうだ」
「雪女の封印が解解かれていました。それと、神社の神主が亡くなりました」
俺の報告を聞いた理事長は、短い溜め息を吐きながら言葉を続けた。
「……、やはりか」
「すいません、俺達の到着が遅かったようです」
「いや、佐和の所為でも何でもない。陰陽師協会に連絡を入れないとな…」
「これは俺の憶測なんですが…。今回の雪女の封印が解かれた状況が、御子柴家惨殺事件の時の状況が似ているような気がします」
その言葉をした瞬間、指先が冷たくなるような風が吹く。
吹いた風はまるで、冬の季節に吹く寒さを乗せた風のよう。
「御子柴家の事件と似ているか…。俺は現場を直接見た訳じゃないから何とも言えないが、現場に居るお前がそう思ったのなら、その可能性は高いな。最近、下級の妖怪達の動きが活発になって来ているのも、八岐大蛇が復活してからだ。上級の妖怪達もまた、動き出すのに時間は掛からないだろう」
「警察には俺の方から連絡を入れます、少し東京に帰るのが遅くなるかもしれません」
「分かった、教員達に情報を共有しておく。気を付けて帰って来てくれ」
そう言って、理事長は通話を切った。
理事長殿通話を終わらせ、ジュリエッタの方に視線を向けると、どこかに電話している様子だった。
「はい、よろしくお願いしますね。あ、進ちゃん、理事長との電話は終わった?」
「あぁ、さっきな。お前は誰に電話を掛けてたんだ?」
「警察と救急車の手配をお願いしてたの。一応、殺人事件に分類されるでしょ?死者が出ている訳だから」
「助かる、理事長ともその話をしてたんだ」
社殿を出ながら神社内に視線を向け、現状の整理をしていく。
今回もまた第三者が雪女の封印を解いたのは間違いない、何故なら雪女は弍級の妖怪だからだ。
弍級の妖怪が自力で封印を解くのは不可能に近い、ましてや古くなった封印でもだ。
だが壱級の分類に分けられる上級妖怪なら、話は変わってくるが…。
思考を巡らせていると、ふとある言葉が脳裏に浮かんだ。
様々な妖怪達が大将となる妖怪に付き従う集団、その名も百鬼夜行。
もし、封印を解いている奴の目的が百鬼夜行を作る事が目的なら?
その目的は十年前の御子柴家惨殺事件から始まっていたとしたら?
神聖な場所で煙草を吸うのは宜しくないが、思わず煙草を取り出して咥えてしまっていた。